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束の間の休息、秋祭りを堪能せよ!

#√汎神解剖機関 #ノベル #秋祭り2025

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 #√汎神解剖機関
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 #秋祭り2025

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 平和であっても戦火の中であっても、どの世界においても、変わらないこと。
 日々、過ぎ去っては訪れて――巡り来た季節は、秋。
 第435分隊駐屯地があるのは、機械兵団との抗戦が続く√ウォーゾーン。
 けれど、そんな√ウォーゾーンも今は、ひとときの平和が訪れているといえよう。
 先日まで行われていた逆侵攻作戦が大成功に終わったからだ。
 それがたとえ、束の間のものであったとしても……現状をみれば、多少余裕が出たことは事実。
 だからこの日4人が足を運んだのは、いつも集う第435分隊駐屯地がある√ウォーゾーンではなく、√汎神解剖機関であった。
 きっかけは、水垣・シズク(機々怪々を解く・h00589)からの、こんな誘いの声。
「折角ですから、√汎神解剖機関で行われている秋祭りに行きませんか」
 シズクにとって√汎神解剖機関は出身√であり、彼女は√ウォーゾーンの分隊に食糧や嗜好品などを供給している外部協力者であって。
 今回皆を誘ったこの秋祭りは、大学時代に研究室のフィールドワークとして1人で何度か手伝いに来ており、故に土地勘があるのだ。
 そしてそんなシズクのお誘いに、乗らないわけはないことは皆同じであるが。
 √汎神解剖機関に関しての知識や理解度はそれぞれである。
 ヨシマサ・リヴィングストン(朝焼けと珈琲と、修理工・h01057)は結構よく出入りしているため、雰囲気などはある程度知見があるし。
 エルヴァ・デサフィアンテ(|強襲狙撃文《Fang of Silver》・h00439)は、食料品買い出しや趣味の関係上、√ウォーゾーンZ以外で飯屋を巡ったり食べ歩きをよくしている。
 そのため、一応の常識は知っている……とはいえ、誘いの声にふたつ返事で即答した姿からも垣間見えるように、ノリで行動する事もしばしば……?
 一方、神代・京介(くたびれた兵士・h03096)は、基本的に√ウォーゾーンか√EDENでしか活動していないため、√汎神解剖機関については不慣れである。
 だがそんな普段とは違った場所で、しかもこうやって、賑やかな秋祭りを4人で過ごすというのも新鮮であるし。
 でも、祭囃子が響くひとときの楽しみ方は、ある意味いつも通り。
 √ウォーゾーンで生まれ育ったヨシマサは生粋のスリルジャンキーであり、過酷な環境の中で、様々あれそれなことをひと通りやってきたが。
 その結果自覚したのは、ヒリついた状況を楽しんでいる自分。スリリングな状況であればあるほど悦んでしまう|性質《たち》だから。
 やって来た秋祭りで、さてこれからどうするかとなれば――こう言い出したのである。
「そうですね~……じゃ、屋台の食べ物を賭けて射的で勝負、とかどうでしょうか」
 彼が見つけたのはそう、景品がずらりと並ぶ射的の屋台。
 だが、ただ射的をするだけではなく、より刺激をと、ヨシマサは持ちかけたのだ。
 屋台で射的勝負して、負けた人が今日の屋台の費用を全部持つ、という賭けを。
 そして勿論、そんなスリルを求めているのは、何もヨシマサだけではなくて。
「ひゅー! 良いね良いね~。その勝負、乗った!」
「全奢りを賭けた勝負か! 良いね腕が鳴るぜ」
 エルヴァだってスリルがあることが好きで、機械化で得た力をもって刺激に溢れた日々に身を置き楽しく命を繋いでいて。尚且つ、元々補給が滞っていた基地にいた影響から美味しい食べ物に目がないため、その賭けに乗らないわけはなく。
 京介も同じく勝負事は好きだから、嬉々としてヨシマサの声に乗っかる。
 そして、シズクも勿論――。
「ぜ、全奢りですか……!? ハンデを……いえ、分かりました。受けて立ちましょう!」
 勝負内容が射的であり、この面々のことをよく知るからこそ、ちょっぴり一瞬だけ日和りかけたけれど。
 だが、これまで逆境なんて何度もあったし、むしろ不利な状況から勝利するというのも勝負の醍醐味であるから。
 全員が足を向けた屋台で銃を握れば、いざ射的対決のはじまりです!

 というわけで、これは平和な秋祭りの屋台遊びでは、勿論あるのだけれど。
 それはそれとして、メンツがガチすぎるわけで。
 京介は、√ウォーゾーンの戦場で育った半人半妖の歴戦の兵士。
 故に兵士としての標準的な射撃技能は有しており、ドローンやロボットなどの大量の無人兵器を遠隔操作し戦うことを得意としているくらいだから、当然ながら射的にはそれほど苦労はしないだろうし。
 ヨシマサも生まれながらの√ウォーゾーンっ子、普段から射撃武器で戦っているため、射撃の腕には自信があるのだ。
 無茶をしたり自身を不利な状況に追い込んだりして周囲を心配させながらもこれまで生き延びているということが、その腕前を物語っているし。
 エルヴァも、その身一つで戦場を駆ける男勝りな強襲狙撃兵であり、対WZライフルを用いた突撃戦法が得意。
 つまり、普段から銃を扱っており、強襲狙撃兵として遠近問わずの射撃に長けているのだから、当然この勝負は楽しんで勝ちを狙いに行く気満々。
 そしてそんな皆との勝負、きっと真っ向から競えば十中八九負けることは、シズクだって承知の上。
 だが、射撃能力はてんでダメでも、勝負を決めるのはそれだけではないのだから。
(「幸いここは私のホーム。銃の腕が遠く及ばなくとも戦いようはあるはずです」)
 そう、彼女には、地の利という大きな強みもあるのだ。
 祭りの運営とは顔見知り。だから、射的屋台の店主のクセ……例えば、どういう景品が軽くしてあるかなどを、実は確り把握しているシズク。
 いや、奢るのは構わない。だがしかし何とかこの勝負を勝とうとするのは、彼女が負けず嫌いだから。
 というわけで、それぞれがすちゃりと銃を構えて、まずは一発目。
 けれど意外にも、狙い定めて撃ち出された弾が景品を落とすには至らない結果に。
 だがそれは彼ら彼女らにとっては、必要な過程というだけで。
 銃弾とはあまりに違う弾速の差から、エルヴァは命中させるのに最初の数発こそ手間取るも。
「弾道がブレる!? こんな感じなんだな~」
 射的用の銃の感触や具合を掴んでいって。
 同じく、初撃こそ狙いを外してしまうも、祭りの射撃の鉄砲は普段と勝手が違うことはわかっているから慌てることなく。
 ヨシマサも自分の中で調整していきつつも……ふと、何かを思案している様子の京介へと視線をちらり。
 それに気づいた京介も、彼へと目を向けて。
 シズクが懸命に軽い景品を狙って銃を構える隣で、そんな彼らの様子に気づいて。
(「……ん? 作戦会議でもしてんのか?」)
 でも――そうはいかねぇぞ、何のこれしきってな! って。
 むしろ、俄然やる気になるエルヴァ。
 いや、作戦会議といえば、作戦会議……なのであるが。
 京介が抱いているのは、こんな気持ち。
 基本的に女性に奢られる事を良しとはしないが……しかし仲間として対等な関係だと思っている事と、勝負で決めるということで。
(「真面目にやるか、それとなく負けるか……」)
 そしてヨシマサも、普段表に全く出していないが、やはり思っているから。
 自分で言い出したことながらも……男性として女性にはなるべく紳士でいたい、故に、流石に女性陣に全奢りは申し訳ない、と。
 だから、ぱちぱちっと、そっと懸命に京介へと何度かアイコンタクトを取ろうとするヨシマサ。
(「京介さん、わかってますよね? 男としてここはどっちが出すかの勝負です。一騎打ちといきましょ~?」)
 ほどほどに敢えて狙いを外しながらも、なんとかして彼との一騎打ちに持っていこうと。
 それに気づいた京介も、そんなアイコンタクトを受けて、ぱちぱちっ。
(「おっけー分かった。ヨシマサが漢気を見せたいんだな。まかせとけ」)
 そして、ヨシマサの意図を察して、頷いて返すのだけれど。
 すっかりコツを掴んでばしばし落としていくエルヴァや、軽いものを何とか落としていくシズクに続いて。
 ――びしっ、びしびしっ、びしゅっ。
「……!?」 
 京介はあえてヨシマサのぱちぱちアイコンタクトを無視しまくって、負けない様にガチで射的に挑みます!
 ということで、そっと結ぼうとした紳士協定をガン無視されれば、結果は明白。
「えへへ、じゃあごちそうになっちゃいますね。ありがとうございます、ヨシマサさん!」
 何とかいくつか景品を撃ち落として嬉しそうに声を弾ませるシズクの言うように、フツーに負けるヨシマサ。
 いや、男性として女性に全部奢らせることは、望んでいた通りに避けられたのだけれど。
 だが、それはそれとして。
「は~あ……京介さんなんても~知りません」 
 何だかとても解せない気持ちを乗せたぼやきと視線を、京介へと向けるヨシマサのだった。

 ……ということで、射的対決も決着がついたわけであるが。
 京介も、とはいえ、射的勝負こそ彼のアイコンタクトを敢えてスルーしてガチったものの。
「ほらヨシマサ、こっからも金使え」
 勝負がついた後、こっそりとヨシマサに渡すのは財布。
 そう、京介も奢りは構わないのだ、奢りは。
 だがまた京介何か物言いたげなヨシマサと、そんな京介の財布からの奢りで。
 射的の戦利品をそれぞれほくほく抱えながらも次は、美味しそうな匂いが漂う、秋祭りの屋台巡りへ。
 そしてまず足を向けた屋台に並ぶのは、ふわふわしゅわしゅわ、お祭りスイーツの定番。
「ひゅー! 色々あるぞ……甘い! 美味い! 食感も面白い! の3つ揃って最高じゃんか!」 
 エルヴァがはしゃぐように両手に抱えるのはそう、わたあめ!
 デキる大人の女性に憧れて、普段はそんな所作を何気に意識しているシズクも、思わず。
「わたあめって偶に食べるとおいしいですよねー」
 エルヴァと顔を見合わせてはほくほく、ほわり。
 実は箱入りお嬢様で子供っぽい所が、最近は漏れ始めています、ええ。
 ヨシマサも、くるくるふわふわ、わたあめを作っていく機械をじいと色々眺めてみて。
「わたあめ、改めて見ると砂糖を伸ばして綿状にするって、面白いお菓子っすよね。これなら駐屯地でボクも作れるかも」
 あれとこれを組み合わせて、これは……なるほど~、なんて。
 興味深そうに頷きながら、帰ってからのお楽しみもしっかりと見つけて。
「んー! 全部美味い! お、あっちにも屋台があるぞ!」
「リンゴ飴もありますね、まんまるで可愛いです」
「リンゴ飴はそうやって作るんですか~。これも駐屯地で作ってみましょ~」
「屋台のグルメって特別な材料使って無さそうなのに、謎に美味い時あるよな」
 甘い物も、しょっぱいものも、がっつり系からスイーツまで色々。
 あれもこれも、気になるものがあれば買ってみて、はむはむもぐもぐ。
 √ウォーゾーンでは口にすることはないようなものを、ゆっくりと皆で沢山味わいつつ食べていきながら。
 おなかも程良く満たされた頃、いつの間にか日も落ちて、秋の夜風に揺れる数多の提灯に火が灯る。

 そして、ほわりと優しくも鮮やかな光たちに照らされる中。
 シズクが皆を連れて向かうのは、誘いの声をかけた時から案内する気満々であった、とっておきの場所。
 時刻を何気にチェックすれば、ちょうど良い頃であるから。
 夜を迎えて一層多くの人で賑わう秋祭り会場を歩き、通り抜けて。
 辿り着いたのは――祭囃子が少し遠くに聞こえる、人の姿もまばらな場所。
 そこで皆で腰を落ち着かせれば、時間になったから。
 夜空に刹那上がって弾けるのは、大輪の光の花。
 そう、土地勘があり、さらにこの秋祭りのことをシズクはばっちりと把握しているから。
 皆を案内したのは、花火がより綺麗に見える、穴場スポットの特等席。
 屋台で買った戦利品を引き続き堪能しながらも、皆で夜空を見上げて。
 ゆっくりと楽しむのは、花火鑑賞。
 花火自体ははじめてではなく、皆でやったりもしたことはあるのだけれど。
「こないだのヨシマサさん手作りの花火も良かったですが、こっちも良いですねー」 
「なんつーか、趣があるな……自分たちでするのとはまた違うって感じのさ」
 シズクの言葉に、エルヴァも頷いて。
「戦場の爆発と同じ爆発なのに、魅せる為の花火はここまで綺麗に魅せれるもんなんだな」
 火薬を爆発させるということは同じのはずなのに、戦場で見るものとは全く違う光の花を眺める京介。
 ドーンと大きな音が鳴って爆ぜても、感じるのは緊張や恐怖ではなく、綺麗で楽しいという気持ちで。
 ヨシマサは何故同じ爆発でもそう感じるのかを、知っている。
「そっすね~。花火はどこで見ても綺麗ですし……皆さんで見るのが大事だな~ってボクも思いますよ」
「というか、皆さんと一緒だと大概なんでも楽しいんですけど」
 シズクも同意するように、花火と一緒に楽し気な笑みを咲かせて。
 京介は連れの皆を改めて見回し、男女で二組作れるのにデートでもなんでもないことを、ちょっとだけ残念に思いながらも。
「秋祭りはデートで来たかった気もするが、こうして気心のしれた奴らと来るのも悪くないな」
 女性に対しては常に紳士的ではあるけれど、気心のしれた皆にはそう軽く返してみたりしつつも。
 やはり、こう思うのだ――仲間達と過ごすこういう時間も悪くないな、と。
 そう、この面々と一緒だからこそ。
「皆さんがいるから、ボクは変なこといっぱい言い出せるんすよ」
 ヨシマサも色々と好きなように、言ったりしたりもできるのだと思うし。
 エルヴァも、鮮やかで豪快に上がる花火を見上げながら、しみじみと呟きを落とす。
「やっぱ、一緒に何かをするのって良いもんだな~」
 家族の様に感じている皆と過ごす、秋の夜のひとときを噛みしめつつも。
 楽しい秋祭りの時間が終わるまで――まだまだ一緒に、この束の間の平和を、存分に堪能するつもり。
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