シナリオ

あの星は涙で出来ている

#√妖怪百鬼夜行 #ノベル #秋祭り2025 #秋の夜長に花十夜

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 #√妖怪百鬼夜行
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チルチル・プラネットアップル
夜長に花💐

・メルヘンな雰囲気

・キャラ
 グレーのチンチラ耳と尻尾がはえた少女
 眠たげで優しげな顔立ち
 走ったり遊んだりなど子どもらしいことが大好き
 きらきらした物と甘いものが好き
・普段は拙い口調、お仕事中や偉い人には敬語

・過去
 ドラゴンに育てられた
 涙が宝石となってこぼれ落ちる希少性の高いチンチラ
 捉えられた親ドラゴンを解放する身代わりに、「人間」と交渉し実験体として研究施設で暮らしている
 実験中、人間に変化する過程で過去の記憶をなくしてしまった
・現在
 家族や夢に徐々に興味を持ち始めている
 昔誰かに言われた「楽しく生きること(人前で涙を流さないように)」を大切にしている

・お好きに設定など生やしていただいて大丈夫です
・NGなし

 さらさらと音が鳴っている。
 せせらぎが川底の小石を揺らしているような、清らかな音だった。耳朶にやさしく触れる音がミルク色の夢から意識を呼び起こす。チルチルはそっと瞼を開いた。
「あれ……?」
 見上げた先は遙か先まで黒々と染まる深い夜空だ。吸い込まれそうなほど果てしないその色はちっぽけなチルチルなんてあっという間に飲み込んでしまいそうだったけれど、不思議と恐ろしくはなかった。砂浜に沈むような感触を地についた手に感じながら、チルチルはゆっくり身体を起こす。

 立ち上がってみれば、それは砂ではなく砕いた硝子のような光の粒だった。それも青い硝子だ。空や海の色のように鮮やかな青色の光の粒が、宇宙に果てしない道を作っている。薄くも硬い感触は、たしかに鉱物の筈なのに、道は生まれたての動物の毛のようにやわらかい。硝子の道は夜の果てに向かって伸びていた。
 ここは特別な場所なのかもしれない。チルチルも多くの世界を知る訳ではないけれど、これまで見たどの風景とも、この硝子の道は雰囲気が違っていた。
 細かな硝子はチルチルの足を飲み込むでもなく、滑らかな弾力がある。これならどこまでだって歩いて行けそうだ。
「うん、いってみよう」
 チルチルは前へ歩き出す。淡い燐光が、少女の睫毛に光の粒を零した。

 道はどれだけ歩いても終わらない。小刻みな心音に合わせてテクテクと歩いていく。
 いったいどこまで続くのだろう。夜空の広さを恐れたりはしないけれど、小さな子どもの身体で途方もないのは少し困る。目印はないかと足元に視線を落としたチルチルはあっと小さく声を上げた。
「この星……暗くなっちゃってる」
 チルチルが拾い上げたのは光を失った欠片だ。光の中に蹲るようにして埋もれていた硝子の欠片は、疲れ果てたかのように暗い茶色をしていた。
 目を凝らせば、他にもぽつぽつと暗い箇所がある。チルチルはヘンゼルとグレーテルのように光を失った星を辿って拾い集めていく。気が付くと海色のポシェットの中身が、あっという間にいっぱいになってしまった。
「もうぱんぱんなの……。あれれ?」

 何気なく踏み出した足が虚空を踏んだ。
 あ、と思った時には遅かった。濃い黒色の中へ、少女の身体はあまりにもあっけなく落ちていく。ポシェットを抱きかかえるように身体を丸めながら、チルチルは遠く小さくなっていく天の川を見つめた。夜空のキャンパスに引かれた長い光の線は、そこだけヒビ割れているようだとチルチルは思った。夜空を割いたら何が出てくるだろう。そんなことを考えながら、少女はあんぐりと口を開けた夜の中へ飲み込まれていく。


 思ったよりも落下の衝撃は柔らかかった。
「ふにゃっ」
 ぽすん、と分厚い毛布の中に落っこちるような感覚に、チルチルは恐る恐る顔を上げる。そして、大きな目を丸く見開いた。
 少女は思わず身体を強張らせる──彼女がいたのは、大きな竜の腕の中だった。
 規則正しく上下する胸の動きから、竜は眠りの中にいるのだろうと分かった。当然ながら口も大きく、その気になれば小さなチルチルなんてひと息に飲み込んでしまえそうだ。触れた鱗の表面はなぜかしっとりとしていて、チルチルはなぜだか、この竜がさっきまで泣いていたんじゃないかと思った。
(でも……なんだろう)
「なんだかなつかしい気がする……」
 胸をさわさわと揺らすこの気持ちは、一体何なのだろう。不可解さに首をかしげている内に、油断した目の奥から熱い何かが溢れそうになって、慌ててチルチルは目元をごしごしと拭った。
 ──泣いちゃだめだよ。いつでも楽しいことを考えて、笑っていて。
 だれかの優しい声を思い出しながら、一生懸命込み上げてくるものを押しとどめようとすんすん鼻を鳴らす。そうだ、もっと楽しいことを考えよう。昨日のおやつに食べた木の実のタルトに、渡ってきた青い硝子の天の川。新しいお友達とのおしゃべりに、最近見つけたお気に入りのお店。楽しいことを、綺麗なもののことを考えている筈なのに、目頭はどんどん熱くなっていく一方だ。
(もうだめ)
 とうとう、チルチルの目から涙がひと粒零れようとする。
「泣かないで」
 うんと高い所から優しい声がした。すると、大きな指先が少女の目尻を掬い上げ、チルチルはびっくりして顔を上げた。涙もその拍子に引っ込んでしまう。

 眠っていた竜が目を覚ましていた。青い宝石のような澄んだ瞳がこちらをじっと見つめている。その瞳の色も、なぜだかひどく懐かしい。
「どうしたの? 迷子なの?」
 自然と伝わる竜の声は穏やかな音色だった。目覚めた竜はチルチルの身体を傷つけないようにそっと手の中で抱きしめながら、僅かに首を傾げた。
「ここはふつうの子が来られるところじゃないのだけれど……」
「わたし、気がついたらここにいたの。これをひろって、おっこちちゃって」
 ポシェットの中の星を取り出してみせると、竜は痛ましそうに瞳を伏せる。
「ああ……また、その星を生んだ子が、死んでしまったのね」
「星をうんだ子が、しぬ?」
「この宇宙を照らす星は、清い心の子どもたちの涙で出来ているのよ。けれどその子が子どもの内に亡くなってしまうと、星も光を失ってしまうの」
「そんな……。もうこの星は光らないの?」
 チルチルの疑問に竜は答えなかった。ゆっくりと少女の身体を地面へと下ろす。チルチルはそれでようやくここがどこなのか、一面を見渡すことが出来た。

 竜がいるのは死んだ子どもの涙で出来た墓場だった。枯れた星の地で、竜だけが淡く大きな光を放っている。独りぼっちの墓守は静かに瞳を閉じた。何も言わなくても答えは明らかだった。
「そんなの……かなしいの」
「仕方ないことよ。すべてが幸せな世界は難しい。だから、私のような長い生を持つ生き物が、寂しい子どもたちの眠りを慰めるの」
「でも……」
「ああ、泣いちゃだめよ。優しい子。きっとこの子達の寂しさに引かれて迷い込んじゃったのね」
 竜が少女の髪を撫でる。慈しみに満ちたその手触りが、知らない筈の気持ちを呼び起こしてまたチルチルは泣きそうになった。竜は少女の顔を見て微笑んだ。
「大丈夫。夢から覚めたら元に戻れるわ」
「うん。……ねえ、この星はどうしたらいいの?」
「私にくれる?」
「うん。いいよ」
 ポシェットから取り出した星たちを受け取ると、竜はすぐにそれを足元に並べた。
 物言わぬ星は他と同じ様にじっと佇んでいる。彼らは永遠に夜の底で沈んでいるのだろう。穏やかな墓守に見守られながら、遠い瞬きを見上げているのだろう。
 言葉を失くしたチルチルに、竜は穏やかに微笑んだ。
「ありがとう。ねえ、あなたもきっとこの子たちと同じよね?」
「……うん。きっと、そうなの」
「あなたはどうか幸せでいてね。あなたの星を永遠に夜空に光らせて」
 この子たちの代わりに。
 物憂げな横顔に堪らず唇を開いた。声は届いただろうか。確かめる前に、意識がすっと遠くなる。


 枕元に青い宝石が転がっている。その中に紛れていた花の形の青色を手に取り、チルチルは小さく息を吐いた。
 素敵で綺麗な夢を見た。なのに眺めているとほんのりと寂しさが過る。
「ふしぎなの」
 掌で花を転がす。どこからともなく遠い光がちかりと瞬き、微かに痛みを残した。


* * *
名称:天の川の星
設定:涙で出来た青い硝子の花釦。胸元できらり光る星が、さいわいあれとあなたに祈る。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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