ほくほく秋色、おいもティータイム
ひらひら、ひらりと、晴れた秋空に舞う秋の彩り。
そして繁華街から幾つかの路地を辿った先――√汎神解剖機関の片隅に在る箱庭のその裏手。
建物の駐車場にも降り積もっていく、紅く色づいた落ち葉たち。
いや、ただその光景を、秋らしいと眺めるだけで良いのならばいいのだが。
「夏が終わるとやっぱ葉っぱ増えるな」
箱庭の管理人である一・唯一(狂酔・h00345)がすちゃりと手にするのは、竹ぼうき。
ということで……たまには掃除せんと、と。
積もった落ち葉をシュッシュと掃いては一か所に集めて、こんもり秋色の落ち葉の山を作っていれば。
「あれ、ジェイやーこっちおいでーおしゃべりしよー。お、七三子もおった」
ジェイ・スオウ(半天妖・h00301)と見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)の姿を遠目に見つけて、手招く唯一。
けれど、ふいにふと、こてりと首を傾ける。
「? なんか持っとる」
七三子が、やたら何かを大量に抱えていることに気づいて。
そして箱庭の駐車場に辿り着いた七三子は、ふたりへとこう告げるのだった。
「唯一さん、ジェイさん、助けてください……!」
「どないしたー?」
「七三子、何かスゴイ荷物ダケド?」
そんな七三子が、ふたりに助けて欲しい事はというと。
「こないだ近所の方のお手伝いをしたら、大量のおいも、いただいたんです……。ちょっとずつ料理に使ったりはしてるんですけど、なかなか減らなくて……」
それは、大量のおいも!
唯一は、七三子が改造パワーの怪力で運んできたおいもをまじまじと見つつ。
「あれま、凄い量……重かったやろ。そんだけ七三子が頑張った証拠やね」
これだけ沢山のお礼を貰うなんて、よほどご近所さんが彼女に感謝したのだろうことが容易に想像できる。
いや、確かにこの量のおいもを消費するには、沢山の助っ人がいる……のだけれど。
七三子はふたりを交互に見つめてから、ちょっぴり悪戯っぽく笑む――えへへ、嘘です、なんて。
大量のおいもを貰ったことは事実なのだけれど、助けて欲しいというよりは、実は。
「いや、嘘じゃないんですけど、おいしかったので、あ、これみんなで食べたいなあって思いまして」
「え、分けて貰てええの?」
「せっかくなので、焼き芋とか、スイートポテトとか作って、お茶会とか、どうかなって……」
そしてそんなお茶会のお誘いを聞けば、しゅばっと。
「おイモ? でお茶会? 最高カヨ?」
――ハイ! 参加シタイデス!
そう即、ジェイが挙手すれば。
「! 落ち葉集めとって良かった」
唯一もそう声を上げる。だって、折角おいもをいただくのならば。
「焼き芋といえば、折角やし焚火で焼いたろ」
焚き火で焼き芋です、ええ。
「涼しいし外で茶の席もイイヨナ♪」
ジェイの言うように、今は気候も良い秋の季節。
そして今日は、絶好の秋晴れだから。
「七三子、スイートポテト作れるノ凄くネ?」
「ちゃんとレシピは、調べたので……」
「お茶はジェイに任せたら間違いないな」
唯一は、ふたりと秋のおいもお茶会の作戦会議を早速わいわいと立てながら、笑み零す。
――ふふ、こっそり秋のお茶会、最高やないの、って。
というわけで、落ち葉もタイミングよく集めたところだから。
おいもを焼くための焚き火するべく、唯一は枝を丁度良い感じにくべて。
新聞紙でくるりと包んで、水にくぐらせたら――ぽーい。
このくらい雑でも、多分全然無問題。
「しばらくしたら出来るからその頃にはお湯も沸けるやろか」
そしてそんな唯一に続いて、ジェイも焼き芋作りに挑戦!
「アルミホイルで包んで焼くだけならオレにもできソ」
そして包んだおいもを焼きながらも刹那、ジェイはこんな閃きを。
「……ジャガイモとかベーコンもアルミ包んでこっそり焚火? にいれチャオ」
……ショッパイもんあったほうが無限ループ出来ソ、と。
そんな彼のアイディアに、七三子も頷いて。
「あっいいですね」
「スイートポテトも作ろー。七三子、手伝いたいから作り方教えて」
「えへへ。一緒に作りましょう」
しょっぱい系はジェイに任せて、唯一と七三子はスイートポテトを作ることに。
「バターと牛乳とたまごやっけ……?」
「下ごしらえさえしちゃえばトースターで焼けますし、焼き芋焼けるまでの間でできちゃいますよ!」
おいもを柔らかくして、熱いうちによく潰して。
熱いうちにバターと砂糖と塩をくわえ、牛乳を程よい滑らかさにしていく。
そしてそんな作業を楽しく進めていきながらも、ふと七三子は、湧いたこんな疑問を口にする。
「ええと、唯一さん、ちなみに、スイートポテト、動いたりしませんよね……?」
動く、スイートポテト??
いや、まさかスイートポテトが動くだなんて、そんなこと――。
「うん? ……動かんと、思うよ……?」
多分動かないっぽいけれど、何だか動く可能性もありそうな響きなのは気のせいか。
だが実は、唯一には前例があるから。
そう……動き回るチョコ巨人や大福を製造した前科あり、現在も箱庭内で闊歩中なのである。
だからワンチャン、スイートポテトが動くことだって十分可能性が……?
そして、そんないきなり予想斜め上なスイートポテトの存在を聞いたジェイは瞳を瞬かせた後。
唯一に視線を向けて、一応訊いておく。
「……動くってナニ……安全に食えるものナノカ? ありあ?」
「食べれる食べれる、平気」
もしも動いたとしても、安全に美味しくいただけるようです……?
けれど今回はどうやら、スイートポテトや焼き芋は動かないみたいだから。
「これからあったかいものがおいしい季節ですし、ジェイさんには、おいしいお茶とか教えてほしいです」
七三子はジェイにそうお願いしつつ、あとは成形して卵黄を塗ったスイートポテトが焼けるのを、ふたりとお喋りしながらのんびり楽しく待つことに。
そうこうしているうちにふわり、めちゃ美味しそうな匂いがしてきたから。
「お、芋出来たかな、熱いから気ぃつけー。ほら軍手あるで」
唯一はいい感じに焼けたおいもと軍手を、ふたりに差し出して。
早速はふはふ、焼きたてをいただきます!
そしてひとくち試しに食べてみたジェイは、思わず瞳をぱちり。
「焼き芋‥…ヤバぁ、ナニコレ甘っ。蜜スゴ」
ねっとりとろとろ、黄金色のおいもの甘さと美味しさが半端なくて。
「焼き芋はほくほくやし、あまぁ……え、こんな甘くなるんやな」
唯一もはふはふ、はむりと口にすれば、ジェイとお揃いの反応を。
いや、勿論、それは焼き芋だけではなくて。
「元々のお芋が美味しいからやろな」
「あ、スイートポテトもいい感じにできたみたいです」
出来立てのスイートポテトに、ジャガイモやベーコンなどのホイル焼きも並べて。
「スイートポテトも丁度ええ甘さ」
「何しても美味いヤツジャン。無限に食べタイっ」
ジェイはそうほくほく、おいもを存分にふたりと味わいつつも。
「お茶は中国茶のあまぁい香りなのにサラッと飲める大金芽ってお茶と、重厚な黒糖の香りと味がするミルクに合うアッサムの2種類ナ。どっちもティーカップでドウゾ」
「ジェイのお茶もさすが、味もそうやけど合うわぁ……ほあー」
「中国茶は香りが甘いのに爽やかで、ミルクでいただく黒糖のアッサムもおいもによく合いますね……!」
「お茶で爽やかな甘さもええし、ミルクティーにするアッサムも最高」
そして、おいもスイーツや美味しいお茶をいただきながらも。
「ふふ、でも、私はふたりと一緒にのんびりできるだけで嬉しいです」
「ハ〜♡ ありあと七三子とお茶デキてすっごく嬉シ」
楽しいお喋りをしながら皆で過ごす時間。
これがまた、秋のお茶会を最高なものにするフレーバー。
ジェイはとても大好きなふたりとお茶できて、目いっぱい幸せを感じながらも。
「ゆっくりこの時間、愉しみタイナ。二人が良いナラ……ダケドモ」
まだまだ、この美味しくて愉しい秋のお茶会が続けばいいって、そう思うし。
湯気や焼き芋の甘い匂いに包まれながら、まったりおしゃべりしつつ。
七三子もほわりと嬉しくなる――ああ、秋だなあって。
そう感じるような、穏やかなこの時間に。
それに、秋のお茶会が終わった後だって。
「お芋たくさんあるし持って帰ろなーエコバッグいる?」
「あ、お土産は、調理前も調理後も、いっぱい持って帰って大丈夫!」
「あ、おイモ達。余ったらヒトツ持って帰って良イ? 美味しすぎたカラ」
帰ってからも存分に楽しめそうな、美味しいおいものお土産もたくさん。
「ふふ。一緒にいるのがほっとする人と、美味しく食べてくださいね」
「素敵なお裾分けおおきにね」
唯一は改めて、七三子にそう礼を告げた後。
ジェイの淹れてくれたお茶を口にしつつも、ほっこり。
「ふたりのおかげで良い思い出ができたわ」
焼き芋の良い匂いや落ち葉焚き、ひらり紅葉舞う中でお茶会を楽しみながらも、改めて――秋やねえ、って。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴 成功