秋深まるは、甘味と縁
様々なヒトならざるもの――妖達が人間と共存する、√妖怪百鬼夜行。十月に入っていよいよ秋の風吹く町の片隅に、知る人ぞ知る古書店が存在する。
ちょうど客の居ない頃合いを見計らい、店主は緑茶をひと口飲んでひと休み。店先から見える木々はあかく色づいていて、穏やかな時間が流れていた。
「もうすっかり秋なのでございますね」
弥久院・佳宵はそう呟いて、ちいさなカステラもひとつまみ。ふと、そういえば……と思い出すことがある。
常連の客から先日聞いた話で、農家を営む妖怪がさつまいもを振る舞う会をするのだとか。
「ええと、確かお知らせの紙もお預かりしましたね……」
そっと部屋の奥から見つけたチラシには、ちょうど明日の日付が記されている。どなたでも歓迎、ぜひお越しください、とやさしい手書きの文字で綴られたそれに目を落とす。
「せっかくの機会ですし、お邪魔してみましょうか」
そんな訳で不思議な古書店は明日をお休みにするのだった。
「あら、本屋の店主さん! ようこそいらっしゃいました」
「こんにちは、お元気そうでなによりでございます。お誘いのお知らせをありがとうございました」
翌日、件の農家へと訪れた佳宵へと、熊の獣妖が笑顔で挨拶をかわす。町の住民達も馴染みの店主を見かけ、次々と笑顔を見せていく。
「おいしいお芋を振る舞って頂けると聞きまして。何かお手伝いすることがございましたら、遠慮なくお申しつけくださいませ」
「ふふ、ありがとう。それじゃあ一緒にスイートポテトを配ってもらえるかしら」
佳宵の目に留まるより先、ふんわりと甘い香りが鼻をくすぐる。こんがりと焼き目のついたスイートポテトは、バターによって艶のある見目をしていた。まあ、と思わず目を瞠って、佳宵も住民達においしそうなデザートを配っていく。
「これは店主さんの分」
「ありがとうございます、いただきます」
小皿にちょこんと乗ったそれをフォークでひと口分すくって、はむり。口いっぱいに広がるやさしい甘さがたまらなくて、佳宵は顔をほころばせる。
「大変美味でございます、こちらはあなた様がおつくりになられたのですか?」
「いいえ、あたしはこういうのはからっきし。旦那がはりきってくれたの」
熊の獣妖の女が笑って、恥ずかしがり屋の料理上手な夫の話をしてくれた。まだまだあるのよ、と次々に振る舞ってくれるのは、さつまいもの焼きプリンやタルト、大学芋にシフォンケーキまで。
どれもこれもがさつまいもの良さを引き出しながら、美味しさは格別なもの。佳宵もすこしずつ甘味を味わいながら、姿を見せない作り手への感謝を述べる。
「旦那様に、是非お礼をお伝えくださいませ。これほど美味なお菓子達を頂くのははじめててございます」
「伝えておくわ。実はうちの旦那、本屋さんの常連なの。恥ずかしいから、正体は秘密なんですって」
こちらこそ、と微笑む佳宵はまたさつまいもで作られた甘味を楽しむ。また、他の住民達との交流も温めていると、話題は尽きることがない。
「次は冬に鍋パーティーなんて考えてるの。是非店主さんもいらして?」
「はい。お言葉に甘えて、是非参加させて頂きとうございます。その際は、私も何かしらのお手伝いをさせて頂きます」
秋の太陽と紅葉のあかいろがやわらかく降りそそぐなか、九尾の狐は目を細める。
「こういった機会に恵まれるというのは、大変幸福なことでございますね」
歴史の深い家柄に生まれた青年は、けっして家の方針にそぐわなかった訳ではないけれど、窮屈な場所から本のなかへ無意識に自由を求めていたのかもしれない。
――こうして様々な人々との交流を経て、人妖はすこしずつ、彼自身の世界を広げていく。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴 成功