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星の味

#√ドラゴンファンタジー #ノベル #秋祭り2025

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 実りの秋がやって来た。それは人間だけではなく、妖精の国にも等しくやって来るもので、エレノール・ムーンレイカー(怯懦の|精霊銃士《エレメンタルガンナー》・h05517)とミモザ・ブルーミン(明朗快活な花妖精・h05534)も再びこの地、妖精の国へと足を踏み入れていた。
「秋は食欲の秋よ!」
「ええ、そうですね。妖精の国では山の幸が豊富だと聞きました。」
 自然豊かな妖精の国。魔力が豊富でもあり、そしてこの季節になると珍しい山の幸の名前も度々耳にする事にもなる。しかしながら困ったことに、この国の妖精たちの足では到底採りに行くことの出来ない場所にそれらは多く存在をしているのだとか。今回この国に再び足を運んだのも、妖精の国の出身であるミモザが妖精たちから収穫祭の話を聞き、エレノールに相談をしたのが切っ掛けだ。ちなみに妖精の国の収穫祭とは、収穫物を奉納し自然の恵みを神や精霊に感謝する祭りの事である。
「皆からの依頼は『星光茸』の確保。この食材は、あたしたち妖精だけでは、行くことの出来ない場所にあるみたい。」
「星光茸ですか?」
「星の光を浴びて成長をするキノコ?って聞いたよ!」
 妖精たちの話によると、星光茸は樹齢数十年以上の樹の根元に生える星の光を浴びて成長すると言い伝えられているキノコのようで、見た目は普通のキノコだというのに、所々星の形をした青白いマークが刻まれているのだとか。
 また星の光を浴びる際に、青白く光る事からその名をつけられたとも妖精は説明をしてくれた。毎度のことながら、妖精たちだけでは行けない場所と言う事も有り、旅人や腕に自信のある者を雇って収穫をしているのだそう。
『星光茸は地霊の森の奥にあるよ。』
『行くだけなら、真っ直ぐに森を突き進めば良いだけなんだけどね……。』
 妖精たちは顔を見合わせ、困ったように眉を下げる。問題は地霊の森の奥である、星光茸の収穫場所にあるようだ。
「収穫場所周辺に、何か問題でもあるのでしょうか?」
『まず、森を突き進むことが大変なの。』
『私たち妖精は、魔力こそあるけれど小さいでしょう?だから収穫場所に向かうまでに膨大な時間がかかってしまうの。』
 小さな妖精たちは飛ぶことこそできるものの、やはりその小ささゆえか、飛ぶ速度も速くはない。これが大きな翼を持つ者たちであるならば、そう苦労はしなかったのだろう。
『それから一番の問題は、収穫場所周辺に危険な野生動物や魔物たちがいること。』
 森の奥地に行くまでなら兎も角、魔物ともなると話は別だ。やはり腕の立つ者の力が必要になる。エレノールとミモザはその話を聞き、視線を合わせて互いに頷き合う。
「野生動物に魔物。なるほど、これが星光茸が貴重な食材になっている理由ですね。」
「魔物も居るってなると、確かにエレノールみたいな腕の立つ者に頼むのが一番ね……!」
『はい……だから今回、ミモザに話を持ち掛けてみたの。』
「状況については分かりました。収穫祭に必要な食材であるなら、尚更です。」
「そうだよ!あたし達に任せてよ!」
『お二人共、ありがとうございます。森の中には危険な野生動物だけではなく、大人しい野生動物や野草、美しい花々も咲いておりますのでそちらもご覧になって下さい。』
『よろしくお願いします。』
 秋色の羽を羽搏かせた妖精は、エレノールとミモザに向けて深々と頭を下げる。こうして二人は、星光茸を求めて地霊の森へと向かうのだった。

――地霊の森。

 深い緑の葉が風に触れ、そよそよと心地好い音が周囲には流れる。今の季節は秋の色である紅や橙を濃く滲ませた木々の隙間から、時折小鳥の囀りが聞こえてくる様子から、森の入り口付近はピクニックに丁度良いのかもしれない。
 それを示すかのように森の入り口付近には、妖精たちが集い小さな本を広げて読書に勤しみ、ある者はスケッチブックと鉛筆を片手に小鳥の絵を描いている。読書の秋に芸術の秋。秋ならではの光景に、エレノールとミモザも微笑みを浮かべては奥へ奥へと足を進める。
「入り口付近は賑わっておりましたね。」
「皆、思い思いの秋を過ごしているみたいね!」
 私たちは食欲の秋だけれど、とミモザが笑いながら告げると、エレノールもつられるようにして頷く。木々の色は変わることなく穏やかな風景が周囲には広がる。道の途中で人懐っこい野生動物だろうか、羽の生えた子豚が二人の後ろを追いかけて来たが、少し遊んでやると満足したように自分の家へと帰って行った。
 こうして歩くにつれ、変わらなかった景色に変化が訪れる。秋の色に染まる木々が次第に青い光を帯び始めたのだ。星の光を浴びたキノコが青く光るのは、豊富な魔力が関係しているのだろう。ともすれば、魔力の源だと想像の出来る樹齢数十年以上の樹がこの近くにあるのだと想像に容易い。
 森の入り口はあれほどまでに賑わっていたにも関わらず、この周囲には何か緊張感のような物が走っている気さえする。つまるところ、不気味な程に静かなのだ。エレノールとミモザの呼吸、それから声だけが良く耳に届く。
「凶暴な野生動物は見当たらないようです。」
「魔物の気配はあるけど、こっちに来る様子はないみたいね。」
 二人揃って凶暴な野生動物や魔物への警戒を怠ることはない。魔力の豊富な場所には、同じように魔力を餌にして育つ強力な魔物が居ると言うのは良くある話だ。幸いにして、二人に襲い掛かる様子はみえないものの、いつ牙を向けて来るかは分からないのである。
 警戒をしたまま森を突き進むと、ついには最奥に辿り着いたのだろうか。二人の視界には、青い葉を風に揺らしながらそこに佇む大きな樹が留まる。星の光を浴びたと言うのは、やはりキノコだけではなかった。昔々からそこにある樹もこの地の魔力を吸い上げ、星の光を浴びては長生きをしているのだろう。未だ瑞々しい青い葉が風に揺れる度に、鈴のような軽やかな音が周囲には木霊した。
「この樹でしょうか。」
「星の光をふんだんに浴びて、青い輝きを放っているようね。この樹に間違いないよ!」
 遠くからでも分かるほどに輝く樹は、神秘的な光で二人を歓迎する。剥き出しの根は老いてはいるものの、未だ腐ることはなく地表から顔を覗かせている。地表から僅かにはみ出したそこに、同じように青い光を放つキノコが生えていた。
 一見して形は普通のキノコではあるが、星の模様が浮き出ている事からこれが目的の『星光茸』だということは分かるだろう。
「ミモザ。ここに星の模様が浮かんでいます。」
 根元に生えたキノコを指で示し、エレノールは樹の根元のいたるところに目を向ける。この場だけではない。この樹のありとあらゆる所に、星光茸が生えていた。
「これだけあれば、皆も困らないね!」
「持ち帰ることが出来る分だけ収穫をして、持ち帰りましょうか。」
 二人は収穫用の袋を取り出し、星光茸に触れる。すると、青い光を放っていたキノコが一際強い光を放ち始めた。星光茸が樹から吸い上げた魔力が漏れている証拠だろう。害はないものの、まるで空に浮かぶ星のような輝きを放つ様はその名に相応しいとさえ思う。
「ま、眩しいけど、名前の通りのキノコって事だね!」
「ええ、星の光を浴びて星のように煌くキノコ。まさしく収穫祭にはぴったりのキノコでしょう。」
「こんなに光るなんて知らなかったよ!」
 昔から収穫祭には並んでいたが、このような光を放つと言うのはもしかすると収穫をした者しか知らないのかもしれない。あらたな一面を知った二人は、袋が一杯になるまで星光茸を詰め込み、妖精たちの元へと戻るのだった。

――妖精の国、秋の村。

「二人共、おかえりなさい!」
 銀杏色の羽の妖精がエレノールとミモザを出迎える。二人の背には、今し方採って来たばかりの星光茸が麻の袋いっぱいに詰め込まれていた。ほのかに青い光を放ちながら麻の袋の中で納まる様子は、水晶のようだと感じさせるかもしれない。
「ただいま!」
「星光茸を収穫して来ました。幸いにして、危険な動物や魔物と刃を交えることなく、無事に収穫をすることが出来ました。」
「樹もまだまだ元気一杯で、あの様子なら来年の収穫も期待出来そうよ!」
 二人は袋の中身をテーブルの上に広げる。四人掛けのテーブルが星光茸で埋め尽くされるほどに収穫をしていたらしい。そのような感覚は無かったが光るキノコも光る樹も珍しい。魔力が豊富にあることから、ミモザも呼吸がしやすかったのだろう。この場に帰って来た今、最初よりも随分とスッキリしているようにも見える。
 豊富な魔力と綺麗な空気に知らず知らずのうちにエレノールも癒されていたらしい。こんなにも収穫していたのに、その重さはあまり感じられなかったように思う。驚きに目を丸くしていた二人だが、互いに顔を見合わせるとどちらともなく静かに笑った。何はともあれ、収穫はとても楽しかったのだ。
「これだけあれば十分ね。お祭り用の星光茸は確保したから、あとは二人の好きなようにして大丈夫よ。とはいえ、好きなようにと言われても悩むわよね?」
 うーん、と妖精は唸り声をあげ、難しい表情を晒す。暫くの間、妖精の唸り声ばかりがこの場に響いていたが、不意に思いついたと言わんばかりに勢いよく顔をあげる。
「そうだ!余った分は換金するか……あとは、ここに持って行くと、もしかすると美味しい物に化けるかも?」
 妖精の小さな指が示す先は、なにやら定食屋のようだ。妖精の国の家庭料理の楽しめる定食屋として、ミモザも何度もその名を耳にしたことがあるだろう。
「エレノール、やっぱり食欲の秋ね!」
「はい。折角ですから、妖精の国の家庭料理を楽しんでみたいです。」
「それなら私からお店に連絡をしておくわ!はい、収穫した星光茸も忘れないように!」
「これだけ沢山の星光茸を持って来てくれる方は初めてで、私たちもとっても助かったわ!ありがとう!」
「また何かの機会があれば、どうぞよろしくね。」
「ええ!また!」
 星光茸の入れられた麻袋を受け取り、二人は踵を返す。秋色の羽を持つ妖精たちへとミモザは大きく手を振り、エレノールは小さく頭を下げる。エレノールの片手には星の光をふんだんに吸い込んだ、星光茸のおさめられた袋が下げられる。
 星の光を浴びたキノコ。魔力が豊富なそれは、いったいどのような味がするのだろうか。全くもって想像がつかない。そう遠くもない定食屋への道のりを、談笑しながら歩く二人を夕日が照らしている。いつの間にか夕方になっていたらしい。

「ごめんください。」
「こんばんは!」
 他の世界を参考にしているのか、妖精の国とはいえどこか和の空気感を色濃く残す定食屋だ。紅の暖簾にはしっかりと妖精の国の言葉で『定食屋』と書かれている。暖簾を潜り抜けると、待っていましたと言わんばかりに紺色の羽で羽搏く妖精が二人を出迎える。
「話には聞いているよ。星光茸を使った料理を作って欲しいんだって?」
「はい。収穫をして来た物なのですが、よければと譲り受けました。」
「珍しい食材で料理となると、気合いが入るな。お嬢さんたち、椅子に座って待ってな。いまから美味い飯を作るからな!」
 腕まくりをした紺色の羽を持つ妖精が、エレノールから麻の袋を受け取るやいなや、厨房へと消える。二人は言われた通りに席に着き、料理が運ばれてくるのをまつ。食欲の秋。沢山歩いたのだからお腹もペコペコで、料理を待つ間も空腹を告げる音が鳴りそうになる。そうこうしていると、店内には香ばしいにおいが漂い始めた。
「お待ちどうさん!」
 店主の掛け声とともに二人の前に皿が並べられる。
「これは星光茸のてんぷら。てんぷらは星光塩って言って、星の光を浴びた塩をかけて食べるんだ。星光塩はこの水色の塩な。」
 それからも店主の説明は続く。てんぷら、お吸い物、炊き込みご飯にホイル焼き、それからあんかけと上品な味の食事がずらりと並ぶ。
「お、美味しそう!」
「ええ、とても美味しそうですね。早速いただきましょう。」
「「いただきます。」」
 二人揃っていただきますを告げると、まず先にあんかけに手を伸ばした。真っ白い豆腐の上にかけられた星光茸は、つやつやと光を放つ豆腐を飾る。味付けは上品、添えられた生姜が良いアクセントになっているようだ。ミモザは目を見開き、エレノールへと視線を向ける。
 一方、エレノールが手に取ったのは、素朴なお吸い物だ。器を片手に鼻先を近付けると、キノコ特有の優しい香りが鼻腔を擽る。あれほどまでに青い光を放っていたと言うのに、今はその面影も無い。
 店主曰く、星光茸は調理をすると鮮やかな青さが抜けてしまうそうだ。その理屈は不明だが、調理をすることにより加えられた熱が放出しきれない魔力を凝縮させてしまうのではないか。とのことだ。だからこそ、星光茸は他のキノコよりも濃厚な甘さが特徴的で、工夫をすれば星光茸を使った甘いデザートも出来るのではないかと店主は熱く語る。
「なるほど……確かに熱が加わる事により、魔力が刺激をされて。と言う話もあり得るかもしれません。防衛本能にも近い気もします。」
 炊き込みご飯に箸を伸ばし、真剣に頷くエレノールはお吸い物のおかわりをする。さくさくの天ぷらへと手を伸ばしたミモザも、頬を押さえてそれはもう美味しいことを隠しもせずに食事を続ける。
「星の光を浴びた塩って言うのも興味深いね!」
「二人が気に入ってくれたようでよかったよかった!星光茸だけじゃなく、他にも何か珍しい食材や、調理をして欲しい食材があればいつでも持ってきていいからな!」
「ありがとうございます。その時にはまた、よろしくお願いします。」
 あっという間に炊き込みご飯を平らげたエレノールに、店主は驚きの色を隠すことなくミモザを見る。ミモザにとっては慣れた光景ではあるが、店主は初めて見るのだから驚いても仕方がない。
「すみません……美味しくてつい、いつものように食べておりました。」
「こう見えて、エレノールは大食いだからね!」
「ははは!いや~、いい食いっぷりだ!姉ちゃん、おかわりはまだあるからな!どんどん食べな!」
「では、お言葉に甘えて……星光茸の天ぷらのおかわりを下さい。」
「あ!あたしも!」
「あいよ!」

 星光茸。星の光を浴びたそのキノコは、青い光を放つ。その他にも星のマークが特徴的なキノコだが、味はとっても甘いのだ。星光茸のスイーツが完成したら、一番に味見をとの店主からの誘いに、二人は快く頷きを返す。すっかりと星光茸の味にそして店主の作る食事の虜になった二人は、互いに今日の思い出を語らい、少しずつ箸を進めて行く。
 二人で収穫を楽しんだら美味しい物を共有する。何気ない日常を積み重ね、新たな発見をし、二人は今日も妖精の国をふんだんに楽しんだのであった。
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