少年はその日、運命に出会う……多分?
『彼女』は唐突に現れた。
「助けが欲しいか? 少年」
返答も待たず、戦闘機械群をボッコボコにしていく。
スレンダーな長身からの攻撃は鋭く、金髪が鮮やかに翻る。
正に一騎当千。彼女の溌溂とした碧眼の輝きが、印象的だった――。
(「√ドラゴンファンタジー出身、だっけ」)
狭い搭乗部で身動ぐヒオウ・|北火瀬《キタカゼ》。
彼女は|格闘者《エアガイツ》――鍛え抜いた肉体を武器とする√能力者だった。
√ウォーゾーンの基地を襲う敵を単身で撃退する程、強かった。
幾つもの√に渡り、竜漿石を始め様々な技術を識っていた。新型ウォーゾーンの開発に着手出来たのも、彼女の知識のお陰。あっけらかんとサバサバした性格だった。
(「今は何処で何しているのやら」)
登場が唐突なら、退場も突然。新型開発の目途が立った頃、彼女は忽然と姿を消した。
意外とショックだったのは、ヒオウが彼女に好意を持ち始めていたからかもしれない。
『定刻です。Master, Are you ready?』
「ああ」
我に返り、ヒオウは電子音声に応じる。
待ちに待った、決戦型WZ式戦闘機『ラピスフェロウ』のテスト飛行当日。ヒオウはテストパイロットに志願した。
『バイタルサインが、やや興奮状態ですが』
「俺は整備士だぜ。緊張するって」
翼竜のような形状の『ラピスフェロウ』は、AIを搭載している。高めの音声は軽口こそ叩かないが、割とよく喋る。
「そろそろ――」
――――!!
突如、防衛基地に響き渡る警報。
『敵襲。型式特定。量産型戦闘機械群『シャドーウィン』、数は――』
「嘘だろ……」
基地上空に硬質な竜影。続々と増えていく。
『速やかな撤退推奨。基地脱出の最短距離は――』
「……行くぞ、ラピス」
電子音声を遮り、ヒオウは両の操縦桿を握る。
『単機での迎撃勝率は3%未満です』
「いいから! テイクオフだ!」
今、迎撃可能なのは『ラピスフェロウ』だけ。何処から情報が漏れたのか……考える暇はない。
――Yes, Master.
両翼を広げ、地面を蹴る『ラピスフェロウ』。機動はAIに任せ、ヒオウは眼前の敵をロックオン。
――――!!
翼竜の頭部にエネルギーが収束、漆黒の球弾が奔る。
「よし!」
敵数機、漆黒の球体に集束、圧縮、瓦解した。すかさず、生じた間隙を翔け抜ける。
『主砲エネルギー充填まで30秒――』
今日のテスト飛行は機動確認が主だった。唯一の武装は小型ブラックホールを模した主砲のみ。それも甚だ燃費が悪い。
(「それでも、時間稼ぎするしかないだろ」)
『シャドーウィン』は残忍狡猾、同型機と徒党を組み空戦で敵をいたぶる嗜好という。超遠距離から先制攻撃も出来たろうにわざわざ基地上空に襲来し、今は『ラピスフェロウ』を包囲している。
(「……上等」)
精々相手してやろうじゃないか!
「俺は主砲操作に専念する。逃げ足はそっちに任せた」
――Yes, Master.
急上昇、急転換。圧倒的なGにヒオウは必死に耐える。
「……っ」
AIによる機動は大群相手に引けは取らない。敵機目掛けて主砲を叩き込む。
「まだまだ!」
だが、翼を大きく広げた瞬間。
――――!!
『シャドーウィン』の集中攻撃が、次々と『ラピスフェロウ』の胸部を抉る。
(「反応速度、5割増し!?」)
『竜漿石80%損傷。残存エネルギーで戦闘維持は不可能です』
グラリと機体が傾いだ――。
搭乗部離脱の安全装置が起動した幸い――生きている。
「けど、どうすれば……」
燃え盛る基地を遠目に、ヒオウは途方に暮れる。
『接近者探知。単独退避を。Master』
「お前を置いて行けるかよ」
「む、遅かったか……」
背後から男性の声音。中肉中背の白衣姿は好好爺な博士然として。
「力が……欲しいか、少年」
その言葉は、『彼女』の声と重なって聞こえた。
「ああ、アイツらに負けない、力が欲しい!」
「ならば、ラピスフェロウを私に預けて……女の子にしていいか?」
「ああ! あずけ……は?」
「ボインボインにしてもいいよね?」
「あ?」
「性格はどーしよっかなー、最近流行りのセンパイとか呼んでくれそうな娘がいいかねぇ?」
「……いや、まて、それはヤメロ」
「だぁーっはははは! 少年に拒否権はなーい! じゃ、行くとするかの」
カスッ。
大仰な指パッチンは不発ながら、メイドな少女人形がワラワラと。皆不満げで、何だったら舌打ちしている。
「わしゃ葉鍵・インダストリアル。少女人形研究所の所長じゃ。少年はその日、運命に出会う……じゃの! だーっははは!」
スパーンッ!
隣のメイド長らしき少女人形が、容赦なく所長をどついた。
「オゴォッ!」
「敵性部隊に発見されると、面倒です」
これは……とんでもない所に、魂を売り渡したかもしれない。
『……ハァ』
何か嘆息したぽいAIが、快活脳筋な格闘|少女人形《レプリノイド》となってしまうのは――後日の話となる。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴 成功