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「トリックオアトリート!」
 声高に叫んだ子供たちが蒼翅・レジットを見上げてくる。今日はこの姿に慄く子はいない。
 ツギハギの肌も、それを隠すように巻いた包帯も、昏い笑みも、誰も疑問に思わない。
 蒼黒く染めた爪がひらりと空を泳ぐ。
「やあやあ、お菓子をあげるから、イタズラは勘弁してくれるかい? オバケさんたち」
 おどけてみせて、レジットはバスケットの中の包みを一つずつ子供に手渡しする――その小さな包みが隠しているものを見た瞬間、黄色い声に本気の怯えが混じった。
「どうかしたのかな?」
 そこに詰め込んだのはレジットの綺麗なモノだ。
 燃え盛る命の煌く瞬間を閉じ込めた――それはレジットの宝物のキレハシ。なんとも綺麗ではないか。蝶の鱗粉のひとつひとつを再現してみたかったのだが、それをクッキーで作ることは難しかった。青や白、黒で彼らの煌きを模してアイシングで描いた最高傑作。
 まさか、割れて無残な姿になっているから哀しくて悲鳴を上げてしまったのか。レジットは心配になって包みの中を覗いてみれば、果たして虫達はとても綺麗な姿のままでいた。
「なんだ良かった、無事じゃないか」
「なん、で、虫…?」
「ん? 綺麗で可愛いだろう? ご覧、かの有名なブルーモルフォだ。この青を表現するのが難しかったんだよ。それからこれがウスバアゲハ。本当はもっと透ける程に翅が薄くて美しいけれど、クッキーだから仕方ないね、嗚呼、でもとても綺麗に模様を描けたんだぁ」
 虫型のクッキーであることは伝わったらしいが、彼の友人は早々に逃げ出して、彼も頬が引き攣ったままだ。
「綺麗なうえに美味しいなんて、君らはとてもラッキーだね。僕も大好きを詰め込めた、しかもそれを食べてもらえるなんて僕も嬉しいよ」
 らんらんと踊り出してしまいそうな程に舞い上がっている。
「あ、ありがと…!」
「いいってことさ、ハッピーハロウィーン!」
 レジットはひらひらと手を振って、彼らを見送った。

「虫だってよ! どうすんだ、これぇ!」
「食べる? ほんとに食べる!?」

 彼らの困って嘆く叫びにレジットは驚いた。
 喜んでくれたわけではなかったのか。こんなに綺麗なのになぁ…丹精込めて作ったクッキーを摘まんで、さくりと食らう。
 でも今日は善い日だ、私の好きを分けてあげられる。もっとお裾分けしたいな――うっとりと蒼い双眼を三日月のように細め、頬に笑みを刻んで、ゆったりと歩き出した。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​ 成功

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