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すでに戦力は4割を切った

作者：一条もえる

●√ウォーゾーン、とある戦闘機械都市
「第一種戦闘態勢は解除されました、第一種戦闘態勢は解除されました。市民の皆さんは警戒を怠らず、周辺の安全を確認のうえ通常の生活に戻ってください――」
　市内に戦闘終了を告げる放送が鳴り響いている。
「やったぜ！」
「ざまぁ見ろ！」
　奮闘し戦闘機械群を退けた市民たちは歓声を上げ、手にした装備を返却しつつ元の生活に戻っていく。
　紛れもない勝利……しかし、市長・ナカオカの表情は硬かった。
「勝つには勝った……が」
　地区の集会所を臨時の前線司令室として指揮を取っていたナカオカは、安い作りの事務椅子に背中を預けた。筋骨隆々の彼が背を預けると、背もたれは折れてしまいそうである。
「フジタくん、被害状況は？」
「はい」
　放送のスイッチを切り、女性秘書は整った眉をひそめた。
「阻止地点としていた拠点は突破され、重点配備していた火砲は全滅しました。WZなどの機動戦力も稼働状態のものは残り少なく……幸い、その奮闘のおかげで市民の被害は少なくて済みましたが」
「歩兵だけ揃っていたところで……だな」
　次に敵の圧倒的な火力が迫ったとき、まさか肉壁になれとは言えない。
「市内各所の対空砲が健在ならば、対地用として転用できるかもしれません。その被害は現在、算出中です」
　そのとき、職員たちが撤収を始めていた臨時司令室の電話が鳴った。フジタを制し、ナカオカは自分で受話器を取る。
「私だ……ナカオカだ！」
「……誘拐犯の電話を取ってるんじゃないんですから、そんなにドスを利かせなくても」
　フジタの呟きをよそに、ナカオカは電話の向こうとやり取りをしている。
「フジタくん。残念ながら、対空砲の残存数はわずかに20％だ」
「そんな……」
　敵はしっかりと、その目標を捉えていたらしい。総合すると、残存の戦闘力は4割にも満たない。これは、壊滅したと言ってよい状態である。
「仕方がない、フジタくん。私が出よう！　WZを出してくれたまえ！」
「はぁ!?　あの旧式、動くんですか？　てっきり展示用かと……」
「整備は万全だとも」
「いや、それにしたところで市長が自ら……」
「動ける者が動くしかあるまい。なにも敵に突っ込んでいくとは言っておらん。防塁を築き直し、阻止拠点を整備し直すのだ」
　1時間後。WZに乗り込んだナカオカは、
「フジタくん、後は任せた！」
「いやいやいや、市長ひとりで行かせられるわけないでしょう!?」
「では、ついてきたまえ。しっかりとつかまってな！」
　肩にフジタを乗せ、WZは急発進した。

●作戦会議室（ブリーフィングルーム）
「ここが、戦闘を終えたばかりの戦闘機械都市だ」
　作戦卓に、綾咲・アンジェリカ（誇り高きWZ搭乗者・h02516）は地図を表示した。地方の、小さな市である。こんなところにも、戦闘機械は襲い来る。
「先の襲撃は、なんとか撃退したようだが……」
　それなのにアンジェリカが皆を集めたということは。
「そうだ。敵は諦めてはいないようだな。さらなる攻撃を予知した。
　……まずいことに、先の戦いで市の戦力は大きく減じている。襲来する『尖兵型小型機甲兵器』は量産機ながら、市民兵の持つ小口径弾ではそのシールドを貫通できないだろう。
　敵はそれを承知したものか、先の戦いで攻勢をかけた方向から進撃してくるようだ」
　アンジェリカが地図上に、敵の予想侵攻ルートを示す。赤い矢印は、郊外の丘を乗り越えてくる格好で中心地まで至っていた。
「そこで諸君にはまず、阻止拠点となっていた丘を簡易陣地として再整備してもらいたい」
　そこは築いていた防塁もトーチカもほとんどが失われ、また車両が通行する舗装路も砲撃によって多くが破壊されているようだった。
「諸君らのいるところが、難攻不落の城塞となる！　さぁ、栄光ある戦いを始めようではないか！」

第1章 冒険 『防衛不可能』