怪電波の向こう側
●
割烹『月下美人』の個室で、神無月は箸を置きながら表情を引き締めた。
「始めまして。警視庁異能捜査官、神無月・武尊いいます。実はいま、ちょっとヤバい案件が発生してて、めっちゃ困ってるんですわ。そこで話やねんけど、ちょっと力を貸してくれへんやろか」
ルート能力者たちが曖昧に頷くの見た武尊は、特製の天麩羅御膳を堪能しつつ、事件の詳細を語り始める。
さっそくため口だ。
「街で奇妙な失踪事件が続いてんの、知ってるかな? 失踪者というか、被害者は年齢も性別もバラバラやねんけど、共通点があって……」
武尊は羽織の内ポケットから写真を取り出すと、テーブルの上を滑らせた。ルート能力者たちの前に届いたそれには、発光する謎めいたメッセージが写っている。
『幻影は現実となり、影は形を持つ』
「これが失踪現場に必ず残されてたんや。どの現場でも。でも、もっと気になんのは被害者の証言。みんな失踪する前に『テレビから何かが出てきた』って言うてたらしい」
武尊は熱めの煎茶を一口すすった。
「警視庁の上層部はこの事件を、精神的なストレスによる一時的な錯乱状態での失踪で片付けようとしてる。でも俺ちゃんはそう思ってへん。これは怪異……異世界からこっちに染み出してきた侵略者の仕業に違いない」
最新の被害者は南青山の住宅街で失踪している。少し前、近隣住民から不審な光や音の目撃証言が警察に相次いでいた。
天麩羅を一切れ口に運びながら、武尊は考え込むように目を細める。
「まずは……そやな、現場に行ってもらおうか。何か手がかりつかめるかもしれへん」
煎茶をすすって、さらに続ける。
「あと、失踪した大学生の親友とか、地元の電器店のおっちゃんとか、話を聞いてきて欲しい。事件を追うオカルトライターの橘さんって人も、ええ話を持ってそうや。事件現場付近の防犯カメラの映像を分析した警察の技術者は……これはサッカンやないと無理か。俺ちゃんも動くけど、ま、当たってみる価値はあるとちゃう?」
でもまあ、と武尊は箸を置く。
「今わかってることを整理して推理するのも大事やで。被害者全員がテレビ関連の異常体験してて、事件は深夜0時から3時に集中してる。現場には強い電磁波の痕跡が残ってて、あの発光性の謎のメッセージ。それに、都内各地で似たような事件が増えてきてるってことも含めて、よー考えてみて」
このままだと治安の悪化は避けられない。故に、ルート能力者の皆さんの力をお借りしたい、と武尊は当たらめてルート能力者たちに頭を下げた。
わかったという声を聞いて頭をあげた武尊は、ちなみに、と満足げな表情で付け加える。
「この店の天麩羅、マジでヤバいから。特に海老の揚げ加減が絶妙! 調査の打ち合わせも、こういう美味いもん食べながらやと捗るから、不思議なものやね」
自分だけ先に食べておいて、奢りもせずに、何を言うか……である。
マスターより
調査の選択は、あなたの手に委ねられています。
【調査の手がかり】
● 現場周辺の情報 (POW)
・最新の失踪事件が起きた南青山の住宅街。
・被害者宅には異常な電磁波反応が検出されている。
・近隣住民からの不審な光や音に関する証言が複数。
・街頭に設置された防犯カメラの映像に不自然な乱れ。
● 接触可能な情報提供者 (SPD)
・失踪した大学生の親友・鈴木美咲。
・地元の電器店主・佐藤健一。
・オカルトライター・橘玲子。
・防犯カメラの映像を分析した警察の技術者。
● 現時点での判明事項 (WIZ)
・被害者は全員、失踪前にテレビを通じた異常現象を体験。
・事件発生時刻は深夜0時から3時に集中。
・失踪現場には強い電磁波の痕跡が残る。
・メッセージの文字は発光性の物質で書かれている。
・類似事件が都内各地で増加傾向。
さらなる調査によって、この不可解な事件の真相に迫ることができるかもしれません。しかし時間は限られています。次の犠牲者が出る前に、"怪異"の正体を暴き、その脅威を排除しましよう。
6
第1章 冒険 『怪しい事件』
POW
事件の発生した場所を訪れてみる
SPD
断片的な情報を知っていそうな人物に接触する
WIZ
事件の情報を整理し、真相を推理する
√EDEN 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
・考え
かわうそねぇ、警察のお友達に聞いたことあるんだぁ。捜査は足から!なんだってね。
だから、かわうそも人海戦術ならぬかわうそ海戦術で捜査しちゃうよーぉ。
行方不明なんてかわいそぉなことこれ以上起こさせないため、かわうそがんばるねぇ。
もし、かわうそがこの事件を解決できたら、奇々地域災害特別捜査課の皆、褒めてくれるかなぁ。たのしみぃ。(にっこりぃ🦦)
・行動
<カワウソ大行進>で巨大カワウソ以外のカワウソを合計17体呼んで、皆で事件の場所を調べちゃうよぉ。
かわうそ一匹のおててはちっちゃいけれど、皆合わせたらおっきなおててになるってわけ!
・その他
アドリブや連携歓迎だよぉ。
【POW】
警視庁異能捜査官かー、僕の甥君もそうなんだよね。いつの間にか大人になっちゃって…、なんて感傷に浸ってる場合じゃないね。
さて僕は現場へ行くとしよう。【礼儀作法】を持って丁寧にお宅に調査に伺わせて貰う
怪異は電気を通して移動できる特徴を持っているかもしれない
被害者宅の電気配線あたりを調べてみよう
【ようこそ探偵事務所へ】を使って妖怪執事にも手伝わせる
電気があっちの世界とこっちの世界を結ぶトリガーになっているのかもしれない
そして失踪者はテレビを通じてあっちの世界に攫われた…?
しかしメッセージを残すだなんて挑戦的だね~
いいさ、乗ってやろうじゃないか
それにしても僕エビはエビフライ派だね!(むん!)
【SPD】
ユウタ叔父さんこの怪電波の依頼に行ったみたいだけど…なんかちょっと気になる
別に心配とかではないんだ。だってなんか叔父さん、わかんないけど…結構強そうな気がするんだよね。だから今回それを確かめるのも含めて…こっそり行っちゃうよ
まず叔父さんと合流前に情報収集をする
ここは|警視庁異能捜査官の特権《警察手帳をどーん!》の出番だね
えーと、オカルトライターの橘さん?|俺警視庁《手帳見せ》の者だけど何か情報あったら提供してくれないかな
って、|子供じゃない《実際子供だけど》!ちゃんと刑事だよ!
なんとか【情報収集】【社会的信用】スキル生かして、主に橘さん、防犯カメラ分析の技術者から有力な情報を聞き出す
アドリブ歓迎
POW
幻影は現実となり、影は形を持つ
覇王たる俺様の知識を以てしても
残されたメッセージだけでは、まだ何とも言えぬな
ククッ……果たして、どのような怪異が待ち受けているのやら
一先ず、情報を集めねばならぬか
南青山の住宅街、其の近隣の住人達に対して聞き込みを行う
『警察手帳』を手にして、俺様が警察である旨
昨今の失踪事件の調査をしている事を伝える【言いくるめ】
午前零時から三時頃の間に
此の辺りで不審なものを確認しなかったか?
若しくは、何か様子がおかしい人物を見掛ける等……些細な事でも構わぬ、是非教えてもらいたい
他の√能力者を見掛けたならば
其の時点で俺様が入手した情報は共有しておこう
●
「なるほどねぇ」
かわいらしい声が料亭『月下美人』の個室に響く。オッター・リバーライツは、両手を前で組みながら笑顔を浮かべた。
「かわうそねぇ、警察のお友達に聞いたことあるんだぁ。捜査は足からって! だからぁ、かわうそも人海戦術ならぬかわうそ海戦術で捜査しちゃうよーぉ」
武尊は思わず口元を緩ませた。
「それはそれは、心強いわぁ」
「行方不明なんてかわいそうなことこれ以上起こさせないために、かわうそがんばるねぇ」
いってからオッターは真剣な表情を見せる。
(もし、かわうそがこの事件を解決できたら、奇々地域災害特別捜査課の皆、褒めてくれるかなぁ)
武尊は オッターに事件が起こった場所をチェックした地図を渡す。
日南ユウタは煎茶を優雅に啜りながら、武尊の説明に頷いていた。その横では、日南のカナタが少し落ち着かない様子で座っている。
「ほう、電気の異常ですか」
静かで落ち着いた声だ。
「ここにいる甥も警視庁で働いているんですが……まあ、今はそんなことを言っている場合ではありませんね」
ユウタは茶碗を静かに置く。
「現場の電気配線を調べさせていただきましょう。妖怪執事の力も借りれば、何か見つかるかもしれません」
「お、それ助かるわ」
武尊は天麩羅を口に運びながら満面の笑みを見せた。
「ユウタ叔父さん、この怪電波の事件………ちょっと気になる。わかんないけど、結構強そうなやつが背後にいる気がするんだよね」
「ははは、それはいわゆる刑事の感ってやつかな?」
ユウタは穏やかな笑みを浮かべる。
「それを確かめる」
カナタはちょっぴり口を尖らせた。これでもれっきとした刑事なのだ。子ども扱いしないでほしいのに。
「オカルトライターの橘さんと、防犯カメラの映像分析した技術者から話を聞いてくるから!」
「ふむ、慎重にね」ユウタは静かに頷く。
「私はさっき言ったように、現場の電気配線を調べることにしよう。妖怪執事の力も借りれば、何か見つかるかもしれない」
武尊は二人の掛け合いを微笑ましく見守る。
「ククク……」
アダン・ベルゼビュートは、写真のメッセージを指で弾いた。
「覇王たる俺様の知識を以てしても、このメッセージの意味するところは……まだ何とも言えぬ」
アダンは腕を組み、深く考え込む。
「一先ず、近隣住民への聞き込みを行おう。きっと有用な情報が得られるはずだ」
武尊は満足げに頷きながら、最後の天麩羅を口に運んだ。
「よろしく、頼むわ」
武尊はおもむろに立ち上がった。
「この事件、絶対に解決せなあかん。被害者の家族のためにも、そして……次の犠牲者を出さんためにも」
それはそうと、とユウタは武尊を見上げる。
「僕エビはエビフライ派だね!(むん!)」
武尊に送り出された四人のルート能力者たちは、それぞれの持ち場へと散っていった。
●
「みんなぁ、いってらっしゃーい!」
オッター・リバーライツの声が住宅街に響き渡る。
彼女の周りには、次々と姿を現すカワウソたちの群れ。大小合わせて17匹のカワウソが、まるで指揮者の合図を待つオーケストラのように並んでいた。
「よぉし、かわうそ海戦術、スタートだよぉ!」
彼女の手振りとともに、カワウソたちは一斉に散っていく。住宅の隙間、植え込みの下、電柱の周り——それぞれが器用に身を翻しながら、事件現場を細かく調査していった。
多くのカワウソは空き缶や古新聞といった普通のゴミを持ち帰ってきては、誇らしげな表情でオッターに差し出す。オッターは内心ガッカリしながらも、一匹一匹を優しく撫でながら褒めていく。
「うんうん、みーんな良く頑張ってるねぇ……あれ?」
一匹のカワウソが何か細長いものを咥えて戻ってきた。青いインクのボールペンだった。よく見ると、テレビ番組のロゴが印刷されている。
さらに驚いたことに、別の二匹も同じようなボールペンを持ち帰ってきた。
「これって……スタジオ見学の記念品?」
オッターは目を輝かせる。
「三人の失踪者が同じ番組を……見学した?」
一方、日南ユウタは被害者宅の電気配線を丹念に調べていた。
ふと、カナタの幼い頃の思い出が脳裏をよぎる。
「まったく……あの頃は肩車をねだってばかりだったのに」
甥っ子の成長ぶりに思わず口元が緩む。
ユウタは電線の一部に残された不自然な焦げ跡に目を留めた。
「ん? あれは……」
さらに気になったのは、普段なら電線に止まっているはずのスズメたちが、その部分だけを完全に避けているように見えることだった。
「これは彼の出番かな?」
呟きとともに、一人の執事らしき人物が何処からともなく姿を現す。
「ご主人様、いかがなさいましたか?」
「ああ、この電線を精密に調べてもらえないかな。……そうだ、甥も似たような調査をしているはずだ。彼の安全確認もついでに頼めるかい?」
執事は深々と一礼すると、焦げ跡のある電線に近づいていった。その動きは優雅でありながら、どこか機械的な正確さを感じさせる。
「……異常な電磁波の痕跡を感知いたします。通常の電気系統では決して発生し得ない種類のものです。ああ、カナタ様のことはご安心を。私どもが見守らせていただきますので」
やはり、とユウタは顎に手を当てる。
「これは……電気が、あちらの世界とこちらの世界を繋ぐ媒介になっているのかもしれない」
電線を見上げながら更に考え込む。
「しかしメッセージを残すだなんて挑戦的だね~。いいさ、乗ってやろうじゃないか」
警察手帳を掲げながら、日南カナタは古びたビルの一室に足を踏み入れた。
「橘さん、警視庁の者です。ちょっとお話を……」
「あら、こんな若い方が?」
デスクに山積みされた本や資料の間から、中年の女性が顔を上げる。オカルトライターの橘玲子だ。
「子供扱いはやめてください。こう見えても、捜査官なんですよ」
カナタは真面目な表情で切り出した。
「近頃頻発している南青山の失踪事件について、何か心当たりはありませんか?」
「ふふ……若いのに良い感をしてるわね」
橘は眼鏡を上げながら、古ぼけたファイルを取り出した。
「実は、似たような事例を追っていたの。『ヴィジョン・シャドウ』……テレビそのものを本体とする怪異の噂よ」
橘から『ヴィジョン・シャドウ』にまつわるあれこれを聞いたカナタは、やっぱり強いやつがいた、と思った。
次にカナタは南青山警察署へ足を運んだ。そこで、防犯カメラの映像分析を行った捜査官から、衝撃的な証言を得ることになる。
「ほう……」
アダン・ベルゼビュートは、近隣住民から聞いた証言に深い関心を示していた。
「ザーザーという音……ブラウン管テレビの砂嵐のような?」
「そうそう!」
老人は懐かしそうに目を細める。
「あんたみたいな若い人にはわからないだろうけど、昔のテレビってのは、電波の調子が悪いと画面が乱れて……」
そこから老人の思い出話に流れそうになる。
アダンは急いで礼をいい、老人宅を後にした。
さらに別の住民からは、夜中に目撃した不可思議な光の話を聞いた。
「角から虹色の光が差して、チカチカと……」
中年の主婦は身震いする。
「それに『放送試験中』とか何とか、ブツブツ聞こえてきて。怖かったわ」
覇王の直感が告げる。
これこそ、間違いなく怪異の痕跡——。
「おや?」
住宅街の曲がり角で、アダンは偶然、オッター、ユウタ、そしてカナタと出会った。
「カナタ、無事だったか」
ユウタが心配そうに甥を見る。
「もう、叔父さんったら……」
カナタは少し照れくさそうに答える。
「また子ども扱いする」
四人は互いの発見を共有し、真相に一歩近づいたことを確認し合った。
「とりあえず、武尊に報告せねばな」
そして再び、料亭「月下美人」へと足を向けた。
●
再び五人は料亭「月下美人」の個室に集まっていた。テーブルの上には、それぞれが集めた情報が広げられている。
「ほな、みんなの調査結果を聞かせてもらおうか」
武尊は煎茶を注ぎ直しながら切り出した。
オッターが手を挙げる。
「かわうそ、先に発表していいかなぁ?」
彼女は三本のボールペンをテーブルの上に並べた。
「これ、失踪現場から見つかったんだよぉ。スタジオ見学の記念品みたい」
「ふむ、同じテレビ番組か……」
武尊は眉をひそめる。
「これは重要な手がかりやな」
「私からは配線の異常について」
ユウタが静かに口を開く。
「妖怪執事の調査で、通常ではあり得ない種類の電磁波の痕跡が見つかりました。さらに興味深いことに、鳥たちがその部分を完全に避けているんです」
これは間違いなく異世界からの侵略者の痕跡だと、ユウタは告げる。
「僕からも!」
カナタは叔父の報告を引き継ぐように言葉を続けた。
「橘さんから『ヴィジョン・シャドウ』って都市伝説を聞きました。テレビを媒体にする怪異の話です。それに……」
カナタは一瞬言葉を詰まらせる。
「防犯カメラの映像に、人の形をしていない何かが映っていたんです」
「ふむ」、とアダンは腕を組んだ。
「住民からは、ブラウン管テレビの砂嵐のような音と、虹色の光が目撃されたという証言を得た。そして『放送試験中』という不可解な音声も……」
個室に静寂が訪れる。
武尊は各々の報告を頭の中で整理する。やがて、彼は決意を込めた表情で口を開いた。
「今夜も、どこかで次の被害者が狙われてるかもしれへん。でも、もう奴らの正体は、ほぼ掴めた」
武尊は再び四人に向き直る。
「明日の夜、仕掛けるで。みんな、準備はええな?」
オッターは愛らしく、アダンは威厳を持って頷く。そしてユウタとカナタは、叔甥で視線を交わし、静かに、しかし力強く頷いた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第2章 集団戦 『ヴィジョン・ストーカー』
POW
影の雨
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【影の雨】で300回攻撃する。
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【影の雨】で300回攻撃する。
SPD
影の接続
半径レベルm内の味方全員に【影】を接続する。接続された味方は、切断されるまで命中率と反応速度が1.5倍になる。
半径レベルm内の味方全員に【影】を接続する。接続された味方は、切断されるまで命中率と反応速度が1.5倍になる。
WIZ
影の記憶
知られざる【影の記憶】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
知られざる【影の記憶】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
●
深夜零時半、六本木の閑静な住宅街。スタジオ見学を終えた大学生の山下亜美と前田沙織は、人気のない商店街を抜けながら興奮気味に話していた。
「今日の収録、面白かったね!」
「うん! 記念のボールペンも可愛いし」
二人の頭上で街灯が不自然にちらつく。
古びた電器店のショーウィンドウに並ぶテレビ群が、突如青白い光を放ち始めた。ザザザという砂嵐のような音が、静寂を切り裂く。
「あれ……?」
沙織が立ち止まった時、電器店の中から黒い影が三つ、まるで液体のように流れ出してきた。次第に人型に変形していく影。しかし、それは明らかに人間ではない。
異様に長い腕、六本指の黒い手、赤く光る四角い頭部——『ヴィジョン・ストーカー』たちだ。
「きゃあっ!」
「逃げて!」
二人は小走りで逃げ出すが、怪異たちはより素早く、黒い手を伸ばして彼女たちを取り囲んだ。街灯の光の中、四角い頭部が不気味に回転する。
3体のうち1体が、光る指先で『幻影は現実となり、影は形を持つ』とシャッターに書きなぐった。
「だ、だれか……」
「助けて」
アドリブ歓迎
迅速に現地──古びた電器店へと向かう
此れが、テレビを媒体にする怪異か
フハハハハッ!
テレビから何かが出てくる
まさか、其の儘の意味だったとはな?
だが、戦えぬ者を狙う蛮行は許し難い
まずは可能であるならば
『狼影』による【不意打ち】で敵の黒き手を喰らい倒し
被害者達の逃走経路を確保しよう
其処な少女達よ
此の場は、覇王たる俺様が引き受けよう!
さあ、今直ぐ立て!
此の場から離れるが良い!
√能力:黒き獣爪
随分と奇怪な見目をしているではないか
受けるダメージが増えても
俺様は無痛覚なのでな、急所さえ外せば恐るるに足りぬ
影の雨が降り注ぐ中を疾駆しながら
敵の攻撃、黒き手だけではなく
本体すらも焼き尽くしてくれよう!
・考え
わぁ、なんかあやしーのだぁ。見た目こわぁい……。
でもかわうそはつよいかわうそだから、襲われた子達をまもるのよぉ
お嬢さんたち大丈夫ぅ?かわうそがきたからには、もう安心だからねぇ(にっこりぃ)
あんなやつら、やっつけちゃうから!(おててシュッシュとシャドーボクシング)
・行動
かわうそは、戦うときだってつよいのよぉ。
【カワウソ大行進】で三種各6体の合計18体のかわうそをよびだして戦うね。
巨大カワウソ6体は襲われた子たちを守るために囲むようにして護衛。
他の子達で敵に対して鋭い爪とかでしゃーっと攻撃しちゃうね!
影の雨でやられないように、3匹1チームで離れて戦うよぉ
味方との連携やアドリブも歓迎だよぉ
【WIZ】
これこれカナタ、あんまり前に出すぎるんじゃないよ
って…、心配しすぎかな
さて、やはり敵は電気を通して現れるか
今回は大元のボスの手下といったところか
お嬢さん方はどうぞ後ろの方へ。安全な場所へ避難しててください
…あまり甥の前で『力』を使いたくはないのですが…
|これ《ヴィジョン・ストーカー》を放置するわけにもいきません
お前にはこれを喰らって貰いましょう
『オーメンスフィア』
オーメンの呪いを受けるがいい
*アドリブ歓迎
【POW】
出たな怪異め!|警視庁異能捜査官《カミガリ》の日南カナタだ!お前を逮捕…いや、怪異だから殲滅…?いやもうなんでもいいや!ぶっ倒す!!
襲われている二人の女性を背に庇う形で前に出で警察手帳を掲げる
が、言葉の通じない相手なのですぐさま手帳はしまい武器であるロングハンマーを構える
襲いかかってくる赤く光る四角い頭部をハンマーで【喧嘩殺法】の如くぶっ叩きつつどうにか応戦する
敵が【影の雨】を放った場合はすかざす右手をかざし
させるか!
と【ルートブレイカー】を発動させ敵の√能力を打ち消す
*アドリブ歓迎
●
深夜の商店街は一種異様な闇に包まれていた。
古びた電器店のショーウィンドウに並ぶテレビ群から漏れる青白い光が、恐怖に凍りついた女子大生たちの顔を不気味に照らし出す。亜美は震える足でアスファルトに膝をつき、沙織は友人の肩を必死で掴んでいる。
暗闇の中、赤く輝く四角い頭部を持つ三体の怪異が、まるで獲物を追い詰めた捕食者のように、女子大生たちに迫っていく。その長い黒い指が、虚空を引き裂くように沙織の肩へ伸びた時——
「其処な少女達よ。此の場は、覇王たる俺様が引き受けよう!」
💠アダン・ベルゼビュート(魔蠅を統べる覇王・h02258)の高らかな声が、恐怖に満ちた夜の静寂を切り裂いた。
月明かりの下で、アダンの灰色の瞳が鋭く光る。夜風に黒髪がなびく中、背後に伸びた影から巨大な漆黒の狼――その一部である頭が出現した。
「貴様らのような下等な怪異が、罪なき人間に牙を向けるとは。覇王の名にかけて、この場で裁きを下す!」
狼の赤い瞳が怒りに燃え、最も近いヴィジョン・ストーカーの黒い手を、獲物を噛み砕くように喰らい千切る。
異形の断末魔が響き、電器店のガラス窓が震えた。
そこへ、オッター・リバーライツ (獣妖「カワウソ」の錬金騎士アルケミストフェンサー・h00218)がピンクの長い髪をなびかせながら、温かな笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。
「お嬢さんたち大丈夫ぅ? かわうそがきたからには、もう安心だからねぇ」
オッターの柔らかな声が、恐怖に震える二人の心を少しずつ溶かしていく。
「さあさあ、みんな出ておいで! かわうその軍団、いっせーのーで、シュバッと!」
瞬く間に18体のカワウソが出現し、その内でも巨大な6体が女子学生たちを守るように円陣を組んだ。
亜美と沙織は驚きの目で、かわいらしくも頼もしい守護者たちを見つめる。
「す、すごい。こんなにたくさんのカワウソさん……」
亜美が呟く。
沙織も 「可愛いのに、強そう」と驚きの声を漏らした。
「あんなやつら、やっつけちゃうから!」
オッターが胸を張りながら、シュシュっとシャドウボクシングする。
現れたルート能力者たちを前にしても、残されたヴィジョン・ストーカーたちは女子大生たちの拉致を諦めていなかった。
赤い四角い頭部が不気味に歪み、まるで液体のように形を変えながら、再び女子学生たちに迫っていく。
「出たな怪異め! |警視庁異能捜査官《カミガリ》の日南カナタだ!」
白髪の少年、日南・ユウタ (黄昏の取り替え子チェンジリング・h04707)が颯爽と現れ、月明かりに輝く警察手帳を掲げる。
青い瞳に正義の炎を宿す新手に対し、ヴィジョン・ストーカーたちは脈絡のない文脈を小さく零しながら、体を微かに揺らす。
「えっと……もしかして、理解してない?」
ユウタは言葉の通じない相手だと気付くや、すぐさま手帳をしまい、ロングハンマーを構え直した。
ヴィジョン・ストーカーたちは突如、テレビのチャンネルを無限に切り替えるかのような異様な笑い声を上げ始めた。その指先から黒い雨のような影が降り注ぎ始め、街灯の光が歪み、闇が増殖していく。
「させるか!」
カナタが右手をかざすと、ヴィジョン・ストーカーが放った影の雨が虚空に吸い込まれ、消えていった。
パチパチパチ、と手を叩く音が聞え、月明かりに照らされた地面に、すらりとした長身の影が伸びた。緩やかな動きで、その影の主が姿を現す。
「やるじゃないか、カナタ。さすが私の甥だよ。お嬢さん方はどうぞ後ろの方へ。安全な場所へ避難しててください」
●
カナタを庇うようにして、日南・ユウタ (黄昏の取り替え子チェンジリング・h04707)が静かに前に立つ。
「ユウタ叔父さん、また……子ども扱いしないでって言ってるのに」
「ごめんごめん。さて、やはり敵は電気を通して現れるか。あまり甥の前で『力』を使いたくはないのですが……」
ユウタの顔には、どこか悲しみの色が浮かんでいた。異界より迷い込んで来ただけであればともかく、現にこうして害をなしているのであれば強制排除も致し方なし。放置はできない。
「お前にはこれを喰らって貰いましょう」
ユウタの目が金色に輝き、オーメンスフィアが発動する。
近くの電柱が突如歪み始め、まるで生きているかのように曲がり、近くのヴィジョン・ストーカーを串刺しにした。
恐ろしい光景に、沙織は思わず目を背ける。
残りの2体の怪異が、まるで意思を持った影のように蠢き始めた。
彼らの間に黒い糸が張り巡らされ、影の接続により、その動きは一層機敏になっていく。街灯の光さえ、その動きを追うことができないほどだ。
アダンは黒き獣爪を展開し、夜空を覆うほどの無数の黒炎の爪を現出させた。その姿は、まさに魔蠅を統べる覇王の威厳に相応しい。
「フハハハハッ! 受けるダメージが増えても、俺様は無痛覚なのでな! 急所さえ外せば恐るるに足りぬ!」
彼の高笑いが夜空に響く中、12体の小型カワウソたちが三匹一組となって分かれ、鋭い爪で怪異たちを切り裂いていく。
「その調子、その調子! みんな息ぴったりだよ! もっと自由に、楽しく、でも確実に!」
●
最後の一体が、テレビから流れる無数の音声の断片を吐き出しながら、影の記憶を発動させる。
黒い影の腕が異様に膨れ上がり、巨大化していった。電器店のショーウィンドウに映る怪異の姿は、もはや人型とは呼べないほどに歪んでいる。
街灯が次々と消えていき、闇が深まった。
「キ――ィ……サァ、アアアアア……」
「本日のお買い……グオォォ得品...は」
「天気ギィィ予報では――」
まるで壊れたテレビのチャンネルを無限に切り替えているような、狂気じみた音の断片たちが、夜の闇を引き裂いていく。
ヴィジョン・ストーカーが伸ばす影腕の動きを、オッター が12体3組のカワウソたちに指示して変える。2本の腕が空で絡まり合い、1本になった。
「フハハハハ、いいぞ。いまだ!」
獣の爪を模したアダンの黒炎が、2本の腕をまとめて焼き払う。
「ユウタ叔父さん、行こう! 最後のとどめだ!」
月光を背に受けたカナタが、ロングハンマーを大きく振り上げる。
「これこれカナタ、あんまり前に出すぎるんじゃないよって……、心配しすぎかな」
ユウタは左手を前に差し出した。
ハンマーが光の軌跡を描く中、ユウタの《リアリティ・シフト》が空間を歪ませ、怪異の動きを止めていく。捻じれた現実の中で、カナタのハンマーが放つ閃光と、ユウタの金色の波動が重なり合い、まるで運命の審判のように怪異を貫いた。
渦巻く光の奔流は、怪異の歪んだ姿を一瞬のうちに包み込み、その存在を打ち砕いた。
電器店のテレビ群が一斉に消え、静寂が戻る。
街灯が再び点灯し、いつもの夜の風景が商店街に戻ってきた。
「みんな、無事か?」
アダンが女子学生たちに声をかける。その声は、先ほどまでの覇王の威厳を残しながらも、どこか優しさを帯びていた。
「は、はい。ありがとうございます」
亜美の頬には涙が伝っていたが、それは恐怖というよりも安堵の涙だった。沙織は友人の手を強く握り、立ち上がるのを手伝う。
「あのね、本当にありがとう。私たち、怖くて……」
沙織の言葉が途切れる。
「気にすることはないよぉ。かわうそたちも、お嬢さんたちを守れて嬉しいってさ」
オッターが柔らかく微笑みかける。カワウソたちも嬉しそうに鳴き声を上げた。
「これで事件は解決……な訳ないよね」、とカナタ。
「そうだね。彼らが誘拐を企てて実行したとはとても思えない」
ユウタが甥の頭を優しく撫でながら言う。
「やめてよ、叔父さん。とりあえず、報告しに戻ろう」
「俺様は彼女たちを家まで送り届ける」
「あ、かわうそも一緒に行くよぉ」
「では、また後ほど」
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第3章 ボス戦 『ヴィジョン・シャドウ』
POW
放送休止
【テレビから衝撃】を放ち、半径レベルm内の指定した全対象にのみ、最大で震度7相当の震動を与え続ける(生物、非生物問わず/震度は対象ごとに変更可能)。
【テレビから衝撃】を放ち、半径レベルm内の指定した全対象にのみ、最大で震度7相当の震動を与え続ける(生物、非生物問わず/震度は対象ごとに変更可能)。
SPD
放送禁止
X基の【影の波動が出るテレビ】を召喚し一斉発射する。命中率と機動力がX分の1になるが、対象1体にXの3倍ダメージを与える。
X基の【影の波動が出るテレビ】を召喚し一斉発射する。命中率と機動力がX分の1になるが、対象1体にXの3倍ダメージを与える。
WIZ
放送
【テレビドラマの内容】を語ると、自身から半径レベルm内が、語りの内容を反映した【撮影スタジオ】に変わる。この中では自身が物語の主人公となり、攻撃は射程が届く限り全て必中となる。
【テレビドラマの内容】を語ると、自身から半径レベルm内が、語りの内容を反映した【撮影スタジオ】に変わる。この中では自身が物語の主人公となり、攻撃は射程が届く限り全て必中となる。
●
暗い倉庫の片隅で、積み重ねられたブラウン管テレビが不気味な光を放っていた。
その頂点に座るヴィジョン・シャドウは、ピクセル化した顔をわずかに歪ませる。スーツの裾から漏れる赤いノイズが、周囲の空間を侵食していく。テレビの前には、意識を失った十数人の人間が横たわっており、彼らの周りには淡い光の糸が這うように巻き付いていた。
「愚かな視聴者たちだ。テレビの向こうの世界に憧れ、現実から目を背ける弱い魂……」
モノクロのノイズと共に、彼の声が虚空に響く。
「この世界には、膨大な数のインビジブルが満ちている……人々が映像に託す夢、願望、そして恐怖……それらを含めて、すべてが我々の糧となる……」
倉庫の壁には無数のテレビスクリーンが設置され、それぞれが異なる番組を映し出していた。視聴者たちから吸い取られた想像力のエネルギーは、スクリーンを通じて異界へと送られていく。デジタルノイズが増殖するように、エネルギーは次々と流れ込んでいった。
「もうすぐ私たちの世界は活性化される。エデンに溢れるインビジブルと無限の想像力によって……」
捕らえられた視聴者たちの意識は、永遠に続くドラマの中に閉じ込められていた。
彼らは自分が演じている登場人物になりきったまま、現実に戻ることができない。ピクセルノイズの檻の中で、彼らの夢は終わることのない物語となっていくのだ。
ヴィジョン・シャドウを倒せば、あるいは――。
武尊のメモ:
被害者たちが最後に見ていた番組には共通点があった。深夜0時きっかりに放送される『真夜中のシアター』という番組だ。この番組を見ていた視聴者が次々と失踪している。
さらに、失踪現場付近では必ず古いブラウン管テレビが発見されている。電波の発信源を追跡すれば、ヴィジョン・シャドウの潜む場所にたどり着けるかもしれない。
アドリブ歓迎
兎に角、時間が惜しい
電気系統はさっぱりだが
俺様に調べられる限りの調査を行おう
『真夜中のシアター』を収録したスタジオ周辺
店頭に古いブラウン管テレビが置かれている、古い電器店について確認
其れでも発見に至らなければ
他の√能力者に協力要請、情報共有を頼む
√能力:魔蠅の羽
ヴィジョン・シャドウよ、漸くの御対面だな?
此の覇王である俺様が、貴様の唾棄すべき目論見を潰すべく来たぞ
敵の攻撃を受けた上
召喚する武器が対象外になると判断した直後、√能力を発動
己の影から一対二枚の蠅の羽を生み出し
敵、テレビに対して【貫通攻撃】を行う
被害者を巻き込むのは絶対に避けたい
下がった命中率は【誘導弾】で出来る限り補う
■カナタと(h01454)
神無月さんのメモによると被害者達が最後に見ていた番組『真夜中のシアター』
残念がら我々は電波は辿れないのでその番組のロケ地や機材、大道具倉庫の場所などを探ろう
ほらここは|警視庁異能捜査官《カミガリ》の出番だろ?テレビ局に連絡連絡♪
にこやかに甥に丸投げし聞き出して貰った情報からおおよその見当をつける
やはり浚った人間を連れ込んでもバレにくい場所は…倉庫か
おっといい自転車だ、ちょっとお借りするよ。と
放置自転車を借りて何か言ってる甥後ろに乗せて現場へ
敵と対峙したら戦闘
ああ、ええと…お前は果たしてここにいていい存在なのかい?
|存在理由について聞いている《レーゾンデートル・アスク》
■叔父さんと(h04707)
叔父から急に振られて焦りつつも
『あ、あの警視庁の者ですが…💦』と頑張って情報を聞き出す
しかしも叔父さん急に放置自転車に乗り出して…
『ちょ!?駄目だよそれ!』とか言っても笑顔で俺を強引に後ろに乗せて走り出す
どこか目星をつけたようだけど…叔父さんヤバすぎて脱力…
なんて言ってられないね!ついに今回の事件の大元ヴィジョン・シャドウ!
こいつを倒して意識を囚われた被害者達を救うんだ!
誰だって一時に夢をテレビに反映して現実から離れる事はある…!
それは弱さからではない!心を豊かにするため!明日生きる為の糧とする為だ!それを…お前たちに奪わせないしない!
|霊振《サイコクエイク》!!
【SPD】
・考え
真夜中のシアター……0時なんて遅い時間だと眠いけど……
さらわれちゃった皆を助けるためだからね、かわうそ、がんばるよぉ。
・行動
かわうそはテレビ持ってないので、
警察のルート能力者への協力者の伝手で回収されたテレビを0時に見させてもらいます。
その前に電波の逆探知とかできた人がいたらかわうそはわぁいわぁいと喜んでついていきます。
【カワウソ変化】で今より更にちっちゃなカワウソに変身。テレビの命中力と機動力が下がった攻撃をカワウソの更に上昇した機動力、回避力で避けながらヴィジョン・シャドウに攻撃します。
味方との連携やアドリブも歓迎
事前調査で被害者達の失踪地点をマップアプリに落とし込む。
電波の集約点を推測すると…ざっとこんなトコ、的な?
ハイ、どーもお疲れぇ!|異能捜査官《カミガリ》でぇす!!
ハイテンションのまま倉庫に乱入。
その場に味方が居ればANARCHYですかさず援護射撃を。
マジメンドいけど一般人が被弾しないように留意。
なんかあのモニターがダルいね、ボクがイカせてあげるよ!
敵攻撃による手振れも厭わず
発砲してテレビを行動阻害状態にしたいな。
喧嘩殺法で跳躍後DICKを振りかぶり
片っ端からテレビの破壊を嬉々として試みる。
皆に嬲られて敵も相当参ってそう?
駄目押しに至近距離で
SPIRITのモクを吹きかけて認識もバグらせちゃうね!
●
宵の口。『真夜中のシアター』を収録したスタジオ周辺は、仕事帰りの勤め人でいっぱいだ。ざわざわとした、それでいてどこか解放された雰囲気が道行く人々の間に漂っている。
アダン・ベルゼビュートはリサイクルショップの店頭で腕を組み、眉をひそめた。灰色の瞳でブラウン管テレビの列を見つめる。
「ふむ……これらのテレビ、妙な気配がするが」
まだブラウン管テレビが現役だという異世界もあるにはあるだろうが、この世界ではとっくに廃れてしまっている。現に、リサイクルショップに並ぶこれらも『アンティークなインテリア』として売られているようだ。注意書きにもしっかりと、太めの赤字で、映りませんと書かれていた。
(「……何も手がかりは得られそうにないな。しかたあるまい、他の√能力者に協力要請し、情報共有を頼むとしよう」)
前を通り過ぎたテレビの中で、突如、何かが動いたような気配がした。
アダンは素早く振り返ったが、灰色のブラウン管には何も写っていない。しかし――。
「貴様、隠れているのか? 覇王である俺様から逃げられると思うな」
アダンは確かに感じたのだ。ブラウン管の遠く向こうから送られてきた悪意を。
警視庁の前で、日南ユウタは地図を広げ、星詠みから受け取った被害者情報を丹念にマークしていく。
甥の日南カナタが出てきたのを見つけて、手を振った。
「ユウタ叔父さん、ごめん。待った?」
「いや、ぜんぜん。さて、カナタ。君の出番だよ」
ポンと甥の肩を叩く。
「え?」
「テレビ局に電話して、『真夜中のシアター』の収録場所を聞き出してくれないかな」
「ちょ、叔父さん! 急に振らないでよ……。先に行っといてくれたら《《会社》》で調べておいたのに」
「ん~、でも、《会社》》で調べてたら、同僚にあれこれ詮索されるだろ? その同僚が√能力者なら別に構わない、むしろ協力者が増えてウエルカムだよ。でも、普通の人だったら……、カナタはなんといって言い訳する気なんだい」
カナタは困惑の表情を浮かべながらも、震える手で携帯を取り出す。
「あ、あの……警視庁の者ですが……」
ユウタは微笑みながら、カナタが電話で場所を聞き出す様子を見守っていた。
夜が深まっていく中、寒風が身に沁みる。
「あ、ありがとうございました!」
電話を切ったカナタが、やや大げさなしぐさで、ほっと胸をなで下ろした。
「叔父さん、番組を収録するスタジオ倉庫の場所、わかりました!」
「いい仕事だ」
ユウタは満足げに頷き、近くに止まっていた自転車に跨がる。
「さあ、行こうか」
「あ、待って! それ放置……」
「乗らないのかい? 置いていくよ、それとも走ってついてくる気かな?」
叔父がペダルに片足を乗せる。
カナタは仕方なく、本当に仕方なくといった顔で、自転車の後ろに座った。
「叔父さん、ホントにヤバいってば……ヘルメットもないし、第一、二人乗り自体が……」
そういいながら腰に腕を回した甥が可笑しくて、ユウタは小さく笑う。
「緊急事態ってことで見逃してくれないかな。カナタおまわりさんも一緒だしね。それに、借りるだけだから。あとでちゃんと元の場所に返すよ」
カナタは首に巻いたマフラーに鼻の下までうずめ、ごにょごにょと呟く。
「それなら……いいかも……」
がくんと体が揺れたかと思うと、冬の夜の景色が横へ流れ始めた。
その頃、オッター・リバーライツは協力者の後をついて小走りになっていた。琥珀色の髪が軽やかに弾む。
協力者は周囲を警戒するように見回し、人気のない路地へと足を向けた。古いビルの間の細い通路は、街灯の明かりも届かず、ただネオンサインの淡い光だけが壁に映り込んでいる。
「わぁい、電波追跡できたのかい?」
「あまり大きな声を出さないでくれ」
協力者は路地の奥へと進みながら、小型の映像機器を取り出した。
「ここなら大丈夫だな。これを見て」
画面には音声を消した『真夜中のシアター』の録画が静かに流れる。その下で不規則な波形が不気味に波打っていた。
「この波形に注目……通常の放送電波とは明らかに違う。ちなみに、普通ならこんな感じの波形になるはずなんだ」
画面が切り替わり、お笑い番組の映像が映し出される。その下に表示される電波波形は、先ほどの不規則な波形とは打って変わって整然としていた。
「わぁ、本当だねぇ」
オッターはモニターを覗き込み、首をかしげた。
「でも、どうしてこんな変な波が出てるのかなぁ」
「おそらく、ヴィジョン・シャドウの仕業だろう」
言いながら協力者は画面をスクロールさせる。
「それで、この電波の発信源は……」
逝名井 大洋は、料亭『月下美人』を出てすぐ、コートのポケットからスマートフォンを取り出した。
冬の夜気に白い息が漂う中、歩きながらスマートフォンの画面に向かって指を滑らせ、星詠みと捜査資料から得た被害者たちの失踪地点をアプリのマップ上にマークしていく。
「ふーん、こんな感じかぁ」
前から来る人たちにぶつからないように、道の端へ素早く移動した。街灯の明かりの下、銀髪を掻き上げながら、マップ上の点を確認する。
「電波の集約点を推測すると……ざっとこんなトコ、的な?」
画面上の点と点を目で追っていくと、そこにはきれいな円が浮かび上がる。大洋は円の中心点に触れ、地図を拡大していった。
「電波の集約点……ここらへんだねぇ。ええっと、住所は……」
スマートフォンに表示された住所は、とある撮影スタジオのものだった。大洋は満足げに頷く。
「向かう前にみんなに連絡しとこ」
大洋は連絡がすむと、スマートフォンをコートのポケットに滑り込ませ、冷たい夜空を見上げながら手を上げて流しのタクシーをつかまえた。
●
タクシーを少し手前で止めて、大洋は件の場所まで歩いた。
目的地は『真夜中のシアター』を収録しているスタジオ……ではなく、スタジオのすぐ横に併設されている、古くなった番組セットや機材を保管する倉庫だ。
「おっとぉ! みんな揃ってるじゃん!」
大洋が手を振ると、暗がりから「やぁ、かわうそだよぉ」とオッターが現れた。ユウタとカナタは放置自転車を倉庫の横に止め、アダンは腕を組んで「遅いぞ」と言った。
「アダンさん。急に呼び出して巻き込んでおいて、それはないですよぅ」
「黙れ。事態は一刻を争う。新たな犠牲者が出る前に凶行を止めねばならんのだ!」
「うん、じゃあ、さっそく入ろうか。カナタ、そっち側を持って」
「え、ユウタ叔父さん。鍵がかかってるんじゃ……」
「心配ないよう。かわうその協力者がマスターキー? それを貸してくれたんだ。もう開けてあるから。ささ、ガーといっちゃってガー、ガラガラっと」
「いや、ガーは……。音は立てないで静かにしよう。じゃあ、ユウタ叔父さん。せい、の――」
月明かりの下で、錆びついた倉庫のシャッターが軋む音を立てて僅かに開く。
大人が屈んでくぐれるほど開けたところで、√能力者たちは倉庫の中に忍び込んだ。
とたん、蛍光灯が不規則に明滅し、無数のブラウン管テレビが宙に浮かび上がる。
低い笑い声が、倉庫内にこだました。
「私がプロデュースする『真夜中のシアター』にようこそ。よく来たな」
中央の巨大なテレビから黒い影が滲み出し、人型へと変貌していく。
√能力者たちは直ちに戦闘態勢に入った。
「此の覇王である俺様が、貴様の唾棄すべき目論見を潰すべく来たぞ!」
アダンは月光に照らされた影から漆黒の蠅の羽を召喚した。幾重にも重なった羽が青白い光を帯び、破壊的な咆哮とともに次々とテレビへと射出される。
「愚かな……この私の放送を邪魔する気か!」
ヴィジョン・シャドウは「放送休止」で応戦する。
大気が歪み、轟音とともに衝撃波がアダンを襲う。アダンは黒いコートをはためかせながら敵の攻撃を受け流そうとするも、倉庫の壁に叩きつけられてしまった。
「お前は果たしてここにいていい存在なのかい?」
静寂を破ってユウタの声が響く。
ユウタの黄金の瞳から放たれる見えない力は、まるで月の光のように神々しく輝いていた。
「知るか!」
ヴィジョン・シャドウの周りで蒼白い光が渦巻き、倉庫全体が幻想的なテレビドラマのセットへと変貌する。古びた壁は豪華なスタジオの装飾に、錆びた床は光り輝くステージへと姿を変えていく。
異空間の中で、カナタは震える拳を前に突き出す。
「誰だって夢を見る権利がある。でもそれを歪めさせない!」
霊震サイコクエイクが発動し、虹色に輝く衝撃波が放射状に広がっていく。金属の軋む音と、ガラスの砕ける音が交錯する中、宙に浮かぶテレビが次々と揺らめき始める。
さらに――。
「えいっ、かわうそ、頑張るよぉ!」
オッターは月明かりの中でキラリと瞳を輝かせ、小さなカワウソへと変身した。小さな影は浮遊するテレビの狭間を縫いつつ、まるでバレエを踊るかのように優雅に動く。尾を振り、体当たりを繰り出すたびに、ブラウン管がはじけ飛び、青い火花が散った。
激しい戦いの最中、ヴィジョン・シャドウが腰掛けていた大きなテレビから、突如として人々が転がり出てきた。被害に遭った失踪者たちだ。
「みんな、被害者の保護を!」カナタの声が響く。
「ドラマはまだ終わっていない! 戻れ、私のドラマの中に戻れ!」
オッターは即座に大きなカワウソの姿となり、倒れた人々を背中に乗せ安全な場所へ運んで行く。ユウタとアダンは守りを固め、大洋は的確な攻撃で敵の注意を引きつける。
「ハイ、どーもお疲れぇ!」
銀髪が月光に煌めく中、大洋は宙を舞う。
大洋の周りを取り巻く霊能震動弾は、まるで流星群のような輝きを放っていた。
「ほら、イッちゃえって!」
弾丸は螺旋を描きながら次々と放たれ、標的に命中するたびに虹色の衝撃波を生み出していく。
「私の……放送が……乱れて……」
「貴様の野望も、此処で終わりだ!」
アダンの最後の一撃が放たれる。
√能力者たちの攻撃によって、大ダメージを受けたヴィジョン・シャドウの姿が歪み始める。
「私の……ドラマが……」
最後の悲鳴とともに、異空間は徐々に溶けていき、倉庫が元の姿に戻った。
●
「やったね、みんな無事だよぉ」
オッターが笑顔で告げる。
「ふぅ……これで一件落着かな」
ユウタはため息をつきながら微笑んだ。
カナタもニッコリと笑う。
「じゃあ叔父さん、さっそく自転車を返しに行こう」
スマートフォンで救急車を呼んでいた大洋が戻ってきて、バンと手を叩く。
「ハイ、みなさんお疲れぇ! 無事、事件も解決。今日は最高の一日でしたぁ!」
自転車を押したユウタとカナタが去り、オッターと被害者たちを乗せた救急車のサイレンが遠ざかっていく。
料亭『月下美人』にいる星詠みに報告をしに行かないか、という大洋の誘いをアダンは断った。
「じゃ、また」、と言って大洋も現場を去っていった。
「さて、覇王の仕事もこれにて一段落……か」
アダンは月を見上げると、一人静かに微笑んだ。
またどこかで新たな事件が√能力者たちを待っている。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功