All Hallows
「――ハッピーハロウィン!」
良いトシになっても、お祭りというのは面白い。賑わう商店街の広場。楽しげな音楽と共に、玉乗りしながらジャグリング! 昔に培った感覚というのはなかなか衰えないもので。『お金の代わりにお菓子!』なんてポップを貼った箱に放り込まれるキャンディの山。時給としてはこれで十分!
自分の事を道化のようだなと思ったのはいつのことだったか。二十歳になる直前くらい? 張り付いた笑顔に声色、演技がかった所作で話すものだから、よく信用できないなんて言われてた。今もだいぶそうだけど。
「やあやあ、ありがとうありがとう〜!」
音楽に合わせて球から降り、クラブをすべて手にとって大きく一礼。向けられる拍手とチップ代わりのお菓子が入る音が心地よかった。
人の目が向くのはおそろしくてたのしいことだ。失敗を恐れるのは……そもそも失敗しても道化師なのだ、あちゃーと大袈裟にリアクションして、別の演目につなげて誤魔化せばなんとかなるものだし……とか。
戦利品をトランクにしまって、さて次はどこにいこう。飴玉を舐めながら、歩く子供に声をかけられ、驚いたふりしてお菓子を渡して。大人も子供も夢中になれる遊びは素晴らしい!
――そして、結局ここに来る。
『不法侵入ですよ』
そう言っても通報されたことないし。言い訳を自分の中で重ねながら、固く閉ざされたフェンスを乗り越え、廃ビルへと登り始める。非常用階段の手すりを伝って、ボロくなってるところは避け、近場の窓のフチに足をかけ登っていく。ジャンプしたり飛翔すれば早いって? そんな無粋なことしないぞぅ!
ともあれ頂上だ。見下ろせば少し遠いところに橙色の灯り。ああきれいだ。
破壊したい。
どうしても過ぎる思考、頭を振り追い出して。貰ったクッキーをさくりと一口。かぼちゃ風味の優しい甘さだった。
「アルテスタ」
『はい』
「トリックオアトリート」
どうせ返答は決まってる。
『その質問にはお答えできません』
こういう返答を聞くたびに、少しだけ……故郷に帰りたくなる。秋はホームシックになる季節だ。なんてね。
でもまあ。俺には帰る場所がある。
ひとしきり、目下の光景を楽しんでからビルから飛び降りる。落下を制御し、衝撃を殺して。それからまた、街へ向けて歩き始めた。
もう一度だけ芸を見せて、それから、あの灯りの下へと行こう。
ああこの世界には、うつくしいものが山ほどある。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功