萌えよテラコッタ

土偶の付喪神になる前のテラコッタは大地そのもの、土に宿る微かな神性にすぎなかった。
長い時代を雨風に削られながら、積もったり積もられたりしながら、多くのものを見たり聞いたりした。
面白かったのはいつしか誕生していた様々な古代生物たちだ。食べて寝て増えて死んで形を変えていくそれはとてもとても面白いものに見えた。
そして、『自分もあんなものになってみたいな』などと空想してみたりしたものだ。
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土偶ヒーローお嬢様テラコッタの付喪神種族エピソードを書き上げていただきたいです。
楽しくきままにこの世界を生きることが彼女の目的です。
ノベルの内容は彼女の由来に触れつつ現世を楽しんでいる様子でお願いします。どこに行っててもなにしててもいいです。
大まかな設定は↑な感じです。
アドリブ、捏造、マスタリングOKです。設定を俺が生やしてやるぜの気持ちでお願いします。
・キャラ設定
|土師器《ハジキ》武器と野菜武器を使って戦うセラミックな彼女は天真爛漫で無邪気ですが実はその神性は土そのものであり、超絶長生きな神さまです。
かまどの中に住んでます。かまどには自身と由来を同じくする土偶たちが何体も一緒にいるので寂しくないです。
1、2、3人称:われたち、あなたたち、それたち
性格:子供っぽい
語尾:ですわ、ですの、なのよ
好きなもの:遊ぶこと、生き物全般、博物館、炎
嫌いなもの:寒さ、物理的衝撃
よろしくお願いします🙇
テラコッタ・俑偶煉陶は炎盛る窯からゴロンと頭を出す。
「炎が足りませんわ」
そう嘆く土偶に、窯の主である陶芸家は呆れたように指摘した。
「今、炎の中にいるじゃないか」
それともこれ以上火力を上げろと言うのか、とその土偶が動き出してから共に暮らす男は非難の視線を向ける。
それにテラコッタは窯の中から飛び出し否定した。
「いいえ、物理的な炎ではなく、心を燃やす炎ですわ!」
腕を広げ得意げな様だが陶芸家は納得出来ていない。
「心を燃やす炎、とは?」
「そのままの意味ですわよ。こう、特定のものを見た時などに起こる胸の内の高ぶりですわ。愛らしいとか、癒されるといった類の」
「あー、萌えってやつだ」
説明にピンと来た陶芸家があてはまる単語を言うと、テラコッタは嬉しそうにまだ熱い体でその肩に飛び乗った。
「萌え! ぴったりの言葉ではないですの!」
「あっつ! 冷ましてないのに触れんなって!」
張り付く高温に堪らず振り落とそうとするが、土偶の腕が頭部に絡みつき離れない。そして人間ロデオが終わったところで、テラコッタはその頭を小突く。
「さあ陶芸家、心を萌えさせますわよ! 街に出るのです!」
「……いや、仕事がまだあってだなぁ」
「いいから行くのです!」
「ちょっ、やめっ」
急な命令を陶芸家は断ろうとするも、絡みつく腕に頭を振り回され、仕方なく出かける準備をするのだった。
「われたちのこの心の高ぶりは、特に生命を眺めている時に起こるのですわ」
「それで人間観察と……」
テラコッタを肩に乗せた陶芸家は、とある商業施設にやってきていた。広大な敷地の中に設置された多くの人が賑わう公園。その一角のベンチに腰を下ろして大勢の人間を眺めさせられている。
一般人の前では喋る土偶は目立つ。パーカーのフードを被せて一応は隠してあったが、興奮するとすぐに布の内から飛び出してしまう。その度に被せ直すのが面倒だ。
「見るのです陶芸家! あそこの人間、地面に落とした唐揚げを食べましたわ!」
「……ばっちいな」
「いいえ、萌えますわー! あ。あっちで傘を逆さにもって振ってますわよ! これまた萌えますわねぇ」
「感性わかんねー」
テラコッタは、元々土だ。神性を宿していたその素材を、偶然にも陶芸家が形作り焼き上げ、自由な体を与えてしまった。
その魂は遥か昔からこの地球をずっと観測していたらしく、たかが人間と思考回路がかみ合わないのも仕方ない。
陶芸家は理解出来ないと思いながらも、テラコッタが示す興味対象を見ては、自分なりの感想を返してやるのだった。
日が暮れ窯に帰り着いたところで、陶芸家は改めて問いかける。
「それで、満足はしてないようだけど?」
ぴょんと肩から降りたテラコッタは、腕を組みながら答えた。
「満足、と言えば満足ですが、なんでしょう、もう少し欲しいと言いますか、一つでいいので、心を揺さぶり全身から火を噴くほどの激震を得たいですわ」
「要するに、最強の萌えを見つけたいってわけか」
「まさにそうですわっ」
陶芸家の言語化を称賛しながら、土偶は未だ満足を追い求める。尽きない探求心についていけない人間は、どかっと椅子に腰を下ろした。
「つってもお前の感性意味わかんないからな、俺にはアドバイスのしようがねぇよ」
「そうですわね。陶芸家はむしろわれたちにしてみれば萌えの対象ですし」
生き物全般が好きなテラコッタは特に人間の行動に惹かれていた。萌えの対象とされればなんだか見下されているような気もするなと陶芸家は微妙な表情を浮かべる。
「んで、どうすんだ?」
「それたちに聞くのですわよ」
「まあ、妥当だな」
と、向けられたのは、窯の周りに置かれたいくつもの土偶たちだった。
それは視線が向いたと分かると途端に動き出す。
「おいら人間のはな垂れ好きー」
「陶芸家のぬぼっとしお顔好きよっ」
「雀が一番萌えるさ!」
「いいえテントウムシっ!」
口々に萌えを語る土くれども。テラコッタほどの知性はないようだが、ほとんどが言語を介しており、まるで子供が見る絵本のような光景であった。
そんな仲間たちの言葉に、しかし土偶お嬢様は未だ首を傾げている。
「うーん、ピンときませんですわー」
腕を組み、考えながら窯に入る。冷えているぞと陶芸家に視線を送って、火を入れさせた。
それからしばらく土偶たちの会議が続けられた頃、不意に外から声が飛んでくる。
「叔父さーん」
ひょこっと窯へと顔を出したのは、10歳ほどの少年だった。その姿に、陶芸家はとっさに土偶たちを隠して振り返る。
「お、おお、来てたのか」
「お母さんが呼んでるよ」
「ああ、もうちょっとしたら行くわ。姉さんにも伝えといてくれ」
「分かったー」
そうして少年は窯を去っていく。土偶に気づかれないことにほっとして窯の火を消そうと振り返り、そこで異変に気付いた。
「あわ、あわわわわ……」
テラコッタが、ひどく動揺している。閉まらない口を押さえつけるように両の手で頬を揉み、炎の中を転げまわっていた。
「どうした?」
「陶芸家っ! さっきのお子は……!?」
「見たことなかったか? 甥っ子だよ。確か何年か前は、よく預かってたしお前も見てるだろ?」
何をいまさら驚くのか、と疑問を浮かべていると、天啓を得たとばかりにテラコッタが土の指を突き付ける。
「それですわ!」
「?」
すぐには理解しない人間に、テラコッタは胸に灯る炎そのままに語る。
「変化ですのよ! 人間とは数年でああも大きく変わるのですわ! そう、それこそがわれたちが悠久の時を忘れた生物の巡り! ああ、堪りませんわ! もっとお子の成長を見せてくださいませっ!」
急な饒舌に陶芸家は若干顔を引きつらせる。そして浮かんだ嫌な予感はすぐさま的中した。
「陶芸家! こうなったら全国のお子たちに会いに行きますわよ! そして数年経てから再会し、この萌えを爆発させるのですわー!」
「何言ってんだこいつ……」
結局土くれの感性を理解出来ない陶芸家だったが、それから少しして、その窯では近所の小学生を集める体験教室が始まる。
そうして訪れた子供たちの間で、動くハニワの噂が広がるのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴 成功