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骨董店の大老はかく語りき

#√EDEN #ノベル #不思議骨董屋店主

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「お願いします、素敵なアンティークを見繕ってほしいんです!」
「う~ん、そう言われてもなぁ……」
 頭を地面に擦り付ける勢いの声をあげてで頼み込む客を前に中性的な容姿の店員が煮え切らない態度で対応している。
(馬鹿め、そこは毅然とした態度を見せろ)
 店内から聞こえる声に我は声にならぬため息を零すしかなかった。

 √EDENの商店街には「つむぎや」とよばれる骨董品店が存在する。かつての店主は女だったが今は孫である|紬《つむぎ》・レンがこの店を守っている。
 今でこそ男だが女物の服に袖を通しているこやつが学生服に身を包んでいたころから店に出入りこそしていたが、骨董品の知識はあまりない。
 骨董品を扱うには歴史ある物品を扱う知識が必要だ。地層の様に堆積する知識の上で我々の価値を決める資格があるというのに……まだ若くて勉強中とはいえ先が思いやられる。
 なにより物の扱い方が未熟だ。はたきをかけ方一つとっても彼女とは違い過ぎて力が強すぎて埃が舞う。
 ――あやつが来てから自分の様な重い物もよく動かしてくれて視点が変わって楽しいだとか、店内の雰囲気が変わって良いという声もあるが、これくらいならば彼女がこの店を切り盛りしていた時に比べたらまだまだである。

 さて、そんな店主が先ほどから対応しているのは初見の客人だ。男の見た目からして20いくか行かないか位だろうか。いわゆるカジュアル系の服を身に纏うそいつは骨董品には興味がなさそうな風貌だが、漏れ聞こえる相談内容も骨董品に興味がない物だ。
「なるほど、気になる人がアンティークが好きだから自分も何か手に取ってみたいんだね」
「はい、そしてあわよくばアンティーク店でデートできればと」
「なるほどねぇ……」
 断れ。そんな不純な動機で手に取られる骨董品もいい迷惑だ。
「残念だけど今回は君の要望に合う子はいないかな」
 よく言った。
「そんな、店なのに売ってくれないんですか?」
「う~ん、確かに店だけど。骨董品店ってのはただ古い品を売るだけじゃない。その品にまつわる思い出や記憶を未来へ繋ぐ場所なんだ。
 一つ一つの品が、誰かの歴史を背負っているんだよ」

 ――レン、良い?私たちが扱うのは物だけど物ではないわ。このお皿も、コールボックスも……店先の仁王像もひとつひとつがね、誰かの思いを受け継いでいるの。
 このお店は彼らと彼らの思いを知ってくれる人と繋ぐためにあるのよ。

 ……あいつを思い出した。
 その声は男のそれで声色も語り口も違う。
 だが、彼女だ。この「つむぎや」で切り盛りをしてたあの時の彼女が確かにそこにいた。

 僅かな沈黙の後に客が気落ちした声を零す。
「やっぱり、アンティークにも知識とか必要ですよね……」
「もちろん綺麗だ、素敵だからって決めてもいいんだけどね。そういう子の事を知ってから見てみるとまた違う思いを抱くと思うよ」
「……あの、急にきて不躾なんですが。お店のアンティークを見せて貰っても良いですか?」
「もちろん、アンティークだけじゃなくて他の骨董品も見ていってよ」
 朗らかな声で客の要求にこたえるレンに我は肩を落とした。早く帰せばいいのに人が良いのはあれとそっくりだ。
 しかしレンも同じだ。我らと同じく誰かの――彼女の思いを受継いでいるのだ。
 彼女にはまだまだ遠く及ばないが……まぁ、もう少しの間見守っていこうじゃないか。


 夕刻になってレンは客人と共に店の出入り口にいた。
「今日は色々な物を見せていただいて本当にありがとうございました」
「いや、こっちも見てくれて嬉しかったよ。気にいる子がいたらまた来てみてよ」
「はい……そういえば気になる事があったのですが、これっていつからあるんですか?」
 客は入り口のすぐ横にある仁王像へと視線を向けた。
 60㎝ほどの銅製の仁王像はその名称に相応しく険しい顔をしており、店に訪れる者を見張っている様で。
「これかい? 婆ちゃん……先代の頃からあったからいつからあるかは分からないけど、店の守り神みたいなものだよ」
 

「『一つ一つの品が、誰かの歴史を背負っている』、か……」
(……ま、この考えは婆ちゃんの受け売りでもあるんだけどさ)
 祖母に教えてもらった事を反芻しながら視線は入り口の仁王像へ。
「『仁王像の睨みつけるような顔が悪人から店を守る役割を持つ』って婆ちゃんは言ってたけど、昔は怖かったなぁ」
 昔を思い出しながら仁王像をじっくりと見やる。
「俺よりもこの店にいたなら婆ちゃんの後を継いだ俺の事、どう思ってるんだろうな」
 レンの問いに仁王像は答えない。仁王像は前を向き、怒れる顔で邪なる客を払う。
 その表情は厳つく、険しい顔だが今日はなんとなく、その表情が和らいで見えたのはレンの気のせいではないだろう。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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