見るも無惨
語るも無惨な有様であった。
言葉とするならばそのように。災厄とはいえヒトの形をしていればそれはヒト、だとして、それがヒトの形を保っている事そのものが奇跡というべきか。後頭部から未だ滴る血液は、烏の群れる打ち捨てられたゴミ箱の中、溜まって行くばかりである。
前略。彼がこの様な姿になった理由、察しの良い者なら幾らでも挙げられよう。恨みを買った、油断した、取り立てを一人で行った――追い詰めた男の薄らとした笑みに気付いたのは、頭部に向かって振り落とされる鉈を見た後だった。
まだ生きているのか、当然と返す前に口に突っ込まれた布きれ、肋に足を置かれ引きちぎられんばかりに引かれた腕。肩と肘の関節が外れた。そのままぐっと半回転、捻られれば右腕の動きが止まる。
善くはない意味で高鳴る心音、頭を踏みつけながらぎちり腕の皮膚が裂ける音がした。滴る生ぬるさが腕を伝う。掴まれたままの腕、背を強く踏みつけられ軋む肋、よりも先に肩甲骨と鎖骨が外れた。
動こうとした左腕、鉈が振り下ろされる。さよなら手首、また会えるか。断裂。
下手には死ねぬ|体《災厄》である。右腕の代わりに掴まれたのは編まれた髪。仰向けへと返され、足の付け根に鉈。良い物を持ってきたものだ。脚の間に割り込んだ男、取り出したナイフで鳩尾をひと刺し。ぐ、と上へ。込み上げる吐き気と共に上がる切先が肌を、筋肉を切り開き、胸骨が露出した。ばきり踏み砕く脚は先ほどはそこで震えていた男のもの。
破れた肋を雑に切り取り外し、邪魔とばかりに肺腑が外へと避けるように放り出された。浅くなる呼吸まだ死なない死ねない、胃に腸に膀胱にと切り裂く刃は楽しげだ、汚物を好む必要はなかろう。当然あちらも好んではいない笑うだけだ、辱めるために。ごぼり血と吐物を吐き出した。肝を割られれば動物のそれだと、当然似ているに決まっている。売り払えるだけの健康さは当然ない――。
手に取られた心臓。切れ味の落ちたナイフがぎちぎち音を立てながら血管を裂こうと足掻いている。血液が溢れる、心房が囁くようになる、……意識が遠のく――。
――全く趣味が悪い。死体の処理まで己の手。股座に血液以外の汚れが見えた。辱められるならどこまでも? くだらない。無駄と云ったのに。
ああ逃さぬこの禍から。待っていろ。地の底まで追ってやろう。
……狼の影が己の死体を喰らっている。味は如何と聞く必要は、ない。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功