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√Ethics ≠Near『ホラー・ナイト・アフター』

#√ウォーゾーン #ノベル #ハロウィン2025

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●√
 疲労、という概念はサイボーグには無縁である。
 しかし、それは肉体的な意味だ。
 人類の倫理観は終わっている。もはや、そのような価値観は人類にとって意味をなさないし、用をなさない。
 それほどまでに戦闘機械群は圧倒的であった。
 人間の倫理観など持ち合わせていたのならば、代用型と呼ばれるサイボーグは生まれていない。
『あの子』のことを思う。
 この拠点は、元はと言えばショッピングモールであった。
 けれど、戦闘機械群との戦闘によってただの拠点へと変わったのだ。
 だから、区割りや部屋割といったものは出鱈目だ。その一室は、嘗ての『あの子』の部屋だ。
 学徒動員兵。
 その寮となった一室。
 荒廃をツギハギの日常で覆い隠した、不出来な書き割り。
 それがここだ。

 そんなことを三奈木・葵衣(Unluck she・h05582)は、披露した思考の中考えていた。
 肉体……つまりはサイボーグ義体の損壊箇所は多くない。チェックを走らせても異常は検知されない。
 義眼の調子も悪くはない。
 接続は良好。
 躯体の損耗も見受けられない。
 だから、帰還を果たした拠点の中で待機しなければならない。
 披露しているのは、精神だ。
 常に彼女の脳には疲労が溜まっていく。サイボーグであったとしても、その部分だけはどうにも疲労から逃れられない箇所であった。
「ふ、……」
 息を漏らす。
 意味もない行動だが、常に頭の中で『あの子』なら、という思考が走る。
 ここに誰かがいたのなら、なおさら。
 だから、誰も周囲にいなかったことが幸いだった。

 今はこの疲労した精神を休めたいと思った。
 自室の前に足を一歩踏み入れようとした瞬間、足元に連れ立っていたレギオンたちが一斉に鳴いた。
 鳴いた、というのは警告音を発した、というのが正しいかもしれない。
「ぴーぴーっ!」
「……え?」
 瞬間。
「ねーーーちゃーーーんッ!!!」
 弾丸。
 そう誤認識するほどの速度で己に飛びついてきたのは、三奈木・二藍(Missing In action-1・h08865)であった――。

●√
「ねーーーちゃーーーんッ!!!」
 レギオンたちが葵衣の周囲から音を立てて飛び散っていく。
 まるで蜘蛛の子を散らすようだ、と二藍は思った。
 葵衣は心底驚いたように身をすくめさせていた。
「に、二藍ちゃん!? え、なに、え、どうしたの!?」
 上ずった声。
 けれど、関係ない。
「ハロウィンっすよ!! ハロウィンといえばホラー!! ホラーといえば?」
「えっ、えっ、わからない……」
「これっす!!」
 二藍のテンションの高さに葵衣はついていけなかった。
 一体全体なんなのか。だが、その彼女が自分に示したDVDらしきパッケージには、なんとも言い難い恐ろしげな雰囲気というものが漂っているように思えた。
 こころなしか、ネガティヴなオーラがまとわれているように面ならなかったのは気の所為か?
 なのに、肝心の二藍はにこやかに笑っている。
 こわい。
 別の意味でもう怖い。
「ほ、ホラー? な、なんで……?」
「なんでって、ハロウィンだからっす! さ、一緒に見ましょう!」
「えっ、やっ、えっ!?」
「猫ちゃんたちもスタンバってるっす!」
 二藍が指さした先には、先程蜘蛛の子散らしたように逃げ出したレギオンたちが集まってきているではないか。
 こころなしか、ちょっと乗り気に見えるのは気の盛夏。

「うそ……」
「猫ちゃんたちもノリ良いっすねぇ」
「本当に観るの……?」
「観るっす」
 うそでしょう、と言う顔をする葵衣。
 わかる。絶対見たくない、と顔が言っている。けれど、彼女は断らない。断れない。知っている。けれど、二藍が猫と言ったレギオンたちはノリノリで持ってきたDVDパッケージを運び、開封している。
 しかも謎にDVD読み込み口があり、さらにはアイセンサーからはプロジェクターよろしく映写機能まで備えている。
 至れり尽くせりってやつである。
「ねーちゃん、こっちっす! ソファ!」
「……そ、ソファ!?」
「ただのソファっすよ?」
 葵衣はビクビクしている。が、そこに断るという選択肢は存在していないようだった。

「じゃ、まずは手始めにこれから観るっす! 初心者編ってところっすね!」
「な、何が一体、何をもって初心者ってことになっているの……?」
「メジャーどころって意味っす! ほら、はじまるっすよ!」
「ぴーぴーっ」
「上映中はお静かにって……え、あなたたちそんな機能あるの!?」
 今更である。
 レギオンたちは、まかせとけい、と言わんばかりに躯体を揺らした。
「なんで、私、知らないの? えっ、戦闘に寄与しない機能だから? そうなの?」
 そういうもんだいかなーって思わないでもない。
 けれど、姉……の形をした別物……意地でも代用なんて、二藍は言えない。
 だって、それを代用と呼んでしまえば、もう二度と姉は虚構から戻ってこれないよな気がしてならない。
 いや、線引は出来ている。
 出来ているのだ。
 けれど。

 似姿と呼ぶ代用の彼女から目が離せない。
 姉は虚構へと消えた。
 もう二度と会えない。二度と触れることもできなければ、二度と話すこともできない。 
 認めてしまっている。
 けれど、何の因果か。
 眼の前には姉そっくりに変わらない誰かがいる。
「あっ、あっ、あっ、あの、あれ、なに……? 何か、白い、お面みたいなのを被った、あれ」
 初心者用だっていうのに姉の似姿の彼女はまったくもって姉らしくない狼狽を見せている。
「ねーちゃん、このマスクのやつ走るともっと怖いっすよ」
「立ってるだけで怖いんだけど……」

 どるん、とそういった瞬間、音響からエンジンの音が響く。
 鎖鋸の音。
 同時に、姉の似姿、葵衣がこちらを見ている。
 姉は言っていた。
『怖い話は生きて帰ってきた人の特権』、と。
 だから、彼女は帰って来るたびにホラーを好んでみていた。
 今の彼女のように涙ぐんだりしていない。
 けれど、それが自分の姉に対して抱いていた像と乖離していて面白い。
 ニヤニヤとしたこちらの顔に気がつたのか、葵衣は、きゅ、と唇を硬く結んでいた。
 きっと叫びそうになっているのをこらえているのだろう。

 きっと『私』の期待に応えようとしているのだろう。
 健気だ、と思う。
 震える肩に肩を寄せると、少し安心したように震えが止まるが、またすぐにビク、と体を震わせている。
 そんなにか、と二藍は思う。
 あんなに虚構の恐怖が好きだった姉は、自分の虚構そのものとなった。
 もうどこにもいない。
 誰にも知られることはない。
 けれど、彼女は――アオイねーちゃんは現実で半泣きになっている。
 自分に涙を悟らせまいとしている。
 サイボーグなんだから、どうにでもなろうというものなのに。
 それでも彼女はこらえている。
 なんだろう。

 この世界。

 全部が虚構なのだろうか。
「ま、まだ? まだ終わらない……!?」
 葵衣の言葉に二藍は笑う。
「終わったかもっすねー」
「……本当? ……終わってない!!」
 笑ってしまう。
 そう、よくわかった。
 二藍は、自分は、こういうのが、きっと嫌いじゃあないのだ。
 だから、未だに怯える姉の震える肩の暖かさを知って、別の意味で笑ったのだった――。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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