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神父と悪魔の戯れ

#√汎神解剖機関 #ノベル #ハロウィン2025

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 これは、ここではない何処かの話。

 ある世界に二人の同類が居た。
 一人は櫃石・湖武丸。悪魔祓いの神父として日夜退魔の奉仕に励む男。神父とはいっても、退魔のためには東洋の宗教要素を取り込む柔軟さもある。
 その一方で斯くあれかしと周囲に期待され、望まれ、強制されるがままに清貧であり続けたがゆえに、幼い頃から理想的な信仰者で在り続けている――理想的|すぎる《・・・》ほどに。あまりにも当然で、根本的であるがゆえに、時折その毎日に疑問を覚えてしまうくらいに。

 もう一人――いや、もう|一柱《・・》は、四百目・百足。悪魔としての本当の名は誰も知らない。もしかすると彼自身も忘れているかもしれない。
 そのぐらいに悪魔らしく、ただあるがまま享楽に耽り全てを愉しむ男。生まれた時から高位の悪魔に相応しい強大な力を持ち、苦しんだことも悩んだことも躓いたこともない。
 腹が減れば肉を喰らい、喉が渇けば血を啜り、面白そうな人間は誑かす。ただそれだけ、そこに悪意や打算はない、存在そのものが邪悪たる混沌。

 対照的なふたりである。
 退魔の使徒と祓われるべき魔。
 交わることがあるとすれば、それは戦場で相対した瞬間のみ。
 相互理解など絶対にありえない、不倶戴天の宿敵以外になりようのない関係。

 だが。

(「俺はこうして、老いぼれになるまで同じ毎日を繰り返すのか?」)
「こうも毎日適当な人間を餌にしていると、味に飽きてきますですね!」

 彼らは退屈していた。

(「礼拝して、信徒の話を聞き、世話をして――その繰り返しだ」)
「満腹になれればそれでいいと云っても、限度がありますです」

 当然のように繰り返してきた、繰り返すであろう毎日に。
 日常の全てに。当たり前の過去と当然の未来に。

(「この焦りは一体なんだ? 悪魔祓いでも解消しきれないこの妙なストレスは」)
「さて、味変に相応しそうなそれなりに強い奴はいるでしょうですかねえ――」

 一人の男は、変化を求めることすら出来ずに煩悶を抱え続ける。
 一人の魔は、変化だけを求めて何も考えずに獲物を求める。

 対称で対照の男たちは、それゆえに必然としてその道を交えた。


 ある夜半のこと。
「おや! よさげなのがいるじゃないですか!」
「――……来たか」
 太くたくましい腕に数珠を巻き付け、それによって拳にシンボルを強引に縛り付けるという、敬虔な信徒ならばあまりの乱暴さに顔を顰めるであろうスタイル。それで、湖武丸は空から降った声を見上げた。

 悪魔である。
 いかにも毒々しい桃色の翼をこれみよがしに広げ、瞳も同様。百足めいた長い尾を揺らし、妖しく輝く双眸を邪悪な愉悦に細める。
「とてもとても強そうな神父サマ!」
 バサバサとわざとらしく羽音を響かせながら、悪魔が言った。
「大悪魔のこの俺が、お相手してさしあげましょう!」
「今どき珍しいぐらいに|らしい《・・・》手合だな」
 湖武丸はシンボルを巻き付けた拳に掌を叩きつけた。
「こっちは正直、体力が有り余ってる。先日の悪魔はあまりにつまらなかった」
「クァハハハ! 神父サマが退魔を楽しんでおられると?」
「だったらどうした。お前みたいな魔が滅びることに喜びこそあれ、悲しむ理由がない」
「結構、結構――」
 悪魔は目を閉じ、うんうんと頷いた。

 再び瞼を開いた瞬間、その瞳がひときわ輝きを強める。
「それでこそ、喰らい甲斐がありますですからねぇ!」
 ゴウ――分厚い翼膜に叩き伏せられた風が、ダウンバーストのように湖武丸の聖職者服をたなびかせる。獲物に狙いを定めた猛禽もかくやの急速な滑空。繰り出されたのは鈎爪のように強張った手による打撃――否!
「チッ」
 湖武丸は舌打ちしながら大きく飛び退っていた。一瞬前に彼に居た場所に突き刺さったのは、あの長い尾だ。本体が猛スピードで落下している以上、尾の伸縮による突き刺しも同等以上の加速を受ける。打撃を繰り出すと見せかけ身体の背後に隠した尾を一瞬先に振り下ろす。悪魔らしい狡猾な手口だ。

 地面に突き刺さった尾でフックのようにアスファルトを噛んだ悪魔は、自らを投げ出すようにさらに加速した。
 加えて二度目の羽ばたきが三段の加速を実現。地表すれすれを掠めそうな高さでグライドし、身構える神父へ肉薄する。
「悪魔パーンチ!」
 ゴッ! 大岩が激突したような音が轟く。クロスガードで悪魔の膂力を受け止めた湖武丸は、両足で地面を踏みしめるが堪えきれず更に数メートル後退。一方で悪魔は地面を両足で蹴り、そこへ追いすがる。
「悪魔キィーック!」
 追撃の飛び蹴りでも守りは崩れなかった。
「ほおお! これでもダメですか!」
(「思った以上にやる。だが」)
 湖武丸は今度こそ後退を防いだ。悪魔が尾で後方へ身体を引き寄せるより早くストレートパンチを繰り出す。

「しッ!」
「ぬおっ!」
 今度は悪魔が吹き飛ばされ、湖武丸が追う番だ。拳打は鬼の如く重く、それでいて鋭く、当然ながら退魔の力がガードの上から悪魔を苛む。
「クァハハ! ここまで鍛え上げるのはさぞ苦労したでしょうねえ!」
 悪魔は尾を地面から引き抜き、打撃戦に応じた。
 ボディブローを受け流し、膝蹴りで脇腹を狙う。ガードして後退、追撃に来たところを顔面狙いでカウンター。尾が割り込み、両者は弾かれて離れまた接近する。
「毎日お祈りして修練して、遊ぶ暇などなかったのではないですか?」
「……」
「成る程、悪魔とのお喋りはお好きでないですか! では好きに囀りましょう!」
 掴みかかる手を弾き、コンパクトなフック。あえて自ら近づいて受けて打撃の威力を殺し、背後に回り込んだ尾で後頭部を狙う。ヘッドバットで脳天を叩き怯んだところを踏み込んで肘打ち。
「楽しいですよォ、好きなように喰らい好きなように渇きを癒やすのは!
 酒でも肉でも食らって楽しく生きていこうではないですか、ねええ!?」
(「こいつ、さっきからなんなんだ」)
 湖武丸は一顧だにせず聞き流そうとする――だが意識は興味を示す。
 悪魔の知性の高さや奇矯さよりも、湧き上がるのは奇妙な期待だった。

「いまさら神職を、辞められるわけが」
「でも、ホントはやってみたいんでしょう? たとえば破戒とか?」
「……!」
 桃色の瞳に内心を見透かされた気がして動揺した湖武丸は、渾身のボディブローを放った。
「ぐほっ!?」
 大きく離される悪魔。湖武丸は……仕掛けない。
「……この、悪魔め」
 不可思議なざわめきが拳を鈍らせる。今のは相打ちに持ち込まれていてもおかしくなかった。
 それは悪魔にとっても同様。相打ちなど想定すら生まれて初めて、ゆえに反撃できなかったのだ。

「……これが生きがいを感じるということでしょうか?」
「何――」
「クァハハハ! 楽しい! 楽しすぎて笑いが止まりませんです!」
「……妙な悪魔だ」
 二人は睨み合いながらじりじりと下がった。
「今夜は見逃してやる。今夜だけだ」
「おやぁ? 俺は構わんのですが?」
 嘘だ。悪魔もこれ以上の戦闘は辛い。精神的余裕を崩さないのは意地でもある。
「それでは肝心の食事が出来ませんね――覚えておけですよ、これから毎日来ますですからね!」
「なら、次こそ地の果てまで追いかけて滅ぼしてやる」
「頭からバリバリ食らってやるですよ、この不良僧侶!」
「さっさと消えろ、陰険悪魔め!」
 二人は言い捨て姿を消しながら、妙に心が弾むのを否定しきれなかった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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