シナリオ

大火の海、灰の中でさえ讃えられるべきその名は――

#√妖怪百鬼夜行 #ノベル

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 賑やかな都市より周辺に位置する溝や堀で囲まれた、区画。
 |密羽・守康《みつは・もりやす》(梟眼の門番・h00596)には、普段の街々の姿よりもこちらのほうが綺羅びやかに見えていた。守康にとって梟霊の影響で人より強くその目は夜目に効く。不法侵入など百発百中に不届き者が在ると梟が如く言動で鋭く射抜くのだ、招かれざる客など当然許さない。
 追い返した数は数知れず、摘発し通報した数も優秀と言葉が太夫から贈られたことさえ在るほど。
「ふふふ、そこは適任ね?」
 体質が役に立つと肯定されて、人生の居場所とも言える遊廓が門番として立つ。
 客人が通る唯一の道からみる世界は特に夜に煌めきがあった。

 その日訪れた顔ぶれも、名のある妖怪の常連が多く――だからこそ、呼び止めた者は多くない。払うべき銭や金を、持たぬ者がこの道を通って往くとは思わなかった。
 ばちりばちりと爆ぜる火をたんまり腹まで肥やした|客《火鼠等》も見た。
 だが、何時も同じ時間が続くと――思っていた。


 *

 全てを寄越し給えよ。
 喰ろうてやるぞ何もかも。
 否と申すか、生意気で美しい太夫共。
 おお、高潔なる意思である。此処には劣情を含めなんでもある!
 だが、だがそれすらも熱い情念が一つ。
 喰らうてやろうとも、さすればこの場全ての情念は一切合切こちらのものだ!

 *


 どんな会話がどこであったかは、守康にはわからない。
 ただ――守康の目を持ってしても異常に気がついたのは叫ぶ声が先で、遊郭から直接登る煙の群れと炎の波を次いで見た。
 賑やかさと華やかさを全て飲む、悪夢の光景が目を焼いた時。
「……あ」
 立ち並ぶ綺羅びやかな妓楼も、人妖立ち並ぶ食事処も、遊郭の中で賑わう場所全てが炎に焼かれがらりがらりと崩壊の音を立て木造たる燃え移る速さを薪に焚べた可能用にあっという間。今すぐ駆けて行っても、既に遅い。
 悪夢の火の手は逃げる道を最初に絶っていた。
 火柱を穿ち、焼け落ちた柱は倒れ――叫び声は客の熱いと、助けてと、働く者たちの「逃げるならあちら、あの門番が立つ方へ!」「あそこへは火は届いていない!」「振り返らずさあ私らのことは気にせず早く通りゃんし!」凛々しく、客第一の考え方。手が空いた者も、そうじゃない者も遊郭へ訪れた者を逃がすため誰もが廊下を走っていたが――不思議と"誰かが足りない"と思うに留まった。

 見たことない新規の客に、情念を喰らう古妖がきた?
 封印を解かれた古妖を通して――誰もが炎に喰われてしまった?

 誰も答えを知らず、しかし全てを灰の中の換えていく。
 燃える燃える遊郭は、最後まで立派で――最後まで生き様のように華やいで輝いて見えた。
 焼けて落ちる後に残るは躯の数だけ残るべき、命が存在した証拠の灰ばかり。託されたのだ、と守康は灰と煤を被りながら逃げる者たちの殿を努めて持ち場を逃げる。自分たちの代わりにできる限り救えと、太夫の声に叱咤されていた気がしたから。

 守康は梟霊の影響でなまじ人より強かった。故に、助けれる事が出来た数は比較的多かった。感謝の言葉も幾つも聞いた。
 ただ、心はどこか、|穴が空いた《欠落》したようで――。

 失われた。亡くした。
 遊廓の誇りであった高名な太夫その人も関係者全員の墓も、誰かが立てなければ。
 しかし、遺品どころか骨の一片すら、どれが誰のものだかわからない。
 地獄の火炎が全てを、灰に変えてしまった。

 守康が跡地で選んだのは、泣き崩れることでも嘆くことでもなく遊郭が象徴であり顔であった瑠璃太夫の墓を跡地に立てること。叱咤の声、色んな声を纏めていた誰よりも逃げずを選んだ太夫。
 あの人有り気と謳われた人物の墓を立てることで"此処に遊郭があった"のだと。
 思いを寄せ、集い遊郭に生きた人々も此処に居たのだと――この場に在るべき漂う記憶を束ねた|楔《Anker》を。
 ほとんど全てを大火によって消失してしまったが|墓標《Anker》は一人の名で正しく在りし日を映すだろう。

 燃え落ちた記憶の遊郭は、此処にある。
 其れは一人の女に非ず。吾らの誇りであったから。

 居場所は此処に、守康は√能力者へと至る事になる。
 生き延びたからには、相応に根無し草のまま羽ばたくべきだと自らにもそれ相応な融通を与えながら。
 遊郭の働き手としての教えは此処に。
 今も尚、この|胸《記憶》の中に――生きているから。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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