旅立ちの朝
√ドラゴンファンタジーの世界において、日常と冒険は地続きだ。
世界各地に存在する疑似異世界『ダンジョン』。その周囲には危険な『モンスター』が跋扈し、周囲の安全を脅かす。
これを制圧できるのは、√能力を行使できる者のみ。
能力者たる『冒険者』は若者達にとって憧れの的で、覚醒した者は多くが冒険者に就職する。それは彼女、ライム・カーペインター(信心深い塗装屋さん・h02089)も例外では無かった――。
「じゃあ、兄さん。行って来ます」
ある日の朝、ライムはそう言って店の入口を振り返った。
今日は彼女にとって、冒険者として旅立つ初めての日。冷気を帯びた早朝の空気が心地よく、神様も門出を祝ってくれているようだ。
「それなのに、もう……兄さん!」
「聞こえていますよ。そこで、少しだけ待っていて下さい」
頬を膨らませて抗議の声を上げると、ドアの向こうから兄の声が聞こえた。どうやら、店の中で何かを準備しているらしい。
兄はライムの4つ上で、この魔法専門店を経営している。
ライムが冒険者になると聞いた当初は難色を示したが、最終的には熱意に押される形で賛成してくれたのだ。
(「……兄さんの気持ちも、分かりますけど」)
足元の小石を、ライムは軽く蹴飛ばした。
財宝や自治権等を始めとする特権を有する冒険者だが、それは言わばダンジョン攻略と言うリスクと引き換えだ。危険な場所に赴く妹を心配する兄の気持ちは、ライムも十分に理解している。
だが、同時に彼女は思うのだ。
冒険者になれば、ダンジョンやモンスターに悩む人々の力にもなれる。それはきっと、神様もお喜びになる事だと。
「待たせましたね。……開けてご覧なさい」
やがて出て来た兄は、二つの包みをライムに手渡した。
中に入っていたのは二種類の武装、塗装用ローラーとペイントボムだ。店売りでは無い事を示すように、それらは手にした瞬間、体の一部のようにライムに馴染む。恐らくは、兄が心血注いで発明したのだろう。
最高の贈り物に、ライムの眼が喜びに輝いた。
「兄さん……!」
「行ってらっしゃい。体には気をつけるのですよ」
微笑みを浮かべて、兄が手を振る。
そこにライムは負けないくらいの笑顔で手を振ると、冒険の一歩を踏み出した。
「ありがとう。行って来ます!」
どれだけ遠く離れても、帰るべき場所は此処に。
かくしてこの日、ドラゴンファンタジーに一人の新たな冒険者が誕生した。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功