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ひとつぶの祈り

#√ドラゴンファンタジー #ノベル #ハロウィン2025

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 ぼくたちの海は、ツィリの描く星の路のかなたにある。
 ゆらゆらとゆれる夜にきらきらと星がこぼれて、やがて境がわからなくなる場所――そこが、|星河《せいが》の入口だ。

 はじめてきみに出逢った夜のこと、覚えてる?
 まだ、きみがいまよりずっとちいさくて、ドレスも少しだけ袖が長かったころ。
 おとうさんとおかあさんに導かれて、きみは星河のほとりまでおりてきた。
 足もとに咲く星くずを、ひとつ、ふたつ、ゆっくりと舞上げながら。
(誰かくる、誰かくる)
(この星の子、海の女神さまの潮の香りがするわ)
(あの子だよ、きっと――)

 そのさきで、きみと眼が合った。

 一等星のいろをすくいとったような眸。
 月光をあびた夜のうみみたいな銀の髪。
 夜と波のあいだをほうき星――ぼくたちの、主。

 その夜、星神の父と海の女神の母が、静かに告げた。
 この子はこれから、ひとりで世界へと旅立つ。
 愛おしい子だからこそ、|天《そら》ばかりじゃなく、地を知る必要がある。
 そしてぼくたちは、かみさまたちがそばにいられないかわりに、きみを守る契約をむすんだんだ。

 ――主がころんだら、ちゃんと支えてあげること。
 ――さみしくて泣きそうになったら、星河をひらいてみちしるべになること。
 ――つよくなろうとする心を、いつでもいちばん近くでみまもること。

 それからのことは、きみもよく知ってるよね。
 はじめての大地をふみしめて、はじめてのいろをその眼に映して。
 変わらずきらめく星の路を描きながら、まっすぐ前を向いてあるいていくきみに、ぼくたちはいつだってわくわくはらはらしてるんだ。
(主~♡ ちゃんと食事もしてえらい!)
(あっ! でもまた夜更かししようとしてるみたい……?)
(ほんとうだ! あンの主め……!!)
 しっぽで水を弾いてはしゃぐ魚たち。ふわふわと舞うように浮かぶくらげやヒトデ。
 きみの一番の相棒のぼくは、イルカの尾ひれをおおきく揺らして笑うんだ。

 大好きで尊敬する家族をおもいうかべたときの笑顔を、ぼくたちはよく知ってるよ。
 ――その笑顔の奥に、ほんの少しのさみしさがひそんでることもね。
 試練の旅はきっと、愉しいことばかりじゃない。ひとりで立って、ひとりで選んで、ひとり傷つく夜もある。
 それでもきみは、まっすぐに前をむく。
 だからきみが誰かと、なにかと闘うときは、ぼくたちがせいいっぱい力になるよ。
 きみの手がふるえないように。
 きみがきみのまま、笑顔でいられるように。

 でも、ぼくたちがいちばん好きなのは、もっとふつうの時間。
 夕陽が海をうすい金にそめて、街のあかりが少しずつ灯り始めるころ。
 砂浜にすわって、星のかたちをした砂糖菓子をひとつ口へとはこんで、ふわりと笑うきみ。
 ぼくたちはその横顔を、宝ものみたいに眺めるんだ。

 ねえ、ツィリ。しってる?
 きみが小さな吐息をたててるとき、ぼくたちがこっそり|星河《せいが》から顔を出して、きみの寝顔をながめてること。
 夢のなかまではついて行けないけれど、それでもどうにかして、きみをまもっていたくてさ。
 だから、朝になってきみが星のようなきらきらした笑顔で目覚めたとき、ぼくたちはみんな、しっぽをふったり踊ったりして笑うんだ。
(つついて起こしたのは正解だったね!)
(まったく、お子様め……まだまだ手がかかるな)
(でも、そこがかわいいのよねぇ)
 きみには、おとうさんもおかあさんもいるけれど。
 ――ぼくたちも、そんな気持ちできみのそばにいるんだよ。

 もしも声を出せたなら、ぼくたちはきみに何度でも言うだろう。
 あまり無理をしないで。ちいさな手で、全部を抱えこもうとしないで。
 星神と海女神の娘であるまえに、きみはひとりのこどもなんだ――って。
 でもきみはきっと、大丈夫だって笑って首をふるんだろうな。

 それなら、って。ぼくたちは、べつの伝え方を選んでみた。
 きみの頭上にひろがる夜空に、こっそりと模様を描くんだ。きみの好きな、デルフィニウムの花のかたちを。
 そうして花束のように星々をあつめて――きみがふと見上げたとき「あ、お花みたいね」って思ってくれたら、それでいい。
 この旅路が、きみを傷つけるだけのものじゃなく、広い世界のやさしさや美しさを、たくさん見せてくれるものであってほしい。
 きみの心が、もっと自由にのびのびとひろがっていってほしい。
 ――そう、星河の波間からいつも願ってる。

 いつか試練がおわって、家族のもとへ戻るその日まで。
 ううん、その先の日々も。
 きみが歩くたび足もとに咲く星の路をわたって、ぼくたちはずっとついていく。
 主であるきみが、そのさきでも笑っていられるようにね。

 だからこれは、毎夜きみへとおくるひとつぶの祈り。
 ――どうか、きょうもよい眠りを、ツィリ。
 閉じたまぶたのむこう、あおくひろがる|天《そら》と海の世界でも、きみが幸せでありますように。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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