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羊の角を持つ竜達

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 竜とは貪欲で暴虐を好むものだ。だが何事にも例外はある。
 |羊精竜《ようせいりゅう》と呼ばれる、羊の角を持ち精霊に愛された一派もそうだった。
 彼らは争いを拒み、辺境に集落を築いた。同族から誇りのない臆病者と見下されても、相手にしなかった。むしろ同族内で孤立すればするほど余計な争いがなくなると考えていた。

 世界はそこまで甘くはなかった。
 多くの好戦的な竜が「惰弱者の羊精竜は脆弱である」と考えたのは、当然のことだろう。集落は幾度となく襲撃を受け、その度に世界の片隅へ逃げ隠れた。
 ……何事にも例外はある。長い寿命の中で、抵抗と復讐を主張する者が居なかったわけではない。だが賛同が得られることはなかった。失望した彼らは、同胞の平和主義を「頭の中まで羊のように平和ボケしたのだ」と罵り、何処かへと姿を消した。そうして部族が生まれ、減り、長い月日が経過した。

 転機をもたらしたのは、ある時集落を訪れたセレスティアル達だった。
「戦いたくないならば、敵が攻撃を躊躇するくらいの力があればいいのです」
 セレスティアル達の目的は、竜の研究だった。非好戦的で交渉の余地がある羊精竜は、うってつけの一族だった。セレスティアル達は、集落を守るための防衛施設の建造を提案した。交換条件は、若く活力に溢れた竜を招き入れること。
 長い話し合いの末に、10名の若者が選ばれた。

「ねえ。アメは本当に構わないの?」
 アメ・ドライスデールの記憶は、その力とともに失われた。だが何事にも例外はある――たとえば同世代の友人、キリ・サフォークとの会話の記憶。
「キリは何が気に入らないんだ?」
 まだ人の姿になる前のアメは、冷たい印象の友人に問い返した。
「私達がセレスティアルについていけば、集落の守りは今度こそ盤石だ」
「でも、あなた達がどこへ行かされるのかさえ誰も知らないでしょ」
 キリは瞼を伏せた。
「これじゃあ、生贄を差し出すのと変わらない。|生贄の羊《スケープゴート》だよ」
「私達は羊じゃない。羊精竜だ。そんなことにはならない」

「……本当に私達、また会えると思う?」
 キリは不安に翳った瞳で、アメを見つめた。羊精竜の寿命は、竜の例に漏れず極めて長い……だが外界との交流を断った辺境暮らしは、肉体と精神の年齢にズレを生む。キリは冷静で頭の回転が早く、その一方で不思議と子供じみていた。そして不安になりやすい女の子だった。
「いつかまた集落に戻ってくるとも。研究とやらもそのうち終わるはずだ。
 ……|羊精竜《ボクら》にとっては時間なんて、一瞬みたいなものでしょ?」
「そうかな。アメがそう言うなら……信じてみても、いい」
 二人は並んで丸い月を見上げた。その光景は今も残っている。

 ……世界はそんなに甘くはなかった。
 失楽園戦争が、天上界を襲ったのだ。


「どうして|施設《ここ》まで攻撃目標になったんだ!?」
「わからない、今まで無関係にやってこれたのに、急に……!」
 悲鳴。怒号。あるいは断末魔。セレスティアルが左に右に駆けずり回り、叫び、世界が大きく揺れる。アメはすっかり馴染み深くなった、人間めいた少女の姿だ。何故こんなことになったのかは、たとえ記憶が残っていたとしても何一つ判らないだろう。

 確かなのは、恐ろしい破滅がすぐそばまで迫っていて、もう逃げたり出来ないということだった。
「何が起きてるの? ねえ、集落のみんなは?」
「何言ってるんだよアメ、そんな場合じゃないだろ」
 一緒に集落を離れた9人のうちの一人、ビャクヤ・メリノが叫んだ。
「もうダメなんだよ、何もかもめちゃくちゃになるんだよ。みんな死ぬんだ。俺達も……地上に遺ったみんなも」
「そんなことないよ。だってボクはキリと――」
「この状況がわからないのか!?」
 ビャクヤはアメの肩を掴み、強く揺さぶる。
「この天上界で、俺達はただの「研究を手伝う協力者」でしかなかった!
 地上では同じ竜に追い立てられていた|羊精竜《おれたち》が、今更こんなとんでもない状況で何が出来るっていうんだよ……!」
「……でも、また会おうって」
 アメは繰り返した。あまりにも現実離れした状況のせいで、何もかもが飲み込めない。震動が強まり、あちこちから爆発音が聞こえる。セレスティアルの声がそのたびに減っていた。10人の羊精竜のうち、何人かが打開策を求めてこの場を離れた。もう戻ることはないのだろう。
「キリ――」
 その時破滅が竜の首に手をかけ、全ては闇に堕ちた。


「部族のみんな、どうなったんだろうね?」
 冒険の最中、アメはふと守護精霊にひとりごちることがある。あまり悲壮感はない。同じように、現在の幸福をのんびりと享受する自分もいた。記憶の欠落の影響も大きいだろう。
「まあいっか。お腹すいたなー!」
 再び目覚めたアメは、今日も呑気にダンジョンへ赴く。今のところは、それなりに平和に。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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