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イツメン、秋の思い出日和

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 「プラネタリウムに行こう」。
 最初にそう言ったのは誰だったか覚えてはいない。けれどその場にいた皆がすぐに乗り気になったのは覚えている。
 勢いのまま調べてみれば、最近のプラネタリウムにはソファ席なんかもあるらしい。成人男性の団体客でも落ち着いて楽しむことができそうだ。
 あとは全員で予定をすり合わせて、しっかりと予約もして。
 そうしてワクワクした気持ちでその男性陣――イツメンは集まることとなった。

 ヴェーロ・ポータル(紫炎・h02959)は普段と変わらない黒のセットアップに身を包み、悠々と朝の街を進んでいく。
 集合時間にはまだ早い。きっと自分が一番乗りだと予想していたのだが、それはすぐに外れることとなる。
(……おや、あの目立つ耳は)
 ヴェーロの視線の先には、冊子に見入る花園・樹(ペンを剣に持ち変えて・h02439)の姿があった。
「おはようございます、樹さん」
「……あ、おはようヴェーロ。早いね?」
 穏やかなヴェーロの挨拶に樹も視線をそちらに向ける。樹が手にしていたのは、これから向かうプラネタリウムのパンフレットだった。
「ふふ、準備万端のご様子で。あなたらしいですね」
 勉強熱心な様子も、休日だろとかっちりとしたシャツにパンツというスタイルも、教師の樹らしい。友人のいつも通りの様子にヴェーロも表情を和らげる。
「いや、私はこういうところに来るとつい……っと」
「あれ、僕が一番だと思ったのに二人とも早いね。おはよう」
 照れ笑いを返す樹の視界に、別の友人の姿が入る。少し驚いたような顔で近づいてくるのは斯波・紫遠(くゆる・h03007)だ。
「紫遠さんもおはようございます。皆さん早めの集合ですね」
「ああ、おはよう。私の場合は職業病かな……?」
「先について待ってるのはもう癖みたいなもんだよ。ふふ、一緒だね」
 似たような心境の友人を前に、紫遠も安心したように笑顔を見せた。

 それから少し時間は経ち、待ち合わせの時刻が近づいてくる。そうしているうちに、残りの三人も集まってきた。
「皆さんおはようございやす。今日は快晴で良うございやすね」
 尾花井・統一郎(戯言を集めて囃し枯尾花・h03220)は軽い足取りで皆のもとに進み、朗らかに笑顔を浮かべて。
「おはようございます。最初に向かうのは皆既日食のプログラムでしたよね、楽しみです」
 屍累・廻(全てを見通す眼・h06317)は穏やかに挨拶をしつつも、プラネタリウムの内容に好奇心を隠せない様子。
「やあ、おはよう。プラネタリウムなんて何年ぶりかな、小学校以来かも。ワクワクするね」
 北條・春幸(汎神解剖機関 食用部・h01096)は白のTシャツにグレーのワークパンツ、それにダークカラーのシャツを羽織って姿を現す。ゆるりと落ち着いた雰囲気だ。
 全員が集まる頃には時間もちょうど良い頃合いになっていた。一行は軽く言葉を交わしつつ、最初のプラネタリウムへと向かっていく。

「そういえば、この前も皆既日食があったね。かなり遅い時間だったけど……みんなは見た?」
 道行く最中、樹が投げかけたのは見に行く演目に関する話題。皆もそれぞれ記憶を辿り。皆既日食があった日のことを思い返す。
「皆既月蝕……そういやそんなニュースありやしたね。でも寝てて見てやせん★」
「そうですね、私も特には……魔術の参考になったかもしれませんし、見ておけば良かったかもしれませんね」
 カラリと語る統一郎の横で、ヴェーロは少し残念そうに呟く。廻と紫遠も二人の言葉に頷いていた。
「後でニュースなどで見たりはしましたが。直接は見れませんでしたね」
「僕も寝ちゃってたかな。北條くんは?」
 話題を振られ、春幸は薄く笑みを浮かべながらスマホを取り出す。
「僕は見たよ、皆既日食。月蝕の月見酒で4時くらいまでは眺めてたかなあ。写真も撮ってたんだ……こんな風になっちゃったけど」
 液晶に映し出されるのは、夜闇に浮かぶ赤い点。説明を受けなければ月蝕のものとは伝わりづらいかもしれない。
「ただのイクラみたいだよねぇ」
「北條の言うとおり……まさにイクラだね」
 樹も苦笑いを浮かべつつ、自身が写した写真を掲げる。同じように、夜闇に浮かぶイクラ――もとい小さな月蝕のものだ。
「これでも事前にスマホで月を綺麗に取る方法とか調べたんだけどなぁ。あと、こんな風に月が赤くなる仕組みとかも勉強したんだけれど」
「月が赤く? たまに夜の月がオレンジ色な時ありやすけど、それとは違うんで?」
 何気ない樹の言葉に統一郎が興味を示す。他の四人も樹に視線を向けていた。
「ああ、そっちはまた別の現象だね。多分低い位置に見えたんじゃないかな? それは朝焼けや夕焼けで太陽が赤っぽく見えるのとほぼ同じ現象だね」
「ふむ……その辺りも科学的に解明されているのですね」
 ヴェーロは長い人生の中で、何度も見てきた様々な月を思い返す。かつては人々が恐れたような現象も、すでに現代では馴染みのあるものとなっているようだ。
「光の散乱ですよね。同じものでもまったく見え方が変わるのは興味深い現象です」
 廻も自身の知識と照らし合わせ、何度か頷く。こんな風な会話を交わせるのも、廻にとっては喜ばしいことだった。
「同じ星なのに見える位置とか光で色が違うなんて面白い話でございやすなぁ」
「そうだね、こうやって説明してもらえると面白いなぁ」
 統一郎と春幸も興味深そうに話を聞きつつ笑顔を浮かべる。紫遠は皆の様子や会話を楽しげに見守っていたが、道の先にあるものに気づき声を弾ませた。
「あ、あれって科学館の看板だよね。話してるとあっという間だったな……楽しみだね」
 紫遠の明るい声に、友人たちも頷きや声を返す。
 大人だって、楽しそうな場所に来ればワクワクするのだ。


 一行が予約していたのは、三人掛けのソファ席だった。
 丸くて大きなソファは星空のような落ち着いた色合いになっている。そこに靴を脱いで横になれば、寝転んだままプラネタリウムを鑑賞できるのだ。
 席には月を模したクッションも三つ置かれており、枕のようにも扱える。
 プログラムの開演まではまだ時間もあり、ちらほらと他の客が入ってくる様子が見えていた。
「では、座席は決めていた通りで。靴も脱ぐのはこの国らしい風潮ですね。プラネタリウムは初めてですが、落ち着ける良い環境です」
「あっしも初めてで、ちょっと緊張してましたが……いやぁ、この席ふかふかしてて気持ちよさそうでございやす」
「っと、少し早めだけど、スマホはマナーモードにしておこう。みんなも大丈夫かな?」
 ヴェーロが衣服に皺がつかないように整える横で、統一郎はすでにクッションに手を伸ばしている。樹は尻尾の位置を調整しつつ、友人達の様子を見守っていた。
「なんだかソワソワするけど……でもソファが気持ちよすぎて、終わった後に立ち上がれるかも心配かも」
「わぁ……本当にふっかふかだ。快適すぎる。寝そうじゃない?」
「それなら、邪魔にならない程度にお話しましょうか。小声なら大丈夫だそうですので。皆既月食のプログラムは初めて見るので楽しみです」
 ソファの感触を確かめる紫遠と、すでにふかふかに身を預ける春幸。廻も寝転んではいるが、眠気よりワクワクが勝っているようだ。
 こうしてそれぞれが準備を整えているうちに、入口の扉が閉められる。そしてアナウンスが流れ、照明が落とされれば――いよいよ演目が始まった。

(こういう瞬間ってワクワクするよね。照明が落ちて、真っ暗になって……)
 そんな紫遠の期待は、暗闇に浮かんだ光景により大きく弾ける。視線の先に現れたのは、大きな月。映像と分かっていてもリアルに感じる輝く星だ。
 まずは軽く月の解説を挟んでから、いよいよ月蝕の再現へ。少しずつ色と形を変える月を、統一郎はただジッと見つめている、
 そこからさらに続く解説は、道中に樹が話していた内容と類似していた。月蝕の仕組み、次の皆既月食はもっと見やすい時間にあることなど――なんだかネタバレになってしまったな、と樹はこっそり苦笑いを浮かべていた。
 月蝕の再現映像が続く最中、語られるのは歴史上の月蝕の扱い。ヴェーロにとってそれらの内容は懐かしさを感じるものだった。かつては災厄の象徴だったものも、今は人の文化に受け止められている。時代は大きく変わったのだと、なんだかしみじみとした気持ちになった。
 解説に合わせるように、廻も自身の知識を語る。その言葉に耳を傾けていれば、春幸も好奇心で目を冴えさせていた。
 楽しい時間はあっという間に過ぎて、月蝕の再現は終わる。
 最後に月が沈み、夜明けを模した光景が映し出され――夢から覚めるように、ゆっくりと照明が辺りを照らした。


 一行は一度科学館を後にして、街へと繰り出していた。時刻はちょうどお昼時だ。
 昼食場所として検討をつけていたのは近くのファストフード店だ。そこに向かう最中も、言葉を交わすことは忘れない。
「いやぁ、面白かったね。学芸員さんの解説も、屍累くんの話も面白かったし。学校で習ったこともあったかもしれないけど、やっぱり忘れてるんだな」
「うんうん。色々聞けたしおかげで僕も楽しく過ごせたよ」
「お役に立てたようなら何よりです」
 紫遠と春幸の言葉を受け、廻は安堵したように微笑む。
「花園センセから聞いてた解説のおかげで、あっしもスッと話が飲み込みやすかったんでやす」
「歴史の話も興味深かったですね。月蝕というものも、色々な側面から捉えられるのだと」
「ありがとう。科学的にはもちろん、歴史の方のアプローチもアリなんだなぁ……」
 統一郎とヴェーロ、樹もそれぞれの観点からプログラムを楽しんでいたようだ。
 初回のプログラムは楽しかっただけでなく、良い勉強にもなった。それなら午後のプログラムも同様に楽しむべく、しっかり腹ごなしをしなければ。

 辿り着いたファストフード店は程よい混雑具合で、賑やかだがうるさすぎない様子だった。グループでのんびり過ごしても問題なさそうだ。
「いろいろあるので迷いますね。皆さん、オススメありますか?」
「季節限定のヤツとかあるよ。でも食べ慣れてないならシンプルなのがいいかも?」
 メニューをじっくり観察する廻の隣では、紫遠が思案を巡らせる。
 春幸と樹は同じタイミングでデザートメニューを見つめ、思わず目を合わせていた。
「花園君もこういう時、甘いの頼む方?」
「そうそう、こういうところは男でもデザートを頼みやすいからいいよね」
「サラダなどもあるのですね。私はそれもつけましょうか」
 ヴェーロもサイドメニューを確認しつつ、すでに注文を始めている統一郎にも意識を向ける。
「テリヤキバーガー二つにポテトもお願いしやす」
「お、尾花井君食べるねぇ。それなら僕もたくさん食べようかな」
 意気揚々と注文に行く春幸には、少し不安げな視線を送るヴェーロだった。

 こうしてそれぞれ好きなものを注文して、大きめのソファ席へと腰掛ける。テーブルに六人分の食事が並んだ様はなかなか壮観だった。
「それでは早速……いただきやしょう!」
 統一郎は事前に注文してた通り、テリヤキバーガーとポテト、それから烏龍茶を並べていた。少し無邪気にワクワクしている様子と裏腹に、包み紙を開ける様子は丁寧だ。
「ファストフード点というのも賑やかでいいいですね。いただきましょう」
 ミニサラダを軽く食べてから、ダブルバーガーを頂くヴェーロ。時折ホットコーヒーも飲みつつ、視線を向けるのは廻の方だ。
 廻はハンバーガーを食べているのだが、その様子はどこか危なっかしい。ケチャップなどが零れそうになっているのだ。
「廻さん、大丈夫ですか?」
 助太刀としてヴェーロが差し出したのはペーパーナプキンだ。廻は軽く頭を下げつつナプキンを受け取り、零れそうなケチャップを受け止める。
「ありがとうございます。助かりました」
「こういうのってコツがあるんでございやす。あっしもごりょんさんに仕込んでもらっって……」
「そうそう、袋に入れたまま上下から軽く潰して薄くすると食べやすいよ?」
 統一郎と樹の助け舟も加われば、廻も安心して食事を続けられる。
 そんな友人達のやり取りを眺めつつ、紫遠はゆっくりと季節限定バーガーとポテトを食べ進めていた。
「なんだかいいな、こういうの。学生の頃に戻ったみたいで」
「ああ、分かるかも。喋るのも楽しくて、つい長居しちゃうんだよね」
 紫遠の言葉に頷く春幸は、既に二つ目のバーガーに手をつけていた。さらにパンケーキも控えているのだが、それでも彼の食べるペースは落ちない。
 樹もパンケーキを食べつつ、春幸の健啖っぷりには目を見張っていた。続いて紫遠に視線を向ければ、樹の顔に不安の色が滲む。
「北條は心配いらないだろうけど……斯波は大丈夫かい?」
「ん、実はポテト、大きいサイズで頼んじゃって。Sサイズで頼めば良かったかな」
 見れば、紫遠のポテトはまだかなりの量が残っている。しかし揚げ物が苦手な紫遠にとっては、これ以上の量を食べるのはなかなか苦しい。
「私はお茶を買ってくるよ。少し待っていてくれ」
「あら、お手伝いしてもよろしいでございやしょうか?」
「ありがとう、助かるよ」
 樹が注文に行く傍らで、統一郎がポテトをいくらか自分の手元に寄せる。その隣で、パンケーキを食べ終えた春幸も身を乗り出していた。
「それじゃあ僕もいただこうかな」
「春幸さん、とても食べるんですね。なんだか羨ましいです」
 あまりに見事な春幸の食べっぷりに、廻は思わず目を見張る。一方ヴェーロは親友の顔を訝しげに見ていた。
「このあともプラネタリウムに行くのでしょう?そんなに食べると眠くなるのでは……?」
「いつもの量だよ。眠くは……うん、頑張ってみるよ」
 ヘラリと笑う春幸に、ヴェーロはやっぱり不安げな視線を送っていた。
 そうして話しているうちに樹が戻り、お茶を紫遠に手渡す。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。みんなよく食べるねぇ……これが若さか」
 お茶を飲みつつしみじみ語る紫遠に、友人達は笑顔を返す。
 ここにいるメンバーがかなり年齢の幅が大きい。だからこういう時に差を感じたりもするけれど――そこも踏まえて気兼ねなく接することができるのだ。


 無事に昼食は終わり、一行は再び科学館へと足を運ぶ。
 プラネタリウムでは別の演目が予定されていた。今度のテーマは秋の夜空についてのものだ。
「プラネタリウムの内容もバリエーションがあって飽きさせない仕掛けが沢山あるのですね」
 ヴェーロはパンフレットに軽く目を通していた。樹も同じものを読みつつ、興味深そうにしている。
「こちらも面白そうだね。しかし、プラネタリウムのプログラムを梯子とかすごい贅沢だ……!」
「プラネタリウム梯子するなんて人、滅多にいねぇんじゃねえでやすか? 今度のは星空を再現するんでしたね。あっし、満天の星ってのを見たことねぇんで楽しみでやす!」
 樹の言葉に同意するように、統一郎もカラカラと笑っていた。
「午後の部もソファ席が空いてて良かったね。内容も違ってるし、本当にラッキーだ」
「また新しいことが学べますしね。良い機会に恵まれました」
 紫遠と廻も落ち着いた様子だが、それでも内心ウキウキしているのは笑顔から読み取れる。
「もう一度あの席に行けるのも嬉しいよね。のんびり過ごせそうだ」
 春幸もチケットを取り出しつつのんびり語る。午後の時間を友人と穏やかに過ごせるというのも、また一つの贅沢だ。
 時間になれば、改めてプラネタリウムに入場して先程の席へ。
 そして午前と同様に扉が閉められ、アナウンスが流れ、周囲は一時的に暗闇に包まれる。
 次の瞬間、一行の目の前に広がったのは――無数に星が煌めく、秋の夜空だ。

『秋の星座を探すとなれば、秋の四辺形を探すのがオススメです。ご覧のように、ペガスス座やアンドロメダ座がこの図形を作り出しており……』
 心地の良いBGMに合わせるように、優しい声のアナウンスが響く。それに合わせて星空には、雰囲気を損なわない程度の説明が書き加えられていた。
 統一郎やヴェーロが興味を示したのは、星座にまつわる物語や解釈。遠い昔の人々が星にどのような思いを託し、何を語ってきたのか。
 キラキラ輝く星を通し、物語を見出し、新たな解釈を加える。
 それらに感銘を受け、統一郎は新たな御伽話を受け取り、ヴェーロもより知識を深めるのだ。
 紫遠もかつて聞いた星めぐりの歌を思い出しつつ、ジッとアンドロメダを見つめる。
 きっとこれからは、秋の夜空を見ればアンドロメダを見つけることができるだろう。遥か古の人類が持っていた豊かな感性を尊ぶように、自分もそうしてみたいと思ったのだ。
 樹や廻は自身の知識と解説、そして目の前の光景を照らし合わせつつ演目に見入る。
 知っていることを改めて聞くのは安心できるし、知らないことを知るのはとても楽しい。
 何百年も昔の光が今の自分たちに大きな影響を与え、より世界を広げてくれる。それはきっと素晴らしいことだ。
 そして春幸もまた神話の世界に思いを馳せていたのだが――。
(なんだか、不思議な光景が見えていたような。解説の声も遠い……)
 見えたのは、星座が本物の英雄や生き物になる様。分かっている、これはきっと夢だ。
 やっぱりたくさん食べたからか、正直眠い。けれど自分の眠り方は「死んだよう」とまで言われるから、きっと大丈夫だろう。
 そう信じて、春幸は瞳を閉じる。彼の意識は一瞬で夢の世界へ旅立っていった。

 演目は順調に進んでいき、気づけばかなりの時間が経過している。
 そこでふと統一郎は視線を動かし――熟睡している春幸に気づいた。びっくりしたけど、それ以上にこみ上がるのは笑顔だ。声を出さないよう、少しだけ身体を揺らす、
 廻も春幸の様子に気づき、興味深そうに視線を向けていた。春幸があまりにも動かない、それこそ評判通り「死んだように」熟睡していたからだ。
 紫遠も春幸の寝息を耳にし、事態を把握する。お腹いっぱいの時に眠る心地よさは知っているし、無理に起こすことはしなかった。
 解説に聞き入っていた樹も春幸の様子には気づいたらしい。自身が受け持っている学生達にも、プラネタリウムで眠る子は……きっと、いや間違いなくいる、なんて思いつつ。
 ヴェーロは春幸の方を確認しなかったが、それでもなんとなく予想はしていた。親友がこういう時どうなるかは、長い付き合いの中でよく知っているからだ。
 当の春幸本人は友人達の視線にまったく気づかず、深い夢の中に滞在し続けている。それだけこのプラネタリウムが快適なのだ。

『これにてプログラムを終了します。本日は本当にありがとうございました』
 締めのアナウンスが流れ、照明が再び点灯する。
 紫遠はすぐに春幸の肩を揺らし、優しく声をかけた。
「北條くん、終わったよ」
 ヴェーロもすぐに身を起こし、春幸の元へと向かう。紫遠の優しい声から伝わる気遣いには、思わず感心していた。
「……まぁそうなると思っていました。紫遠さん、ありがとうございます」
「だいぶ熟睡しているね……北條、風邪を引くよ」
 樹も一緒に肩を揺すれば、春幸もようやく目を覚ます。その表情は心做しかスッキリしているように見えた。
「ん、おはよう、ありがとう。ああ良く寝たなあ。体の疲れも取れたよ」
「ふふ、かなり熟睡していましたよ」
「このソファ、ベッドとしても優れモノでございやしたね」
 廻と統一郎も合流し、笑顔を向け合う。
 過ごし方は思い思いのものとなったが、それぞれが有意義な時間を過ごしたのは間違いない。
 一行は荷物をまとめ、プラネタリウムを後にする。最後にもう少し、有意義な時間を過ごすためだ。


 今回訪れたプラネタリウムは科学館に併設されたものだった。そちらの見学料もプラネタリウムの代金に含まれており、せっかくなら一緒に見ていったほうがお得だ。
「こういうところって子ども向けのイメージが強いけど、大人も十分学んだり楽しんだり出来るんだよ……!」
「花園センセ、お仕事モードでございやすね……!」
 ワクワク引率モードの樹を前に、統一郎は声を弾ませ笑う。
「昔と色々変わってるねえ」
「そうなのですか? 私は初めてなので、新鮮ですね」
 しみじみする春幸の隣では、ヴェーロが興味深そうに展示を見ている。
 廻や紫遠も展示物や解説を読み込みつつ、新たな知識を得ていた。
「花園センセじゃないけど、確かにこう、学びの時間って感じだね」
「ええ。とても勉強になります。世界にはまだまだ知らないことがたくさんありますね」
 新たな学びはもちろん、それを共有できる仲間がいる。それが恵まれた時間だということを、一行は深く感じ取っていた。

 そうしてしっかりと科学館を楽しんでから、いざ外へ。
 気づけば空は茜色に染まっていた。そろそろ解散の時間だ。
 今日はここで別れるけれど、きっとまたみんなで集まって、雑談したり次の外出の予定を話すこともあるだろう。
 そんな考えに至ったところで、統一郎が軽く手を挙げる。
「いつか、皆さんと本物の夜空を見に行きたくなりやした。また計画したいでございやす」
 その提案には、他の五人も乗り気な姿勢を示した。
「良いアイデアです。夜の外出というのも、色々なところに行けそうですね」
「うんうん。月見酒とか星見酒もいいかもしれないね」
 ヴェーロの穏やかな声に同意するよう、春幸もコクコクと頷く。
「普段は出かけない時間に、いつもと違う場所に行く……素晴らしいことですね」
「今日みたいに学べるところも良いし、たた遊びに行くだけでも良さそうだ」
「しっかり予定を合わせれば行けるかな。うん、楽しみだ」
 廻と紫遠、樹もまた頷きを返す。気持ちはやっぱりみんな同じだ。

 イツメンで出かけた秋の思い出は、しっかりと胸に刻まれた。
 そして――次の外出も、きっと深く心に残るだろう。
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