シナリオ

描いた未来を文字にして

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●宿題
「ねえねえ、作文書けた?」
「あたし終わってなぁーい!どうしよー!」
「作文用紙二枚以上って多いよねー」
「おれ終わったー!」

 帰りの会が終わった後の掃除の時間。みんな、明日の国語の授業で持ってくる宿題の話をしてた。
 書き終わったって子が半分、まだって子が半分。ぼくはまだの方。

 一週間前に出されたのは『将来の夢』を書くって作文の宿題。
 大きくなったらどんな仕事をしたいのかを作文用紙二枚分は書いてこないといけない。
 二枚って言われた時にはみんな「えーっ」て言ってたけど、先生はやさしく話してくれた。

「みんながどういう理由でその夢を見つけたのか。どうしてその夢を追いかけたいと思ったのか。まずは思いつく限り違う紙にメモしてみよう」
「そうしたら、きっとこの紙二枚分では済まないくらいたくさんの気持ちが見えてくるはずだよ」
「この宿題は、君達がまだ形に出来てないたくさんの気持ちを、文字に残すための宿題です」

 先生はゆっくり話してくれるから、後ろの方の席にいるぼくにもよく聞こえて、わあわあ騒いでたみんなはしんと静かになって聞いてた。
 それなら書けるかも?何になりたい?そんなヒソヒソ声でいっぱいになって、先生はにっこりしてた。

「来週のこの授業までに書いてきてください。うまく書けなくなったら先生に相談しに来てもいいからね」

 先生がそう言った後に終わりのチャイムがなった。
 それからあっという間に一週間がたって、今日になった。明日、作文を先生に渡さなきゃいけない。
 本当に書けない子は先生へ相談しに行ってた。職員室に行ったら先生はいつでもにこにこ話を聞いてくれる。
 中には先生とお話したいだけの子もいた。そういう子の話も先生はにこにこ聞いてる。

 ぼくはこの一週間、一回も聞きに行ってない。

 本当はお話したいけど我慢した。「おはようございます」と「さようなら」だけはきちんとして、他の事はぐっと飲み込んでた。
 先生が嫌いだからじゃない。先生を驚かせたいからだ。これはぼくひとりで書かなきゃダメなんだ。
 放課後の校庭遊びもしないまま、先生に挨拶してからまっすぐ帰る。
 だって学校にいたら書きたいことが毎日どんどん増えてく。どれを書こうか迷ってるうちにあっという間に今日になっちゃったんだ。

 家に帰ったら部屋に戻って、ぼくは勉強机と向き合った。
 書きたいことがたくさんになったメモを整理して、書きかけの作文用紙を広げて、どれを書こうかを悩みながら鉛筆を動かした。


◯しょう来のゆめ
三年一組 まつ本 そら

 ぼくのしょう来のゆめは、プロレスラーになることでした。
 ようち園の時にお父さんと見たプロレスのし合がとてもかっこよくて、ぼくも大きくなったら強くてかっこいいプロレスラーになりたいと思ったからです。

 でも、ぼくはプロレスラーになれないことが分かりました。ぜん息という病気になったからです。
 運動すると苦しくなって、うまく息ができなくなります。天気がわるくても苦しくなる時があります。
 大人になるまでに治せるよ。とお医者さんは言ってくれましたが、体育のじゅ業でも見学することが多くなってました。
 強くなるとっくんもそんなにできなくて、ぼくはどんどんかなしくなりました。

 そんな時に、ぼくをはげましてくれたのが花園先生でした。
 ぼくが内しょでとっくんしてる時にすごく息が苦しくなって、ひとりきりで、このままどうなるんだろうと暗い気持ちになってました。
 そこへ花園先生が走ってきて、ぼくをほけん室に運んでくれました。
 花園先生は薬を持ってなかった事やこっそりとっくんしてた事をしかりました。でもぼくの頭をなでて、
「あせらなくていいんだよ。少しずつ強くなろう。まつ本くんがゆめをかなえられるように、先生もきょう力するよ」
 と言ってくれました。
 今までひとりでも強くなろうとしてたぼくにとって、先生の言葉はとてもたのもしかったです。

 それからはむちゃなとっくんは止めました。お医者さんや先生と相談して考えた運動を、時間を決めてやるようにしました。
 息が苦しい時にはちゃんと休んで、少しずつ運動する時間をふやすようにしました。
 すると、少しだけど前よりも動けるようになってきました。とてもうれしかったです。

 けれど、ぼくのゆめはかわりました。
 プロレスラーをあきらめたんじゃなくて、もっといろんな人の力になって、いろんな人のゆめをかなえたいからです。
 今のぼくのしょう来のゆめは、花園先生みたいにだれかの力になれる、学校の先生になることです。


●書き終わり
「〜〜〜〜っし!書けたぁ!!」

 鉛筆を机に放り投げて、ぼくは書いたばかりの作文用紙を見つめる。
 書いて消して、書いて消してを何度も繰り返して、頑張って書き上げた作文は宝物の地図のようにキラキラして見えた。

 花園先生はすごくカッコいい。
 二年生の時の担任の先生で、ぼくよりうんと背が高いけど、話をする時には必ずしゃがんでくれる。
 父さんより大きくて力持ちで、本当は走るのも速いけど、みんなには内緒にしてるらしい。
 そういう「本当は強いのをみんなに隠してる」ってヒーローみたいだ。だからぼくもみんなに言わないって約束した。
 狼の仮装をしてるのはちょっと変だけど、狼は強くてカッコいい動物だから先生に似合ってる。
 女の子は「わんちゃん」みたいでかわいいって言ってた。カッコいいのに。

 でも、先生に直接言うのは恥ずかしくって、二年生の時には一回も言えなかった。
 カッコいい!は三年生になってからなんとか言えたけど、プロレスラーになれなくてもいいって言えなくて。
 本当は先生みたいな大人になりたくなったって言えなくて、ずっと心がむずむずしてた。

(でも、書いちゃった。先生みたいになりたいって)

 たくさん考えて、考えた事を文字にして、形にして、書いていく度にむずむずが消えた。
 書いていく度にどきどきして、やりたい事がはっきりしていった。
 やっぱりぼく、先生みたいになりたい。
 三年生の担任の、斉藤先生は悔しがっちゃうかな。あ、先生も花園先生のことかっこいいって言ってるから分かってくれるかも?
 ってそわそわしてたら、部屋の外からお母さんの声がした。もう晩ご飯の時間だ。
 忘れないようにちゃんとファイルに挟んで、ランドセルに入れておく。

 先生はどんな顔するかな。喜んでくれるかな。驚くのかな。
 我慢してた分、明日は先生とお話したいな。先生になるためにどんな事が必要なのかとか、そういうのも教えてほしい。考えてるとぼくまでニコニコしてきた。
 学校に行くのが楽しみだ。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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