性略ダンジョンのその後で~ジューンブライドのその前に~
「ふぅ、なんだかんだ疲れちゃったね~。汚れちゃったし」
「……ハハハ」
ちょっとハードな任務を終え、無事詰め所に戻って来た男女。にっこにこのミルグレイス・ゴスペリジオン(魔境を巡る舞軍師・h02552)に対し、モルドレッド・アーサー(防導の騎士・h04734)は渇いた笑いを返しながらどっとくたびれた体をソファーに放りたい気持ちを抑えながら遠くを見つめていた。公共の椅子をイカ臭いズボンで汚すのは忍びない。
教会にておこったジューンブライダルダンジョン事件。愛の是非を問われ、肉体の重なりを服越しとはいえ遂行してしまった上、娘だと言い聞かせてきた女に男の欲望を、熱量を男根からぶちまけてしまった。と、賢者タイムになっているのは仕方のないことである。
男というのは非常に厄介なもので、欲に溺れているうちはどうにでもなれと、なされるがままとなるくせに、終わったらこズルく逃げたくなってしまうというのは、数ある歌謡曲にも描かれるほどに有名な話である。
「さて、周りも落ち着きつつあるし帰ろうか!」
ミルグレイスは自分たちが救出した人々が落ち着きを取り戻し帰路に就くのを見てそういうと、自分もそそくさとおうちに向かおうとするわけだが、救助された人より自分たちの方がボロボロであり汚れている今、モルドレッドはなんとか父性を振り絞ってミルグレイスの首根っこを掴んだ。
「待て」
「うひゃあっ!!」
「――変な声を出すな」
「だって……」
ミルグレイスが思ったよりかわいらしい声を上げたのでモルドレッドは動揺し、安直に振れたことをやや後悔する。だが、年頃の娘を完全にヤバい事後ですみたいな状態で返すわけにはいかない。モルドレッドの並ならぬ精力は確かに服ごしにぶちまけられはしたわけだが、その勢いは布を貫きミルグレイスの服も白濁でヤバいところを汚してる。
その事実が彼女の頭からつま先まで汚す花粉や胞子までいかがわしいものだとモルドレッドに錯覚させている状態、それが現状であれば汚したまま帰すなどは絶対にナッシングである。
「とにかく、そのまま帰るなどゆるさん。詰め所には風呂もある。入ってきなさい」
「えー、でも服も汚れてるし……」
「乾燥機付き洗濯機もあるそうだ。入ってきなさい」
二度目はゴゴゴゴと背後から謎の振動音が聞こえる程の圧で言うと、ミルグレイスはちょっと口をとがらせてはぁいといった。しかし、三歩だけ風呂の方に歩を進めた後、振り返っていたずらな笑顔をモルドレッドにまた向ける。
「ねえ、一緒に入らないの?」
今度はピキっと氷に亀裂が入るような音が響いた気がした。
「――混浴じゃない」
「ふぅ~~~~ん」
「なんだ」
「んーん。なんでも♪」
モルドレッドにもわかっている。今の断り文句は“そうじゃない”だろうということは。混浴だったとしても断らないといけないということは。自己嫌悪にまた嫌悪の感情が重なった。
「いやぁ、|師匠《パパ》的には散々だったかもだけど、アタシとしては役得な依頼だったなぁ」
モルドレッドの眉間に寄った皺をほぐす様に指でそこをつつきながら言うが、モルドレッドは息を漏らして唸るのみ。ミルグレイスはふっと困り顔で微笑んで続ける。
「アタシのこと“そういう目で見れる”ってのがわかったのが、本当に嬉しい」
と。モルドレッドは顔を伏せ、完全に目を合わせてくれなくなってしまった。
「じゃぁさ、師匠は――アタシがアンタとは違う男の腕の中で甘い声を上げるのを、受け入れられるの?」
ここで追撃の手を止めるべきでないというのは想像に容易い。モルドレッドはその質問にバッと顔を上げるとばつの悪そうな表情をする。そして、口をパクパクとさせて何かをいおうか、言うまいかと忙しく視線を動かすのだ。それはミルグレイスを満足させるには十分な|反応《どうよう》であった。
「他の男に抱かれる気はないけどさ……それがアンタのアタシに対する気持ちの“答え”だよ」
この朴念仁には、こちらから気持ちを暴いて、叩きつけて、傷口に塩を塗る様にわからせてやらねば望む進展はありえないということは十二分に知っている。
「……そろそろ自分の気持ちに正直になった方が楽になれるよ? 師匠(パパ)♪」
奥歯をギリっと噛んで完全に何も言わなくなってしまったモルドレッドに、これ以上の攻撃は流石に逆鱗に触れ逆効果になるだろうと悟ったミルグレイスは彼のおそらく数分の沈黙ののちに現れるだろうめんどくさい返答などまってやることもなくその場を後にし脱衣所に入ってしまった。
「まあ、今日はこんなものでいいよね。逃げられちゃったら困っちゃうし」
どうしようもなくにこにこと緩む口角を抑えながら、ミルグレイスは服を洗濯してから身を清め、どこまでもすがすがしい気持ちで湯の温もりに包まれながら、まだ熱を感じられる腹部――彼の残滓を撫でるのであった。
「はぁーーーーーーー」
一方で、ミルグレイスの口撃からようやく解放されたモルドレッドは大きく、それは大きく深呼吸をしていた。苦しい、胸が苦しいのだ。
だが、その苦しみはやはり、到底彼女の言うような恋の苦しみだとは思えなかった。そう感じるにはあまりにも重く、苦いからだ。
それが自分のせいであるということに自覚が持てるのであれば、余の男というのはこんなにも愚か者にあふれてはいない。
「正直になった方が楽になれる、か……」
買った下着と借りたバスローブ姿になって、洗濯をしながらも自分は風呂に入る気にはなれず、代わりに水で濡らしたタオルで自分の身体を拭きとりながらミルグレイスの言葉を反芻する。
ぐるぐるとする気持ちを整理しようと自分の気持ちというものを胸に手を当てて探ってみるが、まだその闇の中にこれだという光は見えない。
「なれるわけないだろう。自分の気持ちというものがわかっていないのだから」
筋金入りである。おそらくモルドレッドの今の状態をことさらに誰かに相談できることがもしもできたとして、帰って来るであろう答えというのはおおよそそういったものになるだろう。筋金入りのオオバカやろう。何重にも蓋をした自分の気持ちの、鍵をなくしてしまっただなんて。
モルドレッドは真っ白の燃え尽きたボクサーの様にタオルを頭にかぶりながら、ミルグレイスが戻って来た時、少しでも元の自分に近い状態で対応できるように一度考えるのを止めることと結論付けるのであった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴 成功