|トリート《トリック》ばかりのハロウィンラン。
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「……最近、増えてる気がする」
そうポツリと呟く見下・七三子の悩みは、体重が増加してしまったこと。
近所の人との付き合いも良く、人当たりの良さから何かと色んな物(食べ物多め)でもらう事が多く、それら全て美味しく頂くわけで。当然、食べたら食べた分だけ蓄えられてしまった現実に盛大な溜息が洩れる。
「このままじゃダメですよね……よしっ、ダイエットしましょう!」
せっかくオシャレな服も買ったりしたし、何より太って大切な人に嫌われるなんて以ての外。グッと拳を作って意気込んだ七三子は、運動しやすい格好になると早速と飼い犬であるハヤタの散歩を兼ねてジョギングする事に。
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いつもの散歩コースである街中を軽く走りながら眺めていると、あちこちで見えるのはハロウィンの装飾とお菓子の数々。どれも可愛いし、美味しそうだなぁと見るけれど──今は我慢となるべく見ないようにまっすぐ前だけを見ていた。
少し走っているところで、重たい荷物を持っているお婆さんが歩道橋を登ろうとしてるのが視界に入る。足取りもゆったりで、何よりも荷物がかなり重そう。七三子はお婆さんの元へ駆け寄るとにこやかに声をかけた。
「大丈夫ですか? 荷物、運ぶの手伝いますよ」
「おや、いいのかい? じゃあ、お願いしようかねぇ」
お婆さんから荷物を預かり、階段を登るのも手伝う事に。改造人間である七三子にとっては軽いものの、これだけ重いしと家まで運ぶと提案すると、是非という答えから家まで送り届けた。
「ありがとう、とっても助かったわぁ」
「いえいえ!お役に立てて良かったですっ!」
「ふふ、優しいのね。あ、そうだ。ちょっと待っててくれる?」
そう言って七三子を引き止め、家の奥へと向かうお婆さん。そして戻ってきた時には、コンビニの袋いっぱいに入った柿を手渡してくれた。
「これ、ウチで採れた柿なの。とっても甘くて美味しいから、お礼に受け取って」
「わぁ、こんなにたくさん!ありがとうございます!」
朗らかな笑顔に見送られ、手には柿がいっぱいの袋を手にジョギング再開。ケーキにしてもいいし、干して干し柿にしても良さそう。確かお酒のレシピもあったような?とどう食べようか想像しながら走っていると、今度は何やら困っているお兄さん達が視界に入った。
「あの、どうかしましたか?」
「ん?あぁ、実はこの先で秋祭りがあるんだけど。屋台の準備にと荷物を運んでたんだけど台車が壊れちゃってさ」
「まだ荷物は多いし、かといって時間も足りないからどうしようかと悩んでたんだよ」
大きな広場にて秋祭りの準備が行われているらしく、お兄さん達はそこで焼きそばの屋台を出すようで。必要な機材を運ぶ途中で台車のタイヤが外れてしまい、直すにも工具が無くて困っていたようだ。
お祭りを楽しみにする人も多いし、困ってると聞いたなら放っておくわけにはいかないと、七三子はグッと意気込みを見せた。
「なるほど……でしたら、私がお手伝いします!こう見えて、力には自信あるので!」
「いいのかい?正直、人手が欲しいと思ってたから助かるよ!」
「よし、急いで会場まで運ぶぞ!」
なるべく重たいものは七三子が請け負い、お兄さん達と何度が往復しながら必要な機材を祭り会場まで運んでいく。運び終わった後はテントの組み立ても手伝い、気付いた時には日も暮れ始めていた。祭りも始まりを告げるかのように祭囃子が聞こえ、間に合って良かったとホッと一息ついて。
「ありがと!お嬢さんのおかげで何とか間に合ったよ!」
「お礼に、俺達の焼きそば奢るから食べてってくれ!」
「えっ、良いんですか?!」
「いいよいいよ!たくさん食べてくれ!」
七三子は嬉しそうにお礼を伝え、その場で焼き立ての焼きそばをいただくことに。野菜もお肉もたっぷり炒め、そこに中華麺も合わせて炒めてからソースが絡められれば、香ばしい食欲をそそる香りが辺り一帯に広がる。
その匂いに誘われたくさんの客で賑わう中、出来たての焼きそばのパックを受け取る。中にはめいっぱい入っていて、これはアツアツを頂かねばと近くに見つけた休憩スペースへ。
「わぁ、美味しそう…! いただきますっ!」
ふぅふぅと冷ましながら一口食べれば、ソースの香ばしさと野菜のシャキシャキ感、それに加えてお肉のジューシーさも口いっぱいに広がって美味しいと舌鼓。量は結構入っていても、食欲そそる香りと味から食べ進める箸は止まらない。ふと七三子が気付いた時には、すっかりパック内は空になっていた。
「美味しかった……あ、そろそろ夕方だし帰りましょうか」
声かけられたハヤタは「わんっ」と一鳴き。だが、あちこちから漂う屋台の美味しそうな匂いに、いつしかあれもこれもと気になるものを買っていて。
柿を含め、たくさんのお土産を手に帰宅した七三子は、たこ焼きやフランクフルト、ベビーカステラとお祭りのお土産を食べて大満足。デザートにお婆さんからもらった柿を切って食べてみると、優しい秋の甘みが口いっぱいに広がって。
「ふふ、どれも美味しくて満足ですね。……そういえば、何か忘れているような?」
ふと何か忘れてる気がして首を傾げるけれど、後で思い出すかなと残りの柿をどう食べようかなと考えていた。
今日はたくさん走ったし、お手伝いもこなした。運動の疲れを癒そうとお風呂でゆったり汗を流し、風呂上がりに体重計に乗ったところで──出てきた数字を見て思い出す。
「だ、ダイエットするはずが……!?」
気付けば減るどころか、明らかにプラスになっている体重計の数字を見て目を丸くする。本来の目的はダイエットだったのに、これでは意味がない。
ガックリと肩を落とし、落胆するけれど。次こそはと気合いを入れ直し、次の日からしっかりダイエットに励んだのはまた別の話。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴 成功