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不浄の主

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 我等が父、ヨグ・ソトトに、神威あり。
 重要なのは部屋の大きさではない。我々が重要視すべきは部屋の中央、台座めいて設置された『球体』の事だ。この『球体』を維持しなければ、保持しなければ、最悪、人類が絶滅する可能性を孕んでいる。いや、可能性を孕んでいるのではない。確実なのだ。この『球体』の何処かしらが欠けてしまった場合、あらゆる業務を無視して『鎮圧』しなければ成らないのだ。我々は、あの『球体』の中身を理解している。理解しているからこそ、なるべく、穏便に事を成さねばならない。いや、まったくあの総帥も随分と酷な命令をするものだ。我々にあの『球体』の表面を――丸っこいところの――点検をしろ、だなんて。もしも、感受性の豊かな職員が錯乱して『球体』を壊そうとしたならば、如何するのか。勿論、その際の『対処』はレポートに記されている。つまり、正気を失くした職員の『退職』だ。……各員、配置についたか? では、これより【清掃業務】を開始する。ペアを組んだ者同士、お互いの表情その他の確認を怠るなよ。ああ、怠ってはいけない。職務怠慢が引き金となって最悪が、災厄が覚醒するなど――よくある話であるが故に、緊張感を殺してはならない。
 清掃の作業は想定していた以上のペースで、拍子抜けするほどに、スムーズに行われた。誰一人発狂する事なく終盤へと差し掛かったのだ。勿論、油断してはいけないが、此処まで出来たのであれば、あとは『隙間を埋める』だけの事だろう。作業を終えた者から退室し、精神が汚染されていないかのチェックを行うこと。異常のない者から退勤とする――。最後の一人が部屋を出た瞬間、不意にやってくる嫌な予感。これは、確実に『当たる』ものだ。各員――違う――総員、傾聴! 速やかに作業を止め待機! 退勤した者も済まないが残業だ。おそらく、球体の中にいる『もの』が目覚めている――! 防音は完璧だった筈だ。だと謂うのに、この、途轍もないほどの、獣の咆哮は何だろうか。総員、武装して後、部屋に集合せよ。集めた職員の数は把握出来ている、文字通りの全戦力だ。遂に、遂にこの時が来てしまった。だが、あの『球体』が崩れなければ此方にも勝機は……? 揺れる。揺れる。天地が……世界が……狂ったように震えている。地震……莫迦な。まさか、奴が何かを呼んだとでも謂うのか――ぶちりと嗤ったのは命綱だ。どろりと赤黒いものが垂れる。
 最初に犠牲となったのは最後まで作業をしていた職員だった。彼はおそらく職員の中でもひと際『警戒心』に秀でた人物だった筈だ。だと謂うのに彼はまったく抵抗の素振りをみせず、じっと、魅入られたのかと思うほどに『青黒い煙』を見つめていた。何かしらを叫ぶよりも前に、何かしらを訴える前に、誰かの為に言の葉すらも遺せずに――くぱりと、呆気なく喰い殺されたのだ。啜り尽くされ、吸い尽くされ、木乃伊よりも木乃伊らしくされて終った彼を皮切りに戦闘は――いいや、虐殺は――蹂躙は幕を開けてしまった。我々はこの記録を、記憶を、如何にかして総帥に送らなければならない。だから、私だけは覚悟を決めて。最後に最期を迎えなければならない。総員! 申し訳ないが、殉職してもらう! 遅かれ早かれ我々は死ぬのだ。ちなみに、逃げてくれても構わない。しかし、なんだ。少しくらいは良い思いをしたって文句など謂われないだろう。我々は『フェンリル討伐隊』! その程度の名前くらい、貰ったって問題ないだろう。さあ、総帥に魅せてやろうではないか。我々が世界の為に、人類の為に、勇姿を魅せた事を――!
 畜生……畜生が……! アタシの部下をあんなにも、腐った麺麭みたいにしてくれやがって。糞でも喰らってろ、あんのバケモンめ……! 特殊部隊のリーダーであるアタシは幾つもの任務に参加して、その度に『怪異』を鎮圧、或いは解剖してきた。あらゆる狂気を、あらゆる死を経験してきたアタシにとって並大抵の化け物など其処等のガキと同列と謂えた。だが、如何だ。聞いていたよりも凄惨な、思っていたよりも冒涜的な、あの狼モドキは。※※※※……! この日の為に訓練してきたんだ。アタシが、アタシ達が、こんなバケモンに蹂躙されるなんざ、赦されねぇ……。セオリーなんてものは通用しないと初めからわかっていた。わかってはいたが、まさか、バリケードすらも無視されるなんて、結界すらも跳躍してくるなんてイレギュラーの中のイレギュラーだ。おい、正気は残ってるだろうな野郎ども! アタシ等の弾幕、あのバケモンに腹いっぱい喰わせてやれ……! なあ、聞いているのか野郎ども! 聞いてんなら返事しやがれ! ちぃ……! もう全滅したってのか? 仕方ねぇ。アタシも、クソッタレな命を散らすとしようか。ジッと息を潜めて奴が出現するのを待つ。待つ、待つ、案山子みたいに、待つ……。肩を叩く野郎がひとり。はっ。生きてんじゃねぇかよこの野郎! さっさと得物の用意をしやが……れ……? 隊長……なんだか、おれ、腹が減って仕方がねぇんだ。おれ、隊長のことが、喰いたくて喰いたくて、たまらねぇんだ。……※※※※! 感染……汚染だと? あのバケモン、莫迦みたいに強いクセして『そういうこと』も出来るのかよ! しゃあねぇな。こりゃあ、アタシも、ガキの顔拝めそうにもねぇや……。
 号哭だった。人間を――特殊部隊その他を――殺し尽くし、変異させた結果、あの存在は『怨み』とやらを増幅させたのだった。最初は棘のような鋭角のみで構成されていたアレ、徐々に徐々に『ひと』としてのカタチを取り込んで、より、邪悪さのような何かを膨らませて往く。残っている清掃員たちは錯乱し、狂乱し、右往左往としているだけか。一人、また一人と襲われ――皮膚が爛れ、肉が泡立ち、この世の物とは思えない絶叫と共に『変』えられていく。映像記録として残したくないと、報告書としても残しておきたくないと、そう、考えてしまうほどにはおぞましい、未曾有の無様――だからと謂って我々は、私個人としても、この狂気を隠蔽してはならない。そうだ。知っての通り奴は鋭角から鋭角へと跳躍し、あらゆる場所に出現する。故にこそ『球体』は造られたのだ。されど『球体』すらも破壊してしまう『覚醒』なのであれば――最早、収容など不可能なのではないか。ヤケに世界が沈黙している。これは私の最悪の予想なのだが、私以外は『退職』して終ったのだろう。嗚呼、本部への報告は……総帥への連絡だけは……如何にか『完遂』できた。あとは私が――あの猟犬の口腔へと、身投げをすれば終了なのだろう。さあ、かかってこい、化け物め。私が貴様の胃袋とやらを、怨嗟とやらを、ミリ単位ほど埋めてくれよう……!
 ――俺達は、手遅れなのか?
 ――手遅れなんだ。お終いなんだよ。
 臓物と骨のオブジェですら可愛らしい沙汰であった。無数の混血が世に放たれ、今、この瞬間も『同族』を増やしているのかもしれない。本体である人間災厄「大君主ミゼーア」の行方は不明だが、これを【処分】出来なければ人類は存在していた痕跡すらも塗り潰されるであろう。【窮極の門】のオットー総帥曰く――世界は人間の物であり、決して怪物が土足で踏み入っていい物ではない。戦争だ。戦争をしなければならない。
 ――我等が『父』の光輝で以て、怪物を滅ぼさなければならない。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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