シナリオ

探索行『黄金の庭』

#√ドラゴンファンタジー #ノベル #秋祭り2025

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「さあ、ついに到着よ!」
 ここまで先導してきたリリアーニャ・リアディオ(深淵の爪先・h00102)が、くるりと回って二人の方へと振り返る。にっこりと笑みを浮かべた魔女の向こう、一行の向かう先には紅葉を迎えた森が広がっていた。不可思議にうねった木々が、間の小路を時に塞ぎ、時に歪めるその場所は、√ドラゴンファンタジー特有の『ダンジョン』である。
 幸いと言うべきか、今日はとても天気が良い。木々の間から降る朝の光が、舞い落ちる黄金色の木の葉を照らしている。
「ここは景色も綺麗なの。絶対に楽しんでもらえると思うわ」
 リリアーニャにとっては見知った場所なのだろう、彼女はそう請け負った。
「今日はありがとね、アーニャ」
「よろしくお願いします、アーニャさん」
 北條・春幸(汎神解剖機関 食用部・h01096)に続いて、物珍しそうにダンジョンを観察していた守澤・文雄(北條・春幸のAnker・h03126)が言う。本日の目的は、彼……√能力者としての戦いに疎い文雄に、経験を積ませるというものだ。
 ビギナーの冒険者にも向いているこのダンジョンは、きっとお誂え向きだろう。
「ここならではの植物や動物もたくさんいるから、案内しながら紹介していくわね」
「ああ、とりあえず――お弁当を食べるのにちょうどいい場所を目指そうか」
 早起きして作ってきたからね、と春幸が頷く。手慣れた様子の彼にとって、この冒険はピクニックも兼ねているので。
「そんな気楽な感じで良いんだ?」
「あら、食材調達は大事よ?」
「そうそう、長期戦の時は現地調達が必要になったりするからね」
 冗談めかしてそう付け足しながら、リリアーニャは二人をダンジョンの奥へと誘った。

 ひらりと舞う木の葉は絶え間なく降り注ぎ、踏み出した足の下で乾いた音を立てる。降り積もった木の葉の層がさして厚くないのを不思議に思い、文雄が足元の一枚を拾い上げると、黄金色のそれは掌の上で溶けるように消えてしまった。まるで雪のような不可思議な現象、名も知らぬ葉に感心していると、先を行くリリアーニャはまた別の植物を指さした。
 苔むした岩の間に咲いた薄紫の花、かすかに甘い匂いを放つそれは、毒消しに使えるらしい。
「なるほど、応急手当に使えそうだね」
「うん、ほかに便利そうなのは――」
 普段居る世界では見慣れないそれらは春幸にとっても興味深く、自然と質問も多くなる。それらに都度解説を加えていたリリアーニャは、そこで長い耳をぴくりと震わせた。葉擦れの音の合間に聞こえたのは、かすかに流れる水の音。
「そっちに川があるみたい」
「ああ、それはいいね」
 食料調達に丁度いい、と春幸が頷く。
 そうして辿りついた川の水面を透かし見れば、いくらか魚が居るのが見える。
「じゃあ魚は春幸に任せてもいい?」
「僕が魚釣ってるから、アーニャはふみ君を案内してもらえるかな」
 異空間にしまっていた釣り道具を取り出して、リリアーニャは春幸の前にそれを並べる。早速それらの具合を確かめてから。
「ちなみに、注意しないといけない魚なんかは居るかい?」
「うーん、大丈夫だと思うけど……」
 とりあえず危険なものはいなかったはずだということだけ伝えて、リリアーニャは先を急ぐことにする。
 とはいえ、完全に二手に分かれてしまうのもそれはそれで危ないので。
「何かあったときはすぐに“喚ぶ”わ」
「え? 何? 背中何つけたの?」
 ぺたんと春幸の背を掌で打つ。そこには彼女の編んだ魔法陣が描かれていた。


「さ、ふみくん行きましょ!」
 先行するリリアーニャの声を追って、文雄が森の奥へと進んでいく。やることは先程までと変わらないが、春幸と別れたことで、ほぼ初対面の彼女と二人きりになってしまった。少しばかり緊張してしまうのも仕方のないことだろう。
「見て見て! あの鳥、落ち葉にとけ込むような模様でしょう?」
「わ、本当ですね」
 結局はその緊張も、新たな発見に満ちた旅路が吹き飛ばしてくれた。驚きと好奇心が勝って、文雄は躍る心のままに笑みを浮かべ、彼女に問う。
「あれは何ていう生物です?」
「珍しいのを見つけたね、あれは――」
 炎のような尾を揺らし、駆けていく鹿のような動物を追いかける。刺激しないよう距離を置きつつ優しい笑みで解説を加え、リリアーニャは大きな耳を揺らしながら道案内を続ける。
 まるで本当にゲームの世界を探索しているみたいな状況に、文雄はのめり込んでいった。
 所々で花や果実なども採取して、先へと進んだ二人は、やがてそこに行き当たる。
「これは……大きなドングリ?」
 文雄がそう評したのは、両手を広げても抱えきれなさそうな巨大な木の実。しかもそれが、落ち葉を踏みしめ、のしのしと歩いていた。
「んー……ドングリゴーレム、みたいな感じかな?」
「そんなのも居るんですか?」
 どういう原理で動いているんだろう、そんな好奇心の目を向けた文雄の前で、それは木の実を組み合わせて形成された巨大な腕を振り上げた。
「……え?」
「危ない!」
 突然の敵意に固まってしまった文雄の前にリリアーニャが立ち塞がって、振り下ろされた拳を受け止める。彼女の召喚した黒薔薇の蔓が、棘を食い込ませながら敵の腕を縛り上げていた。――とはいえ、力比べは向こうに分があるか。
 それでも蔓を引きちぎるゴーレムに対し、リリアーニャの放つ巨大な人食い薔薇は果敢に喰らいついていった。
「つよ!!」
 歓声を上げつつ文雄も攻撃に加わるが、戦闘慣れしていないのは否めず、有効打は与えられていない。庇われているという自覚もあり、もどかしさに歯噛みする。
 一方のリリアーニャも、あまり時間をかけない方が良いと結論を出していた。
「これは……合流したほうが良さそうね?」
 そう呟いて、正面に魔法陣を描き出す。それは、先程春幸の背中に貼り付けたのと同じもので――。
「……え? ここどこ?」
 瞬間、魔法陣が眩い輝きを放つと、そこには釣り竿を振り上げた春幸が立っていた。
「――ああ! これが召喚か!!」
 そして一瞬で、状況を把握する。二人と別れて釣りに勤しんでいた彼は、そこそこの頻度で得られた釣果を順に氷水で〆るなど、順調に楽しんでいたところだったが、「もう少し釣るか」と竿を振り上げた直後に転移した形だ。
「すごい、生の召喚魔法だ!!」
 ゲームでは雄々しい召喚獣などが出てくるところだけど、と文雄が声を上げる。
「昼食前のひと運動だと思って、ね?」
「まあ、そういうことなら……」
 召喚主であるリリアーニャの言葉にそう応じると、召喚獣こと春幸はドングリゴーレムと向き合った。
 襲い来るゴーレムの腕から素早く身を躱し、釣り竿の代わりに取り出したメスで切り付ける。頑丈な相手ではあるが、動きは鈍い――そう看破した彼は、あえて攻撃を引き付けるように動くと、自由になった後衛、つまりリリアーニャの詠唱が完成する。
 生じた黒蛇、細長くうねる黒焔が地を這い、次々とゴーレムへと絡みつく。足元を焼き、縛り付け、体の自由を奪ったところに、春幸のメスが閃いた。
 
 ――普段はあんなにおっとりしてるのにな。文雄がそう、感嘆の息を吐く。


 力を失ったゴーレムがばったりと倒れこむと、その身体を構成していた木の実がばらばらと地面に散っていく。戦闘中にはあまり観察している余裕はなかったけれど、改めてそれらを見て、リリアーニャが瞳を輝かせる。色も大きさも様々な木の実の中に、よほど貴重なものが混ざっていたのか、喜び勇んで拾い上げると。
「春幸、この種は持ち帰って育てるべきよ!」
「成る程、汎神で育てるとどうなるかも面白そうだねえ」
 種の形状がどうとか植生がどうとか話し合い始めた二人の様子に、置いていかれた文雄が頬を掻く。こちらとしては、ボスモンスターを討伐したこと自体が一大事なのだけど、彼等の議論は「どうしたら味の良い木の実が生るか」とかいう領域に及んでいる。
「もしかして二人共研究馬k……」
 ぽつりと呟いた言葉は肯定も否定もされなかったが、それはほぼ確信に近かった。
「上手く成長したらアーニャにもお知らせするよ」
 絶対だからね、約束よ。ということで、とりあえず決着はついたらしい。春幸の転移によって置き去りにされた釣果を回収してから、三人はまたダンジョン探索へと戻っていった。
 森の奥、ドングリゴーレムの徘徊していた区域の先には、洞窟が口を開けていた。辺りを輝かしく照らしていた木漏れ日も、さすがに洞窟の奥にまでは届かないのか、踏み込んだ影の下はひどく暗い。が。
「……これは?」
「魔鉱石ね」
 もう少しだけ進んだ先、そこでは日の光の代わりに、洞窟の壁面に露出していた謎の鉱石が、魔力の光を放っていた。
 秘めた魔力の属性によるものか、その光は赤く、青く、様々に色付き、街のイルミネーションにも劣らぬ輝きを見せている。光と共に奇妙な唸りを響かせる魔鉱石のトンネル、星空よりも眩い天井を見上げながら歩んでいくと、洞窟はやがて終わりを迎えた。
 そうして突然開けた視界の先、そこには紅葉の鮮やかな丘が広がっていた。小高い丘の上へと歩みを進めると、周囲を――そしてこれまで通ってきた森の様子を一望することができる。
「うーん、正に絶景!」
「ここならピクニックにもぴったりじゃない?」
 ひとつ伸びを打った文雄に続いて、リリアーニャがそう提案する。静かで景色の良いこの場所は、旅の終着点としては丁度良い。
「よし、それじゃ二人は休んでて」
「……いいの?」
 そう問い返す文雄に対し、春幸は笑みで応じる。ここから先は自分の出番だと言う彼の主張に頷いて、リリアーニャはレジャーシートを敷きはじめた。
「ふみくんもどう?」
 早速足を伸ばし、シートに寝転がった彼女が誘う。その和やかな様子に、ほどなく文雄も陥落、体を横たわらせていた。
 先程倒したドングリゴーレムが周辺を仕切っていたためか、この場所は平和そのもの、何も心配はいらないだろう。
「……まあ、この魚も初めて見るやつなんだけどね」
 あえて心配事を挙げるとするならそれか。
「こっちでは一般的なお魚だから、調べれば出てくるかも?」
「なるほど……?」
 リリアーニャの言葉に従いスマホを起動すると、幸いそのあたりの情報はすぐに手に入れることができた。
 文明の利器も駆使して、春幸の調理は進む。
「お? この果実は火を通すと甘さが増すのか。やってみよう」
 途中で採取した果実と、捌いた魚、それらを文雄の用意してくれたコンロへと持ち込み、炭火で炙りにかかる。新たなに挑戦したメニューが、あらかた準備のできた頃。
「さ、二人とも起きて」
 春幸はそう声をかけて、まどろんでいた二人を起こす。場所を空けてもらったレジャーシートの上に、料理の数々が並んでいった。
「わあい、早速いただきましょ!」
 √ドラゴンファンタジー産の焼き魚に、準備してきたお弁当の数々。しそわかめのお握りは梅とおかか。それに、ごま油と塩のお握り。甘い卵巻きと一緒に並んだ定番の唐揚げは、怪異肉を使ってゆず風味でさっぱり仕上げたものだ。
 サンドイッチはトマトとチーズ。それと胡瓜とたっぷりの怪異肉ハム。怪異料理研究家が腕によりをかけた、渾身の料理と言ってもいいだろう。
「春幸のごはん……おいしい……」
「どれもすごく美味しいよ。ありがと、はる兄!」
 リクエストした甲斐があった、と文雄が喜びの声を上げれば、春幸がどこか得意げに笑う。卵焼きの味を楽しんでいたリリアーニャの方には、いつの間にか降ってきた落ち葉が髪の上に飾られていた。
「似合いますね、それ」
「え? なんのこと?」
 微笑ましいそんな様子を、春幸がカメラに収める。
 満腹と心地よい疲れに包まれて、三人はしばし穏やかな時間を過ごした。
 紅葉に染まる丘は、彼らだけの秘密の休憩場所のようで――。
 今日の出来事は、きっといつまでも忘れられない思い出になるだろう。
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