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√華々しきユース『スナッキング』

#√ドラゴンファンタジー #ノベル #秋祭り2025

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 青春。
 それは希望に溢れているし、理想に憧れる人生の春に例えられる時代のことを示す。
 明るい光に焦がれるのは人として当然だ。
 幼き日には、憧憬。
 老いた日には、懐旧。
 それが青春という日々。
 甘い味わいのように思える日々も、苦々しさを感じることもあるだろう。けれど、どれもが大切なものに思えてならない。

 そんな青春を謳歌したいと第八分校・青春補習組に集った√能力者たちがいる。
 活動はもっぱら青春っぽいことを考え実行する。
 それは、と一瞬でも心に引っかかりを覚えるのならば、きっと青春時代を過ぎ去り、良き日々だったと想いながらも振り返るだけに留める者たちのことを言うのだろう。
 けれど、補習組に集った者たちは違う。
「見て見てー、レインボーかき氷だって!」
 浮足立つようにして、シャル・ウェスター・ペタ・スカイ(不正義・h00192)は、黒地の浴衣の帯から団扇を引き抜いて、祭りの屋台の一つを指出した。
 幟に記された文字通り、それは虹色のシロップの掛けられたかき氷屋台であった。

 彼のはしゃぎようにマルル・ポポポワール(Maidrica・h07719)はニコニコとした笑みを浮かべる。
 今日は青春補習組の面々といっしょに√ドラゴンファンタジーの祭りにやってきている。
 √ドラゴンファンタジー出身者からすれば、普通の祭りだが、他の√からやってきた√能力者たちにとっては物珍しいし、不思議な光景に思えただろう。
 そんな光景を皆といっしょに歩くことができるのは、正しく青春だな、と彼女は思っていた。
 白色の浴衣を身にまとった彼女は、それなら、と手を叩く。
「みんなで食べましょう!」
 というか、そうしなければ、祭りにやってきたメンバーたちは思い思いに行動してしまって逸れてしまいそうだった。 
 むしろ、委員長であるマルルが音頭を取らなければ、皆思い思いに祭りの会場に散り散りになってしまうだろう。
 √ドラゴンファンタジーの世俗に慣れていない者であればなおさらだ。

「ん?」
 リリンドラ・ガルガレルドヴァリス(ドラゴンプロトコルの屠竜戦乙女《ドラゴンヴァルキリー》・h03436)は、正しくその典型であったかもしれない。
 もとより己の正義を信じ邁進する一直線な気質な彼女は、すでにその両手にりんご飴を二刀流のように携えていた。
 バリバリと音を立てて勢いよく噛み砕く様は、いつものリリンドラからすれば新鮮に写ったかもしれない。
 それもそのはずだ。
 彼女は青春補習組が初めての共同生活だったのだ。
 如何にドラゴンプロトコルと言えど、初めてのことにはそれなりに慎重になるのかもしれない。
 白のワンピースが揺れて彼女は首を傾げる。
「なんだ、このおもしろ食べ物?」
「れ、レインボーかき氷、なんだそうです、リリちゃん先輩」
 門音・寿々子(シニゾコナイ・h02587)の言葉にリリンドラは頷く。
「ほら、見てください。リリちゃん先輩、私の舌どうなっちゃってますかぁ!?」
「わっ、わ……!?」
「ん~……虹霓?」
「こうげい!?」
「あのマルルせんぱい、舌の色すごいことになってるっすよ」
 ちろ、と舌を出すマルルにリリンドラは首を傾げ、九竜・響(はじめから・h06647)はどんな味がするんだろうと反対側に首を傾げていた。
「味も変わってるっすか?」
「……あまい、です、かね?」
「虹の味がするんじゃないっすか?」
「こう、複雑な、味が、するよう、な?」
 しないような? とマルルは首をかしげている。

 そんな風に√ドラゴンファンタジーの不思議な屋台を楽しんでいると、あっちこっちの屋台に目移りしてしまうのは仕方ないことだった。
「え、あっちはゲーミングわたあめだって!」
 シャルの言葉に寺山・夏(人間(√EDEN)のサイコメトラー・h03127)が頷く。
「買ってみました」
「なにそれ、夏さんとすごい親和性があるわ……」
 夏は先回りしてゲーミングわたあめを購入してきていた。
 その様子を見てたリリンドラは、不思議だな、と思った。
「そう、ですかね……? 僕にはよくわからないですが……」
 正直、これが一体どんな製造方法や素材を用いるのか興味は尽きなかった。
 なんだか聞いたことのない材料の名称が飛び出していたが、夏は少しも理解できなかった。ああやってこうやって、と店主から教わったのだが、ちょっと理解が及ばなかった。
 悔しいと言えば、悔しい。
「喋るみたいです」
「%&”!+:*?」
「ホントだ、理解できない言語で喋ってる、おもしろーっ!」
 シャルがはしゃぎながら夏からゲーミング綿あめを頬張る。
「`@;!!!」
「な、な、なんだか、叫んでません?」
「もしかしてオバケ……なんでもないっすよー」
 寿々子は、奇妙な声を発するゲーミングわたあめに、すっかり気後れしてしまうし、響はゲーミングわたあめの原材料に、心当たりがあったのかもしれない。
 それが益々寿々子を驚かせてしまう。

「お嬢ちゃん、ゲーミングわたあめでびっくりしてちゃ身が保たねぇぞ! オレんとこのマジカルクレープも食べてくれよ!」
 寿々子が驚いていると、屋台の店主の方から声をかけられてしまう。
 引っ込み思案な性格の彼女は、その声にぴょんと肩を跳ねさせた。
「あ、あの、えっと……」
 さあ、さあ、と店主が突き出すマジカルクレープなる食べ物にどうにも及び腰である。
 いや、マジカルクレープもそうだが、それ以上にぐいぐいくる相手に彼女は尻込みしてしまうのだ。
「あ、あの……」
「じゃあ、わたしとシェアしましょう。おじさん、一つね」
「おう、サービスしちゃうからな!」
 リリンドラが寿々子と店主の間に割って入って、人差し指を立てる。
 振り返って笑む彼女に寿々子は頼もしさを覚えただろう。
 これも青春の1ページだと思えば、さっきまで尻込みしていた様子はなりを潜め、楽しくなっているのを証明するように、彼女の頬が赤くなり、柔らかく笑む。。

「それにしてもマジカルクレープって何がマジカルなのかしら?」
「さ、さあ……? でも食べたらわかるかも、しれません」
「それもそうよね。じゃあ、お先にどうぞ?」
「え、私、からですか?」
「うん、毒見っていうんじゃないから」
 それはそうだけど、と遠慮がちに寿々子がマジカルクレープに口をつける。
 一口食べた瞬間、寿々子の脳裏には閃光が走っていた。
 光が満ちて、ぐにゃりと歪む。
 なんとも形容したがたい味。
 甘いのは甘い。けれど、これが何味なのかと問われたら、言葉にしがたい。
「え、えっと……美味しいのは、美味しい、ですけど……コレ、何、味、なんでしょう?」
「え、どういうこと?」
 パクっとリリンドラもぱくつけば、同じことを感じたのだろう、ちょっと困った顔をしてしまう。

 二人して首をかしげていると、シャルと夏が周囲を見回している。
「あれ? 響さんは?」
「いませんね。さっきまでいたはずなのに……」
 ほんの一瞬だった。
 その一瞬で響がどこに消えてしまっていたのだ。
「えええっ!? た、大変です! はぐれちゃったんじゃあ!」
 マルルが慌てるのも無理ない。
 この祭りの会場は広いし、雑多だ。
 逸れてしまったら、連絡手段を持っていない限り、合流は難しいだろう。

 だが、そんなマルルの心配を他所に、響はフラっと戻ってきたのだ。
 手にはタコ焼きのケース。
 なんで?
「うに? だれかが、呼んで……それで、その、ふしぎなたこ焼き屋さんで、これを買ったっす」
 響はなんともないのか、僅かに磯の香りにやっぱり首を傾げるばかりだった。
「なんだろ、普通のたこ焼きに見えるけれど」
 シャルの言葉に面々は除き込む。
「響くん、それ大丈夫ですか?」
「うに……食べると元気が出て、しばらくは水底の夢を見ることになるなのだとか?」
「たべると元気がでるけど変な夢を見る!?」
 響がケースに書かれていた文字を示すと、マルルは目を見開く。
「え、本当に書いてあります!」
「委員長、大丈夫だよ、ただのたこ焼きじゃない。ボクも食べてあげるからさ!」
 シャルは自分がついているよ、と胸を叩く。
 たこ焼きが食べたいだけじゃないのかな、と夏はちょっと思った。が、それは野暮ってものだ。 
「みんなでたべましょうっす……!」
「まあ、冒険するのは男の子だからかしら?」
 リリンドラは、こんな僅かな時間でも、ちょっとした冒険をこなしてきたであろう響に感心しているようだった。

「でも、美味しそうですね」
「寿々子せんぱいもどうぞっす」
「いいんですか?」
 勧められて寿々子もたこ焼きを頬張る。
 みんなで一つずつ。六個入りだった、ふしぎなたこ焼き屋さんのたこやきは、出汁が効いている生地のカリカリふわふわに馴染みのあるソース味がよくマッチしている。
 中に収められている蛸も噛み応えがある。
 肉厚なのだろう。
 ゴロッとしているのが大盤振る舞いだな、と思ったかも知れない。

「このたこ焼きを食べた僕はSANチェックですね」
「どゆこと?」
「いええ、なんとなくです」
 一人だけ夏は、この肉厚な蛸の出どころを把握しているようだった。
「な、なんだか、眼の前が……」
 ふらつく。
 寿々子と夏の二人は、おそらくSANチェックに失敗したのだろう。
 なんだか深海の暗闇のような光景が眼の前に広がっている。
 起きているのに寝ているような不思議な感覚に襲われながら、夏はどこか奇妙さの中に心地よさを感じていた。
「不思議ですね」
「あ、あの、なんだか怖いんですけど……」
 涙目になっている寿々子。

 そんな二人の意識が揺蕩う夢の中から戻ると、シャルとマルルはくじ引きに挑戦することになったらしく、二人が腕まくりをしている。
 彼らの眼の前には、糸を引くタイプのくじ……いわゆる、千本くじが糸を垂らしている。
「ふっふっふ、シャル先輩、私は日頃のおこないがいいですから、凄いのひいちゃいますよ!」
 マルルは自信満々だった。
 日頃の行い、というのがどんなものを差しているのかはわからない。
 が、シャルは彼女のことを思い出せば、確かに日頃の行いが良いのだろうと納得する。
 けれど、だ。
「悪いけど、ボクは運がいいからね!」
 幸運不運とは、そうした行いの外に存在するものなのだ。
 故に彼は不敵に笑む。
「じゃあ、勝負しましょう!」
「いいとも!」
 全員が見守る中、マルルが、カッ! と瞳を見開き糸くじを引っ張る。
 ぐいっ、と引っ張られて持ち上がったのは、タコ足クッションであった。
「なんでぇ!?」
「あはっ、な、なにそれ!」
 シャルはあまりの結果に大笑いしてしまった。
 
 だって、さっきまでたこ焼きを食べていたのだ。
 そこでまたタコ足のクッションがでてきたのだから、笑わずにはいられなかった。
「た、タコ足です……ま、まさかさっきのたこ焼きの夢でも見ているんでしょうか……!?」
「じゃあ、次はボクの番だね……あーっはっはっはっは! た、タコ足のクッション……ふほほほーっ!」
「じゃあ、ここで一発凄いあたりを引いてマルルさんの分も取り戻してみて!」
 リリンドラの言葉に、任せておきなさい、と言わんばかりにシャルは頷く。
 自信満々の顔。
 選び取った糸を引いた瞬間、屋台の奥で持ち上がったのは、ゴム製のタコぐるみであった。

「またタコ、ですか!?」
 寿々子の悲鳴が上がる。
「タコばっかりっすねー」
 響はどこか他人事であったが、なんだか今日はタコまみれの良い夢がみれそうだなー、と思っていた。
 もしかしたら、夢でもたこ焼きが食べられるかも、なんて。そんなことを夢想している。まだたこ焼きの夢効果が抜けていないのかもしれない。
「今日はタコに縁があるねぇ!」
 タコぐるみを受け取ってシャルは笑う。
「じゃあ、わたしも」
 リリンドラも挑戦してみたが、引っ張り上げられたのは……勿論。
「タコ飴!? なにそれ!?」
 りんご飴をさり気なく補充しようとしていたことを先回りされたかのようなくじの結果にリリンドラは驚愕する。
 いや、それ以前にタコ飴って何? 見た目はりんご飴にそっくりだけど、かじれば嫌に弾力があって食感はりんご飴に程遠い。
 なのに、味はりんご飴という食感と味の不一致に困惑していると、彼女たちの背中を照らしたのは、鮮烈な光だった。

 振り返り見上げる。
 花火だ。矢継ぎ早に夜空に光の花が咲く。
 光から僅かに遅れて音が身を衝撃となって打ち据える。
「わ……!」
 響は夢現から引っ張り出されたように花火の音に身をすくめた。
 ちょっぴり怖くなって、シャルのそばに寄る。
 それを見て、シャルはまた笑った。
「花火は大地を踏みしめて見るのが一番なんだよねぇ! ほら、見上げてごらんよ」
「は、はいっす……」
 そう言われて見上げれば、そこには多くの光の花が咲いている。
 ああ、と響は思う。
 この目に焼き付けた光景を、帰ったら絵日記にしよう、と。
 楽しい、という思い出を文字と言葉にして残す。あとになって見返す時、今日と言う日のことを思い出せたら嬉しい。

「とても綺麗です。あれも魔法の花火なんですか?」
「ええ、そうですよ! ほら、見てください! あの一際大きく飛び上がった火の玉、あれがですね……!」
 マルルの言葉に寿々子が指さされた火の玉を目で追う。
 すると高く、高く打ち上がった火の玉が炸裂し、花ではなく立体的なドラゴンの形へと変貌して夜空に光を刻むのだ。
「ドラゴン花火です! カッコいいですよね!?」
「はい、格好良いですね」
 委員長であるマルルが一番はしゃいでいるのを見て、寿々子は微笑む。
 今までの学校で馴染めなかったのが嘘みたいだ、と彼女は思っただろう。
 共にいることがこんなにも心強く、温かい。
 これからも、と思ってしまう。そう言ったのならば、クラスメイトたちは当然、というだろうか。自分もそう言われたら、そうだ、と応えるだろう。
 お互いにそうであったらいいな、と思いながら寿々子は、青春の一幕を瞳に刻み込む。

「委員長はドラゴン好きだもんね」
「マルルさんは、ドラゴン出すんですか?」
「出せるようになったら楽しくないですか!?」
 すっかりドラゴン花火にごきげんなマルルにシャルと夏が笑う。
 ぼうっと見上げるだけの花火の大輪。
 普段ならば、なんとも思わないのだろうけれど、みんなといると特別なものに思えてならない。
「計画通り花火見れましたね。これからも皆で一緒に、青春していきましょう!」
「うん、来てよかったです。色々と有難う御座います」
 夏は、本心からそう思ったのだろう。
 深々と頭を下げる様子にマルルと寿々子が慌てる。
 シャルがまた独特笑い声を上げ、響が少し眠たそうにしている。
 そんな花火の明かりに照らされる学友たちを見て、リリンドラはポツリと呟く。
「これが、青春ね」
 きっとそうなのだ、と祈りを込めた――。
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