シナリオ

「おねがいたすけてマジで頼む!!」

#√ウォーゾーン #ノベル #【巻き込まれ】

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 どうにもこうにもやらかした。そう察するのが遅かったのは、元来の危機感の薄さからか。
「――知らなかった! 知らなかったんだって! 流石の俺も√マスクド・ヒーロー以外の配達経路については……アー!!」
 立入禁止区域を通過したが最後。キープアウトテープなんて切れてしまっていれば、そこはただの道である。少なくともオーガスト・ヘリオドールが拠点としている√マスクド・ヒーローにおいては。
 どれほど危険な地域であろうとちょっとした怪人や戦闘員がいるだけだ。目眩ましにボンとひとつ煙幕を撒いて逃げてしまえばそれで終わり……なのだが、此度。

 流石の√ウォーゾーン。その煙幕をも貫通するほど高精度な警備ドローンに見つかり、追いかけ回されている最中である。
「本当しつこいよ!『アルテスタ』ッ、ちょっと逃走経路――」
『現状が最適解です』
「まだ走るのぉ!?」
 その『アルテスタ』の言葉も見知った√ではないゆえに、当てにならないところがある。
 素早さはあろうとスタミナに自信があるわけではない。対して、追ってくる相手は機械である。途中何体か撃墜したが、それが攻撃行動と認識されたらしく、さらにしつこく追い回され――施設を抜けてなお、ビームやら小型ミサイルやらで追撃されていた。愚か〜。
「じゃあアレ! 頼りになりそうな知り合いの気配! 追って、お願い!」
『ご迷惑をかけるつもりですか』
「俺だけじゃ無理なんだから仕方がないでしょぉ!?」
 ひとりと一体、足元をバチバチに狙われながらの逃亡である。√ウォーゾーン……における、オーガスト自身が信頼できる相手……となれば。
 元は戦場であったであろう場所を騒がしく駆け抜け、本来なら安全地帯であろう場所、辿り着いた先に見えた姿に。

「たすけて!!」
「……え?!」
 逃亡の最中に見つけた――というか。見つかってしまったのはクラウス・イーザリー。半ば抱えられるように腹を横から掻っ攫われ、そのまま共に走り出すことになってしまった。

 オーガストと不意打ちに拐われたクラウスは、警戒音を鳴らし続けるドローンたちに追われ通路をひた走る。何が何だか理解できぬまま共に追われて走ることになったクラウスだが、迫り来るドローン群を見て少し察するところはあるらしい。
「お、落ち着いて……! 何があっ」
「たんだよ! ちょっと不法侵入したらご覧のありさま!!」
『すみません、手を貸して頂ければ幸いです』
 クラウスの言葉を遮り言葉を続けるオーガスト。ちょっとではない。「この人ならたぶんやるよな……」という視線を向けられたが、本人はそれに気がついていないので大丈夫だ。平気平気。

「戦闘機械の扱い、慣れてるでしょ!? アドバイス求む!」
「アドバイスというか、直接手を貸したほうが早くないかな……?」
「それはそう~!!」
 どっかんばっかんと砲撃の音が鳴る背後をちらりと見たクラウス。小型ドローンの群れだ。その気になればオーガストひとりでもなんとかなるはずだが、そこまで頭が回っていないらしい。
 荷物の入った――正確には、荷物を「直に取り出せる」トランクケースを片手に走っているという都合もあるだろうが……。片手が塞がっていては得物を振るうのにも不便である。

「足止めしようか」
「任せたっ!」
 食い気味の返答であった。ようやく止まったオーガストと半ば無理やり止まる形となったクラウス。忙しいったらありゃしない!
 クラウスの放ったレギオンがドローンたちからの攻撃の遮蔽物となり、その隙にばら撒かれるオーガストの発煙弾。次いで放たれるレギオンたちからのミサイル攻撃――! ドローンの動きが止まった!

「今のうちに!」
「りょーかい! ――落ちるよ!」
 え?
 どこに。――オーガストの言葉に反応する前に、クラウスはその腕を彼の手に捉えられていた。

 ――落下!
「わ、わっ」
 高所の通路からの自由落下! だが下を確と見続けるオーガスト、相当な下方、張り出た通路を目標にして落ちていく。ひゅ、と喉から息が出たクラウスとは裏腹、高所や落下の恐怖心などないのか、オーガストは笑っている。
 落下の直前、たん、と『宙を踏む』音が聞こえた。ステップでも踏むかのように一歩、二歩と空中で跳躍する彼の体。……そうして勢いはすっかり殺され、ちょっとした階段から飛び降りた程度の衝撃で、二人は通路へと着地した。

「む……無茶するね……」
 タイミングを間違えれば二人まとめてどうなっていたか。上方を眺めるオーガスト、どうやらドローンたちは無事にこちらを見失ったようである。
 ふぃ、と息を吐いたオーガストが、その場にへたり込むようにして座り、胡座をかいた。
「あははっ! なんか、青春って感じだったね!」
 腹を抱えて笑う。こんな危険な青春あってたまるか……と言いたいところだが、そのものな青春を送ってきたクラウスにとってはあまり洒落にならないセリフであった。

「とにかくありがと、助かったよ! いやあ、ひどいめにあった……」
 自業自得ではあったが、それはそれ。「命の恩人!」なんて言って両手をあわせて頭を下げてくる様子はかなり軽薄ではあるものの、きちんと感謝はしているのだ、これでも。そんな事を言われても、巻き込まれて手を貸した身としては複雑なところがある。やることちょっとあったんだけどな。
 そして、それに加えて。
「やー、ほんと……あの……言いにくいこと言って良い?」
 困ったように笑いながら。嫌な予感がひしひしするが、返答しないわけにもいかない。クラウスは正直言って、結構に、流されやすい……!

「……迷子かも」
 √ウォーゾーン用に調整したスマートフォンのアプリを見ながら、オーガストは冷や汗をかいている。どうやら、配達すべき目的地から大幅にズレた道を進んでしまっているようだった。画面を覗き込んだクラウス、あー……という顔をした。
「だいぶ……ズレてるね」
「上下もあるでしょコレ? 俺このあたり詳しく……なくってぇ」
 それはもう知っている。立ち入り禁止の場所に堂々と入って行って人に助けを求めるために走り、そして目的地からどんどん離れ……まさしく自業自得!!

「……クラウスくーん……」
「うん。何を言うか、ちょっとわかってるけど」
「えーん……」
 泣き真似、というか、本当に半泣きで。
 オーガスト・ヘリオドールは、運び屋としてひじょうにざんねんな言葉を口にした。

「道案内してえぇ……」
 ……『アルテスタ』に頼めばって?
『上下に通路がある場合、正しく現在地を読み取れないのです』
 オーガストの言葉に対し補足するように合成音声を発した『|アルテスタ《アシスタントAI》』。あはは、と笑い声を上げたのはクラウスだ。年上でお兄さんぶっているくせに、こう言う時の子供っぽさと甘え方は中々なものだな、なんて思いながら。それが処世術と言われたらそこまでではあるが。

「近道とは言えないけど、安全な道は少しわかるよ」
「ほんと?!」
「……詳しくはないんだけど」
 ……クラウス自身、迷子気質でもあるので。だが案内人はいないよりはマシである!
「えぇんマジでありがとーっ! 大好き! さっ、行こう行こう早めに配達しないと文句飛んできちゃう!」
 床から立ち上がったオーガスト、服についた砂や埃を払ってから――既に結構汚れているがそれは仕方なし。スマートフォンのマップアプリを手に、クラウスに道の確認をしてもらいながら歩き始めた。今度は安全な道を選んで……そうすれば、僅かでも人通りがあったりするもので。

「……ところで……何を運んでるのかな」
 荷物について聞くのは無粋かもしれないが、ここまで必死になって運ぶものとは? そう気になって聞いたクラウスに、オーガストは明るい声で返答する。
「ケーキ!」
「……ケーキ」
 思わず復唱。けっこう予想外なものがでてきたな。
 あれだけ大立ち回りをして、下方への落下まで選んで逃走して、運ばねばならぬものがケーキとは? 誰宛てなのかはともかく、本日中に、時間内に届けなければならないことは間違いのない品であった。
「中身は無事だよー、トランクひとつ無事ならベリル運輸の冷蔵庫から直で取り出せるし!」
 それがオーガストの√能力のひとつだ。ならば問題ない……のか? ともあれ中身が無事ならなによりだ……。

「……あ、そだ」
「?」
「クラウスくん、ケーキは好き? 俺は大好きなんだけどさ」
 ほら、ディストピアってたし。わりと君もそうだろうし。またもや洒落にもならんセリフが続き、『失礼な』と『アルテスタ』が突っ込み……しかしまだ言葉は続くようで。
「お礼もしたいし、あとでどっか喫茶店寄ろうよ。俺の奢りだよ!」
 いや奢って当然なんじゃないか、などと。ともあれ……。
「……休息は、取りたいかな」
 当然、疲れた。
「よし、決まりだ! 仕事の後の甘いものは美味しいぞ〜♥️」
 楽しげに歩みを進めるオーガストの隣を歩くクラウス。この人はいつもこのような、とんでもなく賑やかな配達でもしているのだろうか。
 トラブルには慣れた様子の彼と共に、道を歩き……定刻よりほんの少し遅れて、ベリル運輸としての配達は終了したのであった。

 それから。

「ごっめん手頃なカフェどこ??」
『検索結果にありません』
 スマホを手に検索するも見つからない様子のオーガストに「またか」とちょっぴり呆れながらも、飲食店の多い通りを目指してまた歩くことになるのはまた別の話。
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