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獅子は我が子を崖の上から落とすらしい。
人類はとある『種族』について幻想を抱いている事が多い。曰く、それは『最強』である。曰く、それは『高貴』である。曰く、それは『傲慢』である。あらゆる『いわく』に抱擁されたとある『種族』は、何よりもひとつの曰くに苦しめられていた。曰く――それは『特別』である。特別とは即ち素材を指し示す言の葉であり、その種族の皮と肉と骨は高値での取引が常識となっている。此処まで描写してしまえば、如何様な冒険者でも答えを出せるだろう。種族の名は――ドラゴン。
地獄のような試練を抜けた先で出会う事が可能とされている彼等は、まったく、人間と変わらない『生活』とやらを謳歌していた。一匹のドラゴンががばりと、その巨体を起こしたのならば、その傍らに二匹の小さなドラゴンを確認する事が出来るだろう。そろそろ、ごはんですよ。そんな声が三匹を誘ったのなら、大きなドラゴンから、よろよろと出ていく。此処は彼等の寝床であり憩いの場、そうとも、ドラゴンにも家族と謂うのは存在しているのだ。ねえ、お姉ちゃん、お父さん。今日のごはんは何かな? 一番小さいドラゴンが……妹が、父親と姉にそう問いを投げる。なんだろうね。お姉ちゃんもお腹空いてるから、楽しみだな。アッハッハ、※※※※に、※※※※、お母さんのご飯はなんだって美味しいんだから、そう、考える必要なんてないさ。お父さんが笑っている。お父さんが笑ったのだから、つられて、姉妹も笑ってみせる。ほら、食事が冷めちゃうわよ。早く来なさい……。急かすような母親の声だ。地面、巨大な葉っぱの上に在るのは――新鮮な、とれたてのお肉。おいおい、冷めるも何も、オマエがこれから焼くんじゃないか。あら、そうでしたね。何せドラゴンにも好みはある。レア、ミディアム、ウェルダン……。
――これまた、選り取り見取りじゃねぇか。俺も混ぜてくれよ。
家族団欒、ほんわかした時間にやってくる、唐突な誰かさん。なんだ、貴様、私達の邪魔をするって謂うのか。お父さんの声色が変わる。お母さんが姉妹の身体を隠そうとする。貴様、冒険者だな……? それに、その格好……古代語魔術師か。お父さんは様々な『戦闘』を経験している。だから、相手が如何様な冒険者であるのか一目で見破った。へえ……流石はドラゴンってところか。なら、俺が何を求めているのか、欲しがっているのかも、わかるよな……? 私達の素材か……高値で売るか、或いは……。ああ、勿論、それも俺の目的だ。だが……俺は『配信者』でね。ドラゴンとの戦闘を……いや、一方的に惨殺するところを、後世とやらに残したくてねぇ……! お父さんは理解した。目の前に存在している冒険者は、腐れ外道は――私達を全員、惨殺するほどの『力』を有している。例外中の例外だ。埒外の中の埒外だ。ドラゴンを玩具としか考えていない、極めて厄介な魔術の深淵だ……。
糞が……ッ! おい、子供達を連れて逃げるんだ。早くッ! お父さんの咆哮が、山をひとつ消し飛ばすほどの『ブレス』が放たれた。魔術師は――ビクともしていない――貴様……空間魔法まで……? やれやれ、この手品の種に気付いたのはテメェくらいのモンだぜ。ま、気付けたところで何もかも手遅れだけどなぁ! 魔術師が掴んでいたのはお母さんの|首《●》だった。
慟哭。お父さんは、父親は、この瞬間だけ、一匹のオスに成り果てた。こんなにも面白い遊びは、他にはない! 俺を楽しませてくれたお礼として、テメェは苦しませずに殺してやるよ。魔術師は巨大な巨大な『腕』が迫る中でも余裕綽々とした様子だった。微動だにせず、杖を一振りすると――お父さんは真っ二つ。巨躯は最早滂沱も出来ず、笑う事も出来ず、藁よりも軽く沈黙した。
さ……て。残った可愛い子ちゃん達は如何しようか。
私を殺して! 代わりに、お姉ちゃんは見逃して!
何もかもは遅かった。アタシは、呆然と、妹の絶叫を耳にする事しか出来なかった。妹が叫び終わると同時に、アタシの隣で林檎が弾け飛ぶ。顔すらも、カタチすらも、残っていない妹は――アタシの近くで、臓物その他をぐちゃぐちゃにされていた。良い妹を持ったねぇ、お姉ちゃん? いや、あんなふうにされたら、俺も動画映えを考えて、お姉ちゃんを『生かす』しかなくなったじゃあねぇかよ。吐きそうだ。いいや、吐いた。苦くて酸っぱいものが、アタシの、妹と混じり合って……。
角に罅が入った。おそらく、お母さんと同じく、アタシも握られたのだろう。頭を殴られる。何度も、殴られる。痛い、痛い、破裂しそうだ……。良いね、すごく、良い。俺好みの女だ。……殺してやる。いつか、必ず殺してやる。
面白い!
殺せるものなら、殺してみろよ!
世界が大きくなっていく。違う。アタシが、小さくなったのだ。
頭の中から大切なものが抜け落ちていく、崖下、堕ちていく。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴 成功