シナリオ

望の眸

#√ドラゴンファンタジー #武装モンスター軍団 #海境都市アイソラ

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 #√ドラゴンファンタジー
 #武装モンスター軍団
 #海境都市アイソラ

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 雲が月を隠す、ほんの僅かな時間のことだった。突然、それまで大人しく幌馬車を引いていた馬の嘶きが耳を劈く。小さな森の中に伸びる街道を整然と進んでいたキャラバン隊の列が乱れ、暗闇の中に怒号が舞った。襲撃だ、と誰かが叫ぶ。ダンジョンやモンスターといった存在が日常と隣り合うこの世界において、夜陰に乗じて荷を奪う盗賊など珍しくはない。けれど、この日はどこか違っていた。

「何だ……っ奴等、本当にモンスターなのか……!?」

 キャラバン隊の誰もが感じていた違和感を誰かが口にした。ただのモンスターや盗賊にしては、あまりにも統率が取れている。盾と甲冑を以てキャラバン隊の抵抗を防ぐその一団の姿は、訓練された人間のそれと相違ない。
 ──騎士団。そう称しても何ら不思議ではない集団が、キャラバン隊の人間や騎獣を躊躇いなく斬り捨てていた。

「駄目だ、このままじゃ総崩れだ! 誰か|竜漿兵器《ブラッドウェポン》だけでも……!」

 言い掛けた年嵩の団員の胸に、深々と刃が突き立てられる。昏く光る刃は引き抜かれることもなく、事切れた団員が地に倒れ伏すのと同時に煙のように消失してしまった。

「竜の神器と比べればおまけのようなものだが、腐っても|竜漿兵器《ブラッドウェポン》だ。せいぜい役立ってもらうことにしよう」

 守る者のいなくなった荷へ向けて、何者かが歩を進める。照明も無い夜の森の中で、金糸のような髪だけがやけに煌めいていた。男は荷馬車に積まれた食糧や金品には一切目もくれず、古びた宝玉をひとつ、手に取った。
 荷を捨てたキャラバン隊の生き残りが、その場から逃走しているのが視界の端に映る。男はその方角を──街道の伸びる先に見える街、アイソラの上空へ視線を滑らせ、静かに口角を上げた。
 雲が晴れ、月が再び顔を出す。いつの間にか騒乱は治まっていた。そこに在るのは粉々になった幌馬車と、打ち捨てられた商材の山。そして、正体不明の騎士団の凶刃に倒れた人々の姿だけだった。



「√ドラゴンファンタジーのとあるキャラバン隊が、モンスターの襲撃に遭ったそうで。困ったことに荷に積んでいた竜漿兵器を奪われてしまったそうなのですよ」

 星詠みの鉤尾・えの(根無し狗尾草・h01781)曰く、√ドラゴンファンタジーの地中海に面した冒険都市『アイソラ』へ、満身創痍のキャラバン隊が逃げ込んだのだという。街で手当てを受けながら、彼らは一様に「前触れなく襲われた」「竜漿兵器を奪われた」と語った。

「敵の正体は予知にて概ね把握できました。首謀者はロード・マグナスと呼ばれる|元《・》勇者のようですね。彼の狙いはキャラバン隊が所持していた竜漿兵器の強奪……だけではないようです」

 話題の中心は襲われたキャラバン隊から、今回の事件の舞台ともなるアイソラへ移される。遙か昔から太陽の竜と月の竜の加護を受けているとされているかの街は、その伝承を裏付けるように豊かな環境を擁している。竜という存在が目に見えなくなった現在でも、二頭の竜を守り神として親しんでいる住人は多い。穏やかな環境を享受しているのに加え、とあるシンボルが今でも残り続けているのも理由のひとつだった。

「アイソラとそう変わらない座標に〝神殿〟と呼ばれる浮遊建築物があります。というのも、失楽園戦争前の名残りみたいなもので、元々は城砦だったようですが」

 たまたまアイソラのすぐそばに存在した無人の空中城砦が、二頭の竜を祀る神殿として扱われるのにそう時間は要さなかった。セレスティアルの司祭を中心とした住人達から、二頭の竜と同等に親しまれるようになって久しい場所だ。常は雲の上に浮かんでいるが、月に一度の周期で地上からも肉眼で確認できる位置に現れるらしい。つまり、今がその時期である。

「その城砦の最奥に、とある竜漿兵器が眠っておりまして。エルフの口伝によれば太陽の竜の牙から作られた剣と、月の竜の涙を受け止めた鏡とされていますが……如何な探偵とて、真相は分かりませんね。あまりにも大昔の話すぎますので」

 問題はロード・マグナス率いるモンスターの群れが、ふたつの竜漿兵器を狙って城砦へ乗り込むことが予知されているということ。アイソラの伝承で〝神器〟とまで呼ばれている竜漿兵器だが、その力は未知数だ。仮に恩恵が小さかったとしても、アイソラの人々にとっては街の歴史の象徴でもある。奪われることが、彼らにとっての益になるとは思い難い。

「そういうわけで、大掛かりな防衛戦に加勢していただきたいのです。皆様方にお願いしたいのは、城砦の入り口を固めてモンスターの大軍を迎撃すること」

 その間に別動隊が城砦の奥を目指し、敵よりも先に神器を発見して防衛にあたる。おそらくロード・マグナスは神器を目の前にしない限りは姿を現さない。入り口でモンスターの数をある程度削った時点でこちらも別動隊と合流し、全戦力を以て残りの敵を殲滅する……というのが大まかな流れだ。

「出発は翌朝の未明。先に向かう方々が空中城砦までの移動方法は確立して下さっている筈です。少しだけ余裕がありますので、敵について調べるぐらいはできるかもしれませんね」

 キャラバン隊が街のそばで襲われたこともあって、アイソラは警戒状態が続いている。夜間でも主要の施設は出入りできるようなので、調べ物には困らない。それこそ、襲われた当人であるキャラバン隊の生き残りを当たってみるのも良いだろう。意識を保っている者がいれば、の話だが。
 えのに見送られながら出発した√能力者は、やがて空気の揺らぎと共に√の境界を越える。海が近づくにつれて、少し痛みを伴う冬の空気に潮の香りが混ざりだした。今夜は大きな月が出ている。先頃までその姿を覆っていた雲が、ゆっくりと流れてゆく様子が遠目に見えた。
 ──晴れゆく雲の隙間から、物言わぬ影が出でる。奇しくも月を背負うようにして現れたそれは、且つての天上界の栄華を思わせる、古い石造りの空中城砦だった。

マスターより

マシロウ
 閲覧ありがとうございます、マシロウと申します。
 今回は√ドラゴンファンタジーでの事件をお届けいたします。「空中城砦に眠る竜漿兵器を守る」「モンスターの一団を撃退する」の二点が目的となります。
 参加をご検討いただく際、MSページもご一読ください。

●関連シナリオ
 本シナリオは岸名MSの『暉の牙』と同日同舞台のお話となっております。片方だけで完結できる構成になっておりますので、両シナリオの内容を把握する必要はありませんが、ご興味のある方は是非併せてご覧ください。
 また、『仄日に宝冠』『潭月に王笏』といった過去シナリオと舞台は共通ですが、そちらの内容をご存知なくても問題なくご参加いただけます。
 シナリオ運営自体は各MS裁量で行います。このシナリオに関して、岸名MSへのお問い合わせはお控えくださいませ。

●第一章:冒険
 空中城砦へ向かう前日の夜です。キャラバン隊を襲ったモンスター(騎士団)について調べることができます。キャラバン隊の生き残りは今もアイソラの街で療養中ですので、話を聞くことも可能です。

●第二章:集団戦
 翌未明、空中城砦へ降り立った√能力者達を追うようにモンスターの群れが現れます。別動隊が城砦の奥を目指しやすいよう、入口で敵を押し留めてください。

●第三章:ボス戦
 ???

 1/23(金)8:31よりプレイング受付開始予定です。断章も投稿予定ですので、雰囲気を掴む参考にどうぞ。受付終了のタイミングは、タグやMSページで告知いたします。受付終了後も、プレイング送信可能な状態であればお気軽にご参加ください。再送が発生した場合も同様です。
 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
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第1章 冒険 『モンスターの正体を追え』


POW 現地に向かい、生息するモンスターの傾向を調べる
SPD 実際にモンスターの事件に遭遇した人から話を聞く
WIZ 事件の内容や手口から、敵の習性を推測する
イラスト yakiNAShU
√ドラゴンファンタジー 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 穏やかな波音と明るい月に反して、アイソラの街の空気はどこか張り詰めていた。街灯で道の隅まで照らされているが、通りを行き来するのは衛兵や冒険者ばかり。一般人は家に篭り、街にまで及ぶかも分からない襲撃に怯えている。街と外界を繋ぐ東門と西門は警備で固められており、近づく影があればすぐに周囲へ伝達されるよう段取りができていた。
 だが、正確には襲撃を受けるのはアイソラではなく、空中で静謐に浮かぶ城砦だ。今は何者をも迎えていない古代の建築が、あと数時間もすれば戦場と化すことが予知で明らかになっている。
 √能力者が石畳を辿って夜のアイソラを歩いて回れば、城砦までの移動手段は概ね確立されていた。飛行用のアイテムや、一定の高度までなら飛べる|貨物船《カーゴ》。生まれながらに翼を持つ者であればその準備すら不要だ。であれば、出発時刻までの空白は、これより対峙する敵について探るのに費やせる。

 近辺に関する情報が集約する場所といえば、まずは図書館が挙げられる。閉館時刻が迫ってはいるが、神器の防衛に関わると職員へ乞えば特例として入館を認めてくれるだろう。
 常に情報交換が行われている場所は衛兵の詰め所だ。それに限らず、街の警備にあたっている衛兵や、出発準備中の冒険者や√能力者も多くいる。人通りの多い場所へ向かえばそういった人物と顔を合わせやすい。
 キャラバン隊の生き残りは、手当てを受けた上で現在も療養中だと聞く。アイソラの病院は〝診療所〟の域は出ない規模だが、良い設備と衛生環境が保たれた施設だ。医師を通せばキャラバン隊との面会は叶うだろうが、一度は命を落としかけた人々だ。彼らの精神状態に気を遣った上での聞き取りが必要だと思える。
 勿論、ただ休むだけでも益はある。戦闘とは、体を十全な状態に整えてこそだ。それを理解している者しかいないこの空間において、休養や栄養補給に時間を充てても咎める目を向けられることは無い。

 冬の海風が、髪や裾を揺らした。冴え冴えとした月光に照らされた石畳に、自身の濃い影が落ちるのを見ながら、√能力者は各々が目星をつけた先へと足を進めた。
一文字・伽藍
元勇者がモンスター率いて人を襲ってるなんて、
ファンタジー小説の第二部とかの展開じゃん。
第一部の主人公が闇堕ちしてるやつ。
んで、その元勇者はともかく、
モンスターについての情報がさっぱりですなァ。
襲われた人らに話聞きに行くか。

ウィッスお医者様ちょっと良い?
キャラバン生き残りの人と話させてほしいんスわ。
出来るだけメンタルが元気な人がイイナー。
嫌なこと聞くワケだし?

どーも、命があって何より。
っつかだいぶキレてんね。傷に響くよォ?
下手に気ィ使って話長引かすのもあれだから単刀直入に聞くね。
アンタらを襲ったモンスター連中ぶっ飛ばしに行くから、
知ってること教えて。
3倍返し、伽藍ちゃんが代わりにやってきたげる。

 月が皓々と輝いているにも関わらず、空気が重い。街全体が警戒態勢を取っているので無理からぬことだが、その原因を生んだのが且つて〝勇者〟と呼ばれた存在であることは素直に嘆かわしいことなのだろう。

「元勇者がモンスター率いて人を襲ってるなんて、ファンタジー小説の第二部とかの展開じゃん」

 一文字・伽藍(|Q《クイックシルバー》・h01774)は事件のあらましを、いつぞや見た漫画かアニメの印象と重ねてぼやく。人々のために戦った勇者は闇の力に呑まれ、次章では強大な敵となってしまいましたとさ──なんて、現実で起こられては困るばかりの話だ。
 気掛かりなのは元勇者を取り巻くモンスターの存在である。彼らは|竜漿兵器《ブラッドウェポン》も強奪した。それによって戦力を底上げしていると予想できる以上、実際に対峙するよりも前に概要だけでも把握しておきたかった。

「ウィッス、お医者様ちょっと良い?」

 伽藍が訪れたのはアイソラで唯一の診療所だ。ベッド数が少ない関係で犠牲者全員の入院は叶わなかったのか、医師は宿屋と診療所を行ったり来たりしている様子だった。ちょうど帰院したばかりなのであろう医師の男性は、事態に反して気軽い伽藍の声に訝しげにしながらも立ち止まる。眼鏡の奥の目には、疲労の色が見え隠れしていた。

「何だろうか。次の患者の対応があるので、手短に頼みたいのだが……」
「キャラバン生き残りの人と話させてほしいんスわ」

 伽藍はまず、己が未明からの神器防衛戦に参加することを告げる。月が隠れるのも待たずに神殿が戦場になることは、今やアイソラの誰もが知っていることだからだ。これだけの患者を生んだのも、そもそもは襲撃者の所業が原因──彼らはその報いを受けるべきだと説明すれば、渋る様子を見せていた医師も同意を示してくれたのは僥倖だった。
 事情を聞くにあたって、伽藍はできるだけ精神に余裕のある患者との面会を希望した。それならば、と案内されたのは処置室だ。数名の患者が治療を受けている真っ最中だが病院側の人手が足りておらず、軽傷者は止むを得ず後回しになっている様子が見て取れる。その中でも、若い獣人の青年が吼え散らしている姿がやけに目立っていた。

「畜生ッ! 連中、オレ達からも奪った挙句、また竜漿兵器を奪いに来るだとッ!? ふざけやがって、次こそ殺してやるッ!」

 虎のようにも見える青年は、地へも響くような唸り声を太い喉から零している。血走る瞳を見れば、その怒りがどれほど激しいものであるかなど一目瞭然だった。医師や看護師に宥められている彼の下へ、伽藍は特に躊躇うことなく歩み寄る。

「どーも、命があって何より。っつかだいぶキレてんね。傷に響くよォ?」
「あァ?! 誰だテメェ!!」
「下手に気ィ使って話長引かすのもあれだから、単刀直入に聞くね。アンタらを襲ったモンスター連中ぶっ飛ばしに行くから、知ってること教えて」

 三倍返し、伽藍ちゃんが代わりにやってきたげる。さも当然のように、飄々とした笑みのままに告げる伽藍に対して、獣人の青年は不意を突かれたのか。傷口が開きかねない暴走を止め、今は黙って伽藍を見下ろしている。伽藍の纏う緩い空気は良くも悪くも毒気を抜く。その影響で急に冷静になった青年は処置室の適当な椅子に座り込むと、襲撃当時の様子を反芻するようにゆっくりと話し出した。

「連中はモンスターだが……あれはほぼヒトだった。それも人数が多すぎる」
「ふうん。まあ、人間型のモンスターも話には聞くけどね」

 それを言うならば、首魁であるという元勇者もそうだ。只のヒトであっても、何らかの理由で簒奪者と化す者は少なくない。それがこの√では〝モンスター〟と一括りにされやすいだけでもあった。そのあたりの事情を知っている分、伽藍にとってはそう珍しい話ではない。

「動きもやけに戦い慣れてやがる。軍隊みてえな……いけ好かないが、理性すら感じる戦い方だ」

 その癖、キャラバン隊の人々を容赦なく斬り捨ててゆく。正気と狂気を当然のように平等に抱えた〝ヒト〟であったと、青年は低い唸り声を交えて語る。

(元勇者に忠実な狂信者ってこと? やだなぁ、ますます闇堕ち勇者モノみたいじゃん)

 綿密な戦略を立てて戦いに臨むか、それとも敢えて無作為な戦い方をして軍隊のようだという隊列を乱すか。意外にも考えることは多い。伽藍は青年に礼を伝え、「お大事に」と手を振って病院を去る。潮の香りが混ざる風が、自然と伽藍の視線を夜空に浮かぶ城砦へと向けさせた。

「勇者ってあんまり軍隊連れてるイメージ無いなぁ。パーティーメンバーとかじゃないんだ」

 まるで有象無象の陰に、何かを隠しているような。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

シンシア・ファルクラム
少しだけ、療養中の方の話を聞かせていただきたいと思います。
仲間を喪った痛み、悲しみは、わたしもよくわかるところでございます。まだ、喪った人々と向き合うには早いでしょう。【優しさ】を以て、あまり無理はさせないように……。【慰め】は気休め程度でございましょうが、必要であれば。
ヒントは最小限で構いません。回復を【祈り】ます。
その後、外に出て【空中移動】しつつ【神聖竜詠唱】で月の光を更に強めて周囲を確認しながら、生息するモンスターを見て戦う相手に当たりをつけます。

 その少年の年の頃は十代前半ぐらいだろうか。人々が忙しなく行き交う診療所の隅で膝を抱え、小さくなって震えていた。怪我の度合いは至って軽傷だ。擦り傷程度しか見当たらず、若さも手伝ってすぐに回復するであろうことが窺える。問題は、今回の襲撃によって与えられた精神的な負荷の方だ。シンシア・ファルクラム(歌い、奏でる空の柱・h08344)は少年の心の傷を慮りながら、寄り添うように彼の隣へと腰を下ろす。

「寒くはありませんか? 毛布をお借りしてまいりましたよ」

 努めて穏やかな声で話を向けた。敵意が無いこと、そして無理に事情を聞き出す心算は無いこと。それを声と物腰に表しながら反応を待つ。シンシアとて、身近な人を失うのがどれほど胸の内を引き裂くことであるかを知っている。だからこそ、少年が拒むのであれば祈りだけを捧げて去ろうとも思っていた。
 暫し沈黙していた少年が、僅かに顔を上げる。涙は出ていなかった。だが、その顔を見れば、どれほどの惨状を目の当たりにしてしまったのか想像に難くない。

「みんなの……おっちゃんの、遺体は……?」

 乾いた喉から絞り出されたのは、犠牲になった団員達の行方を気に掛ける言葉だった。今回の襲撃は死者も多い。現場はアイソラから見てもそう遠くはないが、事態が事態だ。特に夜間に現場まで行くのは危険だと判断され、遺体の回収は叶っていないとシンシアは聞いていた。一瞬の逡巡の末、シンシアが正直にその旨を少年に伝えれば、彼も半ば察していたのだろう。不満を言うでもなく、ただただ視線を白い床へと落とした。

「おっちゃんが、おれの目の前で刺されたんだ……おれ、何もできなくて、足も動かなくて……。おっちゃんが、逃げろって言ったのを聞いて、やっと……」

 キャラバン隊の中でも親しい団員がいたのだろう。皮肉なことに、その人がいてくれたから少年は命を拾ったのだという。せめて遺体を回収して丁重に弔いたいという願いすらも、今は誰も聞き届けることはできないでいた。

「それは、さぞやお辛いでしょう……。でも、今はお体も休めなければ。夜明けを迎えれば、きっと衛兵の皆様が現場の調査にも向かって下さいます」

 シンシアは少年の体に不用意に触れぬように気をつけながら、彼の両肩を毛布で包む。温暖な海辺とはいえ、今は真冬だ。このままでは体温が不必要に下がってしまう。せめて体だけでも休まるようにという気遣いとは裏腹に、少年は急に顔を上げるとシンシアへ縋るように声を上げた。

「みんな、モンスターは人間みたいだったって言ってた。おれもそうだと思ったけど、でも違うんだ……おれ、おっちゃんを刺したやつを見たんだ……!」

 鬼気迫る少年の様子にシンシアは驚くものの、彼の話を決して遮らない。まだ精神が落ち着かない中で彼が何を伝えようとしているのか。居合わせた者として、それを受け取る義務があると思っていた。

「あいつ、ヒトだけど竜だったんだ……ほんとうだよ!」

 少年の言葉に瞠目したシンシアが何かを言い募るよりも先に、看護師が駆け寄ってくる。どうやら手当ての順番が回って来たらしい。名残惜しいが、この場での優先順位など考えずとも分かる。シンシアは少年を見送ると、その心身が一日でも早く回復するように──と、人知れず祈った。
 診療所を後にする。家々の間を通り抜ける海風を受けながら、シンシアは先程の少年の言葉を思い返していた。

(ヒトだけど竜。それだけ聞けば、ドラゴンプロトコルが浮かびますが……)

 今回の事件の首魁は、聖剣を求め続けた末に簒奪者に堕ちた勇者である。彼がドラゴンプロトコルであるという話は、少なくともシンシアは聞いたことがなかった。
 戦いの舞台にもなる城砦と、それに背負われるようにして浮かぶ月を見上げる。翼を広げて軽く地を蹴ると、真白な体は容易に空へと向かった。アイソラ全体を臨む高さまで上昇し、リラの形を取る武器と共に音を奏でる。歌でもあり、祝詞でもあるそれは一瞬、シンシアのそばに一体の竜を顕現させた。神聖竜が放つ光に月が呼応する。元より明るかった月はその光を増し、常よりも更に明るい夜を実現してくれた。

「現場となった森は……あのあたりでしょうか」

 アイソラから伸びる街道を視線で辿り、現場に当たりをつける。元勇者の企みの陰で、何か別の気配が蠢いている気配はあるものの、その尻尾を掴むには至らない。であれば、出発時間までに手掛かりを徹底的に探すまでだ。シンシアは翼で夜風を捕まえると、強い月光で照らされた地上を──そして未だ血腥い襲撃現場を空から探索するべく飛翔を開始した。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

アキ・サクラ
アドリブアレンジ◎

とりまパイセンに言われて来たけど、どいひーじゃん…
知らんことばっかだし、おっちゃんや綺麗なお姉様方からオハナシ聞くかぁ
(※女性はお年がいくつでもお姉さんと呼ぶように教育されています)

して、月の竜ってなんぞ?
はわー、そんな伝承あったん?
おれ|√DF《ココ》生まれなはずなのに…
え"、勇者が襲ってきた!?
いやいやいや、元でも勇者じゃん。やり口エグない?
そんなに欲しいもんだったんかぁ?なりふり構わなさすぎじゃね?
古代のアーティファクトだから欲しいって?
まぁ…その線もありかぁ…

手持ち無沙汰でずっくんをもふもふしながら話します
ずっくんはおこですでが我慢、後に頭を突いて報復します

 キャラバン隊が見舞われた惨状がどれほどのものであるか、話には勿論聞いていた。アキ・サクラ(のらりくらり・h09479)はアイソラに漂う張り詰めた空気を肌で感じながら、キャラバン隊の手当てのために奔走する医療スタッフの様子を遠目に眺め、思わず眉根を寄せる。

(とりまパイセンに言われて来たけど、どいひーじゃん……)

 普段のアイソラはとても長閑な街だと聞いている。こんな状況でさえなかったのなら、きっとアキも平穏な空気を享受していたことだろう。防衛戦を完遂した暁には日を改めて遊びに来ようなどと考えながら、アキは気を取り直して周囲の様子を窺った。
 まずは街の中でも飲食店が集まっている通りへ足を向ける。深夜なのに加え、街全体が警戒態勢に入っていることから静まり返っているが、それでも営業している店はある。夜が明ける前に神殿へ発つ冒険者のために開けているのだろう。そのうちの一軒……小さな食堂がアキの目に留まる。ちょうど店じまい作業中の中年女性が、表の立て看板を片付けようとしていた。

「おねーさん! 片付け中にごめんね、ちょっとこの街のこととか聞いていい?」
「おねーさん……って、アタシのことかい? やだよ、こんなおばちゃんを捕まえて何言ってんだい」
「年上のおねーさんはおねーさんっしょ! おれ、アイソラ来たの初めてでさ。色々知りたいんよね」

 この時間に外出しているという点で女性も察してくれたのだろう。防衛戦に何らかの貢献ができるなら、と快く話に応じてくれた。
 この街は遠い昔、二頭の竜──太陽の竜と月の竜によって守護されていたと伝わっている。太陽と月によって育まれた土地と人々。竜という存在がインビジブルと化し殆ど視認できなくなって以降も、その加護は続いていると信じられていた。空中城砦に安置されている神器も、その信仰が失われていない証である。

「はわー、そんな伝承あったん? おれ|√ドラゴンファンタジー《ココ》生まれなはずなのに……」
「まあ、地方の言い伝えだからね。どこまでが本当かは分からないけど」

 事実か否かは重要ではないのだろう。その言い伝えは、街の住人達にとっての拠り所。目には見えない隣人への敬愛が、アイソラの人々の大らかさへ繋がっている。話を聞いている間、同行者である|木菟《スポッター》の羽毛を絶えず撫でながら、アキはそんなことを思う。手元から聴こえる不満げな鳴き声は今はスルーだ。
 女性からアイソラの伝承について聞き終えたアキは笑顔で礼を告げ、食堂を離れる。木菟がここぞとばかりに頭を突いてくるのを「ごめんて」と軽く宥めている間に、今度は街灯に照らされた通りを数少ない通行人が往く姿が見えた。

「まさかロード・マグナスの奴がこんなところにまで来るとはな」
「まったくだ。剣があると聞けば見境ない野郎だ……元勇者が聞いて呆れる」

 そんな会話を交わしていたのは冒険者の男二人だ。衛兵との情報共有の帰りなのか、宿へ戻ろうとゆっくり歩き出していたところを、アキが道を塞ぐ形で鉢合わせたようだ。常であれば道を譲るだけの場面だが今はそうもいかない。彼らの口から、ロード・マグナスの名が出てきた以上は。

「え"、勇者が襲ってきた!? いやいやいや、元でも勇者じゃん。やり口エグない?」

 襲撃現場がどれほどの地獄であったか、話に聞く限りでも酷いものだ。それが元とはいえ勇者と呼ばれた男の所業というのはあまりにも救いがない。アキが素直な感想を表せば、冒険者達は意外そうに目を丸くした。

「なんだ、あんたロード・マグナスと関わるの初めてか? 結構有名なやつだぜ。いつ頃の勇者かは分からんが」
「なんでも元々は聖剣とやらを探してたらしいよ。その旅の最中に、気をおかしくしたのかもな」

 せーけん、とアキは聞いたままの言葉を反復する。物語でよく聞くような単語だ。確かにこの√であればそんなものが存在するのかもしれないし、もしかしたら王劍と呼ばれるものの話かもしれない。何にせよロード・マグナスという勇者は、聖剣を探し求める|最中《さなか》で簒奪者へと堕ちた……らしい。

「そんなに欲しいもんだったんかぁ? なりふり構わなさすぎじゃね?」

 彼が何を思って聖剣を求めたのか。今どのような精神状態で人々を手に掛けているのか。当人でない以上、想像することしかできない。そして、あまりにも対極に位置するアキには理解できない心理とも言えた。

(じゃあ奪われた竜漿兵器も剣とか? でも……なーんか引っ掛かるんだよなぁ)

 そこまでの妄執に囚われている者が、まるで前準備のようにキャラバン隊を襲うだろうか。それもご丁寧に配下まで従えた状態で。回りくどいことはせず、いきなり空中城砦へ押し入っても何ら不思議ではなかったのに。あまりにも動きが冷静すぎる。アキが感じたそんな違和感には一抹の不気味さと、作為的な何かが蠢いている気がした。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

八乙女・美代
空中城塞、ねェ
…あれくらいの高さなら
蝶にでも変身すれば辿り着けそう
なら明日まで自由に時間は使えるわね

じゃ、病院にお手伝いに行きましょ
キャラバン隊を形成するような人数が
診療所規模の病院に担ぎ込まれてきたんだから
人手はあって困ること無いでしょう
此処で情報収集をする他の√能力者の助けになるかもしれないし

…なんて、それらしく言ったけど
単純にじっとしてるのは性に合わないのよねェ

医学の心得は無いけれど
図体だけはデカいから力仕事は得意よ
気が滅入ってる子の話し相手になることだってできるしね

彼らには前を向いて欲しいわ
間違っても生き残ったことを悔やんで欲しくない

明日もしっかりやらないと、ねぇ

 一ヵ月周期で高度を下げるという空中城砦は、今は月と寄り添うようにアイソラを見下ろしている。如何な長身の八乙女・美代(美意識の歪み・h07193)といえど容易に手が届く高さではないが、それでもそこへ至るための手段はいくらでも講じられた。

「空中城塞、ねェ。……あれくらいの高さなら、蝶にでも変身すれば辿り着けそう」

 こういう時、形を変えられる体というのは便利なものだ。懸念事項がひとつ消えたところで、美代は診療所へと足を進める。
 襲撃を受けたキャラバン隊の生き残りは診療所で治療を受けているが、ベッド数が足りていないのか医師や看護師達は診療所と宿屋を行ったり来たりしているようだ。疲労の色も濃く、単純なマンパワー不足も否めない。医学的な知識があるわけでもなく、かといって大人しくじっとしているのも性に合わない。美代は医療スタッフの手伝いを買って出ると、力仕事を中心にてきぱきと動き出した。

「はぁい、起き上がれる子たちは水分補給しましょ」

 美代が訪れたのは宿屋へ移された患者の部屋だ。ここでは比較的軽傷の患者が休んでおり、飲食も問題なく行える者が殆どだ。点滴の数が限られている以上、彼らには自力で栄養補給をしてもらう必要がある。美代は経口補水液が入ったケースを軽々持ち上げて部屋へ入ると、一人ずつにそれを配って回った。
 軽傷とはいえ、それぞれが精神に受けたダメージは想像に難くない。美代も今ばかりは常の笑顔を努めて維持し、キャラバン隊の生き残り達に声を掛けてゆく。その中でも、憔悴した様子を見せる獣人の少女が気に掛かった。

「はい、これはアナタの分ね。……なかなかそういう気になれないでしょうけど、少しでも飲んでおいた方が良いわよ」

 少女はウサギがそのまま二足歩行をしているような姿で、それに伴って体はとても小さい。とても頑健とは思えない体を慮って、美代は少女を気遣う言葉を掛ける。少女はというと、長身の美代に驚きはしたもののすぐに礼を言って経口補水液を受け取った。

「ちゃんと眠れそう? 寝不足だと傷の治りもだけど、毛艶にも悪いわよ」
「ありがとう。でも、どうしても眠くなくて」

 少女は苦笑しながら経口補水液を開き、一口だけ喉へ落とす。視線は窓の外へ向いていた。此度の襲撃現場になった森の方角だと、美代は薄々ながら察する。

「わたし、キャラバン隊のみんなと大きな冒険都市にも行ったことあるの。そのときに騎士を見たことがあってね、すごく憧れてたの」

 生まれが田舎だと話す彼女にとって、騎士というのは特別な存在だという。一見、何の脈絡もないような身の上話だが、襲撃の概要を知っている者からすれば彼女の胸中の傷に触れるような話だ。

「こわかった……騎士って、あんなに簡単に人を殺せるの……?」
「アナタ達を襲ったのは人の形をしたモンスターだって話よ。普通の騎士じゃない。そこは切り分けて考えないといけないわ」

 元がどれだけ高潔な勇者や騎士だったとしても、簒奪者に堕ちたのならばそれは〝怪物〟だ。善き者を愛する災厄としてそこは明確に線引きをしてあげたかった。少女は美代の言葉を己の中へ落とし込むように、少しだけ黙す。ちょっと難しいこと言っちゃったかしら、と美代は苦笑した。

「大丈夫よ、アナタは今もこうして生きてるもの。これから先、アナタの中の憧れを取り戻す機会はいくらでもあるわ」

 そう言って、再び横になるよう少女へ促す。不安を口に出したことで逆に落ち着いてきたのか、少女は素直にベッドへ潜ると大きな耳をぴょこと布団から出しながら美代を見上げた。

「おにいさん……?も、あしたは空の神殿に行くの?」
「そうね、一応そのつもりよ」

 診療所へ持ち帰るものをまとめながら首肯すると、少女は迷うような素振りを見せた後に恐る恐る、美代へ忠告めいた言葉を告げた。

「気をつけてね……騎士もたくさんいたけど、ちいさい竜みたいなのも見えたの。人がひとり乗れそうなぐらいの」

 成程、敵の城砦までの移動手段はそれか。美代は礼と共に少女へ笑みを向けると、手を振って宿の部屋を後にした。月と街灯の光を頼りに診療所へと戻る。寒風の吹く道すがら、あの空中城砦の姿が遠目に見えた。

(小さな竜ね。でも、いくら元勇者といっても、騎士団に加えて竜まで使役できるものかしら?)

 そこまで万能なのであれば、ロード・マグナスとの戦いにおいて自分達はもっと多くの敗北を喫している筈だ。だが、現実はそうではない。今回の事件に関しては、裏で手を引いている者の存在が疑われた。

「明日もしっかりやらないと、ねぇ」

 姿を隠し、裏を掻こうとする者とは何処にでもいるものだ。美代の愛するものとは真逆を行く、悪意の塊のような存在。本当にそんな黒幕がいるというのなら無視はできない。もしも顔を会わせたら呪ってやろうかしら、などと美代が独り言つのを聞いていた者は、静かな夜道においては誰一人いなかった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

シルフィカ・フィリアーヌ
元勇者とは言え、魔物に堕ちてしまったような存在に
竜漿兵器を渡すわけにはいかないわね

この街で太陽の竜と月の竜が信仰されているのは
神器にも由来しているのかしらね
出来るならその辺りのことも含めて
アイソラについてもう一度おさらい…というよりは
きちんと勉強しておきたいわ
襲われたというキャラバンの人たちも気になるけれど
わたしはひとまず図書館へ向かいましょう
この街の歴史…守り神の竜や神器について
司書さんからお話を伺ったり
それにまつわる神話や物語のようなものがもしあれば
時間が許す限り見てみたいわ

一通り調べ物が出来たらあとは十分に英気を養いましょう
酒場であたたかいスープか飲み物を頂いて
夜でも神殿は見えるかしら?

 善き者が悪しき者に。それはこの√に限った出来事ではないし、残念ながらフィクションでもありふれた話だ。善性を捨て、理性無き存在へ堕ちた勇者がアイソラへ仇為すというのなら、シルフィカ・フィリアーヌ(夜明けのミルフィオリ・h01194)にも戦わない理由は見当たらなかった。
 以前アイソラを訪れた際、太陽の竜と月の竜の話を聞いたことはあったが、空中城砦や神器については今回が初耳だ。この街に根付く信仰の源が何であるのか、そして神器とはそれとどのように関わっているのか。それを知るために、シルフィカは街の図書館を訪れていた。

「ようこそ、冒険者さん。何か調べ物ですか?」
「ええ。この街の歴史というか……守り神である竜について、何か分かりやすい本は無いかしら」
「勿論です。何冊かピックアップするので、少しお待ちくださいね」

 例外的な夜勤になったにも関わらず、エルフの司書は快く本を選別する。立派な革表紙の本から、近代的なファイルに纏められた口伝の資料まで。この街は記録好きの者に恵まれたのだろう、シルフィカの目の前はあっという間にアイソラの伝承を記した書物で埋まる。その中でも現代語に近い文章が綴られているものを二、三冊借りて、図書館の片隅の机へと向かった。窓の外から差す月明かりと、机のそばに灯る魔法灯のランプを頼りに本を広げ、シルフィカは黙々とその内容を読み進めた。
 守り神とされる二頭の竜の存在は、気が遠くなるほど昔から語られている。竜という存在がインビジブルと化した後も途絶えることなく信仰されてきたのは、年に一度催される祭りの際にその姿を薄ら見る者が多いせいもあるだろう。親しまれる年月が長いということは、それだけ逸話も多いことになる。一度は枯れかけたこの土地を太陽の竜が蘇らせた話、月の竜が波を呼び寄せ海の恵みを齎した話など、事の真偽はともかく超常の力を持った神のような描かれ方をしているものが殆どだ。
 その中で、神器の話と思しき物語はこうだ。竜という存在が姿を消す直前の時代。アイソラはモンスターによって平和を脅かされていた。それによる犠牲者の中には月の竜と心を通わせていた人間がおり、月の竜はその人間を失ったことで涙を流した。その涙を受け止めた鏡に竜の力が宿り、悪しき力の|尽《ことごと》くを跳ね返すようになった。太陽の竜は街を守ろうとしたが、既にその体は朽ちようとしていた。止むを得ず、その牙をアイソラの人々に与え、剣を作らせることで街を守護した。──それが神器のはじまりだとされている。

(でも、これはたぶん後付けのお話ね)

 シルフィカが次に手に取ったのは、街の歴史を記した本と考古学者が遺した記録だ。それによれば、今は神器と呼ばれている竜漿兵器は、アイソラ近郊に且つて存在した遺跡から発掘されたものらしい。開発者も、使用されている素材すら不明。発掘の時期を同じくして空中城砦が発見され、神がかり的な縁を感じたアイソラの人々がそこを神殿として剣と鏡を納めた……というのが正確な歴史だということがそれらの記録から読み取れる。

「勿論、神器のはじまりの話が真実で、竜が消えた後は遺跡に安置されて……それが近代で発掘されたって可能性もあるけれど。さすがに遠い昔すぎて、これ以上は只の憶測にしかならなさそうね」

 文字を追うのを止め、シルフィカはそっと本を閉じる。空中城砦については、神器の発掘時に現れたということ以外には何も記録が見つからない。今もなお詳細は分かっていないのだろう。それもその筈だ。天上界について未だ不明点が多い現代において、何か判明していればそれは世紀の大発見になってしまう。
 シルフィカは澄んだ薄青の瞳を窓の外へ向ける。街灯がぽつぽつと灯る街並みの中、それでも月の光は強い。皓皓と照る月を背負うように浮かぶ城砦が、ぴたりと静止しているように見えた。あれがあと数日もすれば、再び雲の上へと姿を消してしまうのかと思うと、不思議な心地がする。

「──さてと、出発までは……うん。あと少し時間がありそう」

 シルフィカは借りた本を綺麗に整えて重ねると、司書が待機しているカウンターへと運ぶ。礼と共に内容の感想を伝えれば、エルフの司書は「それは良かった」と嬉しそうに笑んだ。司書に見送られ、図書館を後にする。目指すは飲食店街だ。そこで温かいスープでもいただいて体を休めていれば、自ずと出発の合図が耳に入ることだろう。
 揺れるシルフィカの尾を、冬の海風が撫ぜる。たくさんの昔話を読んだせいだろう。それが、今は見えなくなってしまった竜の息吹だと信じたくなるアイソラの人々の気持ちが、少しだけ分かる気がした。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

西織・初
アドリブなど歓迎

【心情】
俺はモンスターの種類を調べてみようか。
何処から遠い場所から連れてくるにはリスクが高すぎる。この街の周辺に元々いたモンスターの可能性がある。
調べておいても損はないだろう。

【行動】
WIZで判定。
俺は図書館で調べさせてもらおうか。
図書館に入れて貰えばマスク型マイクのスイッチを入れて邪魔にならない程度の音量で√能力を発動。
施設内にいるインビジブルを生前の姿に変えて街の周囲にいる主なモンスターの分布が載っている書籍や過去にあったモンスターに襲われた最近の事例が書かれている新聞などがある場所を聞いて情報収集しよう。
情報を交換しやすく補完できるようにメモにしっかりと纏めておく。

 西織・初(戦場に響く歌声・h00515)がアイソラの図書館を訪れて最初にしたことは、常に装着しているマスク型マイクのスイッチを入れることだった。勿論、こんな時間のこんな場所で大音量を響かせるつもりは無い。ほんの少し、館内の空気を震わせることができればそれで良かった。

(モンスターは人型だって話だけど、このあたりに元々生息していた可能性もある。調べておいた方が良さそうだ)

 声量を落として小さく歌う。只人であれば耳を澄ませてようやく聴こえる程度の声だ。この歌はそれで良い。これは生者へ向けたものではなく、今も現世を揺蕩う|死者《インビジブル》へ向けた歌なのだから。
 外と同じく、館内には朧な魚の姿でインビジブルが意思なく漂っている。その内の一体が初の歌に引き寄せられるように泳いで来たかと思えば、ひらりと鰭を翻した。
 いつの間にか、初の目の前には一人の小さな老人が立っていた。初の歌を受けて一時的に生前の姿を取り戻したインビジブルが、今は豊かな白髭の奥から愉快そうな声を上げている。

「こんばんは。この街の近くでキャラバン隊が襲われた事件について、知ってるか?」
「おお、知っとるぞ。わしは比較的遠くまで飛んで行くからのう。噂は勿論だが、街の周辺も眺めに行ったな」

 髭を撫でながらインビジブルの老人は事もなげに言う。壁際に設けられた椅子に腰かけると、隣の椅子を初に勧めてきた。

「襲ってきたモンスターについて調べてるんだ。夜明け前にはそいつらと戦うことになる」
「そりゃあ一大事だ。だが、のう……」

 老人が口を噤む。朗らかなその表情に僅かな曇りが見えたのが気掛かりで、初は彼の隣の椅子へ腰を下ろしながら様子を窺った。

「……お前さん、〝人間〟と命の奪い合いをしたことはあるかね?」

 無いならば、防衛戦への参加はやめておきなさい。老人はそう付け加える。初は答えなかった。幾つもの√を渡る中で、多くの簒奪者と戦ってきた。その末にどうなったか、などという問いは愚問とも言える。老人は初の顔をじっと見つめると全てを察したのか、やがて眉尻を下げた。

「……このあたりには人間を襲えるようなモンスターは生息しておらんのだ。ましてや、キャラバン隊のような大所帯を襲って勝てるような生物など、おるわけがない」

 アイソラの上空に鎮座する城砦ですら、天上界の遺産をこの地に落とすことはしなかった。大昔や、これから先の未来は分からずとも、少なくとも現在はモンスターとも呼べない野生生物だけが根付いている、と老人は語った。ならば、キャラバン隊を襲ったのは外からやって来たモンスターということになる。

「わしが懸念しておるのはだな、その〝外からやって来たモンスター〟が〝人間〟であることだよ」

 キャラバン隊の生き残りは言った。騎士に襲われた。√ドラゴンファンタジーの何処にも存在しない紋章を掲げた騎士団が、無辜の命と竜漿兵器を奪ったのだ、と。その言葉通りなのだとしたら、老人の話とも合致してしまう。老人は髭を撫でていた手を止めて、窓の外へ視線を滑らせる。今はまだ、空中城砦へ近づく影は無い。

「|死後の姿《インビジブル》となってからというもの、魔力の揺れのようなものに敏感になった。だから、感じたんだよ。襲撃の瞬間に一帯の空気を揺らしたものが、どうしようもなく理性を持つ人間の竜漿だということを」

 それが謎の騎士団のものであるか、元勇者のものであるか。老人にはそこまでの判別はつかなかったという。確実なのは、確固たる目的と悪意を以てキャラバン隊を襲った……ということだけ。生存のためだけに他を捕食する動物や、理性なく暴走するモンスターではないと、断言した。

「理性はあっても正気ではない。そういうことか?」
「そういうことかもしれん。理性とは、狂気とも共存し得るものだ」

 思っていた以上に陰謀めいた事件だった。元勇者を倒すこと──それだけで本当に解決するのか、初は疑問に思う。だが、時間は待ってはくれない。静かに振り子を揺らし続けていた壁掛け時計を見れば、城砦へ出発する時刻が近づいてきていた。初は老人に礼を言うと椅子から立ち上がり、集合場所へ急ごうと一歩踏み出す。

「──もうひとつ。あの襲撃の現場には、明らかにその騎士らとは異なる存在が居合わせておった」

 去ろうとする初の背に、老人はもうひとつの情報を投げて寄越す。初が振り返ると、老人は先程よりも姿が薄れ、人としての形も解けつつあった。

「異なる存在……騎士や元勇者以外に誰かいたのか?」
「ああ。奴は現場を|ただ見ていただけ《・・・・・・・・》だ。目的も、手の内も分からん。だが、裏で糸を引いておる可能性はあるだろう」

 気をつけなさい。そう最後に言い残して、老人の姿は掻き消える。代わりに現れた朧の魚がふわりと翻り、吹き抜け状になっている図書館の天井へと舞い上がっていった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

チェスター・ストックウェル
武装したモンスター集団かあ
それだけでも厄介そうなのに、元勇者様の陰で何者かが暗躍している可能性もある、と
ヒトだけど竜……アイソラの“二頭の竜を祀る神殿”に何か関係がある?

壁を擦り抜けて街の図書館に忍び込もう
調べるのは神殿や二頭の竜についての伝承
それらが文書として残されていない場合は、近年の発掘調査報告書や新聞記事から、神殿に纏わる行事や内部の構造といった情報を集めよう
また、付近で起きた竜やドラゴンプロトコルが関わる事件を洗い出してみるのもいいかも

……あ、この√の人は俺みたいな存在の姿もぼんやりと見えるんだっけ?
しがない幽霊に声をかけてくる人はいないだろうけど、目が合えば挨拶くらいはしておこうか

「武装したモンスター集団かあ」

 聞いただけでも厄介そうな事件である。その上、首謀者たる元勇者を隠れ蓑した何者かが暗躍している……なんて情報も共有されたものだから、チェスター・ストックウェル(幽明・h07379)も流石に観光気分ではいられなくなってきていた。

(ヒトだけど竜……アイソラの〝二頭の竜を祀る神殿〟に何か関係がある?)

 月を背景にして空に浮かぶ空中城砦を見上げながら、チェスターは考えを巡らせる。ただ、予想を立てようにもあまりにも情報が足りなかった。ずっとここで星空観賞をしていても仕方が無い、と踵を返して向かったのは図書館だ。常ならば閉館している時間だが、今夜だけは非常事態ということで特別に入館を許可された味方が何人かいると聞いている。既に調べ物に着手している者も多いだろう。チェスターは特に急ぐでもなく、ふわふわと風に任せるようにして図書館を目指した。
 職員に許可を求めるのは面倒だった。それに、幽霊であるチェスターの姿を視認できる者は少ない。そのためにあれこれと手を回していては、それこそ夜が明けてしまいかねない。チェスターは図書館の適当な外壁を、まるで敷居だけを跨ぐような気軽さですり抜ける。適温が保たれた館内は夜であるのに加え、本の保存のためか薄暗い。光源といえば、本棚に直接光が当たらないよう点々と設置された魔法灯のランプぐらいだ。

「えーっと、この場合は民俗学とかになるのかな……念のために文化人類学の棚もチェックするかあ」

 あまり調査の範囲を広げるつもりは無かった筈だが、チェスターは結局その後、考古学や建築、そして近年の新聞記事のバックナンバーにまで手を広げることになる。如何せん初めて訪れる土地だ。地名や人物名等、知らない単語が出てくると今度はそれを調べるはめになり、調べなければならないことが芋づる式に目の前に並ぶのだ。

「出発までに終わんないって、これ……もうやめよっかな」

 とはいえ、いくつかはっきりしたことはある。アイソラという街は思っていた以上に古く、太陽の竜と月の竜によって実際に守護されていたとしても可笑しくはないということ。年に一度の祭りの日、竜漿を持つ人々によって二頭の竜の姿が薄ら見えるという報告が上がっていること。そして、空中城砦が神殿とされ始めたのは、長い歴史の中で見ればごく最近だということだ。そして、運が良いことに当時の資料がチェスターの手元に転がり込んでくる。空中城砦が発見された頃、内部を調査した者が残した報告書らしい。城砦の構造が細かく図解されており、これが防衛戦において大きなアドバンテージとなるのは素人目でも分かった。
 収穫はこんなところか……と、チェスターがあちらこちらに広げた本を閉じ、念動力で棚へ戻してゆくと、司書なのであろうエルフの職員が通りかかる。ポルターガイストを見て声を上げるかと思いきやそうでもなく、至極落ち着き払った様子でチェスターと|視線を合わせた《・・・・・・・》。

「さっき、新聞記事をお探しだったでしょう。竜漿兵器絡みの事件の記事もありましたので、どうぞ」
「え? ああ……どうも……?」

 拍子抜けしながらも、辛うじて礼らしい言葉を伝える。そこで、先程の「竜漿を持つ人々によって二頭の竜の姿が薄ら見えるという報告」について思い出した。

(……あ、この√の人は俺みたいな存在の姿もぼんやりと見えるんだっけ?)

 それにしたって、随分とはっきり視線を合わせてきたものである。業務へ戻るエルフが去って行った方角を覗き見るが、既にその姿は何処にも無い。ここではあまり「誰にも見えない」と高を括らない方が良さそうだと肝に銘じた。そして、気を取り直して新聞記事へと視線を走らせる。

「あれ……?」

 思わず声が零れた。複数集めた記事の中で竜漿兵器が絡んだ事件のものを並べると、一部の記事に共通点が浮かび上がる。盗難、収奪、強盗殺人。その末に失われた竜漿兵器のどれもが〝竜〟にまつわるものばかりだ。竜の魔力を浴びて生まれてくるこの√の人々にとって、竜漿自体は当たり前のもの。それを動力とする竜漿兵器だが、かといって全ての竜漿兵器に竜が関わっているとは限らない。だが、今チェスターが並べた記事で報じられた事件は、どれも〝竜の伝説〟がついて回るような品ばかりが奪われている。

(妙な拘りのある同一犯か? でも、なんでまた竜絡みのものばっかり……)

 なんとなく、嫌な予感がした。そんなチェスターの内心に呼応するように、すぐそばのランプの内側で魔法灯が不安げに揺れる。月が、中天にかかっていた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 集団戦 『堕ちた近衛騎士団』


POW 連携攻撃
【槍の連続突き】による牽制、【メイスに仕込まれた鎖】による捕縛、【長剣】による強撃の連続攻撃を与える。
SPD 待機部隊の召集
事前に招集しておいた12体の【待機させていた部隊】(レベルは自身の半分)を指揮する。ただし帰投させるまで、自身と[待機させていた部隊]全員の反応速度が半減する。
WIZ 通信魔道具接続
半径レベルm内の味方全員に【通信魔道具】を接続する。接続された味方は、切断されるまで命中率と反応速度が1.5倍になる。
イラスト 聖マサル
√ドラゴンファンタジー 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 ある者は貨物船を用いて。ある者は魔法具を用いて。また、ある者は生まれ持った翼で夜空へと発つ。冬空を往く風は頬に僅かな痛みを齎したが、アイソラに最も近づく周期なだけあって神殿とされる空中城砦にはすぐに辿り着くことができた。
 降り立った城砦は、且つては白亜の城と呼ばれるに相応しいものだったのだろう。気が遠くなるほどの長い年月を経て古く褪せてはいるものの、未だ朽ちることなく荘厳な空気を保っている。正面入口にあたる場所は屋外広間になっていた。支柱で成されたアーチに囲まれるような造りになっており、来訪者を城砦の玄関ホールへ導くように奥へと伸びている。
 だが、ゆっくりと観賞する時間は無い。ふいに空気が変わる。烏のように濁った、けれども獰猛な大型獣を想起させる声が√能力者の耳に届いた。今まさに自分達が昇ってきた空を往く複数の影が、こちらへと迫っている。それが何であるかを認識した瞬間、別動隊は城砦の内部へと駆け出していた。
 飛来したのはまさしく騎士団だ。フルフェイスの甲冑を身に纏い、黒々とした鱗の飛竜に跨って城砦へと次々に降り立つ。禍々しい飛竜は|何処《いずこ》からか召喚されただけの存在なのか、ひとつ咆哮を上げると次々と姿を消していった。

「|祖国《ワラキア》に竜の血を捧げよ!」

 口々にそんなことを叫ぶ騎士の声色は、とてもまともな精神状態とは思えないものだった。こちらへの敵意を隠すことはせず、問答をする気も無いようだ。
 騎士たちは色褪せた石畳に降り立つや否や、各々の武器を取り出して戦闘態勢へ移る。よくよく見れば、騎士たちの武器には鉱石の破片のようなものが埋め込まれ、不気味な光を湛えている。眼前の全ての敵を捉え、竜漿に流れる魔力を吸い上げんと輝くそれらが、キャラバン隊から奪われた竜漿兵器──エレメンタルオーブの一部であることは一目瞭然だった。所詮は尖兵、と侮れば一瞬で力を枯渇させられる未来が予想できるだろう。
 騎士の一団が一斉に声を上げ、突撃を開始する。別動隊が神器を確保するまでは、彼らを城砦の奥へ向かわせるわけにはいかない。√能力者はそれぞれの得物を構えると、狂信の騎士団を抑え込むべく応戦を開始した。
八乙女・美代
随分大所帯で来たのね
いいわ、纏めて相手してあげる

こう見えてアタシ、力には自信があるの
さあ騎士様方
力比べといきましょう?

ここはシンプルに行きましょ
√能力でなるべく沢山の騎士達を巻き込んでいくわ
流石に此処で本来の大きさになる訳にもいかないけれど
ちょっと|足《・》を伸ばすくらいはいいでしょう
うっかり潰しちゃったらごめんなさいね

出来れば仕留めたい気持ちもあるけれど
今回はあまり拘らずに
とにかく数を巻き込んで
アタシを無視できない存在と認識させられればイイわ
敵の注意を惹くことを意識しましょ

あら~?
アタシを置いて先にいけると思ってるのかしら
行かせないわ
だってアタシ、まだ踊り足りないもの

 随分大所帯で来たのね。抱く感想といえばそれぐらいだ。静謐を打ち破るように突撃してくる騎士団を前にしながらも、八乙女・美代(美意識の歪み・h07193)は常の調子を崩すことはない。数では敵が勝るのだろうが、それでも美代からすればどれもが小さかった。

「いいわ、纏めて相手してあげる」

 ざらり。美代の腕に繋がれた注連縄が、乾いた音を立てて騒いだ気がした。虚言の名を冠するそれは、まるで意思を持つ生物のように「蹂躙せよ」という指示を待っていた。美代は上機嫌に口角を上げ、眼前まで迫らんとする騎士へ向けて片手を差し出す。さながらダンスへ相手を誘うような、至極柔らかな所作だった。

「さあ騎士様方、力比べといきましょう?」

 最前列を走る騎士の槍の穂先が、美代の眼前をすり抜ける。正確には、美代が仰け反るように大きく身を逸らして回避した。流れるように低姿勢へ移った美代が足払いをかけると最前の騎士も、その後ろを行く騎士らも咄嗟の事態に体勢を崩してしまう。すかさず注連縄を振るえば、この時を待っていたと言わんばかりに敵の陣中へ飛び込み、間合いに存在する全ての敵を締め上げていった。

「うっかり潰しちゃったらごめんなさいね」

 途端、捕縛した騎士の体が吹き飛ぶ。何が起こったのか、狂信に駆られた彼らには理解できないだろう。〝美意識〟という概念とその歪みから生まれた美代にとって、体の大きさという枠組みは有って無いようなものだ。そんな彼が、|ちょっと足を伸ばす《・・・・・・・・・》。ただそれだけで、成人男性を複数人、同時に蹴り飛ばしてしまえる。古い建造物の上……それも空中で本来の大きさへ戻るわけにもいかないが、今はこの程度で構わなかった。重要なのは、美代のことを無視できない存在であると騎士団に認識させることなのだから。
 後方に控えていた騎士が、武器を手に美代と対峙する。槍やメイス、長剣といった武器をそれぞれに構えて向かって来るが、そのどれもが美代からすればリーチが短い。統率の取れた動きで連携し、技を繰り出そうとはするものの、美代が少しばかり体を大きくして片腕を振るえば掌にちくりと刺さる程度で済んだ。その拍子に騎士たちは吹き飛ばされ、ある者は城砦から落下してしまうのだから、彼らからすれば代償が大きい行為だろう。
 ここでまとめて潰してしまっても構わなかったが、今回の役目はあくまでも足止めだ。美代は可能な限り目立つように動き、騎士たちの意識を引き付ける。そんな意図を察した者でもいたのだろうか。小隊ほどの人数の騎士が乱戦を掻い潜り、城砦の内部へ突入しようとしている様子を美代は見逃さなかった。

「あら~? アタシを置いて先に行けると思ってるのかしら」

 城砦を崩さない程度に、大きな一歩を踏む。たったそれだけで小隊へ追いつくと、美代は騎士たちの行く道を塞ぎ、甲冑で隠された顔を上から覗き込んだ。美代の長い黒髪が、宵の静寂すらもシャットアウトするカーテンのように騎士の視界を遮る。今ここで目に見えるものは美代の白い容貌と、鮮やかすぎるほどのふたつの赤だけだった。

「行かせないわ。だってアタシ、まだ踊り足りないもの」
🔵​🔵​🔵​ 大成功

チェスター・ストックウェル
こいつらを食い止めろだって?
……冗談。撃破して竜漿兵器を取り返せの間違いでしょ

竜にまつわる兵器ばかりを狙って、何を企んでいるのかは知らないけど――それがロクでもないものだっていうのは、俺でも想像できるよ
だからここでその芽を摘む
面倒なことほど、早めに片付けるに限るんだ

不意打ちで敵の武器を取り落とさせたら、周辺にある最も殺傷力の高い物体――つまりは竜漿兵器を念動力で操り、敵を貫いてしまおう
まずはひとつ
次はそっちのメイスをもらおうかな

その後は冥々を纏って敵の攻撃を躱し、敢えて敵集団に飛び込むことで同士討ちを誘う
通信魔道具も狙って切断してしまおう

さあイケてる幽霊へのプレゼントの列はこちら
並んで並んで!

「こいつらを食い止めろだって? ……冗談。撃破して竜漿兵器を取り返せの間違いでしょ」

 神器を守る防衛戦だと理解はしているが、目の前で盗品を堂々と見せつけられて黙っていられるほど腑抜けていないと、チェスター・ストックウェル(幽明・h07379)は自負していた。騎士団の最終目的が何であるのかは不明だが、世のため人のためにならないことだけは確実だ。チェスターが動く理由としてはそれで充分だろう。面倒なことほど早めに片付けるに限る、というのはこれまでの経験から自然に得た発想だった。
 〝正常に狂っている〟騎士たちが、凱歌のような声を上げながら突撃してくる。チェスターはそのうちの一人が手にしている槍に視線を合わせると、望遠レンズを引き絞るように意識を寄せた。瞬時に構えた銃で騎士の手を狙って発砲する。装甲に阻まれても構わなかった。着弾した衝撃で騎士の手を離れた槍が宙へ浮かぶ。弾かれたように回転したそれは、先程まで己の持ち主であった騎士へと切先を向けると間髪入れずに装甲を穿ち、貫いた。

「まずはひとつ。次はそっちのメイスをもらおうかな」

 ポルターガイストが屋内でのみ起こる現象だと思っていたのなら、彼らの敗因はそれだろう。竜漿兵器が埋め込まれた武器は、チェスターの念動力によって次々と奪われる。一瞬でも主導権を握ってしまえたのならばこっちのものだ。意思なき無機物は素直にチェスターの指示に従い、丸腰になった騎士たちを屠ってゆく。気付けばチェスターの周囲には十数本もの長剣や槍が浮遊していた。これだけ奪えばオーブのひとつでも復元できるだろうか。
 そんな|最中《さなか》、次に向かってきたのは甲冑に竜漿兵器を埋め込んだ騎士だ。あれを奪うのは難しいと即断したチェスターは他の武器に自身を守らせつつ、霊障とも呼べる歪みを纏って宙を滑った。敵の動きが先程とは明らかに異なる。まるで機械のように正確無比な連携は息が合っているというよりも、何らかの手段で通信を行い、声を掛け合っている印象だ。

「──でも良いのかな、そんなに寄ってきちゃってさ」

 とん、と虚空を蹴る。ただ浮遊するに留めていた体が、弾道ミサイルの如き速度で夜の空気を切った。狙うのは敵陣の只中。騎士たちが武器を構え、チェスターを迎撃しようとする様子が見えた。──瞬間、軌道を変える。振るわれた刃を回避して騎士と騎士の間を高速ですり抜ければ、その速度に対応できなかった騎士同士が正面から衝突してしまった。体勢を崩す者、相手の武器で誤って負傷する者、あらゆる事故が同時に起こって場が混乱する。
 途端、敵の連携に大きな乱れが生じた。チェスターが纏う|冥々《歪み》の影響で通信異常が発生したようだ。これ幸いとばかりに再び念動力を使えば、竜漿兵器の有無を問わず騎士たちの武器がチェスターのそばへ侍る。思惑通りにいくと気分が良いものだ。チェスターは豪奢な椅子にでも座るかのように宙で脚を組み、眼下で狼狽える騎士たちへ声を投げ掛けた。

「さあ、イケてる幽霊へのプレゼントの列はこちら。並んで並んで!」

 まあ、どれも俺の趣味じゃないけどね。17歳で時が止まったチェスターの若く不敵な笑みには、そんな隠さない本音が正直に表れていた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

シンシア・ファルクラム
★心情
あれが、襲撃者の正体……。
竜はどこから現れ、消えたのか。気になるところではございますが……今は、あの鎧の兵士達に向かうべきでございますね。
直接の魔法は吸収される可能性が高い……でしたら、そうではない方法で。
★行動
兵士たちの行く先に向け、【天淵氷雷の竜鳴】を放ちます。
氷結の雷にて、作り出すは凍結された道筋。きっと足を取られますし、鎧の自重も手伝って起き上がるには時間を要するはず。
そこを、【リラ】をディヴァインブレイドの状態にして【祈り】の力にて飛翔させ打ち据えることで攻撃する力を奪います。
攻撃のみでの突破が困難であれば、ディヴァインブレイドを突き立てて炎の【属性攻撃】で【焼却】いたします。

(あれが、襲撃者の正体……)

 彼らの在り方がそうである以上、仕方のないことではある。それでも、人間同士で争い合わなければならない現実に、シンシア・ファルクラム(歌い、奏でる空の柱・h08344)は虚しさすら覚えた。彼らが騎乗してきた竜の所在も気に掛かったが、今はそれを探る暇も無い。行く先に立ちはだかる者全てを斬り捨てんと突撃する騎士らへ、シンシアは藍色の眼差しを向け、静かに告げた。

「竜の慈悲、輝く雷鳴、冷たき波涛となりて」

 詩を吟ずるようなシンシアの声に反して、天が轟く。竜の咆哮にも似た轟音と共に落ちる細い稲妻が、幾重にも連なって城砦へ届いた。それらは全て騎士たちではなく、彼らが目指す城砦の玄関──そこへ続く道を走った。
 痺れるような衝撃の後に残ったのは冷気だ。稲妻が落ちた場所の全てが凍結している。騎士たちは突然の稲妻に多少怯む様子は見せたものの、城砦を目指す足を止めることは無い。凍結した通路へ勢いのまま踏み込んだ彼らが次々と体勢を崩してしまったのは自明の理とも言えた。それでもどうにか立ち上がり、尚も城砦の内部を目指そうとする者の何と多いことか。

「退いていただけないのなら仕方ありません」

 シンシアは細い指で、愛用のリラの弦をひとつ爪弾く。それを合図とするようにリラが宙へ浮かんだかと思えば、瞬きのうちにその形を一本の|剣《つるぎ》──ディヴァインブレイドへと変じた。

「ここはアイソラの皆様の祈りの受け皿。荒らすのであれば、相応の報いを」

 途端、ディヴァインブレイドがひとりでに動き出す。シンシアの祈りを受けて飛翔した剣は、体勢を立て直そうとする騎士の只中へと飛んだ。異変を察知した彼らも氷の上に在りながら応戦しようとするが、小回りでは明らかにディヴァインブレイドが上回っている。竜漿兵器が埋め込まれた剣や槍、メイスといった武器を次々と弾き返すと、頭部や脚を狙って刃が振るわれた。命まで取ろうとは思わない。シンシアはあくまでも、別動隊が神器を確保するまでの時間稼ぎとして騎士たちの足止めに徹した。
 ふと、騎士たちの動きに変化が生じる。小隊のうちひとりが先導して、特定のルートを進み出す。どうやら凍結が比較的甘い箇所を見つけたようだ。ディヴァインブレイドによる猛攻は|殿《しんがり》を務める者が引き受け始めている。

(統率の取れた動き……言葉を発した様子もありませんし、魔道具で通信でもしているのでしょうか)

 そうであるならば、シンシアも手加減してはやれない。シンシアはディヴァインブレイドを騎士たちの列から離し、その行く先を塞ぐ位置にまで飛翔させる。先頭の騎士が剣を構えるが、彼と刃を直接交えるつもりは無かった。
 凍結した道にディヴァインブレイドが勢いよく突き刺さる。同時にシンシアが込めた祈りは、先程の稲妻とは真逆の属性を帯びていた。白い床や柱を覆っていた厚い氷が溶けだす。瞬時に炎に巻かれた城砦への道は、まさに地獄への道と呼ぶに相応しい光景に成り果てた。炎は巨大な蛇や竜にも似た形でうねり、騎士たちを呑み込んでゆく。竜の怒りを体現したその焔は甲冑で身を覆う彼らでも到底、耐えられるものではなかった。

「竜の神域を穢し、無辜の民を傷つける。これはあなた方の罪が招いた、因果の炎です」
🔵​🔵​🔵​ 大成功

アキ・サクラ
アドリブアレンジ◎

ヒェッめっちゃ団体客来たんですけどー!?
ん?…おれら足止め兼上手く行けば倒しちゃえ部隊ってことぉ?
あんたらも|祖国《実家》に血なんて物騒なもん捧げんなし!

とりま罠仕掛けて侵攻を邪魔せにゃ
トリモチ、トラバサミ、ジャンボネズミ捕りでダメージ入れつつその場に留まってもろて
ずっくん着弾ポイント割り出しオナシャス
患う病はー、疑心暗鬼ー!
知ってるー?あんたらの中にスパイいるんだぜ?
だからおれらこんなにスムーズに二手に分かれられたんじゃん
おれの口からは言えないから…そこは、ねぇ?

ふははは、かかったなバカめ!
おれっち渾身の重力魔法付きの鉛玉を喰らえ!
このまま潰れちまいなぁ!!

「ヒェッめっちゃ団体客来たんですけどー!?」

 狂える騎士たちが押し寄せる様を前にして、アキ・サクラ(のらりくらり・h09479)は顔を青くした。乱戦になるだろうとは聞いていたが、相手の数が想像を遙かに超えている。あれらを足止めし、可能であれば数を減らせという指示はアキからすればかなりの無茶振りにも思えた。

「あんたらも|祖国《実家》に血なんて物騒なもん捧げんなし!」

 誰に不満を言えば良いのやら。一秒たりとも無駄にできない状況で、アキは急ピッチで狩猟用の罠の数々を展開した。

「ずっくん、着弾ポイント割り出しオナシャス」

 アキの言葉に、心得たとばかりに木菟が飛び立つ。夜の空からの観測はまさに得意分野だ。木菟が合図を出した場所に合わせて、アキは手慣れた様子で罠を設置してゆく。トリモチやトラバサミといった定番から、巨大なネズミ捕りまで。種類を問わず、広範囲に設置した罠はこの場所においてなかなかに目立つものだが、騎士たちには城砦しか見えていないのか。構わず突撃してきたのはアキにとって好都合と言えるだろう。
 先頭を走っていた騎士が罠のひとつを踏む。途端、辺りを包んだのは爆風だった。動きを封じるだけでなく、爆破によるダメージを与えることで脱落者が出れば儲けもの。そんな思惑も勿論あるが、アキの本当の狙いは別にある。

「知ってるー? あんたらの中にスパイいるんだぜ?」

 爆破による風塵の向こう側から、アキが声を張り上げた。如何に騎士たちが正気ではないとはいえ、言葉が通じないということはない筈だ。爆風と共に撒き散らされたアキの魔力を吸い込んだであろう彼らが、その言葉に思考を搔き乱されるのに時間はかからなかった。
 そもそも、何故こうして襲撃に合わせて待ち伏せされているのか。何故こちらがこんなにも用意周到で、部隊をふたつに分ける余裕まであるのか。不信を煽る材料を次々と投下すれば、騎士たちは突撃を再開しようとしていた足を止め、己の周囲を疑わしげに見回し始めた。

「裏切者……裏切者! 処刑せよ、処刑せよッ!」

 味方を疑う声は徐々に怒号へ変わる。狂わされた理性と、半端に残された知性──そしてトドメのように注がれた〝病〟は、こんなにも簡単に不和を起こしてしまえるものか。弾劾を始めようとする騎士たちが隊列を乱す。その瞬間を待っていたと言わんばかりにアキは精霊銃を構え、銃口を騎士たちへと向けた。

「ふははは、かかったなバカめ!」

 アキの高笑いと共に放たれた弾丸は、歪みにも似た力を帯びて風を切る。それは照準の先にいた騎士の甲冑へ着弾すると、小さな弾丸の威力とは思えない破裂を見せた。そして破裂と共に齎されるのは、見えない力。圧力とも呼べるような強制力。それを体の上からではなく、着弾した位置の内部から見舞われた騎士は甲冑共々、紙屑のように圧し潰されてしまった。

「おれっち渾身の重力魔法付きの鉛玉を喰らえ! このまま潰れちまいなぁ!!」

 自然の法則を無視した重力を弾丸へ込めて次々と発砲する。混乱する騎士たちの様子に反して、思惑通りに事を運べたアキの楽しげな声が辺りにこだました。普段の調子を保っているせいか、彼の行いがかなり高度な技術を要することに気付けた者は、あまりいないだろう。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

シルフィカ・フィリアーヌ
御機嫌よう、悪い騎士さん達
残念だけれど、ここで行き止まりよ

勿論侮れないことはわかっているけれど
所詮彼らが持っているのは砕いた欠片の小さな破片にすぎない
ならばこちらにも勝機はあるはず
…まあ、考えるよりも先に片付けてしまう方が早そうね

雷霆万鈞を使用
わたしの弾丸、受け止められるかしら?
反応速度が鈍っているなら利用しない手はないわね
傷を負った個体を中心に多くの敵を巻き込めるよう狙いつつ
花火には少し物足りないでしょうけれど
より空に近い場所で盛大に雷の力をお見舞いしてあげましょう
近くにお仲間さんがいるなら援護を意識して立ち回るわ

魔物へと堕ちてしまったあなた達に
ほんの一滴たりとて竜の血を捧げさせたりはしない

 何度妨害されても立ち上がる騎士の姿は、見様によっては勇猛果敢だ。それこそ、これが彼らの祖国の民を守るための戦いであったのなら、誰もが称賛を送っただろう。だが、今の彼らは悪逆の徒。騎士としての信念など、とうの昔に失われてしまっていた。

「御機嫌よう、悪い騎士さん達。残念だけれど、ここで行き止まりよ」

 彼らの行く道にシルフィカ・フィリアーヌ(夜明けのミルフィオリ・h01194)が立ち塞がる。姿かたちこそ少女のそれだが、シルフィカは今まさに騎士らが冒涜せんとするものと同じだ。角や翼といった竜の名残りが、モンスターへと堕ちた騎士団を赦してはならないと告げている。魔力を吸い上げる竜漿兵器の存在は気に掛かったが、見たところそれも欠片を分け合ったものでしかない。その機能が十全でなかったとしたら、こちらにも勝ち目は充分にあるとシルフィカは踏んでいた。

(……まあ、考えるよりも先に片付けてしまう方が早そうね)

 こちらの部隊の目的はあくまでも足止めだ。撃破はおまけでしかなく、別動隊が神器を確保しさえすれば良いと聞いている。あれこれ気を回さなくて構わないのなら、取れる手段はいくらでもあるので有難かった。
 精霊銃を手に取ったシルフィカへ向けて、十二人の小隊を組んだ騎士が突撃を始める。統率の取れた動きだ──しかし、それ故に一人ひとりの速度は落ちているようにも見えた。

「わたしの弾丸、受け止められるかしら?」

 シルフィカが躊躇うことなく銃口を騎士へ向けると、より近くなった天から雷鳴が轟く。引き金を引くのに合わせて落ちた稲妻が、射出された弾丸を包むように閃いた。夜風よりも速いそれを回避するのは困難だと断じたのか、騎士たちは防御陣形を固める。だが、弾丸がその甲冑に触れた途端、爆発音と共に走った強烈な衝撃によって一人が吹き飛ばされてしまった。

(でも、一瞬だけ威力が落ちた。あの竜漿兵器、砕かれてもまだ生きているのね)

 一撃では仕留めきれなかったが、騎士らが持つエレメンタルオーブの効果がどのようなものであるかをこの目で確かめられたことは僥倖だった。それならば直接触れる戦い方よりも、遠距離からの高火力を見舞い続けた方が勝機はある。確信と同時に追い撃ちを放てば、他の騎士も雷霆によるダメージで次々と膝を折っていった。撃てば撃つほどに稲光が走る範囲が広がり、小隊のみならず他の騎士たちも巻き込んでゆく。雷霆の爆発による衝撃で地上へ落ちてゆく騎士もいたが、曲がりなりにも彼らも√能力者だ。望もうとも望まざるともいずれ蘇り、再びシルフィカ達の前に立つのだろう。
 騎士たちを襲った雷撃の余波が床や柱、果ては空気といったあらゆる要素を伝って周囲へ広がる。それらは意思を持つ生物のようにあたりの者らに纏わりつくが、シルフィカの味方には恩恵を、敵には雷火を与えて回った。

「魔物へと堕ちてしまったあなた達に、ほんの一滴たりとて竜の血を捧げさせたりはしない」

 城砦を照らす月と同様に冴え冴えと、騎士たちを見下ろす。凛然と告げるシルフィカの言葉に迷いなど無かった。全てを奪われた竜として、それがどれほど心に虚を生むものであるかを、身をもって知っているから。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

一文字・伽藍
さ〜て、伽藍ちゃんのお仕事は〜?
迎撃、防戦、足止めの3本でお送りします!

多数相手なら、足並みとか隊列を崩すのも良さげ?
狙いは頭じゃなくて足。
先頭のやつの膝辺りに、ポルターガイストで釘をお見舞いっ。
鎧だァ?ンなもん|貫通攻撃《ブチ抜け》!
1人の動きが鈍れば、大なり小なり周りの動きにも響くもんよ。
ほーら|乱れた《隙あり》。
次アンタね。

マ、これだけじゃ大した足止めにもならんでしょ。
効果あっても最初だけ。
だから、あっちが強行突破に出てからが本番よ。
クイックシルバー、|【妖精狩猟群】《弾幕》だ!
釘は|2回攻撃《倍ドン》、狙いは頭!
フルフェイスごと風穴開けな!
あ、釘余ってたらあの|鉱石《変な石》割って〜。

「さ~て、伽藍ちゃんのお仕事は~? 迎撃、防戦、足止めの三本でお送りします!」

 特にカメラを回しているわけではない。物騒な場面は配信には乗せない主義だ。それでも、まるで視聴者がいるかのように明るく振舞ってしまうのは一文字・伽藍(|Q《クイックシルバー》・h01774)の癖のようなものだった。
 伽藍の周囲を、雪よりも眩い|銀《しろがね》がくるくると飛び回る。クイックシルバーと呼ばれる護霊は伽藍の手元で用意された幾本もの釘に一瞬だけ触れると、全てを引き受けるように宙へ浮かび上がらせた。

「いくよ、クイックシルバー!」

 途端、浮遊していた釘が一斉に射出される。広範囲ではなく、狙いを一点に定めて。隊列の最前を行く騎士の脚に集中させた。ポルターガイストという姿無き操者による攻撃は予測が難しかったのか、騎士は防御も回避も叶わず多くの釘を膝へ受ける。範囲を狭めた代わりに貫通力に特化したその攻撃は、鋼の甲冑など粘土細工のように破壊してしまった。そして、ひとりが突然に体勢を崩せば、その後方から続く者も巻き込まれるのは自然なことだ。

「ほーら|乱れた《隙あり》」

 隊列を崩し、前の騎士の陰から外れた次の騎士へ釘を飛ばす。甲冑ごと膝を砕かれた騎士は立っていることすらできず、白い石の床に倒れ伏した。痛みに呻く声は、最早言葉にすらなっていない。
 だが、対峙する全ての敵にそれが通用するとは伽藍も思っていない。前列の異変を受けて、後列の騎士たちは|何処《いずこ》からか盾を取り出し、前方の防御を固めながら前進してきた。十二人編成の小隊を組んでの前進は、なるほど確かに防御面においては強いだろう。けれども伽藍は焦る素振りすら見せず、にぃと口角を上げて声を張った。

「クイックシルバー、|妖精狩猟群《弾幕》だ!」

 釘の雨が狭範囲から広範囲へ。ひとつの大きな光だったクイックシルバーが細かに分裂し、先程の数十倍の数の釘を操り騎士たちを取り囲んだ。回避どころか防御も許さない──間断ない攻撃はまさに〝弾幕〟と称するに相応しい。

「釘は倍ドン、狙いは頭! フルフェイスごと風穴空けな!」

 脚を狙う、などという甘いことはもう言わない。死ぬのが嫌ならば逃げれば良い。神器のことなど忘れて此処を去れば良い。無論、正気ではない彼らにその道を選ぶことができるとは思えないが。
 鋼の騎士たちへ釘の嵐が吹き荒ぶ。彼らの頭を全方位から覆う兜でさえ貫通して、中の本体を撃ち抜いてゆく。使用した釘は小さなクイックシルバーが次々と回収することで、絶えることの無い弾幕となって騎士たちを苛んだ。

「あ、釘余ってたらあの変な石割って~」

 殲滅のついでに、と言わんばかりの軽い調子で伽藍が指示する。釘の数にも限りはあるので足りなければ仕方がない、と諦められる程度のものだった。それでも、分裂したクイックシルバーの何体かは律儀に攻撃の手を一瞬止め、その狙いを騎士たちの手元へと移す。
 おまけのように放たれた釘は暫し使われていなかった分なのか僅かに錆びていた。それでも、元の半分以下にまで分かたれた|竜漿兵器《オーブ》の破片を砕ききるには充分すぎる一撃だった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『回帰を願う者『イルクァント』』


POW 我、盟友を召喚す
【太古の魔竜「シァンタジオ」の分体】を召喚し、攻撃技「【竜の魔衰毒】」か回復技「【竜の護り】」、あるいは「敵との融合」を指示できる。融合された敵はダメージの代わりに行動力が低下し、0になると[太古の魔竜「シァンタジオ」の分体]と共に消滅死亡する。
SPD 其は竜の祝福を受けた刃なり
自身の【所持する武器】を、視界内の対象1体にのみダメージ2倍+状態異常【魔衰毒】を付与する【漆黒の魔力纏う呪剣】に変形する。
WIZ 竜よ、分を弁えぬ者共に天罰を
半径レベルm内にレベル体の【太古の魔竜「シァンタジオ」の分体】を放ち、【魔竜の分体】による索敵か、【竜の魔衰毒】による弱い攻撃を行う。
イラスト 吉原 留偉
√ドラゴンファンタジー 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 城砦の最上階。天に一番近い広間はまさに渾沌としていた。元は古代魔法によって空を映していた天井のドームは破壊され、そこより現れたロード・マグナスが既に別動隊と刃を交えている。神器は未だ奪われておらず、同行していた現地の冒険者達によってどうにか守られていることだけは幸いと言えるだろう。
 背後より──たった今、自分達が駆け抜けてきた通路より重々しい足音がいくつも迫ってくる。足止めの段階で大幅に数を減らされた騎士団が、満身創痍になりながらも追い縋ってきていた。

「まったく、予想より手間取らせてくれたものだ。やはり人間程度の駒では役不足だったか」

 突如、知らない男の声が耳へ届く。騎士たちの隊列を押し退けて悠然と現れたのは、戦場に在って随分と身なりの良い男だった。人間のようにも見えるが、彼の身に流れる竜漿の気配はドラゴンプロトコルのそれだ。貴族的ですらある立ち居振る舞いの中で、その手に携えた長杖が異彩を放っている。先端を飾る竜の眼球にも似た宝玉が、まるで今もなお生きているかのように√能力者達を見つめていた。

「ロード・マグナスめ、事を急いたな。いざとなれば、祭壇ごと魔竜に喰わせて全てを手中に収めることもできたというのに」

 別動隊と交戦している甲冑の男──ロード・マグナスを遠目に見ながら、男は至極つまらなさそうに言う。その口振りからこの男こそがロード・マグナスや騎士団に手を貸していた第三者なのだろうが、彼はそんな協力者達ですらも道端の石ころ程度にしか見ていないようだった。
 そして、その関心はすぐに広間の最奥……祭壇で眠る竜の神器へと、視線と共に移ってゆく。

「ああ、ようやくだ! 潰えることなく古代より続く伝説、その体現! 本当に二頭の竜の力を純粋に受け継いでいるのか。それとも新たな真実を紐解く端緒となるか……今から解析が楽しみだ」

 竜に魅せられた簒奪者イルクァントが演説でもするかのように高らかに告げると、幾つもの球体が浮遊し、彼を取り囲む。キャラバン隊から奪ったエレメンタルオーブ、その殆どを彼が所持していた。騎士たちへ分け与えたものとは性能が明らかに異なることが、彼が放つプレッシャーを身に受けるだけでも充分に伝わってくる。

「安心したまえ。神器を手に入れた暁には、太陽の竜と月の竜も現世へと蘇らせよう。──尤も、全盛期の竜が蘇った世に、諸君らのような者は不要だがね」

 何処からか竜の咆哮が響く。禍々しいまでの、人を屠る幻獣の声だ。
チェスター・ストックウェル
神器はギリギリ大丈夫そう
騎士様の方は――あはは、仲間たちに押されてる
それじゃ、後は黒幕である君を倒せばミッションコンプリート
俺は屋敷に帰ってサッカーが観れると

知ってた?
正体を明かした黒幕にできるのは、潔く退場することだけ
君の夢物語に付き合ってる時間は、俺にもアイソラの人たちにもないんだ

分体が仕掛けてくるのと同時に選手交代
数メートル先のインビジブルと自身の位置を入れ替え、インビジブルに触れた敵にダメージを与えよう

その後も接近してくる分体は冥々を使って躱し、毒のダメージは霊的防護で抑え込む

君のその情熱を正しいかたちで生かせる場所があればよかったのに
俺はおじさんに見つけてもらえてラッキーだったのかも

 乱戦の中、どうにか神器の防衛は叶っていた。敵の主力とも言える元勇者も別動隊によって追い詰められている。心配する要素が減るのは良いことだ、とチェスター・ストックウェル(幽明・h07379)は改めて、竜に魅せられた男──イルクァントへと向き直った。

「それじゃ、あとは黒幕である君を倒せばミッションコンプリート。俺は屋敷に帰ってサッカーが観れる、と」
「倒す……聞き間違いでないと良いが。只の|インビジブル《幽霊》が、私を倒すと言ったのかね?」

 イルクァントは口髭に囲まれた口角を片側に上げながら首を竦める。彼にとってチェスターのような存在は、そこらを漂うインビジブルと同じなのだろう。意思を持っているだけまだ珍しいが……という要らぬフォローは、つまらない冗談として聞き流すことにした。

「知ってた? 正体を明かした黒幕にできるのは、潔く退場することだけ。君の夢物語に付き合ってる時間は、俺にもアイソラの人たちにもないんだ」
「まあ、そう言わずに。折角ここまで来たのなら、私が二頭の竜の力を手にする瞬間を冥土の土産に拝んで行きたまえ」

 ふいに、空間を震わせていた竜の咆哮が増える。崩れた天井から姿を現した竜は体格こそ小柄だが、黒々とした鱗の下は筋肉質だ。獰猛な牙が覗く口から垂れた唾液は毒を思わせる禍々しさを湛えている。複数体現れた竜は赤い瞳を爛々と滾らせ、チェスターを獲物として見つめていた。

「何を|縁《よすが》に此の世に留まっているのかは知らんが、インビジブルはインビジブルだ。我が魔竜シァンタジオの糧として、有効活用はしてやろう」

 イルクァントが言うや否や、魔竜の群れがチェスターへ躍り掛かる。だが、草食獣のような立場に置かれながらもチェスターは動かない。魔竜の爪と牙が及ぶ、あと一歩というその瞬間までは。
 ──直後、文字通りチェスターの姿は消える。そこにいたのは形すらも曖昧な、まさにゴーストと呼ぶのに相応しいインビジブルだった。魔竜はその爪牙でゴーストを切り裂くと、石の床に着地すべく身を翻す。だが、それは叶わなかった。魔竜は空中で突然バランスを崩すと、床に叩きつけられるようにして倒れ伏す。

「何……っ?!」
「此の世に留まってるのにはそれなりの理由がある。……そんな幽霊に気安く触って、平気なわけないじゃん」

 魔竜に触れられたインビジブルは次々とその性質を変え、触れたもの全てを呪う禍と化してゆく。そして|冥々《歪み》を纏い、物理的な接触の|尽《ことごと》くをすり抜ける今のチェスターも、容易には肉眼で捉えられない。魔竜の毒すらも干渉することはできなかった。イルクァントは新たな魔竜を召喚して索敵をさせるものの、インビジブルとの入れ替わりも相まって場は混乱するばかりだ。

「ほら、君の後ろにも」

 ふいに、イルクァントの背後で少年の声が響く。魔竜の制御に気を取られていたイルクァントが振り返る頃には、その眼前にはひと際大きなゴーストの姿があった。

「しまった……!」

 気付いた時にはもう遅い。私に触れたな、と言わんばかりにゴーストが叫び出す。それを中心に広がる呪いの一部はイルクァントのオーブに吸収される様子が見えたが大半は間に合わず、彼自身がその身に受ける羽目になったようだ。普通の人間ならば気をおかしくしても不思議ではない。だが、イルクァントは僅かにふらつきはしたものの、未だに二本の足で立っている。その目が、攻撃の手を休めるチェスターの姿を憎々しげに睨みつけていた。

「君のその情熱を、正しいかたちで生かせる場所があればよかったのに」

 気圧されるでもなく、チェスターは小生意気な笑みで言ってのけた。俺はおじさんに見つけてもらえてラッキーだったのかも、なんて──ちょっとした自慢も付け加えて。
 巡り合わせさえ良ければ、あの図書館に並ぶ本の中に君の名前もあったかもしれないのにね。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

八乙女・美代
あらまァ
もう神器が手に入った気でいるみたいだけど
気の早い男だこと

残った騎士達も忘れず相手をしてあげなくちゃね
さっきと違って時間稼ぎをする必要もないし
今度は全力でやってあげるわ
…あ、勿論城砦は壊さない程度には収めるけど

今回も小細工抜きで行くわよ
√能力を載せた《重量攻撃》と《踏みつけ》で
シンプルに蹂躙していくわ

毒、ねぇ
綺麗になれる毒なら纏ってもいいけれど
アナタのは要らないわ
毒を貰う前に分体を踏み潰してしまいましょ
サイズ感的に難しそうなら
毒を分泌してそうな部位だけでも踏み壊すわね

ねぇ
アナタって何か勘違いしてるみたい
神器はまだアナタのものになった訳じゃないのよ

ま、渡す気もないんだけどネ

「あらまァ、もう神器が手に入った気でいるみたいだけど。気の早い男だこと」

 全盛期の竜が蘇った世界。彼の望みの全てを分かりやすく表した言葉だ。だが、イルクァントがそう豪語する場に居合わせた八乙女・美代(美意識の歪み・h07193)からすれば知ったことではないし、何よりも思うのは「今はまだそんな台詞を言える場面ではない」ということだ。

「今この場にいる全てを退けてから言うべきじゃないかしら。せっかちな男は嫌われるわよ」
「これは手厳しい。だがね、魔竜シァンタジオの毒を以てすればすぐに為せることだとも」

 いつの間にやら現れていた小型の黒竜が美代を取り囲む。人間ひとりを乗せるのがやっと、という大きさにも関わらず強靭な手足をしていた。唸り声を零す喉の奥からは、未知の毒腺の気配が滲んでいる。只の人間の体に注げば何が起こるかも分からない毒だ。しかし、美代にとっては呪いとさして変わらない。

「毒、ねぇ。綺麗になれる毒なら纏ってもいいけれど」

 常の笑みのまま、魔竜の群れを一瞥する。美代が動かないのを好機と見たのか、魔竜は次々と地を蹴って静かなる災厄へと急接近した。美代は避けるでもなく、防ぐでもなく、獰猛な獣に成り下がった竜の分体を見つめる目を僅かに細める。

「──アナタのは要らないわ」

 途端、辺りが鮮やかな赤に染まる。血と見紛うようなそれは花の群れだ。今まさに枝から落ちてきたかのような、真っ赤な椿。美代の真っ白な装いや石造りの城砦に落花が映え、泥臭い戦いなど幻であったと錯覚しかねない光景だった。
 だが、それも一瞬のこと。軽い足取りでステップを踏んだ脚が風を切り、翻るついでのように手近な魔竜へと叩き込まれる。生まれたのは脚一本で繰り出されたとは思えない轟音と衝撃だ。小型とはいえ竜一匹が、まるでゴムボールのように跳んで古い石壁へと叩きつけられる。不自然なほどの負荷を掛けられた魔竜は血と肉を飛び散らせた|後《のち》に絶命してしまったのか、やがてその姿すらも消滅してしまった。

「どういうことだ……! 体術の一撃程度で、分体一頭が潰されるだと……!?」
「やぁね、大袈裟な。ちょっと〝元のサイズ〟の感覚で重量かけただけじゃない」

 美代にとっては少し足払いをした程度に過ぎない。次は一歩、踏み込む。踏み出した足の下に広がったのは椿の花ではなく、途方もない重量によって圧し潰された魔竜や騎士たちの亡骸だった。それを確かめながら蟻を踏み潰すように、けれども美しい城砦は崩さないように、丁寧に歩く。
 傍から見れば美代はただゆっくりと歩いているだけだが、それに反して敵陣はじわじわと蹂躙されてゆく。魔竜を使役しているイルクァントとて例外ではない。視覚で予測し難い美代の一歩を寸でのところで回避はできても、エレメンタルオーブを砕かれることまでは防げないでいた。

「馬鹿な……竜でもなければ幻想生物でもない、たかだか〝人間の呪い〟風情が……! 貴様のような|存在《もの》が、竜の神器に触れて良いと思うなよ……ッ!」

 何匹もの魔竜を犠牲にしながらも辛うじて立ち上がったイルクァントは、忌々しげに眉間に皺を寄せて美代を睨みつける。如何にも憎い者を射抜き、呪うような目付きだった。勿論、美代のような存在から見れば可愛いものだが。
 美代は散歩するような足取りを止めてイルクァントの方へ視線を寄越す。元の体格と同等の感覚で歩いていた今、見下ろす、と表した方が正しいかもしれない。笑んだまま困ったように眉尻を少し下げた美代の表情は、まさに聞き分けのない子どもを相手にしている時のそれだった。

「……ねぇ、アナタって何か勘違いしてるみたい。神器はまだアナタのものになったわけじゃないのよ」

 ま、渡す気もないんだけどネ。そう言い添える頃には満面の笑みを浮かべている。
 辛うじて形を残した魔竜と騎士の屍山の中心に、美代は立つ。白い装いを汚す赤の毒々しさを、今ばかりは落椿の色が美しく見せてくれていた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

シルフィカ・フィリアーヌ
楽しみにしている所申し訳ないけれど、あなた達はここで終わりよ
太陽の竜も月の竜も、アイソラに生きる人々のもの
余所者のあなた達如きが手を出していい存在ではないわ
ましてや蘇らせるなんて…寝言は寝て言ってちょうだい
それに、そのエレメンタルオーブも返して貰わないとね

夢幻の花雫を使用
致命傷を避けることと反撃を確実に入れることを意識して
ダメージも毒も無効化しながら攻撃を重ねていくわ
この期に及んでもまだ自覚していないみたいだけれど
役不足なのはあなたも同じよ

向こうも随分と派手に登場したみたいね
でも、破壊された天井の修繕費を払って頂けないのは残念だわ
もっとも、あなた達の命程度では
到底釣り合わないでしょうけれどね

「楽しみにしているところ申し訳ないけれど、あなた達はここで終わりよ」

 精霊銃を携えて、シルフィカ・フィリアーヌ(夜明けのミルフィオリ・h01194)は同族の前へ立つ。竜の全盛期は見果てぬ夢だ。それに焦がれないといえば嘘になるが、シルフィカにとってはあくまでも〝終わった過去〟でしかない。ましてや、インビジブルと化した二頭の竜は今や眠っていると言っても良い。それを身勝手に蘇らせるなど、これを冒涜と呼ばずして如何するのか。
 かつて竜であった筈の者たちの邂逅は決して喜ばしいものではなく、互いの思想は決して相容れぬと確信するだけの対面となった。

「太陽の竜も月の竜も、アイソラに生きる人々のもの。余所者のあなた達如きが手を出していい存在ではないわ」
「いいや、それは違うさお嬢さん。竜とは全能たる存在であり、誰のものでもない。全てを支配し、誰にも追従しない自由なもの。人間如きを守護する存在だなどと……勘違いも甚だしい!」

 イルクァントが吐き捨てるように言うと同時に、彼の長杖がひとりでに浮かび上がり、ぐるりと回転する。たったそれだけの動作を経て、杖は黒く禍々しい呪いを纏った長剣へと形を変じた。まさに、彼の使役する魔竜シァンタジオ──その分体の特徴を大きく表した剣とも言えた。
 シルフィカは間髪入れずにイルクァントへ向けて発砲する。エレメンタルオーブは狙わなかった。あれは無傷で回収し、キャラバン隊へ返還されるべきものだ。イルクァントは長剣で器用に弾丸を弾くと、シルフィカとの距離を一息に詰めた。大振りな刃がシルフィカの眼前を掠め、花色の髪の先に触れる。たったそれだけで、その刃に未知の毒が含まれているのを肌で感じた。

(わざわざ間合いを詰めて来たのはそういうことね)

 刃を回避し、時には飛び退って反撃を放つ。銃という武器を扱う以上、一定の距離を保たなければ意味が無い。相手もそれを理解しているのだろう。多少の銃撃には怯むことなく接近し、毒の刃をシルフィカへ見舞った。刃が体を掠めれば毒が回る前にすかさず反撃を入れ、√能力で無効化する。それでも、近接戦に持ち込まれると防戦一方になるのは否めなかった。

「君も私と同じく堕ちた竜のようだが、人間に肩入れする時点で程度は知れている。私を相手取るには役不足のようだ。残念だよ」

 鼻で嗤いながら、イルクァントはシルフィカを壁際へ追い詰めると構えを変える。一突きで仕留めようというその立ち姿は優雅かもしれないが、シルフィカにとってはこの上ない好機だった。

「──この期に及んでもまだ自覚していないみたいだけれど、役不足なのはあなたも同じよ」

 イルクァントが繰り出す刺突に首元を僅かに裂かれながらも、引き金を引いた。正面からではなく、腰の位置からの撃ち上げ。いつぞやガンシューティングゲームで見た撃ち方は、イルクァントからすれば予想外の方角からの射撃となる。

「何……っ!?」

 絶妙に防ぎ難い攻撃に、イルクァントはその顔に焦燥を滲ませる。咄嗟に構えを解き、刃を盾代わりにしようとするも既に遅い。精霊の助力を受けた弾丸はイルクァントの肩を撃ち抜き、剣を握る手の感覚を鈍らせた。
 血と苦痛を滲ませるイルクァントの様子に反して、シルフィカの体からは一切の傷が失せている。毒も呪いも、シルフィカを蝕むものは何も無い。
 ふと、空気の流れを感じて視線を上へ向ける。在るべき天井は無く、不躾に空けられた大穴からは白み始めた星空が見えた。そこから覗く空は美しいけれど、ロード・マグナスによって破壊されたというドーム状の天井は美術的にも、歴史的にも価値があったものだろう。だからこそ惜しかった。対峙する彼らに修繕費用を請求したいところだが、それも叶わないであろうことを思うと何とも物悲しい。

「……もっとも、あなた達の命程度では到底釣り合わないでしょうけれどね」

 シルフィカは改めてイルクァントへと向き直り、銃口を向ける。回避のしようがない零距離射撃が放たれるのは、この直後のことだった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

一文字・伽藍
黒幕登場じゃ〜ん。元気してる?
なんだか思い通りには行かなかったみたいだけど、
どんな気持ち?ねェ今どんな気持ち??

アタシさァ、襲撃されたキャラバンのおにーさんと約束してんの。
襲撃した奴らに3倍返ししてくるって。
んで、実行犯は元勇者御一行でも、アンタって黒幕がいたワケじゃん?
つまりアンタも3倍返し対象ってこと!
対戦よろしくお願いしまーっす!

武器ヤバそうすぎて草〜。
当たったらダメなビジュしてるもん。
当たりたくなーい。
ってことでクイックシルバー、【きらきら星】!

眩しいしフラフラするしで、狙いなんて定まんないでしょ。
なんならぶっ倒れてもいいよ?

「黒幕登場じゃ~ん。元気してる?」

 一文字・伽藍(|Q《クイックシルバー》・h01774)は立ちはだかるイルクァントへすらも、長年の旧友のような気軽さで愛想良く振舞うことができる。相手によって立ち居振る舞いを変えるという考え方は、彼女にとっては特に重要ではないからだ。

「なんだか思い通りには行かなかったみたいだけど、どんな気持ち? ねェ今どんな気持ち??」

 だからこそ、まるでゲームの対戦相手を煽るような言動だって出る。満点の笑顔の伽藍と比べ、イルクァントは不快さを隠しもしない。見たくもないものを見た、とでも言いたげに眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに長杖の先端で石の床を叩いた。

「私の嫌いなものを煮詰めたような人間だ。ここは竜の神器が眠る場所。静謐を保とうとは思わないのかね」
「そっちが騒がしくなる原因作っておいて草なんですけど。アタシさァ、襲撃されたキャラバンのおにーさんと約束してんの。襲撃した奴らに三倍返ししてくるって」

 騎士団の方は概ね、それが叶ったと言える。今回の襲撃の実行犯とも呼べる彼らの隊列はほぼ総崩れであり、今となっては要であるロード・マグナスぐらいしかまともに立てていない。それも既に虫の息。全てが片付くかと思われたそんな時に現れたのが、事件の裏で糸を引いていたというイルクァントだ。よりにもよってその黒幕だけが伽藍の請け負った|仕事《約束》から逃れられるような理由など、あるわけがなかった。

「つまりアンタも三倍返し対象ってこと! 対戦よろしくお願いしまーっす!」
「黙れ、小娘。その口を閉じろ……!」

 イルクァントの長杖が不穏な空気を纏い、大振りの長剣へと形を変える。鏡のように輝きながらも昏い光を放つ刃、禍々しい黒い鱗をあしらわれた柄。先程から使役している魔竜シァンタジオを想起させる|剣《つるぎ》を軽々と手にすると、イルクァントは伽藍に肉迫すべく地を蹴った。急速に距離を縮めてくるその速度を前にしながらも、伽藍は楽しげに目を細める。

「武器ヤバそうすぎて草~。当たったらダメなビジュしてるもん。当たりたくなーい」

 伽藍は武器を構えるでもなく、至ってリラックスした状態でイルクァントを迎え撃とうとしている。伽藍が動かない代わりに躍り出たのは、彼女を守るクイックシルバーだった。この√ドラゴンファンタジーにおいて妖精と見紛うようなその存在を、イルクァントは気に留める様子すら無い。

「ってことでクイックシルバー、きらきら星!」

 ぱちん、と指を鳴らすと同時に宣言する。伽藍の声に呼応するかのように、クイックシルバーが大きく光を放った。歌枠配信でも使わないような強烈なフラッシュ。ストロボライトすらも凌駕する光は辺り一面を真っ白に染め、あらゆる生物の視界を塗り潰した。たったそれだけのことで、イルクァントの五感の全てが乱れる。

「目眩ましだと……!? 子ども騙しな……!」
「いやいや。それこそ竜とかでもない限りさ、こういうシンプルなのが一番効くんだよね~。ほら」

 伽藍の声が何処から聞こえてくるのかすら、前後不覚になったイルクァントの脳は判断できない。次の瞬間に訪れた衝撃も、伽藍からの攻撃だと認識するのに僅かな時間を要した。電撃にも似た痛みが全身を走り、剣を握る手の力を奪い去る。クイックシルバーが破裂音を伴いながら生み出す火花を、回避どころか防御も叶わずまともに受け続けているイルクァントは、今自分が何処にいるのか──苦痛に呻く声が自身の口から出ているのかも分からないほど、麻痺してしまっていた。

「眩しいしフラフラするしで、狙いなんて定まんないでしょ。なんならぶっ倒れてもいいよ?」

 白一色しかない視界の中、伽藍の声だけがやけに響いた。変わらず明るい声で告げられた彼女の言葉は、決して優しさからのものではない。その方がトドメを刺しやすいというだけの無慈悲な宣告であり、そして先程口にしていた〝三倍返し〟の始まりを告げているに過ぎなかった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

アキ・サクラ
アドリブ共闘◎

なんこのジェントル
どう見ても黒幕このジェントルじゃんやぁだー
うー…でもここで俺が頑張れば先行ったメンバーは楽できるって感じぃ?
……じゃあ頑張ろっかなぁ!(ヤケクソ)

あの杖すんげーやぁな感じ
紅い玉は使えなくしたいにゃあ…行けっか?
妖精銃で牽制も兼ねてぶっ放してそのまま闇に紛れてく
少し離れた高台に陣取る
武器は箒星に持ち替え
時間はあんま取れんかもだけど丁寧に魔法の矢を編んでいく
勝負どころってのはわかる、だからこそ一撃で仕留めんと
出来たら絶対にヒーローじゃんね!!
ざまーみろーい!おれっち天才!!

周囲の警戒といざってときの防御はずっくん頼んだ
最悪ずっくん抱えてボードでダッシュで逃げんべ

「|何《なん》このジェントル。どう見ても黒幕このジェントルじゃんやぁだー」

 天井が破壊された際に生まれた瓦礫の陰で、アキ・サクラ(のらりくらり・h09479)は誰に向けるでもなく辟易とした感情を全面に出した。傍らに控える木菟が小さく鳴く。どことなく「情けないことを言うな」と諫めているようにも聞こえた。

「うー……でも、ここで俺が頑張れば先行ったメンバーは楽できるってかんじぃ? ……じゃあ頑張ろっかなぁ!」

 木菟の宥めが効いたというよりも、どちらかといえば自棄に近い。傍目からも圧倒的強者だと分かる敵を前にアキがここまで切り替えられるのも、騎士団との戦いを経て気分が高揚しているせいもあるだろう。
 対騎士団に使用した罠一式は封印する。イルクァントにはこの手の小細工は通用しないだろうと踏んでのことだった。アキは精霊銃を取り出し、瓦礫の陰から銃口を出してスコープを覗く。そこに見えるのは、味方に追い詰められてきたイルクァントの姿と、彼がキャラバン隊から奪ったというエレメンタルオーブ。ふいに、イルクァントの手にある長杖が戴く宝玉が、|こちらを見た《・・・・・・》気がした。

(あの杖すんげーやぁなかんじ。紅い玉は使えなくしたいにゃあ……いけっか?)

 宝玉を照準の中央へゆっくりと据える。緊張感の中、アキの耳には自身の呼吸と心音しか聞こえない。狙いを確実に定め、引き金に指を添えた──その瞬間。それまでこちらを気にも留めていなかったイルクァントと、視線が合った。

「陰からこそこそと……人間の考えそうなことだ」

 イルクァントの長杖が、瞬きの間に長剣へと形を変える。アキがそう認識した瞬間には、イルクァントがその長剣を手にこちらへ接近してきていた。判断に悩んでいる暇は無い。本能的にそう断じたアキは、ずれた照準を瞬時に合わせて引き金を引いた。
 精霊の力を受けた弾丸が飛ぶ。ひとつだったそれは、一瞬の旅路の中でいつの間にか複数に分かたれ、四方からイルクァントを襲う。イルクァントは長剣でそれらを弾くが、ここまでに負った傷が足を引っ張っているのか。腕や脇腹に弾丸が掠めると、忌々しそうに舌打ちをした。
 弾丸を捌き切ったところでイルクァントの意識はアキの方へ向く……が、そこには既にアキの姿は無い。

「馬鹿な……っ、何処へ消えた……!」

 アキは答えなかった。それどころではない、と言った方が正しいだろう。闇に紛れ、イルクァントの姿を捉えられる場所──元はドーム状の天井を支えていた柱の上を確保したアキの手には精霊銃ではなく、箒星の名を冠する弓が握られていた。

(勝負どころってのはわかる。だからこそ一撃で仕留めんと……出来たら絶対にヒーローじゃんね!!)

 手元に意識を寄せて魔力を集束させる。箒星に番える矢は物理的なものではなく、魔力の塊だ。急ピッチで、されども手順は飛ばさずに矢の形に整えたそれを箒星に添える。イルクァントがこちらに気付くよりも前に狙いを定め、ぎりぎりまで引いた弓の弦を離した。
 放たれた矢は文字通り、箒星のように駆け抜ける。風すらも追い抜いて、射抜くべき場所だけを目指して飛翔する。惜しくもイルクァントがそれに気付いた時には、既に矢の切先がその眼前にまで迫っていた。
 イルクァントの額に当たった星の矢はその瞬間に、眩い光を放つ。爆発とも呼べるようなそれは一瞬辺りを真っ白に染めたが、そう経たないうちに収まった。衝撃で吹き飛ばされ、広間の壁に叩きつけられたのであろうイルクァントは、頭から流血しながらも立ち上がろうと足掻いている。

「ざまーみろーい! おれっち天才!!」

 自分の役割はここまでだ、と言わんばかりにアキは魔導スケーターを展開する。大ダメージを与えた後に怖いのは反撃だ。事実、イルクァントの敵意は完全にアキへ向けられている。

「貴様……下等種族の分際で……ッ!」
「いえーい勝ち逃げしまーっす! ばいばいジェントル、もう二度と来ないでね!」

 片手に箒星、片手に木菟。アキは器用にバランスを取りながらスケーターを急速起動する。追撃を待つつもりは無かった。魔力によって爆発的に生み出された推進力で脱兎の如く離脱するアキの高笑いが響いた空には、僅かに太陽が昇り始めていた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

シンシア・ファルクラム
★心情
竜を友とするもの、でございますか。
本来であれば、敬うべき……少なくとも、同志となるべきでございますが。
その力の使い方は、決して相容れないと……これまでの戦いで思い知りました。お覚悟を。
★行動
魔竜。その本質は、はかりしれぬものでございます。ですが、竜は竜。竜を信仰する者として、|そちらと《・・・・》争うつもりはございません。
【楽園顕現】。優しき自然の癒しの中で、どうか……束の間お眠りください。竜の分体にのみ、こちらを使うことで。傷つけず、こちらも傷つかぬように行動を停止させます。
残るは、イルクァントなるあの方。魔法による攻撃は、あのオーブに無効化されてしまうでしょうか。
故に、【裂空龍舞】にて。高速で詰め寄り、物理攻撃にて引導を渡します。
【祈り】を込めた【ディヴァインブレイド】による攻撃を先行させて行動を制限させながら、自身は【懐剣】を持ち逃げ場を奪うように波状攻撃を仕掛けます。
攻撃には【神聖攻撃】の力を込めて、より有効打を狙いながら。敵の抵抗は【エネルギーバリア】で受け流しつつ立ち回ります。バリアは逃げ道を塞ぐにも有用かもしれません。

 竜に親しみ、竜に焦がれ、竜を信奉する者。シンシア・ファルクラム(歌い、奏でる空の柱・h08344)とイルクァントの立ち位置は極めて近いと言えた。だが、これほどまでに思想を違えてしまっているのは何故なのか……少なくとも、今この場で答えを出せる疑問ではない。

(本来であれば敬うべき……少なくとも、同志となるべきでございますが)

 それが叶わないものであるとも、シンシアは理解している。
 かつて〝柱〟は定めた。竜とは、その大いなる力を以て救いを齎すもの。そこには他の命が介在し、自ずと他種族との共存が思い描かれる。だが、イルクァントの中には竜しかおらず、他種族は塵芥も同然。それはシンシアにとって、到底受け入れられない思想だった。

「その力の使い方は、決して相容れないと……これまでの戦いで思い知りました。お覚悟を」
「覚悟を決めるのは貴様らだ。私の怒りは、太古の魔竜の怒りと同義……冒涜者の烙印を抱いて朽ち果てろ!」

 これまでの戦いで深手を負いながらも、イルクァントはエレメンタルオーブで吸い上げた|インビジブル《魔力》を用いて魔竜の分体を呼び起こす。黒々とした鱗に覆われた小型竜だが、近接戦に長けた肉食獣のようなフォルムをしている。毒腺を持っているのか、牙から涎のように滴る液体は、石の床に張り付いていた苔を一瞬で溶かしていた。集団で現れた魔竜はシンシアを取り囲む。分体といえど、此処に立っているのが只の人間であったのなら即時屠られていただろう。それに加え、エレメンタルオーブの助力を得た魔竜の力は計り知れない。

「ですが、竜は竜。竜を信仰する者として、|そちらと《・・・・》争うつもりはございません」

 戦闘態勢を取らないシンシアの声が、|何処《いずこ》からか風を呼ぶ。空中城砦という特殊な環境に在りながら、どこまでも穏やかな風だった。
 ──ふいに、何かがざわめいた。この空中城砦に根付いた数少ない植物が、微睡みから目覚めたように騒いでいる。それらは瞬時に本来以上の成長を遂げて魔竜たちを包囲するが、攻勢に出ることは無い。

「優しき自然の癒しの中で、どうか……束の間お眠りください」

 シンシアの言葉を合図とするかのように、魔竜たちはその場で力無く倒れ伏した。僅かに顔を覗かせてきた朝日が、崩れた壁の隙間から差し込む。暖かな朝日と、木々のさざめき。そして微風が魔竜の瞼を撫でる。彼らは襲い来る眠気に抗うことができないまま、深い眠りへと|誘《いざな》われていった。

「さあ、残るはあなたのみです」

 全ての分体が眠りについた今、イルクァントを守るものは自身の武器と、エレメンタルオーブのみ。シンシアがリラを爪弾く。瞬時にディヴァインブレイドへ形を変えたそれを手に、今は大穴が空いてしまった天井を見上げた。

「──舞い給え、裂空龍」

 風が応える。その瞬間に、シンシアの姿は忽然と消えた。否……消えたのではなく、一瞬でイルクァントの眼前にまで接近していた。イルクァントがそれを認識したのは、既にシンシアがディヴァインブレイドを斬り上げようとする瞬間だった。

「何……ッ!!」

 イルクァントは焦りを見せながらも自身の長杖で刃を防ぐ。シンシアは構わず追撃を仕掛け続けるが、やがてディヴァインブレイドは徐々に彼女の手を離れてゆく。元々が自律式の武器だ。暫し手を離れたところで苛烈な斬撃は止まらない。シンシアは袖の内に隠していた懐剣の刃を錬成すると、ディヴァインブレイドとタイミングを僅かにずらしながらイルクァントへ斬りかかった。
 実質、二人からの波状攻撃を一人で受けているようなものだ。ふたつの刃の軌道は裂空龍の力を宿し、翠緑の剣閃を夜の中に煌めかせる。イルクァントは新たな魔竜を召喚しようとするものの、間断なく見舞われる刃がそれを許さない。

「貴様、まさか自律式の竜漿兵器にまで竜の力を……!」
「裂空龍の力の、ほんの一端をお借りしているだけ。あなたが魔竜の力を借りているのと、何ら変わりはございません」

 攻撃の手を止めないまま、シンシアは決定打を与えるための隙を窺い続ける。その目に宿るのは常の慈愛ではなく、真なる冒涜者への断罪を為そうとする使命感だった。
 ふいに、鋭利な金属音が響く。ディヴァインブレイドがイルクァントの長杖を大きく弾いた。シンシアはそのタイミングを見逃さない。自身の防御用に展開していたエネルギーバリアをイルクァントの側面と背後へ回して退路を塞ぐと、一気呵成に距離を詰めた。
 祈りによって力を得た刃が、イルクァントへ届く。心臓へ届いた刃を防ぐ手立てを彼は持っていなかった。口の端から血が一筋落ちるのを見て、ようやく自身の敗北を自覚して膝をつく。

「馬鹿な……有り得ないッ! こんなことがあって良い筈がないッ!」

 イルクァントが最初に口にしたのは困惑だ。自身の勝利を疑いもしなかった彼にとって、何よりも見下していた他種族から齎される敗北は認め難いものである。
 最期の反撃を警戒していたシンシアには目もくれず、彼はぐるりと視線を反転させた。その先には、別動隊によって守られている祭壇──そしてふたつの神器がある。

「まさか、お前が……お前達が……私を拒んだとでも言うのか……ッ」

 答えが返ってくるわけもない。神器はただ、祭壇で静かに眠り続けている。
 伸ばされたイルクァントの手は、やがて石の床へ落ちた。倒れ伏したまま動かなくなった体はいずれインビジブルへと変わり始めるのだろうが、√能力者である彼はその過程で蘇るだろう。そういう意味では不毛な戦いであるとも言えた。
 同様のタイミングで、別動隊がロード・マグナスを撃破したという報告が耳に届く。神器の防衛は為ったのだと誰かが叫ぶと、誰からともなく喝采が上がった。
 懐剣を鞘へ納め、ディヴァインブレイドをリラへ戻したシンシアの顔に柔らかな光が差す。それを目で追えば、ちょうど外と繋がるアーチ窓の先──海の向こう側から、朝日が大きく昇ってきているのが見えた。
 冬の朝日は一日の最初の恵みである。シンシアはそんな実感を胸に抱きながら両手を組み、朝日と共に空に在るであろう二頭の竜へ向けて静かに祈りを捧げた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

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