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宵のひととき、甘味処にて

#√妖怪百鬼夜行 #ノベル #秋祭り2025

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 秋祭りの夜。

 通りに吊された提灯が風に揺れ、橙色の光が路地の石畳に踊っている。
 太鼓と笛の音が遠くから届き、屋台の呼び込みと人々の笑い声が重なる。夜風はひやりと涼しく、けれどにぎわいの熱気はそれを忘れさせるほどだった。

 純白の六枚羽根、片側に寄せた金の髪。
 白地に薄桃色の花模様が散らされた浴衣は、華やかで柔らかな気配を帯び、可憐な少女そのもの。
 ――けれど実際には、少年。
 ノア・キャナリィはふよふよと宙を漂いながら、甘味処の暖簾を潜った。

 店内はすでに満席だった。
 もしかしたらと外に面したテラス席を覗くと、すでに先客が一人。
 赤い浴衣を纏った人がのんびりグラスを傾けている。

 ノアは少し迷い、そして意を決して声をかけた。
 「あのー……もしよかったら、ここ相席いいですか?」

 女は顔を上げ、穏やかな笑みを見せた。
 「ええ、どうぞ」
 促されてノアはふわりと椅子へ降り、背の六枚羽根を小さく畳んだ。

 「ふぅ……ちょっと、はしゃぎ過ぎちゃったかなぁ」
 思わず漏れた独り言に、自分で照れ笑いする。
 射的で景品を当てたこと、ヨーヨー掬いで水面に映る羽根を眺めたこと、金魚すくいで最後の一匹に逃げられたこと
 ――その一つひとつが胸に残っている。普段なら味わえない高揚感に、体も心も心地よい疲れに包まれていた。

 「すみません、白玉あんみつと、お抹茶ください」
 店員に声をかけると、待つ間の期待で胸が高鳴った。

 ふと視線を感じて顔を向けると、先客の女が静かにノアを見ていた。
 「とても、よく似合っていますね。その浴衣」

 女は自らを如月縁と名乗り、にっこり微笑んだ。

 不意の褒め言葉に、ノアは目を瞬かせて頬を染めた。
 「えっ……あ、ありがとうございます。でも、そう言っていただけると嬉しいです」
 口元を押さえて「えへへ」と笑うと、縁は小さく頷いてグラスを口に運んだ。

 「僕はノアって言います」
 改めてノアは自己紹介をする。
 「ノアさん、可愛らしいお名前ですね。……今日はお一人で?」
 「今日は偶然近くに用事があって、それで……折角だから秋祭り、寄ってみようかなって。あんまりこういう場所来た事が無かったから。」
 
 やがて白玉あんみつと抹茶が運ばれてきた。
 ノアは匙を取り、白玉をひとつ口に含む。もちもちとした弾力とあんこの甘さが舌に広がり、抹茶のほろ苦さが後を整える。

 白玉を二つ、三つと口に運ぶ。

 「縁さんは、お祭り、よく来られるんですか?」
 「いえいえ、私もほとんどないんです。楽しいけど人酔いしてしまったので、休憩中。」
 葡萄酒を揺らして女は楽しげに笑う。
 「僕もです。色々楽しんで、休憩しに此処へ…単純に甘いものが食べたい気分だったのもあるんですけどね、えへへ」

 ――同じなんだ。自分と。

 遠くから太鼓が鳴り、山車の鈴が響く。
 通りのざわめきは一層大きく、羽根の先を揺らす夜風がひんやりと頬を撫でた。

 ドン、と大きな音が響き、夜空に花火が弾けた。光の花が広がり、提灯の色をも凌ぐ輝きが人々の歓声を誘う。ノアは思わず椅子の上で少し浮き上がり、目を輝かせた。
 「わぁ……すごい」

 羽根がふわりと揺れ、金の髪に光が降り注ぐ。ふと思いつき、ノアは袂からスマートフォンを取り出した。

 「写真、撮りたいな……あれ? なんだか真っ暗ですね」
 画面をあちこちタップしては首をかしげる。機械操作は少々苦手なのだ。
 花火は次々と上がる。どうしよう、肉眼で見る美しさを切り取りたいだけなのに。
 ノアは気が焦ってきた。

 そんな様子を見ていた縁が、静かに立ち上がりノアの後ろに回る。

 「失礼。ここを押して、ほら……夜景モードになります」
 指先が画面を軽くなぞると、設定が切り替わった。

 「あ、ほんとだ! ありがとうございます!」
 ノアは嬉しそうにスマホを構え、空に広がる光を必死に追った。
 シャッター音が小さく響くたび、胸にわくわくが広がる。
 画面に映った花火は少しぶれていたが、それでも十分に綺麗だった。

 「よかった、なんとか間に合いました!」

 そう言って次の一枚を撮ろうとした時、指が滑ってカメラが切り替わる。
 
 カシャッ

 画面に映ったのは――花火ではなく、ノアと縁の顔。
 どうやら思いがけずツーショットを撮影してしまったようだ。

 「えっ!? あ、間違えました……!」
 慌てるノアを映す画面の中で、縁も目を丸くし、そしてふっと笑みを漏らした。

 「ふふ」
 「えへへ」

 二人の笑い声が夜風に溶ける。画面の中の自分たちが並んで笑っているのを見て、さらにおかしくなり、また微笑み合う。
 やがて花火は収まり、再び静寂が訪れる。鈴虫の声が戻り、夜の余韻を細やかに彩る。

 ――笑い声も、花火の残光も、あの一枚の写真も。
 きっと今夜の思い出として、心に焼きついていくのだろう。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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