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Electric "Lady" Lapis

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 移動するカーゴ内にてヒオウ・北火瀬はふと、傍の残骸に手を触れた。無造作に積み上げられた|それ《・・》は、かつての相棒である──決戦型WZ式戦闘機『ラピスフェロウ』
 この様な姿になろうがまだ『生きている』が、勿論動けはしない。核である『竜漿石』も損傷し、しかし何より──。

「イズモさん……あんたの支援を無駄にしてしまった……」
『反省は後に。あの状況では予測された事態でした。今は新たな|力《・》を手にし、反旗を翻す機を伺う事を優先としましょう』

 呟いたヒオウの言葉にラピスAIが反応する。ああそうだ、そのためにここに──。

 二人の会話を遮る様に、カーゴは静かに停車する。|残骸《ラピス》を運ぶ少女人形たちの邪魔にならぬよう降車を促されば、ヒオウは所長の葉鍵・八御とメイド──|スティルフラウ《Sf》と名乗った少女人形と共に施設を歩いていく。
 ラピスの新たな力を手にするために。



「おーうハカセ、何かめぼしいブツは見つかったかー?」
「ハカセー、この前のディスク、続きまた焼いてくださいよー」

 移動途中ヒオウの気付いた事に、男性スタッフ陣は葉鍵へ気さくに声をかけてくる。何故かやや半笑いなのと頻出する『ディスク』の単語が気になるが。
 だが、打って変わって少女人形からは──。

「えっ、男!?……まさかそっち属性も開花した……ってコト?!」
「チッ!! 戻りやがって、この死に損ないが!」
「もしもしポリスメン? ええ、歩く猥褻物が、はい、誘拐を……」
「半径100m以内に近付くなって言ったよね?」
「この変質しゃ……あれっお客さん!? ごめんなさい!」

 飛んでくるのは罵詈雑言……だけでなくゴミやモップの類いまで。
 一体どんな罪を犯したらこんな扱いになるのやら……しかし当の葉鍵はどこ吹く風。けろりとしながら「ツンデレは困っちゃうのう〜」などと宣っている。いや絶対違えよ。お前が嫌われてるだけだよ、と言えぬまま、ヒオウは研究所最奥へ辿り着く。

 そして開いたドアの向こう──。
 そこは、仰々しい研究施設……などではなく、壁一面に貼られた美少女ポスターやフィギュアの数々、なぜかでっけえ箱やビジュアルブックが床に積み重なり、その上に謎の布が……あ、これスク水だわ。なんでだよ。

 まあそんな、つまるところ「オタク部屋」であった。なんでだよ。

「これは……お目汚し失礼いたします」
「ああっワシのコレクションが!!」

 ヒオウの顔に察したのか、日頃の鬱憤か、Sfは無慈悲なまでの正確さでごっちゃりとしたそれらグッズを薙ぎ払い、PC前にスペースを作る。その横で葉鍵は酷い酷いと泣きつつ……おいスク水で涙拭くな、おい。
 そんなヒオウの冷たーい視線に気付くと、葉鍵は何故か無駄に咳払いをし、PCを起動させて話し始めた。

「さてヒオウくん、じゃったかね。儂は……儂も君と同じじゃ。大切な物を奪われ、踏み躙られ……故に戦闘機械に復讐を誓ったんじゃ。そう、素晴らしいこの国の文化を、壊滅せしめたヤツらにな。
 故に君とは同心に当たるわけじゃ」

 先程とは異なり厳かな顔で語り始めた葉鍵。その嘘偽りのない響きに、もしやこの姿や部屋は世を欺くために? とさえ思えてくるが、しかし『文化』とは?
 疑問の浮かぶヒオウを置いて、葉鍵は一人、何故かだんだんヒートアップしていった。

「……つまり、戦闘機械……彼奴らさえいなければ今頃どんなエロゲーが世に出ておったか! いかなる技術革新が! 進歩が! VR元年が! 同級生3が!!
 ああ、そんな儂の怒りに同調するように、世界中の喪男の怨嗟が聞こえてくる!」

 前言撤回。ヒオウは無言で、側に佇むSfを見、そしてただ小さく葉鍵を指差した。

(……こいつマジ?)
(はい。不治の病です、付ける薬もございません。無理です諦めてください)

 目を閉じて小さく首を振るSf。二人の間に言葉はいらなかった。この数秒で、まるで十数年来の戦友のように、分かりあった。
 マジか。マジです。……アンタも苦労してるんだな……。はい、恐縮です。

「……しかし諦めてなるものか! 儂は|ディスク《海賊版》を配布して同志を増やしながら、虎視眈々と業界復興の機を伺っておる……そう、儂には分かる……今この瞬間も全国主に北海道やら千代田区に萌芽する組合のああ萌ってそういう……さて、隙自語してる間にラピスフェロウの性能およびブラックボックスを読み取らせてもらった」
「なっ、いつの間に!?」

 ボーッと聞いていたヒオウは意表を突かれ、若干得意げな葉鍵にイラッとしながらも思うことに──こいつ……危ねえやつだな? 色んな意味で。今更。

「まあ、一介の防衛基地の中ではよく作ったほうだが、流石に量産は無理じゃな」
「じゃあ……」
「しかし出力をやや落としつつ……こうメイン機に主人格と機能判断を委ねて12機分。リワークしつつ彼奴らに対抗しうる手段をとるといったわけじゃ」

 スラリスラリと出てくる理論の、先程まで熱く『文化』を語っていたとは思えぬ様に、面くらいながらもヒオウは葉鍵の言を己の中で噛み砕いていく。

──そう、ラピスを少女人形に造りかえる。 
 そのためにここへ来たのだが若干、いまだどこか抵抗はある。しかしラピスの残した最後の一言、そして『彼女』の──。

「……分かった、葉鍵・八御、アンタにラピスフェロウの力を託す」
「相わかった」

 ついに決心し、ヒオウは葉鍵へ頭を下げる。そして、葉鍵はそれを厳かに受け止めると──。

「……で、ヒオウくんはどんな娘が好み?」
「……は??」
「こうさ男ならあるじゃろ〜、眼鏡っ子とか、委員長とか……やっぱおっぱいデッカいほうがよいかの?」
「だっ…おっ……!!」
「ほっほっほ、照れるな〜もしや貧乳派か……むっ?」

 言葉を続けながらも葉鍵が絶えず動かしていたコンソール画面。それは少女人形──ラピスの『設計図』と呼ぶべきか、体型や容姿を調整する機能、その画面を見て葉鍵は声を上げた。

「なっ、武装が……格闘術ぅ!? 今時格闘女子なんぞとんだピーキーな設定させよるなこりゃ……おっと、髪も弄れんのか。金髪ショートかぁ……お前さんこーいうのが好みなんかえ?」

 格闘術の覚えがある、金髪のショート──ヒオウは心の中で『彼女』の姿を、声を思い出す。そうか、イズモさん……あんたの意思が、此処に……。

「……好み、か。そうだな。嫌いじゃない……」
「ま、いいや。イジれるとこだけいじっちゃうぞい」
「おい、話を聞けよ!!」
「うっせえ! どうせ昔の女を思い出してるんじゃろこのリア充が!」
「バッ! そんなんじゃねえし!」
「あ〜ショート固定なら今流行りの後輩元気っこ属性でいくか! 口調は『〜っス!』か?『〜であります!』か?」

 コンソールを弄っていく葉鍵に、ヒオウは身を乗り出して横から口を挟んでいく。もう感傷に浸っている暇はない。こいつに任せたらヤバい。ヤバすぎる。

「テメェに『普通』はねぇのか!」
「そんなスタンダード属性はメインヒロインに任せておけ! もうこうなりゃサブキャラ属性でとことんいくぞ〜!」
「せめて俺の好みを──!」
「じゃあ言えい! ほらほら、さっさと言わんと〜……」

 ギャアギャアと喚く二人にSfは溜息を吐き、コンソールに映る『少女』の姿を見て静かに祈る。
 例えどんな姿であれ、これから生まれてくる『彼女』に幸在らんことを、と──。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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