シナリオ

真白

#√ドラゴンファンタジー #ノベル

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√ドラゴンファンタジー
 #ノベル

※あなたはタグを編集できません。


 同胞は去り、かつて届いた祈りの声も 今は遠く。
 癒えぬ傷の疼きを唯一の友として、儘ならぬ身体を 聖域に横たえる。
 瞼の裏に 月を隠し。


 森と人里を隔てるように、湖畔に建てられたポポポワール家と言えば、近所でも変わり者の魔術師として、名が通っている。
 理由は様々だが、まだ幼いマルル・ポポポワール(Maidrica・h07719)には、実感が沸かなかった。ただ、近所から避けられたり、悪口として伝わっている訳では無いと、何となく、理解していた。
「マルルちゃん、元気かい」
「はいっ! 元気ですよ」
「無理しちゃあ、駄目だよ」
 マルルの元気の良い返事に、老婆は少し驚いた顔をした後、穏やかな笑みを浮かべ、頭を軽く撫でる。
(どうしてかな)
 冷たい北風が吹き抜けて、温かな気持ちが温度を失う。寂しさが、溢れ出しそうになる。心のざわめきと、葉擦れの音が共鳴する。
「マルルちゃん?」
 少女は老婆の手から逃れ、呼び声に応える様に、深緑の聖域へと踏み入っていく。


「森の中へ、入ってはいけないよ」
 根を確りと張り巡らせた木々が、咲き誇る花々が、逞しさを誇る雑草が、来訪者を歓迎する。土が四肢を汚し始め、呼び声ははっきりと、少女の耳に届く。同時に。
 濃霧が森を包む。
 太陽が遠ざかる。
 息が、上がる。
 霧中に、精一杯目を懲らす。
 視界に映り込む、靄の輪郭が、判然とする。
 透明な魚群が、霧の中を、気儘に泳いでいる。
「お、しえ、て」
 マルルは、懸命に小さな手を伸ばした。声を理解したのか、指先に灯った淡い光に、それは応え、赤い魔力の糸を紡ぎ、言う事を聞かない身体を引き摺り、縋るように後を追う。


 赤い糸が切れるまで、随分と歩いた……気がする。
 鳴き声の主は、石造りの祭壇の上に、白い巨躯を横たえて、眠っている。胴は大きく裂かれ、赤い血が、身体を汚し続けている。
「あ、の……」
 覗いた黄金色の瞳を、マルルはお月様みたいで、とても綺麗だなと思った。
「痛く、ないですか。寂しくは、ありませんか」
 少女は問い掛けながら、教わった知識を漁り、治癒の力を宿した掌で、傷に触れる。それは、出血を僅かに和らげた。
 少女の献身と祈りに白い竜は感謝し、少女を視る。そうして、理解した。
 背に乗せ、身体を器用に反り、弧を描いた尻尾の先まで、滑走させた。
「え、あの? もしかして、滑り台……ですか?」
 遊び方は間違っては無かった様だと、竜は大真面目に首肯する。マルルの笑顔が戻る頃には、日が暮れていた。竜は少女を、家まで送り届けた。


 朝方、出来事を両親に話し、外へ出たマルルを、白い竜は出迎えた。
 先ずは揃って、歯を磨く。竜が教えながら怪我の治癒を、マルルが涙を流す夜に、身体を寄せる。そんな日々が過ぎていく。
「シイロさんシイロさん!」
 少女が自分で名付けた竜の名前を呼ぶ。長い時間を掛けた治癒により、竜の怪我は、とうとう、古傷を残すだけとなった。
「それでですね! 私、魔法使いになりたいと思いまして! だから、魔法学校に通おうと思っていて それで、ええと……」
 頬を赤く染めて、珍しく迷っている少女の気持ちを汲み、シイロは法陣を編み、人にも理解出来る言葉で契約条項を示す。
 其方が行った献身を、契約の代価とする。
 浮かび上がった文字は、それだけだ。
「……はいっ!」


 魔法学校の制服に、上機嫌で袖を通す。
「行ってきます!」
 弾む明るい声と共に扉が閉じる。
 その向こうには……誰も、居ない。


「湖畔には、両親を早くに亡くしちまった、一人娘が居るだけさ」
「老婆を見たって? そりゃあ誰のことだい? この辺に、そんな婆さんなんて、いやしないよ」
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​ 成功

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト