リボンとレースで綴るハッピーハロウィン
眩しい夏が思い出と共に過ぎ行きて、街にも人にも柔らかで落ち着いた秋が訪れる。
少し昔なら次に世間が浮足立つのは冬のイベントだったのだが、近年は秋の終わりに掛けて街中がオレンジと黒、紫で飾り付けられて――。
◆
「秋沙ちゃん。ハロウィンの日に私の隠れ家の近所の商店街でイベントがあるみたいなんです。」
見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)は例によってポスト投函されていた案内を思い出して、可愛い義妹にお伺いを立てる。
「よければ仮装をして、一緒に遊びに行きませんか?」
大好きなお姉ちゃんからそんな素敵なお誘いを聞いた瀬堀・秋沙(都の果ての魔女っ子猫・h00416)はくるりと瞳を輝かせて元気良くお返事をした。
「いく!」
ふわふわの耳と尻尾がぴんと立ち、全身で期待と喜びを表現する秋沙が可愛くて七三子も笑う。
そんなお話をしたのが、少し前。
――そして仮装の準備を整えて、迎えた当日。
「ふふふ! すっごく素敵なお仕立てをしてもらったにゃ!」
衣装を着込んでにこにこの秋沙の仮装はフランス・アルザス地方の民族衣装。
「秋沙ちゃん、今日もすっごくかわいいです! 大きなリボンがとってもよく似合ってますね。」
「ふふ、ありがとうお姉ちゃん! 猫もお気に入りなのにゃ!」
髪を飾る大きなリボンと彼女のトレードマークでもある錨のチャームを揺らして、秋沙は喜びにぴょんぴょこ跳ね回った。
その姿が本当に愛らしくて七三子は心配スイッチが入ってしまう。
「こんな格好で商店街のイベントなんか行ったら、たちまち人気者になってしまうのでは。ち、ちゃんと守らないと……、」
あわわと決意を新たにする七三子も、ちゃんと此の日の為の仮装に身を包んでいる。
「わ、わ! お姉ちゃんは赤ずきんちゃんにゃ? かわいい! レースの入ったエプロンもいいにゃぁ!」
秋沙はくるくると七三子の周りを回って衣装に興味津々だ。
鮮やかな赤のフードマントに同色のスカート。レースが華やかな白いエプロンがよく映える。
そんなか弱い少女の外見に反して、懐にナックルナイフを忍ばせているのは秘密であるが。
「……あ、えへへ、ありがとうございます。」
秋沙に仮装を褒められて七三子の意識が戻ってくる。
「それでは行きましょうか。」
「にゃ!」
七三子が差し出した手を秋沙が握る。
愛らしい少女二人は手を繋いで夜の商店街へと繰り出した。
ハロウィンの今夜は特別。オバケカボチャや黒猫の装飾が揺れる商店街はぴかぴかで賑やか。
「商店街のハロウィンは、仮装してお買い物をするとスタンプがもらえるそうですよ。」
スタンプラリーの台紙を受け取った二人はわくわくしながら内容を確かめる。
「3つ集めたら、景品のかぼちゃぬいぐるみと交換だそうです。楽しみですね。」
「スタンプラリー! これは猫、張り切っちゃうにゃ! 商店街のみんな、商売上手だにゃ!」
独りで静かな夜はちょっぴり苦手な秋沙も、|七三子《お姉ちゃん》と一緒なら怖くも寂しくもなく、ハイテンションで笑顔を輝かせた侭だ。
「どのお店から周りましょうか?」
「お姉ちゃん! 猫、いつもお世話になってる和菓子屋さんに寄りたいにゃ!」
七三子の問い掛けに、秋沙は手を挙げて希望を告げる。
「和菓子屋さんいいですね。こないだおはぎをいただきましたし、お礼にお買い物していきましょうか。」
一つ目のお店を決めて、二人手を繋いで和菓子屋さんを訪れると女将さんが笑顔で迎えてくれた。
ハロウィンの為に作られたジャック・オ・ランタンやオバケを模した練り切り菓子のセットを購入して、スタンプとおまけの飴玉を貰う。
「わ、ありがとうございます!」
「また来ますにゃ!」
きらきらの笑顔を交わして、小さな紙袋を手に和菓子屋さんを後にする。
「あとは、手芸屋さんにも寄っていいですか?」
「手芸屋さん! お姉ちゃん、手作り上手だもんにゃ! 一緒に行くにゃー!」
今度は七三子の希望のお店へ。
互いに空けた片手を繋いで揺らして、人もオバケも騒ぐ商店街を行く。
「刺繍糸と……あ、綺麗なビーズ。秋沙ちゃんの瞳の色ですね。」
手芸店で欲しい物を選んでいた七三子は、小瓶に入ったビーズに手を伸ばす。
きらきらと空を映し遠くまで透き通る深い海の青。
「にゃっ! ……じゃあ、お姉ちゃんの色!」
それを聞いて覗き込んだ秋沙は、同じく並ぶ小瓶から一つ選び取る。
日没間際に一際燃える鮮やかな赤。
「ふふ、折角だからこれも買っていきましょう。」
お揃いのアクセサリーを作るのも良いですね、と笑う七三子に秋沙の耳がぴこぴこと震えた。
「じゃあじゃあ、猫も一緒に作って、お姉ちゃんと交換する……ってどうかにゃ!」
「……はい! とっても良いアイディアです!」
秋沙の提案に七三子はぱちと瞬きしてから破顔する。
楽しみな予定とスタンプをまた一つ増やして、二人は手芸屋さんを出た。
「あとは、甘味処でおいしいものでも食べて休憩しましょう。」
「賛成、にゃ!」
甘味処では特別メニューの南瓜と栗の善哉のセットを選んだ。
お餅の他にもオバケを模した白玉が載っていて、可愛いですねと笑い合う。
夜道で少し冷えた身体がぽかぽかと優しく温められてほっと息をついた。
そんな中、湯飲みを両手で抱えた秋沙が真っ直ぐ七三子を瞶める。
「私ね、私ね! お姉ちゃんと、もーっとたくさん思い出を作りたい!」
眼差し通りの真っ直ぐな言葉に七三子は撃ち抜かれた。
「……! はい! 私ね、ずっと戦ってばっかりでしたから、思い出って多くないんです。」
大切で大好きな妹に、もっとと請われて嬉しくない姉はいないだろう。
「えへへ、だから、頼りにしていますね。」
娯楽に疎い人生を送ってきた七三子は色んな事を楽しむのがとっても上手な秋沙を尊敬している。
頼られて嬉しい秋沙はぺかぺかの笑顔で耳と尻尾を立てた。
「もちろんにゃ! これからも、色んなお祭りやイベントに、一緒に行けたらうれしいにゃ! ――はっぴー・はろうぃん! にゃ!」
そう云って秋沙が贈るのは、七三子とその愛犬を模ったアイシングクッキー。
「わ、これ、ハヤタさんですか? すごくかわいい! ありがとうございます。ふふ、でも秋沙ちゃんの笑顔もかわいい! 大好きです。」
クッキーに喜びながらも秋沙の笑顔にめろめろな七三子である。
「私もハッピーハロウィンです! 秋沙ちゃん。こちら、良ければお受け取りくださいね。気に入ってくださるとうれしいんですけど、」
七三子が贈るのはビーズで作ったお花のブレスレット。
控えめなコメントに、秋沙はとびっきりの笑顔をお返しした。
大好きなお姉ちゃんが自分の為に作ってくれたプレゼントなんて、宝物にする位とっても嬉しいのだから。
「はう、」
そして本日最大の笑顔を受け取った七三子はぎゅっと胸を押さえるのだった。
その様子を嬉しそうに見ていた秋沙は、机の上に手を伸ばして空いている七三子の片手をきゅっと握る。
「海を越えて、違う√も越えて出会えたお姉ちゃんと一緒に歩けるって、本当に猫は幸運だにゃ。うれしいにゃ。」
その言葉を聞いた七三子は、両手で秋沙の手を包んだ。
「私も、秋沙ちゃんと出会えてとっても幸せです。これからも、一緒に歩いてくださいね。」
七三子の返事に秋沙は眼を細めてころころと喉を鳴らす。
――此は、愛らしい姉妹の或る秋の思い出。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴 成功