金の猫目と星の光沢
レトロな街並みが残る√妖怪百鬼夜行の大通りを、イヴォシル・フロイデとノイル・リースロスが並んで歩いていた。買い出しの途中、イヴォシルがふと足を止める。
「イヴ?」
怪訝そうに声をかけるノイルへ、彼は穏やかな笑みを向けた。
「ノイル。買い出し中悪いが、ちょっとあの店をのぞいてもいいかね」
指先の向こうには、ひっそりと構えられた店。ショーウィンドウには光を受けて輝く鉱石が、ベルベットのクッションの上に鎮座している。
「良いけれど、宝石店? 珍しいね」
「珍しい? そうかね? 石には魔力が宿るんだよ」
なるほど、とノイルは頷く。元々綺麗なものに興味のある彼だが、それ以上に魔術師としての興味が勝ったらしい。イヴォシルらしい興味だ。
――宝石工房Artegia
カラン、とベルの音を鳴らし、二人は店内へ足を踏み入れた。
店内にはショーケースが並べられ、窓からの光を受けた宝石がキラキラと輝いている。壁には天井まで届く棚が設置され、多種多様な鉱石が陳列されていた。静かな空間が、落ち着いた雰囲気を作り出す。
そんな店内には先客が一人。金髪の女性が、ショーケースの中を覗き込んでいる。
「おっと、先客が。こんにちは、お嬢さん」
「嗚呼、御機嫌よう。お嬢さん」
振り向いた先客――矢神・霊菜のアイスブルーの瞳が二人を捉えた。
霊菜の目が柔和な笑みを浮かべる。
挨拶を交わした三人が、ショーケースの中を覗き込む。そこには鮮やかな赤い宝石が並んでいる。
「これは、なんていう石なのかな」
尋ねるノイルに、霊菜が答えた。
「ガーネットよ。含有する成分で色味が変わるの。赤と一言に言っても幅広いわ」
博識を思わせるその言葉に、イヴォシルが目を細める。
「君はずいぶん石に詳しいんだね。よければ続けて聞かせてくれないだろうか」
「ふふ、いいわよ」
霊菜が穏やかな口調で宝石の説明を続ける。
彼女の話は様々だった。含有成分による色の変化、産地によって産出される色味の特徴と違いなど。多様な知識が、滔々と語られる。
二人はその声にしばし耳を傾けるのだった。
◆
やがて、一通り説明を終えた霊菜が息をつく。
「ありがとう。大変興味深い話だった」
「私も、有名処しか知らないから参考になったよ」
どういたしまして、と霊菜が笑う。
宝石を見つめていたノイルが、ふと声を上げる。
「折角だから何か買いたいし、アドバイスを貰えるかな?」
「ええ、いいわよ。どんな色がいいの?」
ことりと霊菜が首を傾げながら聞く。
「暗めの赤が良いな。柘榴色みたいなの」
そう言ったノイルは、じっとイヴォシルを見つめていた。二人を見比べた霊菜が、得心がいったように笑う。
霊菜がいくつか候補を挙げるも、しっくりとこない様子。悩むノイルの眉間には皺が寄っていた。
ちらりと、霊菜は気付かれない程度にイヴォシルの様子を伺う。
「だったらパイロープのキャッツアイガーネットは? 丁度あるの」
示されたのは深い赤に金の猫目が走る宝石だった。
それを見たノイルの顔が、笑顔にほころぶ。どうやら、ようやくしっくりくる宝石があったようだ。
「イヴォシルさんは何か選ぶ?」
「私は特には……」
嬉しそうなノイルを横目に、霊菜はイヴォシルへと問いかける。
しかし、特に選びたい石もないと困る彼に、ノイルが提案した。
「ブラックサファイアとかどう? 暗めの青系も似合うんじゃないかな」
「ノイル、やけに青や黒系の石を推すね。まあ、いいけど」
掛け合いに微笑ましく笑っていた霊菜が、二人を別のショーケースへと案内する。
「これなんてどうかしら。黒に見えるけど濃い紺色で、光を受けると金色の光沢が出るの。ゴールデンシーンサファイアと呼ばれているわ」
見せられた宝石は、言われれば成程、青みを帯びた黒に金色の光沢が見える。
「これは…綺麗だ」
「本当だね。イヴ、これにしたらどうだい」
イヴォシルは微笑み、静かに頷いた。
彼はついでにと、言葉を続ける。
「邪魔にならない装飾品になるとありがたいかな」
「いいね。私はピアスか指輪がいい」
どうせならと、装飾品にできないかと聞くと。
「ここ、職人も抱えてるのよ。装飾品にしたいなら相談してみるといいわ」
腕は確かだからお薦めよ、と霊菜が茶目っ気たっぷりにウインクする。
促されるまま、二人は店の奥で装飾品の相談をするのだった。
◆
ノイル・リースロス様
アイテム名:夜影の瞳
設定:深い赤色のキャッツアイガーネットをあしらった指輪。どことなく猫を思わせる意匠。
※ラウンドのカボションカットの石を使用。石を留める爪部分がさり気なく猫耳になっており、アーム部分は尻尾を彷彿とさせる。
イヴォシル・フロイデ様
アイテム名:星宵の雫
設定:濃紺のゴールドシーンサファイアのピアス。フック部分には星の意匠が彫金されている。
※ペアシェイプカットの石を使用。フックの前部分がやや幅広になっている。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴 成功