今、君を必要としている
●√汎神解剖機関からの侵略
ハジメマシテ、と。
伊之居・槿(エルピス・h04721)は√能力者たちへと軽薄な笑みを向けた。
「ちぃと力を貸してくんねェかな。インビジブルの群れが暴走するゾディアック・サインが降りて来ちまったもんで」
『|見えない怪物《インビジブル》』。改めて説明する必要などないかもしれないが、√能力者にしか視えず、かつ√能力者のエネルギー源となる存在だ。
本来は無害で善良だが、暴走しひとに害を成すとなれば話は変わってくる。
「ただでさえ放っとけねェのに加えて、√汎神解剖機関からそのエネルギー源を簒奪しに乗り込んで来る奴まで居るからな」
簒奪者の名は『リンドー・スミス』。√汎神解剖機関における米国の秘密国家機関──|連邦怪異収容局《F B P C》に所属する男だ。
人間同士で争うなど愚かなことだ、と公言しつつも自国の利益を優先するが故に手段は選ばない。『秘匿戦力』たる『怪異』を使役し降伏を迫ってくる。
「ご存知の通り、この√EDENって世界のひと達ゃ異常現象を忘れる力が強過ぎるからな。インビジブルに喰われても『怪異』にやられても記録や記憶に残ることァほとんどねェ。知らねェ内に世界が終ってた、なんて御免だろ?」
お巡りさんは御免だなァ。そう嘯いて。
槿は人差し指を立てる。
「まず、おたくらは『普通に過ごして』くれ。敵の存在に気付いてねェふりをして、普通に。√EDEN出身のひとァ言葉通りだし。別の√出身のひとァ物見遊山でもいいからよ」
舞台はショッピングモールになる。
「甘味やら衣類の店があるだけじゃなく、|電子遊技場《ゲームセンター》やらもあるらしいな。学生から家族連れまで幅広い層をターゲットにしてるみてェだ」
暴走インビジブルが現れたなら客たちは大混乱に陥ることは目に見えているが、残念なことに『事前に避難誘導する』ことはできない。
あくまで、まずは『普通に過ごす』ことが必要となる。
「さ、行ってらっしゃい。よろしく頼むぜ」
●ショッピングモールで日常を
時間帯は午後1時。
賑わう人々は楽し気に笑い合う。休日なのに制服を纏う高校生の手にはクレープ、親と手を繋ぐ子供の手には風船やアイスクリーム。
あるいはクレーンゲームで手に入れたのだろうか、大きなぬいぐるみを抱えて歩く男性グループや、大切そうに鮮やかなデザインのショッパーを抱える女性もいる。
友人と共にファンシーショップを覗いてははしゃぐ姿もあれば、ひとり静かに本屋で背表紙を眺める姿もあるし、カフェで語り合う姿もある。
ここであなたは、どう過ごす?
マスターより

目に留めていただき、ありがとうございます。
初心者さん大歓迎。朱凪です。
まずはマスターページをご一読ください。
シナリオ進行はタグにてご案内します。正直筆は早くないです。
オープニングの通り、今回は分岐はありません。
では、日常を守るためのプレイング、お待ちしてます。
36
第1章 日常 『今日は街に出かけよう♪』

POW
体力の続く限り回りたいお店や場所を見て回り遊び尽くす。
SPD
時間まで手早く移動して目的のお店や場所を見て回る。
WIZ
人気スポットを予め調べて、最適なルートを考えてから効率的に見て回る。
√EDEN 普通5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

・POW
「普通に過ごす」ねぇ。
普通。いつも通り。つまり通常運転ということ……
よっしゃゲーセン行こ〜〜〜!
欲しかったぬいぐるみがそろそろ並ぶ頃なんだよね。
猫ちゃん猫ちゃん、両手で抱えるくらいのデッカい猫ちゃん。
……おっ!あったあった。会いたかったよ猫ちゃん!
いやーカラバリえぐいな。どの色にしよ。
どれも可愛いんだよな……あ、それなら取れそうな子狙えば良いじゃん。
そうと決まれば、いざ尋常に勝負!の前に両替しとこ。
クレーンゲームはね……小銭いっぱいにしとかないとね……
一応言っとくけど、クイックシルバーは手出し無用だかんね。
ズルして取っても嬉しくないでしょ。アタシも猫ちゃんも。
正々堂々とお迎えしなきゃ。
●いつもの
「『普通に過ごす』ねぇ」
星読みの科白を反芻し、辿り着いた一文字・伽藍(Q・h01774)はフロアマップをじっと眺める。
普通。いつも通り。つまり、通常運転と言うこと。
「よっしゃゲーセン行こ~~~!」
向かった入口近辺には音ゲー、そして目的の──クレーンゲーム。
──猫ちゃんねっこちゃん、両手で抱えるくらいのデッカい猫ちゃん。
「……おっ! あったあった。会いたかったよ猫ちゃん!」
お目当てを見つけた伽藍はびたんと機体に両手をついた。そのぬいぐるみがつい最近入荷されたばかりであることを知っている程度には、彼女はヘビーユーザーだった。
「いやーカラバリえぐいな。どの色にしよ」
白、茶トラ、三毛という柄から、ピンク、水色まで色とりどり。どれも可愛いんだよな……と真剣な眼差しで眺めることしばし。店員に依頼すれば後ろに並んでいる色の子も前面に出してもらえるはず。
──どれも可愛い?
「……あ、それなら取れそうな子狙えば良いじゃん」
それこそ運命の出会いになるのでは?
それなら雑談のネタにもなるのでは?
そうと決まればいざ尋常に勝負! ──の前に踵を返して両替機へ。小銭をたくさん用意しておかないといけない。最近の機体はアームが緩くて掴むことを前提としていない。複数回かけて落とすことも重要な作戦だ。
「一応言っとくけど、クイックシルバーは手出し無用だかんね」
ズルして取っても嬉しくないでしょ。アタシも猫ちゃんも。自らの護霊──あるいは“奇跡”──に釘を刺して小銭を引っ掴み、伽藍は機体の前に戻る。正々堂々とお迎えしなきゃ。
笑みを浮かべ、きらと輝く瞳には間違いなく『楽しさ』が宿っている。
単純なボタンでクレーンを操り引っ掛ける。抱えるほどの大きさの猫ちゃんはちょっぴり動いただけ。それでいい。焦ることなく伽藍は再度ボタンを軽く叩く。少し。僅か。出口に近付くぬいぐるみ。
そして。
「イエーイ、ガランちゃん最強~!」
黒の猫ちゃんを抱え上げくるり回って、伽藍は快哉を叫んだ。
🔵🔵🔵 大成功

(普通に過ごすってどうやるんだっけ……)
√ウォーゾーンで戦いと訓練に明け暮れていた俺にとって、『普通に過ごす』というのは割と難題かもしれない……
……とりあえず、何か食べたいな
自分の√では食べられないような美味しいものを食べられるのも、他の√に出向く理由の一つだしね
高校生が持っているクレープを見て、美味しそうだと思ってクレープ屋を探して
チョコスペシャル的なとびきり甘いやつを頼んで、近くの椅子に座って食べるよ
溢れる生クリームやチョコソースに苦戦しながら、甘い甘いそれをゆっくり味わう
周囲への最低限の警戒は怠らないけど、今は思う存分美味しい時間を楽しむよ
※アドリブ、連携歓迎です

NG無し アドリブ連携歓迎
インビジブルの暴走…。この様な人の多い場で起こる事を考えると予知出来ただけ良いのかもしれませんね。
プレイングとしては機械な見た目のベルセルクマシンが見回りをしてしまうと目立つと思うので装備の「EOCマント」で人間の映像を投影して人のふりをします。そして避難経路を確認がてらウィンドウショッピングと言うものをしてみましょう。欲しいものは今の自分にはありませんが欲しいという感情を得る作業そのものが楽しいものだ、と聞いています。人の観察も忘れずに行いましょう。工作員が紛れている可能性もありますがこのような人の多さはウォーゾーンにはあまり無いので人を知る良い機会になりそうです。
●それは普通の非日常
インビジブルの暴走。
──この様な人の多い場で起こる事を考えると予知出来ただけ良いのかもしれませんね。
賑わうショッピングモールを見渡して、フォー・フルード(理由なき友好者・h01293)はふむと思案する。√能力者ではない人々に、インビジブルは視認できない。仲良く隣を歩いていた友人が突如無惨な喰い傷を露わに倒れる衝撃を、理不尽に突き付けられることになる。
最終的に忘れてしまうとしてもその一瞬は恐慌に見舞われることは間違いないだろう。
過去の記憶を持たぬベルセルクマシンであり、√ウォーゾーンにおいては『人』を見る機会も多いとは言えないフォーにも、想像ができた。
そう。彼はベルセルクマシン。普段は二メートル近いサイズであるが、√EDENにおいて混乱を呼ぶことは望ましくないことも理解できるが故に、フォーは|電磁的光学迷彩《E O C》マントに映像を投影し、現在は見目を偽装していた。
製造されてからの年月か、あるいは現在の人格で目覚めてからの年月か。十年、と刻まれた己のデータに則り、十歳程度の少年の姿だ。
細く頼りなく見える『人』の足で、フォーはモールを歩き始めた。フロアマップは暗記した。避難経路を実際に歩いて確かめつつ──彼はショーウィンドに並ぶ商品をゆっくりと眺める。
──欲しいものは今の自分にはありませんが、欲しいという感情を得る作業そのものが楽しいものだ、と聞いています。
『人』を知る良い機会になりそうだ。そうフォーの身体の奥で『なにか』が音を立てたとき、
「……迷子、か?」
降りかかった声に──本体の彼からすれば少し下から聴こえた声に──|子供の映像《フォー》は顔を上げた。
時は少しだけ遡る。
──『普通に過ごす』ってどうやるんだっけ……。
内心でそっと首を捻ったのはクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)。
√ウォーゾーンで戦いと訓練に明け暮れる兵士養成学園に属する彼にとって星詠みから依頼されたことは、想定以上に難題だった。
特に√EDENのショッピングモールなど、潤沢な物資が並んでいる場所での『普通』はクラウスにとって想像も難しかったけれど。周囲を見れば自然と学べることも多い。
──……とりあえず、なにか食べたいな。
きゃあきゃあと楽し気に笑い合いながらすれ違う高校生が手にしていたクレープを見てクラウスは素直に美味しそうだと感じる。√ウォーゾーンでは手にすることが難しい食物を得られるのも、彼が他の√に赴く理由のひとつだ。
「この……チョコソースのを」
チョコチップアイスに生クリーム、チョコレートブラウニーまで巻き込んだ上にチョコソースたっぷりのスペシャルチョコクレープ。傍に配置されたテーブルと椅子に越し掛けて、ひと口、はむり。
「ん……」
もちもちの生地に生クリームとチョコソースがよく絡み、溢れ出しそうになる甘い甘いそれらをこぼさないよう注意する。
──美味しいな。
ゆっくりとその贅沢を味わうクラウスの瞳に不意に映ったのは、幼い少年だった。
齢は十程度か。学園では既に立派な兵士として活躍する者もいるだろうが、この世界でこの年齢の子供がひとりで居るのは望ましくないのではなかっただろうか。少年の表情に不安のいろはないけれど。
少し迷ってから、クラウスは少年に近付いた。
「……迷子、か?」
「え。……え、いえ。違います」
少年──フォーから返される礼儀正しい回答にクラウスはある種安心する。見目こそ幼くとも、学園に居る子らのような『意志』の気配を感じたから。
「探しものでもあるのかな。手伝おうか」
「ありがとうございます、でも、特にそういうものはなくて。……あの、それは?」
「? これ? クレープっていうお菓子だね、知らない?」
こればかりは本能にも近い慣習としてほんの僅かの警戒を互いに湛えながらも、兵士と兵器は言葉を交わし合うのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

何気ない学校の帰り道。
今日は宿題がたくさんあるから、少しだけ気分が落ち込んでいたけれど。
でもお友達に美味しいクレープ屋さんの話を聞いたの。
これで宿題もきちんとこなさことができるわ。
目指すのはもちろんクレープ屋さん。
同じようにクレープを楽しむ学生をみていると、誰かを誘えばよかっただなんて。
ちょっぴり寂しくもなってしまうわ。
「いちごと生クリームのクレープをくださいな」
これを食べたら、お仕事も宿題も頑張るわ。
甘くて美味しいクレープ。
とっても元気になるものね。
「それでは。いただきます。」
クレープを受け取って、今はその甘さに浸るの。
●晴れきぶん
「ふう……っ」
空模様は晴れなのに。
急に霧雨の降り出した何気ない学校の帰り道、辿り着いたショッピングモール。愛用の傘を畳みつつ花嵐・からん(Black Swan・h02425)が振り向けば、もう空は素知らぬ顔で泣き止んでいた。
それも最早いつものことと、からんはスカートや白い翼の水滴を軽く払って先へ進む。目指すのはお友達から聞いた、美味しいと噂のクレープ屋さん。
ピンクと白を基調にしたかわいいお店の前にはたくさんの写真が載ったメニューが並べられていて、これと決めていたとしても迷ってしまうほど。
──今日は宿題がたくさんあるから、少しだけ気分が落ち込んでいたけれど。
メニューを眺めているだけでも、宿題もきちんとこなすことができる気になってくる。
「いちごと生クリームのクレープをくださいな」
少々お待ちくださいねと微笑みかけられて、ええもちろん、と胸の中で返してからんはくるりと周囲を見渡す。制服のまま友人と小さなテーブルを囲んでクレープを楽しむ学生たち。アイスが溶けてしまいそうなのにも構わずお喋りに夢中なその姿に、からんは胸の奥がきゅうと締められる気がした。
──誰かを誘えばよかったかしら。
学校のお友達? いいえ、だめ。今からここは危なくなるのだから。
なら同じくちからを持ったひとたち? そうね、どなたなら喜んでくれるかしら。
いくつかの顔、交わした言葉たちを思い浮かべれば、ちょっぴり寂しくなったこころも和らいで。
差し出された、あかくてつやつやの大きないちごが白い生クリームを纏ったクレープを見ればいっそう気持ちはまるくなる。
これを食べたら、お仕事も宿題も頑張るわ。甘くて美味しいクレープ。
──とっても元気になるものね。
「それでは」
いただきます。
はむっ。かじった途端にクリームのあまさと、いちごの瑞々しい甘さと優しい酸味に、もっちりした生地のまた別の甘みが口いっぱいに広がって、自然とからんの頬も緩んだ。
「んん、おいしい……っ」
🔵🔵🔵 大成功

アドリブ、絡み◎
「これはハイカラな建物じゃのう」
√EDENに足を運ぶのは初めてだったか
狭い自分の世界が広がるのは楽しい
「おや、お主は箱の中に閉じ込められておるのか?」
大きな箱の中に並ぶぬいぐるみたち
「見世物小屋のようじゃのう」
くふりと笑いをこぼす
なるほど、このボタンと棒を使って捕まえるらしい
興味をそそられゲームセンターへ
「む……意外と中々……?」
黒猫のぬいぐるみ取りこぼすゆるゆるアーム
「お主中々根性があるのう」
「のう、そろそろ儂の元へ来たくなった頃ではないか?」
きゅるるん可愛い子ぶってうろうろ
四苦八苦何とかぬいをGETしてきらきら笑顔(誰かが取ってくれても可
「たはーー。これは良いふかふかじゃ」

アドリブ大歓迎!
そうだねー、スイーツめぐりでもしちゃおっかなー?美味しそうなショップ並んでて目移りしちゃうねー。ベビーカステラにチュロスにクレープにソフトクリームにみたいな色々食べ比べて楽しんじゃうよー。どれが一番おいしかったか自分ランキングとかつけてみてもいいかもしれないー?
●袖触れ合うも
賑々しい喧噪に、硝子窓と電灯をふんだんに用いた明るいショッピングモールを見上げ、玉梓・言葉(|紙上の観測者《だいさんしゃ》・h03308)はほうと息を吐いた。
「これはハイカラな建物じゃのう」
彼にとって√EDENに足を運ぶのは初めて。当然こんな建造物を目の当たりにするのも初めての経験だ。
狭いと自認する己の『世界』が広がるのは楽しいことだ。言葉は折角の機会を堪能すべく妙につやつやしている通路へと惑うことなく歩を進めた。
そして見つけたのは、建物の中でも妙に騒々しい音を立てる一角。硝子張りの箱の中。
「おや、お主は閉じ込められておるのか?」
並んでいるのはひと抱えもありそうな猫のぬいぐるみたち。返答はないけれど、付喪神たる言葉にとって声を掛けることはなんら違和感はなかった。
「……見世物小屋のようじゃのう」
くふり、こぼれた笑みの真意はどこにあっただろう。少なくともネガティブなそれではない。
この子らと触れ合うためにはどうしたら良いのか。周囲を見回せば白い髪の少女が真剣な眼差しで『箱』のボタンをたんッと叩く。穴に落ちる『猫』。イエーイと声を上げて喜ぶその笑顔に、なるほどと肯いて。
「しばし待っておれよ」
言葉は口許を綻ばせ、ぬいぐるみへと声を掛けた。
あむ、とベビーカステラをひとつ口に放り込めば、やさしい甘さと蜂蜜の香りがソノ・ヴァーベナ(ギャウエルフ・h00244)の頬を緩めた。
ブランドものの制服のスカートを揺らすギャルエルフたるソノにとってはショッピングモールという舞台自体は馴染みのある場所だ。
「美味しそうなショップ並んでて目移りしちゃうねー」
彼女の今日の『普通』はスイーツ巡り。手にしたカップからタピオカミルクティを吸い上げベビーカステラの味をリセットしたら、お次はシナモンがたっぷり掛かったチュロスをぱくり。
サクサクしつつももっちりした生地がかなりの満足感を与えてくれる。
「んっ、これは結構ランク上位になりそうかもー」
もちろんそれは自分ランキング。自分にとってなにが美味しいかなんて、自分が知れば充分だ。半分食べたところで見つけたソフトクリームの店にふらふら吸い寄せられたなら、塩ソフトとか言うそれに惹かれて早速購入。
「あー、今これかなりいいかもー」
甘いものばかり食べた舌には、甘いとは言えしっかりと主張する塩味が嬉しい。ソノが溶けてしまわないように気を付けながらソフトクリームを楽しんでいると、ふと目についたのはモノクルの男性。
「む……意外と中々……? お主中々根性があるのう」
ゲームセンターのクレーンゲームで、大きな猫のぬいぐるみを相手に苦戦しているらしい。
見ればアームはゆるゆるで、魔法のそれとは言えガジェットを取り扱うソノから見ればあの大きさのぬいぐるみを『掴み上げる』ことは難しいことがひと目で判った。その男性が懸命にそれを狙っていることも。
だから他意なくソノは彼の隣にひょいと顔を寄せた。
「おにーさーん、その子、そのリボン飾りに引っ掛けて引き寄せた方が良さそー」
「うむ? ははぁ、なるほど、そういう方法もあるのか……」
「がんばってねー。あ、クレープみっけー」
それだけ告げてひらり手を振ったところで、視界の先にピンクと白のお店を見つけて彼女はさっさとその場を立ち去った。
「のう、そろそろ儂の元へ来たくなった頃ではないか?」
それからしばし。引っ掛ける、という方法を学んだ言葉はかなり出口に近付いた黒猫のぬいぐるみへと親しみ込めた視線を向けた。これまでの試行錯誤は苦労ではない。彼にとってはただの戯れだ。
それ、と最後の一手を引っ掛ければ、狙りどおり黒猫さんは転がり落ちて。抱き上げた言葉はそのやわらかくてしなやかなもふもふへ頬を寄せて、ふやり相好を崩した。
「たはーー。これは良いふかふかじゃ」
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第2章 集団戦 『暴走インビジブルの群れ』

POW
ブルータルファング
【赤い霊気】を纏う。自身の移動速度が3倍になり、装甲を貫通する威力2倍の近接攻撃「【インビジブルの牙】」が使用可能になる。
【赤い霊気】を纏う。自身の移動速度が3倍になり、装甲を貫通する威力2倍の近接攻撃「【インビジブルの牙】」が使用可能になる。
SPD
トランススイム
【無数のインビジブルによる突撃】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【近接攻撃】に対する抵抗力を10分の1にする。
【無数のインビジブルによる突撃】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【近接攻撃】に対する抵抗力を10分の1にする。
WIZ
ポリューションレッド
爆破地点から半径レベルm内の全員に「疑心暗鬼・凶暴化・虚言癖・正直病」からひとつ状態異常を与える【赤き汚染】を、同時にレベル個まで具現化できる。
爆破地点から半径レベルm内の全員に「疑心暗鬼・凶暴化・虚言癖・正直病」からひとつ状態異常を与える【赤き汚染】を、同時にレベル個まで具現化できる。
√EDEN 普通11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
●見えざる恐怖から救え
明るく賑やかなショッピングモール。
ごく、ごく平穏な、日常の時間が流れていくその場所に。
ずるり、と湧き上がるものがある。
インビジブル。それも、箍が外れ目についた者を喰らい、|消して《ヽヽヽ》しまう存在。
狙いなどない。目的などない。
ただただ、衝動のままに喰らい、喰らわれた者はいつかインビジブルとなる。
隣に居た者が、突如鮮血を噴き上げて絶命する。
犯人らしい者はなく、原因らしいものも不明。
きっとそれを目撃した者の喉からは悲鳴が迸り、辺りは恐慌に包まれるだろう。
そしてショッピングモールを飛び出して──彼らは、|忘れる《ヽヽヽ》。
今し方、楽しい時間を過ごしていた友人を。
凄惨な死を遂げたのかもしれない、これまでの大切な時間を過ごしてきた家族を。
喪ってしまう。思い出すら。
そんな悲劇を、見過ごすわけにはいかない。
インビジブルは次から次へと、床から湧き出るように現れる。
周囲には『それ』を知覚できない一般人がいるだろう。
一般人を守りながら戦うか? なにも見えていない一般人を逃すか?
あるいは殲滅優先で戦うか? または戦い続ける√能力者を支援し、一般人の回復に努めるか?
どうせ√能力者の戦い自体も、一般人たちはショッピングモールを出る頃には忘れるのだ。
ここであなたは、どう立ち回る?

皆インビジブルさえ見えてればなぁ。避難誘導もし易いンだけど。
怖いもんなんて見えないに越したことないんだけどさ!
守りながら戦うにゃあ敵も一般人も数が多いし……
しゃあなし、マッチポンプすっか。
背に腹は変えられないってやつ。
クイックシルバー、その辺の動かせそうなもんポルターガイストして。
出来るだけ大勢に見えるように動かして、あとデカめの音も立てて。
良い感じに一般人驚かしてってよ。
あっ怪我人は出さないでよね。
アーアー、テステス。
皆々様〜聞こえてる?ガランちゃんだぞー!
現在当モールでは正体不明の怪奇現象が発生中!
なんか色々動いたりぶっ飛んだりで怪我しちゃうかもなんで、全員避難開始よろ!
アタシはそっとフォローしちゃう。
喜べインビジブル、ワンマンライブ開催だ!
【後方助力者面】!プラス【羊の数え歌】!
本日の選曲はアップテンポのポップス!テンションもアップ間違いなし!
クイックシルバーフォロー部隊は上手いこと避難サポートよろしく!
そんでクイックシルバー戦闘部隊!インビジブルの攻撃を反射して一般人のガードね。
●マッチポンプ・ガイダンス
ずるり、ずるり。
ショッピングモールの床に波紋を広げ、長い身体を引き上げて感情のない『魚』の瞳が一文字・伽藍を捉えた。周囲を歩く人々は笑顔のまま。そのどうしようもない違和感に、伽藍は肩を竦める。
──皆インビジブルさえ見えてればなぁ。避難誘導もし易いンだけど。
「……ま、怖いもんなんて見えないに越したことないんだけどさ!」
喜べインビジブル、ワンマンライブ開催だ!
「なになに?」
「撮影? 配信?」
いつものインカムマイクへ歌い上げる、テンションアップ間違いなしのアップテンポなポップス──“ハッピー・ラッキー・エゴイスト”!
──クイックシルバー、その辺の動かせそうなもんポルターガイストして。あっ怪我人は出さないでよね。
笑顔の伽藍の向こう側、どかんとセレクトショップのマネキンが吹っ飛んで、マネキン同士がぶつかり合っては派手な音を立てて粉々に砕け散った。
「きゃっ! なに?!」
「演出?」
「アーアー、テステス。皆々様〜聞こえてる? ガランちゃんだぞー!」
伽藍は客たちへ向けて笑顔で手を振った。
彼女の傍でスピーカー代わりのスマートフォンが浮かんでいるように見えるのも、彼女自身が神々しい銀色の光に照らされているのも──すべては護霊クイックシルバーのお蔭だ。|後方助力者面《フォローアップ》。護霊のテンションが上がる歌を唄うことによって、分散した護霊は非能力者の傍にも現れる。
「ぅわっ? えっ? 今引っ張った?」
「えっ? 知らない、触ってないよ」
護霊たちはインビジブルの牙から、一般人たちの服を引いたり押したりしてその攻撃を躱させていく。行動のほんの僅かな成功率を百パーセントに上げる伽藍の√能力だ。
もちろん、それだけではない。
|羊の数え歌《カウンティング・シープ》。移動せずに詠唱し続ける限り、分散した護霊たちが様々な効果を生み出していく。避けるだけではなく、喰らいつこうとするインビジブルへと攻撃し、反射し、視えない攻防を続ける。
そして伽藍自身はパニックを呼ばぬように堂々と立ち回るのだ。
「現在当モールでは正体不明の怪奇現象が発生中! なんか色々動いたりぶっ飛んだりで怪我しちゃうかもなんで、全員避難開始よろ!」
おどけて話すけれど、そのあれやこれやはすべて彼女の|仕込み《マッチポンプ》だ。守りながら戦うには、敵も護衛対象も多過ぎる。一時の恐怖も忘れてくれるのならば、命を掬い上げるために背に腹は代えられない。
ちなみに壊したマネキンも、こっそり物品修理を行う分散護霊がいたりするために問題はない。つまりなんだって壊し放題というわけで。
「い、行こうよぉ」
「いや、やらせっしょ。面白いじゃん。歌も巧いし」
へらへらと笑ってカメラを向ける一般人が居なくもなかったけれど、情け容赦なくそのスマートフォンを破壊してやれば途端に腰が引けた。
「ほらほら急げ! ガランちゃんの歌声はチャンネルで聴いてね!」
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功

(一般人の目に見えないというのは、厄介だな……)
脅威が見えなければ逃げるって選択肢は生まれない
見えている俺達がどうにかしないと
一般人に被害を出さないことを最優先事項として行動
服の下に隠していた拳銃を抜いて、一般人の目にに触れないように気を付けながらインビジブルの群れに向けて紫電の弾丸を発砲
インビジブルは見えなくても電光は見えるだろうから、それを理由に周囲の人達に避難を促すよ
「漏電が発生しているみたいです!早く逃げて!」
突撃してくるインビジブルはナイフやグローブで攻撃して一般人に近付けないように退けて
一般人が攻撃されそうな時は間に割り込んで庇うよ
※アドリブ、連携歓迎です

始まりましたか。申し訳ありません、友好AIを積まれた際に救助、保護機能なども搭載されていれば良かったのですが。
皆様の記憶には残らないのでしょうが謝罪を。
(迷彩を解除し銃を構えながら)これしかこの機体にはありませんので精一杯を尽くさせていただきます。
戦闘ですが一般人に突撃をしようとするインビジブルを中心に狙撃を繰り返し妨害を行います。姿を現して狙撃を繰り返すことで敵をこちらに注目させて何とか被害者を減らしていきたいです。敵がこちらに攻撃をしてくるようになれば√能力を発動し銃とハチェットで回復と攻撃を繰り返し、しぶとくヘイトを集める対応していきましょう。
直接的な救助の代わりになれば良いのですが…

アドリブ、絡み◎
「この地に住まう神よ、儂の声に耳を傾け力添えをしてはくれぬか」
【静謐の祈り】を捧げ、人の子が無事に避難できるよう願うしてくれと願う
ここが凄惨な現場になるなど勿体ないではないか
「大丈夫じゃ、儂が共に歩いてやろう」
ぬいぐるみが欲しいと言われれば迷うことなく渡す
アレはまた取ればよい、忘れるとしても人の子が笑うならそれでいい
一般人の避難を優先させ、己は女の姿をもつ黒い靄《彼ノ人》を引き連れインビシブルの取りこぼしが無い様警戒
「お主も呪いを全て吐き出して早う成仏すればよいものを」
黒い靄の吐く呪詛でインビシブルを制御し、幻影を見せインビシブル同士の打ち合いになるよう誘導
「まこと醜い争いよ」
●それを役割と人は呼ぶ
どかん、がしゃん、と。どこかで音がする。少ないながらも悲鳴も聴こえる気がした。
「始まりましたか」
映像の少年──フォー・フルードが顔を上げる。それとほぼ同時、床に波紋が渡って無の感情を浮かべた長い『魚』がずるずると連なってクラウス・イーザリーの足許から湧き上がってきた。
まだこの辺りの客たちは、遠くの音に少し振り返る程度。赤く、あるいは青くぬめる鱗をしならせて中空を泳ぐインビジブルがごぽりと赤いなにかを吐き出した。
──一般人の目に見えないというのは、厄介だな……。
脅威が見えなければ『逃げる』という選択肢は生まれない。時間はない。視えている√能力者たちが、どうにかしなければ。クラウスは奥歯を強く噛み素早く周囲に視線を走らせると、インビジブルと客たちの間に割り込みジャケットの内側から拳銃を抜いた。
一般人の視線を避ける彼を支援する意図があったか、あるいはなかったか。玉梓・言葉は両の手を広げた。ふわと衣の袖が泳ぎ衆目を集める。
「この地に住まう神よ、儂の声に耳を傾け力添えをしてはくれぬか」
それは|静謐の祈り《カミノジヒ》。時空が歪み、顕現するのはその土地の神だ。言葉は膨れ上がるインビジブルが吐き出した赤いなにかを視野の端に入れながらも、穏やかな笑みを浮かべて神へと願った。
「人の子らが無事に避難できるように手伝うてくれまいか。ここが凄惨な現場になるなど勿体ないではないか」
言葉の√能力によって叶えられるのは、困難を解決する為に必要で、誰も傷つけることのない願いだ。赤いなにかが膨れ上がる──神が人々へ『無事』与えるため見えぬ防護の幕を広げたと同時、クラウスの拳銃が火を噴いた。
紫電の弾丸。雷光を纏って奔った弾丸は一匹のインビジブルを撃ち抜き──それだけでなく周囲の群れにも激しい火花を散らして感電の効果を齎した。突然弾けた雷電に悲鳴が上がり、クラウスは声を張り上げた。
「漏電が発生しているみたいです! 早く逃げて!」
彼の真摯な声音に、パニックとはならないまでも、人々は巻き込まれては堪らないと我先にと階下へ向かう。途中、転びかけた少女の肩を、言葉は黒いふかふかのぬいぐるみで支えた。
「大丈夫じゃ、儂が共に歩いてやろう」
緊急事態だ。少女がはっきりとその黒猫のぬいぐるみを欲しがることはなかったけれど、言葉はそっとその腕に手渡した。これは、また取ればいいのだ。
「安心するがよい。この子がお主にはついておる」
「申し訳ありません。友好AIを積まれた際に自分にも救助、保護機能などが搭載されていれば良かったのですが」
少女の瞳を見下ろして、フォーも小さく謝罪を述べた。この建物を出たら忘れてしまうと判っていても声にしたかった。振り返ろうとする少女を、言葉が有無を言わさぬ笑顔で促す。
フォーが|電磁的光学迷彩《E O C》マントによる迷彩を解けば、現れるのは二メートルを越える黒きベルセルクマシン。重々しい金属音を立てて構える狙撃銃。フォーはふたりの仲間へと信頼の視線を向けた。
「あの赤き感染が広がっていたらより混乱していたでしょう。ありがとうございます。この機体にはこれしかありませんので精一杯を尽くさせていただきます」
クラウスがどこか感じていた既視感の正体になるほど得心する間に、フォーは牙を剥くインビジブルの群れの中へと突撃した。駆け抜けながら一匹一匹撃ち抜いていく。
──直接的な救助の代わりになれば良いのですが……。
敵の意識を己に向け一般人が逃げる隙を作る。|それくらい《ヽヽヽヽヽ》しかフォーには『護る』方法が判らないのだ。
心得たクラウスは電磁パルスを帯びた刀剣を振るい、言葉も黒い靄の死霊──彼ノ人と共にフォーに向かわないインビジブルを払うこと暫時。彼らは非能力者たちにひとつの怪我を負わせることもなくこのフロアからの避難を完了させることができた。
それを確認して「問題ないよね?」クラウスがフォーへと問う。
「はい」
端的な回答。幾多のインビジブルが彼のボディに喰らいつくと同時、その目と目の間に銃口を突きつけ、轟音も重い反動もものともせずに撃った。
インビジブルが絶命しフォーのボディから転がり落ちると、そこに走った傷がたちまち癒えた。|後の先《セカンドディール》。幾多の戦いを切り抜けて来たのであろう機体がいつしか備えていた力だ。
「なんと、頼もしいのう」
「評価、光栄」
「あとは残りを一掃するだけだね」
少なくともこの場においては。クラウスは静かにまだ中空を泳ぐ『魚』たちを見据える。一般人に被害を出さないことを最優先にしていた彼にとって状況は実に望ましく、やりやすいものとなっていた。
肯き銃の他にも小型の斧を手にしたフォーの隣で、ふむと言葉も『魚』を見遣った。
「……お主も呪いを全て吐き出して、早う成仏すればよいものを」
インビジブルとは生命のなれの果てなのだという。ほんの少しの苦味を舌の奥に覚えながら、黒い霧の吐く呪詛をなれの果てへ与えていく。
それは幻影を与えただろうか。√能力ではないそれの『魚』への効果は明確には知れないが、隙を生むことには成功したのだろう。顔を突き合わせ惑い合うインビジブルの首をフォーの太い刃が断ち落とし、電磁パルスを帯びたクラウスの刃が身体を貫いた。
「……まこと醜い争いよ」
袖に口許を隠しつつ、びたびたと最期を迎えるインビジブルを見送って言葉はそぅと瞼を伏せる。
その呟きを耳に、クラウスとフォーは次の『魚』を屠るため、更に駆けた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴 成功

アドリブ大歓迎!わたしは敵の殲滅していくね!
なんかヤバいの湧いてんねー!最悪ー!
ルーン・マグナムを手に、基本は【見切り】で滑るような動きで、パニックになってる一般人をすり抜け、流れるように敵に接敵しては【零距離射撃】で敵を撃つ、の繰り返しだよー。至近距離なら誤って一般人を撃つリスクも減らせると思うから!
はいはい、ちょっとごめんねー?通るよー?みたいな軽いノリと器用な立ち回りでいくね!ざっと周囲を見渡して、一般人を危険に陥れかけてる敵から殲滅していくね!その次の優先度は一般人の避難の邪魔になる敵の殲滅って感じで!
障害物や一般人が邪魔で接敵が難しい場合は【弾道計算】して【跳弾】で壁や柱なんかを利用して、一般人を巻き込まず敵を撃って確実に処理!
数が多くて敵が一般人を襲うのに間に合わない?だったら、√能力【メデューサ・アイ】で一般人ごと敵を麻痺させて行動不能にさせるよ!麻痺が切れる前に戦闘を終わらせる強い覚悟で!視界内の全ての敵を撃ち抜いて殲滅を狙うね!

危ない場所になってしまったわ。
宿題よりも先に、なにもみえない方をにがさないと。
きっと、とても怖い思いをしているとおもうの。
戦うことは他の方に任せて、私はみんなの誘導をするわ。
みんな。そっちは危ないわ。
こっちの道の方が安全よ。
迷子になっている方はいらっしゃらないかしら……。
逃げ遅れた方は……?
怖いと怯える方も、パニックになっている方も、みんなこっちよ。
たのもしい皆様がいらっしゃるから大丈夫。
さあ。こちらに。
怯えたこどもには飴玉をあげましょう。
「もう大丈夫よ。こけないようにね」
先程食べたクレープの分は消費されたかしら……?
●『護る』の在り方
「なんかヤバいの湧いてんねー! 最悪ー!」
床から次々に波紋を起こしてずるずると長い身体を引き上げ出て来るインビジブルの姿を目の当たりにしたソノ・ヴァーベナは普段どおりの笑顔のまま、ふわとスカートと腰に巻いたカーディガンを揺らして駆け出した。
「はいはい、ちょっとごめんねー? 通るよー?」
敢えて人々の間を縫うのは、当然そこにインビジブルが牙を剥くからだ。ただし、一般人にぶつかるような愚は犯さない。
身を低めて長い脚で一歩、滑るように流れるように駆ける傍らで抜くのは黒光りする愛用のルーン・マグナム。それは彼女の中に眠る膨大な魔力を弾丸に練り上げるハンドガンだ。
たんっ、と床を蹴って高く跳び、『魚』の眉間に銃口を押し当てて吹き飛ばす。
邪魔する敵だと見做したインビジブルたちがソノをぎょろぎょろと見上げ、突進してくるのをこれ幸いと彼女は引鉄を絞り続けた。
ルーン・マグナムにはサイレンサーが取りつけてあるとは言え、銃声を全て消せるものではない。背後で悲鳴が上がるけれど、ソノにとっての優先順位はそこにはない。一般人を巻き込まないため、最もリスクが少ないと判断しているが故に、彼女に迷いはない。
わたしは敵の殲滅していくね!
彼女の|碧瑠璃《へきるり》の瞳に宿る意志をしかと受け取り、花嵐・からんは力強く肯いた。
──危ない場所になってしまったわ。
もちろんそれは、轟く銃声に対する感想ではない。人々は次々と床から湧き上がるインビジブルに気付かず、ソノの奮闘にパニックになっている。よく見ていれば、彼女の放つ銃弾は零距離で『魚』撃ち込まれているが故に銃声のみが響き渡るばかりで、人々の身体や建物のどこにも被害を与えていないことは明白なのだけれど。
──きっと、とても怖い思いをしているのよね。……なにもみえないのだもの。
からんは周囲を素早く見回した。宿題よりも先に、この方々をにがさないと。
「みんな。そっちは危ないわ」
白くやわらかな翼を広げ、少しでも目を惹いて。おっとりと刺激しない話し方でからんは焦点を失う人々へと声を掛けていく。
「こっちの道の方が安全よ。大丈夫、さあ、こちらに。ええ、そう、走らないで」
エレベーターに溢れた人々が引き返そうとするのを遮り、階段へと促して。
──迷子になっている方はいらっしゃらないかしら……。逃げ遅れた方は……?
あらかたの避難を終えても、気を抜くことはない。振り向いたからんの視界に映ったのは、キッズコーナーから飛び出してきたひとりのこども。親は。更に幼い子を抱え、青い顔で必死に飛び出した子を止めようと手を伸ばしているのが奥に見える。
「っ!」
そのこどもの目の前に、ずるり、と湧いたインビジブルが咢を開く。からんが踏み出す。
「メデューサ・アイ、起動!」
人々の姿がほとんどなくなったフロアに、響き渡った声。
途端にこどもに喰らいつこうとしていたインビジブルのすべてが動きを止め、からんの手がこどもを抱き締めた。
爛とひかるソノの瞳から放たれる力により麻痺した敵へ、彼女は引鉄を引いた。柱の角を利用し、万が一にもこどもや親たちに当たらぬよう配慮した計算づくの跳弾が、先頭の『魚』を撃ち落とし──その銃声が収まらぬうちに肉迫した『魚』を次々と屠る。
ソノの表情にはあくまで余裕の笑みが浮かんだままで。手にしている獲物が無骨な銃器であることさえ除けば、輝く瞳がこどもや親などを捉えていないことからも、それはまるで神聖な奉納の舞いのようにも見えた。
からんは腕の中の銃声に身を縮めるこどもへ、笑顔を向ける。
「わるいものを、たのもしい方が対峙していらっしゃるの。もう大丈夫よ」
こけないようにね。からんはこどもの手に飴玉を握らせ、まろび出てきた下の子を抱いた親の胸にこどもを返して、さあと戦闘の様子を視野の端に入れながら誘導した。
なにがなんだか判っていないであろう親は、それでも悲鳴が響き渡っていたフロアに飛び出した我が子が無事に手許に戻ってきてくれたことに涙ぐみ、からんへ深々と頭を下げた。こどもはばいばいと無邪気に手を振って、エレベーターの扉が閉まった。
──ふう……先程食べたクレープの分は消費されたかしら……?
ある種のつよい信頼と共に振り向くと、
「おっしまーい」
中空で動きを止め続けていた『魚』たちの最後の一匹を、ソノの弾丸が吹き飛ばしたところだった。
「ありがとうございました」
「こちらこそー」
互いに労いの言葉を交わしながら、ふたりは改めてショッピングモールの上階へと視線を遣った。そこに新しい禍々しい気配があるのを、確かに感じていた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴 成功
第3章 ボス戦 『連邦怪異収容局員『リンドー・スミス』』

POW
武装化攻性怪異
【肉体融合武装と化した怪異】を用いた通常攻撃が、2回攻撃かつ範囲攻撃(半径レベルm内の敵全てを攻撃)になる。
【肉体融合武装と化した怪異】を用いた通常攻撃が、2回攻撃かつ範囲攻撃(半径レベルm内の敵全てを攻撃)になる。
SPD
トランパー・オブ・モンスターズ
騎乗する【怪異の群れ】から跳躍し、着地点の敵1体に【荒れ狂う怪異の群れ】による威力3倍攻撃を放つ。また、跳躍中に【さらなる怪異を解放】すると命中率半減/着地点から半径レベルm内の敵全員を威力3倍攻撃。
騎乗する【怪異の群れ】から跳躍し、着地点の敵1体に【荒れ狂う怪異の群れ】による威力3倍攻撃を放つ。また、跳躍中に【さらなる怪異を解放】すると命中率半減/着地点から半径レベルm内の敵全員を威力3倍攻撃。
WIZ
怪異制御術式解放
自身の【蟲翅】がA、【刃腕】がB、【液状変異脚】がC増加し、それぞれ捕食力、貫通力、蹂躙力が増加する。ABCの合計は自分のレベルに等しい。
自身の【蟲翅】がA、【刃腕】がB、【液状変異脚】がC増加し、それぞれ捕食力、貫通力、蹂躙力が増加する。ABCの合計は自分のレベルに等しい。
√汎神解剖機関 普通11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
●今、君を必要としている
こつりと革靴で艶やかな床を踏んで、明るく派手な電飾が彩る店舗をもの珍し気に見上げ、ついでのようにがらんとした建物の中を見回したのはプラチナブロンドの壮年の男、リンドー・スミスだ。
「やれ……、これは先に星を詠まれたかな」
余計なことをしてくれたものだ。ひとりごちて、リンドーは馳せ参じた√能力者たちへ穏やかな笑みを向けた。
簒奪者にとってもインビジブルはエネルギー源となるがゆえに、それを回収しに来たということだろう。──インビジブルが邪悪であればあるほどにそれが包含するエネルギーは大きくなるため、このショッピングモールでの悲劇が起これば重畳と計算した上で。
「さて、つまり……目的が既に達成できないことが明確である以上、私はこの場において君たちと戦う必要がないということだ。降伏したまえ。|然《さ》すれば赦そう」
ずるりと彼の袖の内側から刃と融合した腕が伸びて来る。あれが彼の飼い慣らす怪異の一部なのだろう。
ここであなたは、──もはや迷う必要もない。
“敵を倒す”。
それを今、この世界が必要としている。

明るく元気でマイペースな日サロ好きギャルエルフ!柔軟でシンプルな考え方をしつつ、自分の芯はしっかり持ってるよ。「お助けとか支援」が行動の基本で、共感力が高いから周りと自然に打ち解けられるタイプ。おもしろいことや楽しいことが大好きだけど、シリアスな場面も燃えちゃう!
戦闘では遠距離攻撃がメイン。魔力装填型の銃器を使いながら、鉄壁の防御で敵の攻撃を弾くスタイル。味方をサポートする立ち回りも得意で、仲間にとって頼れる存在だよ。スキルや√能力は必要な時に全力で活用!自由に動かしてもらえると嬉しいし、アドリブも大歓迎だよ!

「その台詞、そっくりそのまま返すよ」
降伏するべきなのは、目的を達成できなかったお前の方だろう
ダッシュで懐に踏み込んで√能力猛襲を発動
拳での攻撃の間に2回攻撃や居合、鎧無視攻撃や喧嘩殺法、クイックドロウを挟んで連続攻撃
色んな武器をバックパックから取り出してひたすら攻撃する
相手の怪異攻撃は盾受けで防御する、融合した怪異を居合で斬り飛ばす等で対処
対処し切れなくて負傷しても気にせずに攻撃に集中する
さっさとお帰り願うよ
こいつはこいつなりに√汎神解剖機関のことを想って行動しているのかもしれない
だけどその手段が悲劇を起こすものなら、見過ごす訳にはいかないよ(割と怒り気味)
※アドリブ、連携歓迎です

苦戦ok、連携アドリブ歓迎
良かった、と言うべきなのかもしれません。ミスタースミス。
懸念点は黒幕が人間である場合、友好AIの穴を突いて戦わなければと思っていましたが…あなたは人間というには混ざりすぎている。この世界の敵として排除させていただきます。
戦闘ですが迷彩を起動し移動しながら撃ち続けます。腕に装着された「フックショット」なども使いとにかく立体的に撹乱させながら移動し続けましょう。
相手が√能力を使用して跳躍した瞬間こちらも√能力を使用します。空中にいる間にできるだけ銃弾を叩き込み、スミスの攻撃を妨害します。その後予測したスミスの動きに合わせてまた狙撃を繰り返しましょう。

そっちには無くても、こっちにゃアンタをぶちのめす理由しかないんだよな~。
ここで逃がしたらまたどっかで碌でもないことするでしょアンタ。
降伏するのも許しを請うのもそっちだぞ♡
オイオイ、怪異でロデオするとかヤンチャ過ぎでしょ。
落馬……落馬?落怪?何でもいいや、落ちて大怪我しても知らないかんな!
クイックシルバー、アイツがバランス取り難そうなタイミングで【きらきら星】!
ジャンプした時とか、方向転換する時が良いんでない?
あとあれ結構重そうだし、降ってこられたら絶対痛いじゃんね。
こっち来たらポルターガイストで上手いこと軌道反らしたり出来ない?
出来るよねクイックシルバー。よろしく頼むよ相棒~。

アドリブ、絡み、負傷◎
「はて。儂らが降伏する理由がどこにあったじゃろうか」
煙管より翠の煙を揺蕩わせ、儂にはわからぬなぁと嘯き笑う
煙と共に<呪詛>をまき散らし<精神汚染><恐怖を与える>
吸収した魔力は、あまり美味くはないと不満げに舌なめずり
「のう、ミケや」
「あの者は暇をしているらしい。少しばかり遊んでやっておくれ」
愛猫である【闇の眷属】を呼び、優し気に撫でる
なんせ、こう言う場でもないと思い切り遊ばせてやれぬ
そういう点では感謝すべきか
儂も邪悪なインビシブルを使役する身
良い様に利用し我が力の礎にしておる醜い男よ
とは言え、お主とは仲良うは出来なさそうじゃ
儂が望むのは美しい世界じゃからな

持ち前の√能力の性能に加え、単体では非力・決定力に欠けるということで完全な”サポートキャラ”として採用してください。
当然合わせは大歓迎です!
後方支援がメインで、味方が最適な攻撃を通せるよう牽制・拘束・バフ効果賦与等で道筋を作ります。
ただし自分自身が傷つくことに一切の躊躇はありませんので、状況によっては積極的に前線に出て味方を庇う盾となったり、囮となって攻撃を引き付けたりすることは十分有り得ます。
これに関して本人はクールなヒーローを気取っているつもりでも、客観的には未熟なくせに先走ってしまう危なっかしい存在として描いてくれたらと思います。
話し方は敵味方問わず「です・ます」の丁寧口調を崩しません。
●|不赦《ユルサズ》
降伏したまえ。|然《さ》すれば赦そう。
「その台詞、そっくりそのまま返すよ」
簒奪者、リンドー・スミスの鷹揚な物言いに、クラウス・イーザリーはバトルグローブを填め直す。その背後にゆらと立った玉梓・言葉も霊気纏う煙管より翠の煙を燻らせた。
「はて。儂らが降伏する理由がどこにあったじゃろうか」
儂にはわからぬなぁと嘯く言葉の口許には薄い笑み。クラウスも小さく肯いた。いつもどおりの無表情。|青藍《せいらん》の双眸の奥には、静かながらも確かな怒りが燃えていた。
「降伏するべきなのは、目的を達成できなかったお前の方だろう」
「……そうかね」
リンドーの表情は変わらない。しかしひとつ嘆息にも似た声をこぼしたかと思うと、彼の足許からずるり、ごぼり、とショッピングモールの床を歪ませ、黒い靄のようなものが湧き上がった。黒い翼もあれば、√能力者たちをぎょろりと睨む目、あるいは罅割れた仮面のようなものも、浮き出ては沈む。
怪異。√汎神解剖機関において人類を蝕む存在であり──人類の延命の糧となり得る存在だ。リンドーは使役するそれを踏みつけ、騎乗する。
「わー、見た目の破壊力ヤバー!」
「オイオイ、怪異でロデオするとかヤンチャ過ぎでしょ。落馬……落馬? 落怪? なんでもいいや、落ちて大怪我しても知らないかんな!」
ソノ・ヴァーベナがごくごく素直な感想を叫び、一文字・伽藍は呆れ半分に自らの手を振り払った。彼女の周囲に青白い火花のようなものが弾ける。
「忠告、痛み入るよ」
特に響いた様子もなくリンドーが応じ、腕を上げる。その腕にみるみる怪異が縒り集まり強大な質量を増していく。
──あれは直撃したらさすがにヤバそうかも。
「頼むよ相棒!」
伽藍が護霊へと声を掛けると周囲の店舗の什器が浮かび上がり、同時に圧倒的な質量が彼女に向けて振り下ろされ──る、筈が、それは大きく外れる。
「……な……?」
それでも周囲一辺を巻き込んだ『怪異の腕』は壁やら柱を叩き割り、その破片が翠の煙をわざとらしく吐いて見せる言葉の頬や腕を削り取った。硬質な音が響いたか、否か。
「あまり美味くもないが……なんじゃ、そこになにか視えたかのう?」
彼の吐く煙は呪詛。精神を蝕み相手の魔力を吸い取るそれ。強い意志を籠めて放たれるそれは時に、戦況を変える。
困惑に左目を見開くリンドーの前へ、突如黒いボディのベルセルクマシンが現れた。腕の射出機を怪異に塗れた男へとひたと据えるのはフォー・フルード。
「良かった、と言うべきなのかもしれません。ミスタースミス」
重い音を立てて放たれたのは巨大なフック。リンドーの身体を怪異ごと掻き裂き、搦め捕る。鈍い悲鳴が上がった。
「貴様……!」
「懸念点は排除対象が人間である場合、友好AIの穴を突いて戦わなければと思っていましたが……あなたは人間というには混ざりすぎている。この世界の敵として排除させていただきます」
「あ、フォーくんじゃん、よっすよっすありがと~」
「いえ、礼を言われることでは」
フォーには『救助』や『保護』の機能は備わっていない。備わっていない、のだ。戦闘はあくまで敵の排除のためにおこなう。フォーの真意など知らぬ伽藍は「そ?」と軽く肩を竦めた。
駆け付けたラージニー・スバルナンガーニ(|電脳皇帝《インフォメーション・オーヴァーロード》・h00140)は素早く周囲を見回す。目の前には怪異に騎乗しつつ融合した男。リンドー・スミス。彼女も予兆で目にしたことがあっただろうか。──関係ない。
「微力ながら! お手伝いします!」
|柳染《やなぎぞめ》の双眸を炯と輝かせ、彼女は一切の躊躇なく、踊るように黄金の義上肢を開いた。敵味方の頭上にもくもくと成長していくのはナノマシンによって作り出された小型の雷雲。|泡立つ水《フェノダカ》。
此度その雷雲から降り注いだのは、やさしい癒しの雨だ。治癒と修復能力を高める力を備えたそれに言葉はそっと掌を開き、口許を綻ばせた。致命傷ではない。けれど回復手段があるということはそれだけで精神に余裕を生む。
「余計なことを……!」
「あ、ダメダメー、させないよー?」
はっきりと憤りを滲ませたリンドーへ、ソノが微笑む。さっき敵である彼こそが崩した壁の瓦礫に備えたのはどう見てもギャルの格好の彼女には不釣合いなほどに無骨でごついマギア・スナイパーライフル。片膝を立て、自信に満ちた瞳でスコープを覗き込むソノの気配に危険を感じ取ったらしいリンドーは、咄嗟にその射線から逃れようとする。
しかし。
「のう、ミケや。……あの者は暇をしているらしい。少しばかり遊んでやっておくれ」
言葉の科白と共に浮き上がったのは彼の愛猫たる|闇の眷属《ミケ》だ。慈しむ手付きでミケを撫で、相反する容赦のない眼差しがリンドーを射た。冷気漂う黒い|靄《しっぽ》が「!」リンドーの身体を捕縛して、
「助かるー」
ソノの気負わぬ声を掻き消すほど重厚な爆音がフロア中に響き渡った。デスバレット・レクイエム。目で捉えることもできない神速の弾丸が、リンドーの変形した刃腕を|二本《ヽヽ》吹き飛ばした。銃声は明らかにひとつであったにも関わらず。
「ぐ……ぅ……!」
「なに、なんせこう言う場でもないと思い切り遊ばせてやれぬからな。そういう点では彼の者にも感謝すべきか」
血飛沫を上げ、顔を歪ませるリンドーへ白々しく告げる言葉の横をすり抜け、クラウスは敵の使役する怪異の上まで駆け上がった。それは猛襲。
「さっさとお帰り願うよ」
淡々と伝えるよりも疾く撃ち抜く拳。重いそれは思い切りリンドーの顎を捉え、彼の左目が瞬時焦点を失った。だからクラウスはそのまま引鉄を絞り輝いた光の刃を閃かせて振り下ろす。二度裂いたところからは同じ人間である証明のような、赤い血が迸った。
──こいつはこいつなりに√汎神解剖機関のことを想って行動しているのかもしれない。
黄昏を迎えているのだという人類。クラウスの生きる世界とは異なりつつも、そう推し量ることはできる気がする。だが。
──その手段が悲劇を起こすものなら。
「見過ごす訳にはいかないよ」
暴走するインビジブルをエネルギー源とする。そこまではもしかしたら、場合によっては、良いのかもしれない。そう思う。けれどリンドーは√EDENの悲劇を待ってから現れたのだ。それはクラウスにとって許せる行動ではなかった。再び拳を叩き付けると、頬骨の軋む音がした。
「ぐッ……! いい加減に……!」
続く猛攻に耐え兼ね、リンドーは遂に騎乗する怪異から跳躍を図った。
それを、伽藍は待っていた。
「クイックシルバー、|きらきら星《フラッシュバン》!」
騎乗していること、跳躍を用いること。重々に敵を観察し、推測し、彼女はその機会を待ち続けていた。
彼女の護霊が破裂音を伴って弾ける銀の光と化す。破砕されたリンドーの身体は吹き飛び、怪異の塊はぐらりと大きく傾いだ。あんな巨大な質量が落ちてきたら堪らない。絶対痛いじゃんね、と即座に判断した伽藍がクイックシルバー、と相棒へポルターガイストの指示を出そうとしたとき、その巨体は思い切り|引かれた《ヽヽヽヽ》。
敵の跳躍を待っていたのは、伽藍だけではなかった。|予測演算射撃機構《セルフ・ワーキング》。フォーはフックに繋いだワイヤーを巻き上げ、自らの身体へ怪異の塊を中心に遠心力を掛けることによって転倒を防ぎながら、中空へ放り出されたリンドーへと未来予測──緻密な計算の積み重ねにより幾多の銃弾を撃ち込んでいった。
「させません、……なにもかも」
短く断続的な悲鳴は、全てフォーの放つ銃声に消されて聴こえない。
再び迷彩に紛れて姿を消すフォーを見送り、伽藍は「アンタには戦う必要がない、だっけ?」襤褸切れのようにフロアの床に叩き付けられた男へ語りかける。
「そっちには無くても、こっちにゃアンタをぶちのめす理由しかないんだよな~。ここで逃がしたらまたどっかで碌でもないことするでしょアンタ」
そして、ひょいとしゃがんで腿に頬杖をついてにぃと笑った。
「降伏するのも許しを請うのもそっちだぞ♡」
「よく口の回る……」
苦々しく吐き捨てるリンドーの身体が、怪異たちと融合してフロアの天井ほどまで膨れ上がっていく。
もはや異形と呼べる禍々しい姿が、その巨体からは想像できぬほどの疾さで刃と化した腕を振るった。
「く……ッ!」
「ッ!」
「む、ぅ」
それは巨大が故に周囲を巻き込み、クラウスのセラミックシールドを叩きつけ、ラージニーの身体を掻き、言葉の庇う腕を裂いた。ぐらりと身体が傾ぐ──けれど。
「往生際が……悪いですね……!」
ラージニーが腕を上げる。浮かんだままの雷雲から迸る雷電。
「ガ……!!」
リンドーの瞳孔が開き、間髪入れず像を結ばぬその瞳の前に幾多の|星《ヽ》がきらめいた。弾けると同時に灼けつく熱さがリンドーを襲い、眩暈のする身体で星を振り払わんと腕を振るえば、その腕が遠方からの正確無比な狙撃によって吹き飛ばされる。
嵐のような、近くから、遠くからの波状攻撃にリンドーが奥歯を噛み締める。「儂も邪悪なインビシブルを使役する身」すぐ傍から囁かれた言葉に判然としない視線をそちらへ向ける。
「良い様に利用し我が力の礎にしておる醜い男よ。とは言え、お主とは仲良うは出来なさそうじゃ」
声の主の姿は見えない。そこにあったのは大地より這い出た|闇の眷属《ミケ》の大きな腕だったから。
「儂が望むのは美しい世界じゃからな」
|獲物を狩り取る腕《ネコパンチ》が怪異の中心であるリンドーの身体を毟り取る。
転がり落ちた場所へ、知っていたかのような銃弾の雨が降り注ぎ、手足は人形のように跳ねることしかできない。
フォーの弾幕が止まったかと思うと、リンドーの前に立った姿があった。電磁ブレードを手にした彼は、静かに敵を見下ろした。
「|今のお前《ヽヽヽヽ》が降伏したところで、なにも変わらないけどね」
簒奪者も√能力者だ。Ankerがいる限り、どこかでまた蘇生する。そんなことは判っている。だからこそ、今ここで悲劇を未然に防ぐことが大切だったのだ。
「さようなら。もしかしたら、またどこかで」
そう告げたのは、誰だっただろう。
刃が敵の身体を貫いて流れるパルスに全身が跳ね上がったかと思うと、リンドーの姿は跡形もなく消え失せた。
「お片付けとかー、した方がいいのかなー?」
敵が暴れたお蔭で破壊されたショッピングモールを見遣りソノが言えば、
「あ、じゃあ任せて~」
伽藍が周囲に光る護霊へと手を差し伸べる。
日常が帰って来たことを知って、フォーはちいさく胸を撫で下ろした。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴 成功