ジャック・オー・ランタンの終焉
悪霊、災厄、犯罪計画。
誰かが悪さを働いて、働くために計画を起こす魑魅魍魎たちが息を潜める暗がりでハロウィン関連で街々が浮かれているのだから、それに乗じて悪事を成そう。どこまでも。
『人混みから人が消えたとして、それは何らかの人間災厄の仕業だと、大抵の|分かる《・・・》連中はそう思うのですから……』
ばたり。ばたり。
倒れ伏す人間は、即死の怪我を負ってるようにはみえない。
だが、どの個体も呼吸がない。
『はは、これくらいではまた足りないのです。まだ、そう。まだ……!』
声を発した存在は、人間にしては長身で頭を覆うジャックオーランタン姿が特徴的である。
頭が揺れる。その南瓜頭部の中は――伽藍洞。
どこまでも深淵の内部に灯る火の色は、どこまでも野心に燃える炎の色。
男の両手、その周囲。
ふよふよ漂う魂は、今しがた倒れた人間たちから奪い取った希少品。一つ二つでは片付けられない、両手の指以上に集めた、季節限定犯罪者・カボチャ心霊テロリストの手際の良さに驚き、慄け。彼の事象は、常に"この時期限定"。
故に、数回目の今回はもっと|ド派手に《・・・・》を求める。
『これは小柄ジャックの中に取り込めば、手軽で簡単"ランダン爆弾"の出来上がり!』
ガチな人類殺害計画、その始まり。
まだ数は足りない。さあ次に魂をお譲りいただく方を探しましょう!
彼の一番、悪質な部分はハロウィンである事で、|姿の異常性《・・・・・》は全く違和感の中に含まれないことだ。
そんな仮装、そんなテーマなのだと――勘違いされたら彼の一人勝ち。
煤けた路地裏。
カボチャ怪異のターゲットが定まる。
次の標的は、飲酒済みらしきよろめく一人の男に決めた。あの男の魂ならば、爆弾の|コア《・・》として上質だろう。誰も困る人間がいない。ランタン頭が男の背中に照準を合わせ、虚無の奥から鬼火を放とうとした、その瞬間である。
わせ、虚無の奥から鬼火を放とうとした、その瞬間である。
夜の闇を切り裂いた、場違いな高笑いと謎に主張に強い銀と黒の残像。カボチャ怪異の身体がぐらりと揺れた。その衝撃はまるで小型トラックにでも跳ね飛ばされたかのような勢いで容赦のない飛び蹴りがぶち込まれた!
怪異は、とんでもない勢いで路地の壁へと激突する。
その勢いで、怪異の眼から火の玉が暴れて火花が飛び散った(物理)。
「|トリック・オア・トリート《カチコミ》ですわよ~~!!」
蹴った勢いから身を翻し、アスファルトに着地したのはフーディア・エレクトラムリーグ(暴食汚職暴力お嬢・h01783)。一体何処から彼女が来たのか。
怪異は当然目を疑う。獲物を奪われたわけでこそないが、邪魔された事実がある。
『なんの、真似でしょう?』
「コチラ、人を探すように言われていて……あ、探し人発見ですわ~!ちゃんと生きてますわね、ヨシ!」
今助けた男に気がついて、小さくガッツポーズ。衝撃に煽られて倒れ、地面に崩れ落ちている間抜けな姿でいるが命に別状はないだろう、きっと。
フーディアは、時々探偵事務所でバイトしている手前、現在バイト中の時間を過ごしていた。
内容は単純に"人探し"。
とある会社から退勤した後の足取りが掴めず夜の街を飛び回っていたのだが、ようやく該当者の男を、発見。気絶している男は、酒で酔いつぶれて倒れただけだ。
彼の勤務先は、反社会的な場所。そんな所から一般人男性は債務者であり、仕事場の名目で縛らられていたことでこの度高跳びを計画し――自暴自棄と言わんばかりに酒に溺れた。
そして、後少しで更なる不幸に見舞われるところだったのだ。
「もとより潰れているのは、ラク出来て助かりますわ~!……ちなみにですが、わたくしアナタの依頼主からも探されておりますのよ~」
フーディアは、倒れた男の脇で囁く。
その言葉を聞いた瞬間、泥酔から覚醒した債務者は理解した。救世主ではない。味方ではない。この存在は、自分を地獄へ引き戻す存在であると――自身の命の危険を即座に察知する。自暴自棄になろうとも命だけは惜しい。彼はフーディアから慌てて距離を取ろうと、よろめきながら路地裏の奥へと逃走を図ろうとしたが――。
「逃げないでくださいまし~!」
愉快気に嗤って、蜘蛛糸で足を掴み巻き取って縛り上げる。
丁度いい太い管が見上げる頭上にあったのを見つけ、対象を逆さ釣りで括りあげてしまえばほら完成。アナタはもう、銀の繭から逃げられない。
「わたくしも、お腹が過ぎて大変な時間のバイトなのでお互い、手早く済ませますわ~!さあ!さっさと拉致って帰って、晩御飯いただきますわよ~!」
彼女にとって、債務者はただの「探すべき対象」から「引き渡す対象」へと昇格した。帰宅すれば晩御飯。フーディアの中ではそれだけが踊る。
『待っていただこう!その獲物は私のものです!』
その時、暫く壁に激突し意識を暗転させていたカボチャ怪異が怒りに燃える鬼火を膨らませて立ち上がる。獲物を奪われた、というよりは、自分の悪事と縄張りを邪魔されたことへの憤怒。
『私は選り好みはしません。あなたの魂も爆弾にしてこの街を燃やす材料とさせていただきましょう!』
カボチャ怪異は、フーディアを単なる喧嘩相手だと誤認。魂の爆弾を撒き散らしながら、咆哮と共にフーディアへ突撃する。
「……おやおやアナタ、自分の立ち位置が分かってないようですわね~?」
視線を流すフーディアは一切の油断なく、カウンターの掌底をぶち決めた。
「優先順位が在るから、好きにしてと言ったつもりだったのですけど」
彼女はなんと、POW特化ステータス250族。物理に特化していることでその威力は怪力を産む衝撃を相手に刻む。怪異の身体が、鈍い音と共にくの字に折れ曲がり、重力など存在しないかのように空中へ吹っ飛んだ。
「その程度で反撃する力をなくすなら、そこまでですわね~」
脅威ではない、とフーディアは完全に興味を失い背を向けて吊し上げた債務者を糸から引き剥がす作業へと移る。さあ帰り支度を、はじめよう。
――が。
『諦めませんよ!あなた、いえ――テメエは燃やし尽くしてやる!』
言葉を荒らげた粘着質な怪異は空中から最後の切り札として、最大出力の特大鬼火をフーディアめがけて放った。炎は銀髪の背中を、黒い肌を、白い服を包み込む。
『ギャハハハハ!よく燃える!いい素材だ!』
その全てを焚べて最強の爆弾をつくりあげてやると、彼の口調に同じく、物理的に炎上するフーディア。しかし、彼女の口から出るのは、冷たさの極みのような声。
「…………わたくし、お腹空いてるんですのよ」
全身に火が付いたまま、フーディアは真顔で振り返った。炎は燃え盛っているにも関わらず、本人はおろか、着ているはずの白い服さえも焦げていない。
「わたくしをぶち殺しに来たってことは、アナタもぶち殺されても文句言いませんわよね?」
その表情は、先程までの愉快な笑い声とは一線を画す。そこにあるのは、感情の抜けた、静かにブチギレた獣の顔。獲物を仕留める直前の、捕食者の論理が剥き出しになった瞬間だ。
|捕らえ殺すことこそ蜘蛛の本能《スパイダーセンス・ハンティング》。
人型を維持しながらも、脚部は獣妖のそれへと変化する。人化を解いた針脚が怪異の眼前を抉る。自分がガチでヤバいものに手を出したことを理解し、恐怖で叫ぼうとしたが、もはや逃げ場はない。
フーディアは空中ジャンプから、糸を操作して怪異をアスファルトに叩きつける。
床に転がったカボチャ怪異に馬乗りになる形で、彼女は人化を解いた針脚を地面にぶっ刺して完全固定。そのまま、彼女の小さな掌にはトラック車両並みの全重量が乗り、それが連続で振り下ろされる。
ドォン!
ドォン!
掌底の連打は、殺戮というより、獲物を嬲るという言葉がふさわしかった。フーディアの沸騰が冷め、殺る気をなくした頃には、カボチャ怪異は全身を圧し潰され、魂の火も今にも消えそうな瀕死の状態だった。
壁に拘束されっぱなしの債務者も、一連のリンチにガチで怯えきった状況だ。顔や目を多いたくても彼は手を出せない(物理)。
殺る気が収まったフーディアに残ったのは我慢できない飢餓感だけ。彼女は瀕死の怪異を見下ろし、ふと思いついたように口を開く。
「人間様を食べると後々面倒ですけれど、簒奪者な怪異様なら話は別ですわよね?」
その瞬間、全ての人化が解かれる。
白い服と銀髪は、まばゆい白銀の外骨格へと変化し、黒い肌の部分は関節や防御の薄い箇所に。 先程、炎が彼女の服すら燃やさなかったのは、そもそも布や毛や肌など存在しない、金属的な体表を持つ自動車ほどの大きさの『流麗なる白銀の蜘蛛』の獣妖形態だったからなのだ。
カボチャ怪異は、自分の末路を悟り、虚ろな火の玉で必死に命乞いの光を明滅させるが、もはや逃げられない。
「いただきますわ~!」
辛うじて意識を保っていたのにもかかわらず生きたまま喰われるカボチャ怪異。がりり、ぼりんと南瓜の砕ける音がある。次いで真っ先に喉笛、つまりランタンと身体の接合部を食い破られたカボチャ怪異は、音量は出せず、しかし明らかに悲鳴をあげながら喰われていく。肉を潰すギチギチという鈍い音だけが路地裏に響き渡った。すすり、咀嚼する音に砕く音まで増える。少しずつ質量が小さくなる|食料《存在》を見せられていた債務者は、声を殺しながらもガチ泣き・失禁。もうだめだあ。彼は√能力者ではないから、このおぞましい記憶は後で無くなるだろう。よかったね!
「う~~ん!!料理のほうが美味しいですけれど、生肉もたまには良いですわね~!!」
路地裏に響く、獣妖の哄笑。
愉快でカオスなフーディアの皮を破り、人食いの|本性《ノワール》がダダ漏れとなった、暗いハロウィンの夜の出来事であった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴 成功