影を畏れず、影を恐れなさい。
●スノーノイズ
ザー、ザザ、ザーザーザー……ザザ、ザザザ、ジ。
ぷつん、と明滅して消える、不法投棄のテレビの砂嵐。当然、電源なんて、どこにも繋がっていない。
夕焼けが影を長くする。奇妙な現象を黒になりきらない灰色で誤魔化すように。あやかすように。
ひたり、ひたり……なんて足音はしなくとも、怪異は歩み寄っている。あなたのそばに。
ほら、もうすぐ、あなたの後ろに。
「人間って面白いねえ。逃げるなら追いかけるよ。近づくなら受け入れるよ。さあ、おいで。俺と話をしよう。おしゃべりは嫌いかい?」
どこか剽軽ぶるような青年の声がして、テレビが七色の垂れ幕のような羅列を流し、回転し、流転し、点滅し——やがて、灰色の流砂に包まれ。
ぷつん。
途切れたような音を残し、その明かりを消した。
●誰彼と思えば逢魔
褐色肌の女性が、黒く禍々しいナニカを撫でていた。黒く禍々しいナニカは、その指先にじゃれつくようにすり寄って、楽しげに目を和ませている。
禍々しいナニカ——邪悪なインビジブルである死霊は、女性以外のヒトの気配に、じっとりとねばつくような目線を向けた。それに気づき、女性は死霊の眉間にあたるであろう部分を小突く。
「だめよ、仲良くしないと」
死霊は女性に目を戻すと、満足げに笑った。朗らかというには「ニタァ」という擬音がよく似合うような、不気味な笑顔だったが。
死霊がふっと姿を消すと、女性——ゴーストトーカーを生業とする√汎神解剖機関出身の人間、セルマ・ジェファーソン(語らう者・h04531)は、集まった√能力者たちの方を向く。その手にはどこか古風な絵巻物があった。
「こんにちは。星の囁きを聞いたから、あなたたちを呼んだの」
星の囁き——星詠みの才を持つ者が「ゾディアック・サイン」と呼ぶそれ。セルマはわざわざ巻物に内容をまとめたらしく、読み上げながら、絵図の部分を示していく。
「今回は√汎神解剖機関で起こっている、怪異の仕業と思われる現象の解明。それを引き起こしている怪異の討伐および捕獲よ。
概要は不法投棄されたテレビが電源もないのに勝手に点いて、不意に消える怪奇現象の調査。そのタイミングで近くを通ると、スマートフォンや車のライトなんかも消えるらしいわ。スマートフォンはともかく、車のライトが消えるのは、危険すぎる。幸い、日が沈み始める時間帯だから、まだ事故は起こっていないけれど……時間の問題ね。
|誰彼《たそがれ》と思えば、そこに魔は潜んでいるのだから」
夕暮れ、昼と夜の境は安全と危険の境界。黄昏時、逢魔が時とも呼ばれることから、怪異も活動しやすい時間なのだろう。
いずれにせよ、車のライトが消えるという現象は、市民の安全のためにも解決しておいた方がいい。まだ事故は起こっていないが、起こる前に解決できた方がよい。
「テレビというキーワードから、黒幕は『ヴィジョン・シャドウ』と推測される。まずは明かりが消える現象の調査をして。
ただ、その先……『ヴィジョン・シャドウ』が黒幕として、それを手引きする、もしくはそれに操られているのが、怪異なのか、人間なのかは特定できなかった。一応、最有力候補は『ヴィジョン・ストーカー』という怪異よ」
絵巻物に綴られた姿や能力の情報などをセルマは提示していく。
「星の囁きで知ったのはこんなところ。事件というのは何か大きな被害が起こる前に防いでも、評価されないもの。けれど、何も起こらないに越したことはないわ。大丈夫、誰が知らなくても、私はあなたたちの活躍を知り、物語る。あなたたちが奔走した証を残すわ。
だから、いってらっしゃい」
あなたたちの歩む|道《√》に、灯火の祝福があらんことを。
マスターより

こんにちは、九JACKです。
特に奇をてらうことのないオーソドックスなシナリオとなっています。
第一章は冒険「灯火を吸い取る怪異」です。不法投棄のテレビが勝手に点いては消える事件の調査となります。周辺のスマホの電源や車のライトなどが切れる事案も発生しており、迅速に解決しないと、交通事故が起こるかもしれません。
あとは不法投棄に何か物申したいとかありましたら、どうぞ。
第二章はよほどのことがない限り、集団戦「ヴィジョン・ストーカー」となります。喋ったり、喋らなかったりするらしいです。
よほどのことがあった場合は、冒険「汝は異分子なりや?」に分岐することがございます。人間の中から、黒幕の手先になっている輩を見つける話ですね。
いずれにせよ、断章でお知らせ致しますので、お待ちください。
第三章はボス戦「ヴィジョン・シャドウ」です。かなりお喋りのようです。
プレイング受付期間に関しましては、マスターページをご確認ください。受付期間が過ぎたら、サポートを遠慮なく使う方針です。
それでは、よろしくお願いいたします。
48
第1章 冒険 『灯火を吸い取る怪異』

POW
大量の灯りを用意する
SPD
今一番輝く人物に接触する
WIZ
怪異の痕跡を探る
√汎神解剖機関 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
●とあるごみ収集所跡
テレビ、冷蔵庫、タンス等々……。
一応、粗大ごみの指定テープが貼られていたり、いなかったり。けれど、規定通りの処理が施されていても、ここが収集所だったのは、過去の話。疲れはてた人々は、新しい収集所を調べる気力すらないのかもしれないが、それは不法投棄を許容する理由にはなり得ない。
そんなことをすると、ほら。
プッ……ツーツーツー、ザザ、ザザザザ、ジイィィーーーーーー。
テレビがひとりでに点く。鼓膜を逆撫でし、不快感を煽るような|雑音《ノイズ》が垂れ流された。アナログテレビのぼんやりとした明かりが、夕暮れに伸びる長い影の不穏さを助長するよう。
「あれ? 画面真っ暗になったんだけど!?」
「もしもし、もしもし? と、得意先との電話中だったのに……」
「んー、そろそろ暗くなってきたから、ライト点けようかな?」
「まだ良くない?」
「早めのライトは交通安全の基本だよ」
「真面目か!」
他愛のない会話。その隙間を縫うように、怪異は手を伸ばす。影のような、不定形のナニカ。
見えない彼ら彼女ら、あるいは見ないフリをしているアナタたちは、今日もきっと大丈夫と思っている。昨日大丈夫だったのだから、今日も大丈夫、と。盲信している。言い聞かせている。
ねえ、その大丈夫って、本当に大丈夫?
せせら笑うような影の声は、まだ届かない。
人々は影を畏れているから。
でもね、本当に恐ろしいのは、
「影を形作る明かり一つもなくなることだよ?」
ね?

現場に着いたら、ひとまず一服。
紫煙を吐きつつ不法投棄場を眺めるぜ。
悲しいねぇ、不法投棄。兎跳ねても狐は化けず、てやつだな。
さて、灯りがついたり消えたりする事件。
自分のスマホの明滅も確認してみるか。
…これの頻度で原因に近いところを探せるんじゃね?試してみよう。
いやしかしマジでゴミ多いな。
無機物はダメだろ無機物は。分解者が処理できないんだぞ。
例えばその辺の湿っぽい草むらで見つけたこのシデムシなどは分解者の代表と思っていただいていいぜ。
小さな虫の背負うでかい責任、ロマンがあるよな?
え?いきなり虫捕まえて喋る男の人は怖いですか?そうですか…。
ちゃんと仕事しよ…。

※連携&アドリブ歓迎
逢魔が時に現れる怪異ね。
|他所《妖怪百鬼夜行》にも居てもおかしくなさそうな存在だけど……もっと凶悪なのかな。
まぁ、良いや。√は違えどボク達能力者が為すべき事は悪しき簒奪者を倒すのみ。
問題が起きてるのはゴミ収集所跡なんだよね。一番確実なのは目撃者に聞き込みをすることかな。
ん?……こんな時間に誰も居ない?そんなことは無いよ。棄てられたテレビの脇にも居るから……と言う訳で【ゴーストトーク】を使い、インビジブルに話し掛けようか。本職のゴーストトーカー程じゃないけどアイヌの巫女でもあるボクが話を聞くよ。
最近、此の辺りで騒ぎを引き起こしてる存在について教えてくれ無い?ってね。

共闘、アドリブ️⭕️
影は恐ろしくない、闇も恐ろしくない。
どちらも自分自身の本質のようなもの……とはいえ、まぁ、調査はしっかりとやりやすかね
探知無効を使って影に潜みつつ、不法投棄しに来たやつの様子でも見ていやしょうか。あんま危ないようであれば助けに入りやすが、まぁ、不法投棄についてはちょいと脅かしやしょうかね
さて、鬼が出るか蛇が出るか
●縁の影
カチッ、チッ、チッ……ライターの火打石部分が、数度、空回りし、それからぼうっと炎の音。ふっと灯火のように生まれた赤が、特に何の代わり映えのない煙草の先端を色づかせる。
線香花火くらいの瞬きを灯す煙草。それをつまんで、すう、と一服。くゆりと揺らめく紫煙を溜め息と共に吐き出し、戸叶・蓮也(誰かの為の誰か・h04546)は周辺の光景に目を細めた。
嘆かわしげに肩を竦める。——日もだいぶ傾いたごみ収集所跡には、ごみ収集所という過去をそのまま引きずっているように、ごみの数々が収められている。燃やせるごみなど、定期回収のある分類のものはないが、冷蔵庫やタンスなどの大物ばかりであるため、雑然としている。忘れられた残骸のような物寂しさを纏うのは、ここが黄昏を迎えた人類の|世界《√》だからだろうか。
……などと、いくら格好をつけたところで、この粗大ごみが「不法投棄」である現実は変わらない。蓮也は今一度、紫煙を吸い込んだ。特有の濃いえぐみが、鼻を抜け、喉の奥を埋める。
再びの溜め息は、先のものより深かったように思う。無理もないだろう。
「悲しいねぇ、不法投棄。兎跳ねても狐は化けず、てやつだな」
「へぇ、面白いことを言いやすねぇ」
「うおっ!?」
独り言のつもりが、面白がるような声音がすうっと介入してきて、蓮也は肩を跳ねさせる。くつくつ、と肩を揺らして笑う男は、誰も彼もの識別が判然としなくなる黄昏の影色から沁み出したような闇色の麗人。護導・桜騎(気ままに生きる者・h00327)という、半人半妖である。
ほっそりとした指先で、蛇の目傘の持ち手を弄びながら、桜騎は、からからと傘が回るのを見るともなしに見る。
くゆくゆと、形もなく、当て所なく漂う紫煙をなぞるように目線で追い、桜騎はヴェールの下から見える唇を緩く笑ませた。
「桜騎にも一本、もらえやせんか?」
「お、おう。ほら」
箱の角をとんと叩いて、一本差し向ける。受け取った桜騎に、蓮也は火もやるよ、とライターを貸した。
二人分の紫煙が、不定形に広がる。その様に目をやることもなく、ぽつり、蓮也は呟いた。
「いやしかしマジでゴミ多いな」
がたがたと積まれた粗大ごみの数々。粗大ごみは名前の通り大きい。大体直方体をしているのだが、不法投棄する人間が、整った並べ方などしていくはずもなく。半開きの戸が時折揺らめく冷蔵庫や、今回問題となっているテレビの中には、画面が割れているものもあった。
蓮也は目を平坦にし、びしり、と粗大ごみたちを指差す。
「いくらなんでも無機物はダメだろ無機物は。分解者が処理できないんだぞ」
「分解者、ですかい?」
聞いていた桜騎が疑問を口にすると、待っていましたとばかりに、蓮也は手を開いてみせる。そこには、一匹の昆虫。
「例えばこいつ。その辺の湿っぽい草むらで見つけたこのシデムシだ。分解者の代表と思っていただいていいぜ」
「シデムシ……死出虫でございやすか。動物の死体につくっていう」
「そうそう。知ってたか! 嬉しいねえ。シデムシが死体を分解してくれるから、動物の死体が放置されていても、綺麗になってることがあるんだぜ? 自然界の掃除屋ってこった。小さな虫の背負うでかい責任、ロマンがあるよな?」
同意を求める蓮也の目線に、桜騎は口元を笑ませ、
「否定はしやせんが……虫捕まえて、急に饒舌になるのは、ねぇ?」
「あ、はい」
皆まで言わないが、暗に引かれたことを示され、蓮也は我に返る。こういう知識の披露は、傍目から見たら頭いい! みたいな感動があるものと思っていたのだが、桜騎はそうではなかったようだ。
が、落ち込む蓮也をよそに、煙草の先端が、軽く明滅する。ふっと、その灯火が消えた。
「おや」
「これは……」
それこそ、皆まで言わずとも、二人は察する。
「お出ましってわけだ」
蓮也はスマホを開いた。ぼうっと浮かんだ明かりは、薄暗くなってきた中で、じゅうぶんに明かりとしての役割を果たす。
桜騎はいつの間にか姿を消していた。煙のように。煙草を吸っていたのだから、それなりの臭気をまとっただろうに、残り香など一切なく、不思議な印象だけを残していった。
まあ、あちらも同じく、星詠みからの依頼で来たのなら、まだ調査の段階、個別に行動した方が、効率的に情報が集まるというものだ。
そう考えていると、前触れなく、スマホの画面が消える。
とりあえず、現在位置の確認のため、蓮也は顔を上げた。眼前にはテレビ。
「ははあ」
テレビに関わりの深い怪異、と聞いている。当然、媒介にテレビを使っているのだろう。
(この調子で、スマホ見ながら、原因の中心を特定できるんじゃねえか?)
スマホの電源を入れれば、抵抗なくすんなり点く。これならいけそうだ。
次はテレビに気をつけながら、スマホを見て調べよう、と歩いていると、少女の姿があった。
少女の前には、カジュアルな格好の女性。どうやら事情聴取を行っているようだが、人気のないこの辺で、あんな明るい衣装の人物、というのは浮いていた。
「そう、協力ありがとうございます。……安らかに」
少女が祈るような眼差しで目を閉じると、女性の体はどんどん形を崩し、色を失っていく。インビジブルへと、変わった。
√能力者か、と蓮也は納得した。聴取が終わったようなので、声をかける。
「精が出るね」
「こんにちは。√能力者の方?」
「ああ。覗きみたいになって申し訳ない。俺は戸叶・蓮也。お嬢さんは?」
「土方・ユルだよ」
土方・ユル(ホロケウカムイ・h00104)は頭頂の狼の耳をぴこぴことさせながら、蓮也に応じる。
本業のゴーストトーカーほどではないが、アイヌの巫女として、降霊もできる。インビジブルはどこにでもいるため、【ゴースト・トーク】で調査を行っていたのだ。
「さっきの人の話からすると、怪異がいるのは確かみたいだね。でも……」
「どうかしたのか?」
「どうやら、普通の人間も、この場所に来ているみたいなんだよね。聞いたところ、√能力を使う様子はないようだけど……」
「セルマは、人間が操られている可能性もあるって言ってたもんなあ」
√能力者でない、一般の人間相手の方が正直やりづらい。蓮也はもちろん、警察官であるユルもその思いは同じようだった。
が、√能力を使わなかっただけで、簒奪者の可能性は大いにある。
「逢魔が時に現れる怪異、その正体が怪異だろうと人間だろうと、簒奪者なら、ボクはそれを倒すのみ。そこは変わらないから大丈夫だよ」
「そうだな」
ユルの確固たる意思に蓮也が頷く。
「わ、わああああああっ!?」
そのタイミングで、悲鳴が聞こえた。間違いなく、人間のもの。
驚きつつも、そちらへ向かうと、男が一人、腰を抜かしていた。その前に悠然と佇むのは、桜騎だ。
桜騎と蓮也は目が合うと、ああ、さっきの、と軽く会釈する。
「お騒がせしてすみません」
桜騎は蓮也とユルに軽く経緯を説明した。
(影は恐ろしくない、闇も恐ろしくない。どちらも自分自身の本質のようなもの……)
人間と妖怪の混血。どういうわけか、そのどちらかに偏るわけでなく、どちらの性質も併せ持つこととなった半人半妖の桜騎にとって、影とは、闇とは、自分そのものであった。
観測するのが難しく、|他人《ひと》から畏れを受けるモノ。ある意味、今回の怪異と似通っている。
とはいえ、怪異に肩入れすることはないし、調査も真面目にやろう、と桜騎は【|探知無効《ミツカリマセンヨ》】で身を潜めた。結局、影の中に佇むこととなっているので、微苦笑を禁じ得ない。
鬼が出るか、蛇が出るか。まあ、不法投棄する人間が来て、何か危険に晒されるとかでなければ、ちょいと脅かしてやろう、くらいに考えて、身を潜ませていたのだ。
√能力者ですら、探知するのが難しい√能力を発動して。
「で、まあ、少しわっと声を出したら、ご覧の通りに……というわけでございやす」
お騒がせしやした、と口にする桜騎。蓮也とユルは様々な感情が脳内を駆け巡ったが、結論としては同じところに行き着いたようで、腰を抜かす男に手を差し伸べる。
「これに懲りたら、不法投棄なんてやめるこった」
「そうだよ。ちゃんと指定の場所に、手続きを経て捨てるんだよ?」
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴 成功

不法投棄のテレビが勝手に点いては消える。不法投棄する|俺達《人間》に文句でもあるかのように。それとも文句じゃなくて感謝だったりして。『お陰で堂々と貴方達、人間に手を伸ばせるようになりました』、なんてな。
時刻に合わせてスマホを広げる。灯りを吸い取ってテレビが点くのか、テレビが点くから灯りが吸い取られるのか。怪異の痕跡を辿るつもりだが、手詰まりになった時用に√能力の発動も視野に入れてる。
仮初の姿を【切断】し、理性を持った人間の姿に戻す。
3日の範囲で分かる事を教えて欲しい。例えば——この場所に誰かが来なかったか、とか。
ああ、いや、不法投棄をしに来た人間じゃなく。そう、操られるような、もしくは、状況を確認しに来たような、そんな人間。
テレビとの会話も試みるぜ。
どうやら想像より気のイイ奴らしい。【コミュ力】を発揮して【挑発】まで混ぜながら。
逃げる?ガラクタの旧式テレビ相手に?笑わせるならもっと上手くやれよ。
けど。話するのは嫌いじゃないぜ。茶菓子の一つも期待できそうにないのは残念だけどな。

▼連携・アドリブ歓迎
夜間ではなく、夕暮れ時に灯りを消していく怪異ですか
偶然かもしれないけど、随分と親切なもんですね
灯火が常に在るとは思うな、という警鐘のつもりなんですかね
とりあえず懐中電灯とオイルランタンを持って不法投棄現場に行ってみましょう
どちらにせよ怪異には灯りを吸われるかもしれませんけど
いくら行き詰まってる|√汎神解剖機関《ウチ》でも、ゴミ捨てのルールぐらいは守ってほしいなあ
本官も遺憾の限り、やれやれ
うわ、このラジカセまだ使えるじゃん
守備よくテレビを見つけられたら、聞いてみましょう
なぜ灯りを吸うんです?
照らすものが一つもない空間で、喚びたい誰かでもいるんですか?
ま、なんでもいいですけどね

影がどーしたこちとら闇じゃぞ
そも、こんなゴミの山を何時までも放置しとくから怪異が好き勝手するんじゃろ
宛ら屍に蛆が湧くが如くよ
…なのでここは特別に、妾手ずから片してやろう
欠片も残さぬ。ブラックホール乱射して問答無用に奇麗さっぱりじゃ
『本当に恐ろしいのは、影を形作る明かり一つもなくなること』じゃっけ?
良い事云うのう! そのダイレクト闇マーケティングっぷりを讃えて+100億闇ポイント加算してやろう
…で、光瞬く|廃棄物《テレビ》の|画面《ヴィジョン》、それが一つも無くなったら如何なるんじゃ?
尻尾を巻いて逃げ出すのか?
それとも居心地悪そうな顔をしながら情けなくも姿を現すのか?
ほうら、じっくりと調べてやる
●影に生くるモノ
不法投棄のブラウン管が横たわる収集所。
影は楽しそうに揺らめいて、その手を伸ばす。
愚かな人間め、とは思っているかもしれない。ただ、怒っているのか、嗤っているのかの判別はつかない。
「嗤っている、かな。俺から見ると」
スノーノイズを垂れ流しては明滅を繰り返すテレビを見て、久瀬・千影(退魔士・h04810)はそう述べた。
「アンタはどう思う?」
千影が目を向けた先には、くたびれた印象のサラリーマンの姿があった。太い黒縁の眼鏡の向こう、一重の瞼はどこか重たげだ。千影から差し向けられた水に、困ったように眉が軽く八の字を象る。
「どう、と言われましても……怪異だろうとなんだろうと、人を小馬鹿にしたような態度は快くは、ないです……ね……」
どこか自信なさげに紡がれる答え。あまりにも当たり前で、普遍的な回答に、千影はははっと笑った。
馬鹿にするような笑いでは、もちろんない。が、黄昏を迎えた世界の人間をテンプレートで出力したようなサラリーマンは自信なさげのまま、どこか萎縮したような佇まいである。
それに気づき、アンタを笑ったんじゃないよ、と千影は補足しておく。サラリーマンは頷きつつ、何故か恐縮した。
「とにもかくにも、私が見たのは『影』だけです。手のようなものだけが伸びていたので、俄には信じがたいですが、あなたの言う『怪異』というやつなのでしょうね。……お力に、なれたでしょうか?」
「ああ、ありがとな」
ほっとしたように胸を撫で下ろすサラリーマン。千影が手を翳すと、その姿は透明な魚に変わり、やがて周囲に溶けるように、泳いで、消えていった。
先のサラリーマンは千影の【黄泉還り】という√能力によって、生前の姿を取り戻したインビジブルだった。千影はこの能力を活かして、情報を集めていたのだ。
日の傾きにより、影が長く、長く伸びる。その姿は、「自分の時間」になった喜びを表しているように見えた。
不法投棄に限らず、規律に反することをした場合、子どもなどを教え諭すのに「神様や鬼とか、怖いものが怒るぞ」というのはよく聞く文言だ。だが、今回の場合は、もう一つの諭し方、「怖いものが喜んで、怖いことを始めるぞ」の方が該当しそうだ。
千影が通りすぎようとしたタイミングで、ジー、とテレビがノイズを立てて、再び明滅する。スマホの明滅と照らし合わせて、法則性を探したりなんかもしたが、収穫はいまいちだった。そのため、√能力を使用したのだ。
灯りを吸い取ってテレビが点くのか、テレビが点くから灯りが吸い取られるのか。その辺から怪異の能力にあたりをつけようと考えたが、千影の推測を嗤うように、テレビが先に点いたり、スマホが先に消えたり、遂には同時に点いたり消えたりした。その向こうでけらけらこちらを嗤っているかもしれない怪異に、いらっとしたのは否めないが、一つわかった。法則性なんてない、ということだ。
法則性がない場合、対処は難しくなる——なんてことはない。簡単なことだ。臨機応変に対応すればいい。√能力を使って、インビジブルからの情報収集にシフトしたように。
「なあ、見てるんだろ? それとも聞いてんのか? まあ、どっちでもいいや。少し話そうぜ、怪異さんよ」
スノーノイズを流すテレビの前に、千影はどっかり座った。灰色の瞬きは目に悪そうだ。だが、千影は目を逸らすこともなく、どこか楽しげにさえ見える笑みを浮かべて、物言わぬはずのブラウン管に語りかける。
「話せるなら、直接聞いてみるのが早いと思ってな。あ、だんまり決め込んでも無駄だぜ? 星詠みからの情報で、話せるってのは割れてんだ」
どこか挑戦的な言葉選びと眼差し。テレビはジジ、と鋭いノイズを鳴らす。
「話すなら、茶菓子の一つも欲しいところだが」
「茶菓子とな? ちょうど妾も小腹が減ったところじゃ。混ぜとくれ」
「あの、茶菓子はないからな?」
話を聞いてくれよ? と思いつつ、千影は闖入者を見た。背がちっちゃいドラゴンプロトコルの女の子。女の子というには、こう、とても偉そうでかわいげに欠けるが、ここにいるということは、√能力者なのだろう。
そう、彼女こそ無明・夜嵐(99歳児・h02147)。闇属性を扱う|精霊銃士《エレメンタルガンナー》である。
「ははは、随分大所帯で来たみたいじゃないか。揃いも揃って遠足か?」
「妾、ガキじゃないわい」
本当の姿はもっと大きくて威厳あるレディなのじゃ! と喚く夜嵐に喋り出した怪異はけらけらと笑う。
「いいや。何にせよ、歓迎するぜ? 解剖機関の差し金かは知らんが、お人好しは大好きだ」
奇妙な対談が、始まろうとしていた。
オイルランプの炎がゆらゆら揺れる。
黄昏に染まる旧ごみ収集所。残念ながら「旧」の部分が反映されていない惨状となっているのを見渡し、爾縫・恢麓(博愛面皮・h02508)は深々溜め息を吐いた。
「いくら行き詰まってる|√汎神解剖機関《ウチ》でも、ゴミ捨てのルールぐらいは守ってほしいなあ。本官も遺憾の限り、やれやれ」
アシモフさんもそう思いません? と左半身に取り憑く化生に語りかける。応えはなかったものの、元より独り言のつもりだったのか、恢麓が気にする様子はない。
オイルランプの他に、灯りとして懐中電灯も持ち歩いている。
「夜間ではなく、夕暮れ時に灯りを消していく怪異ですか。偶然かもしれないけど、随分と親切なもんですね。灯火が常に在るとは思うな、という警鐘のつもりなんですかね」
√汎神解剖機関生まれにとっては特に身に染みる警鐘だ。黄昏を迎えてしまった人間は、灯りを求めてゆらゆらしているのが実情。セルマは解剖機関の話を出すことはなかったが、今回の主犯であろう怪異も、捕まえられたなら、|新物質《ニューパワー》目当てに解剖されるのだろう。
灯りを消す者に頼らねば、灯りを得られない現状というのは、嘆かわしいほどに皮肉だ。まあ、不法投棄をはたらくような無法者には似合いの姿かもしれないが。
そうして歩きながら、打ち捨てられたごみを見ていると、中にはまだ普通に稼働するラジカセなんかもあって、恢麓はますます呆れるのだった。
冷蔵庫、茶箪笥、洗濯機……そうそうたる面々に、呆れの声を上げることすら億劫になってきたところで、オイルランプの炎がふっと消える。
慌てることなく懐中電灯に持ち替えたところで、ふと声が聞こえた。こんな寂れた場所には不似合いな談笑。
「誰かいるんですか? って……」
スノーノイズを流すテレビを囲む√能力者が二人。電源もないのにテレビが点くなど、怪異の仕業に他ならないだろうに、ドラゴンプロトコルの幼女が「そのダイレクト闇マーケティングっぷりを讃えて+100億闇ポイント加算してやろう!」などと声高に告げている。100億闇ポイントってなんだ。
「お、本当に人がたくさん来ているみたいだな。アンタも混ざって混ざって。コイツ、案外話すと楽しいぜ?」
「……その缶は?」
「わっかりにくい裏手の自販機で買った。教えてもらわんとわからんな」
いやぁ、お茶とか全然期待してなかったんだが、話してみるもんだな、と缶の緑茶を煽るのは千影。コミュ力を駆使してちゃっかり耳寄り情報をゲットしたらしい。
ドラゴンプロトコルの幼女改め、夜嵐もお茶を飲んでいた。
「おお、お主も疑問があるなら話してみるとよいぞ! こやつ、なかなかお喋り好きらしい」
「へえ、そうなんですか」
ものすごい順応力である。
お喋り好きというのなら、もらえる情報はもらっておこう、と恢麓も遠慮なく加わる。
「では——何故、灯りを吸うんです?」
すん、と空気が緊張を帯びる。
「灯りを集めて、喚びたい誰かでもいるんですか?」
「……ハハハッ」
テレビを依り代にするナニカは笑った。
「何故、何故か。うんうん、気になるよな? でも、特に理由なんてないんだ。びっくりする人間の様子を見るのは面白いし、灯りを求めてさまよう様子も愉快だ。影や闇が濃くなるのもあるけど、やっぱり楽しいに越したことはないじゃん?」
「へえ。まあ、なんでもいいんですけど」
「自分で聞いたくせに、淡白だなぁ」
「のうのう、妾からも良いか?」
夜嵐がうきうきと二丁サブマシンガンを取り出す。
「……で、光瞬く|廃棄物《テレビ》の|画面《ヴィジョン》、それが一つも無くなったら如何なるんじゃ? 尻尾を巻いて逃げ出すのか? それとも居心地悪そうな顔をしながら情けなくも姿を現すのか?」
くつくつと声を震わせながら、夜嵐は掃射を開始する。
彼女が扱う「闇」そのもの……ブラックホールが乱射され、周辺の粗大ごみたちが闇に呑まれていく。
確かに、今回は不法投棄により、怪異に都合のいい状況が生まれた。ごみ捨てのルールは守るべきだし、この粗大ごみたちは片付けた方がいいと誰もが思っていた。
とはいえ、夜嵐の【|超暗黒式乱射乱射大乱射《ノベツマクナシトリガーハッピー》!】により無へと帰すその有り様に、これはこれで正しいのだろうか、という疑問は、どうしても浮かんだ。まあ、爽快ではあるが。
「そも、こんなゴミの山を何時までも放置しとくから怪異が好き勝手するんじゃろ。宛ら屍に蛆が湧くが如くよ」
掃射を終えた夜嵐が、銃を仕舞いながら語る。辺りはひゅうと吹いた風が吹き渡るほどに、すっきりとしていた。粗大ごみがここにあったなど、この場に居合わせた者しかわからないだろう。
「あっはははは! 剛毅なお嬢さんだなぁ」
「お嬢さん言うな」
ただ一つ。
テレビが、残っていた。
夜嵐が見逃したのか、怪異が何らかの手法で掃射の間だけ逃れていたのか、テレビがそこに残っている原因は定かでない。が、ただ一つ確かなのは、そのテレビこそが、今回の首魁であるということ。
「ふむ、尻尾巻いて逃げることはせんようじゃな」
「逃げる理由がないもん。そっちこそいいのか? これから戦いになる。尻尾巻いて逃げたってかまわないんだぜ?」
「逃げる?」
わかりやすい怪異からの挑発に、千影が肩を竦める。口元には不敵な笑み。
「ガラクタの旧式テレビ相手にびびるって? 笑わせるならもっと上手くやれよ」
「ここからは|影《おれ》の時間だ。なんだ? √能力者。お前の欠落は恐れだったりするのか?」
「影がどーした。こちとら闇じゃぞ?」
傲岸不遜を張り合わんとばかりに、夜嵐が被せ気味に連ねた。
絶対的な己への信頼。その点はこの怪異と競り合っており、勝りすらするであろう夜嵐が告げる。
「闇は影すら呑むものじゃ。己より矮小なものを畏れも恐れもするわけなかろう。
戦い? 上等じゃ。お主こそ、尻尾巻いて逃げる機を逃したこと、とくと後悔するが良いわ」
「そーそ」
千影がすらりと無銘刀を構える。鞘に入れたままだが、切っ先はぶれることなく、テレビ画面に向けられている。
「でかい口叩いたんだ。途中で逃げたくなっても、逃がしてやんねーよ」
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第2章 集団戦 『ヴィジョン・ストーカー』

POW
影の雨
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【影の雨】で300回攻撃する。
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【影の雨】で300回攻撃する。
SPD
影の接続
半径レベルm内の味方全員に【影】を接続する。接続された味方は、切断されるまで命中率と反応速度が1.5倍になる。
半径レベルm内の味方全員に【影】を接続する。接続された味方は、切断されるまで命中率と反応速度が1.5倍になる。
WIZ
影の記憶
知られざる【影の記憶】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
知られざる【影の記憶】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
●繋がっているんだよ。
くつくつ、とテレビの向こうで青年の声が笑った。スノーノイズと入り雑じったそれは、女性の声にも聞こえた。子どものようにも思えた。老人の嗄れた声の気もする。
誰ものようで、誰でもない。不確かで定まりのないそれは、人が漠然と「怖い」と思う概念であった。
それは様々な概念としての呼び名があったが、最も普遍で、最もよく使われるのが「影」という名だった。
「そうだなぁ、√能力者。俺を捕まえたきゃ、まずは『影』たちを倒さないと」
影? と訝しげな声が漂う。テレビの向こうから話しかけてきているのは、おそらくセルマの言っていた今回の最終目的「ヴィジョン・シャドウ」だろう。影の名を冠するのは、彼自身のはずだが……
などという考えは、|画面《ヴィジョン》の向こうからでも、見透かせるものなのだろうか。怪異の声音に、愉楽が滲む。
「影がどうして普遍的に恐れられるか知ってるか?」
日が傾く。怪異が説明するまでもなく、影はそこに存在し、どこにでも存在する。
つきまとう。
「足元をご覧よ。——ほうら、影はそこから伸びているのさ。どんなに逃れたくても、影は追いかけてくる。離れられない。遠くならないし、遠ざけられない。
避けられない不安を怖がるのは、無理もないことさ」
青年が、人の姿であったなら、姿を晒していたのなら、剽軽に肩を竦めたかもしれない。声色だけで、そんな光景がありありと浮かべられるほど、青年の喜怒哀楽は明瞭だった。
ぬう、と伸びた影から、更なる影が伸び、腕を伸ばす。その腕は、何を求めるのだろう。
灯火か、命か、影としての自分の主か。
まとわりつき、離れない。つきまとい、追いかけ、絡め取り、どうかする。それこそが、影の本領だから。
「捕まえてご覧よ、俺のこと。ただし、|彼ら《かげ》に呑まれないように、気をつけてね」
隠れてはいるけど、逃げはしないさ。テレビに勝手に手足は生えない。
「……なんてね」
冗談めかすような声。現れた「ヴィジョン・ストーカー」の中には、テレビから腕を生やした者もいる。
けれど、まあ、そう。
余裕綽々の画面の奥の影の主には悪いが、√能力者の存在は、世界にとって「影」である。
能力を得たことによる栄華も、√によっては存在するだろうが、どんな立場にあろうと、能力を得てしまった彼らは欠落者。欠落の形は多種多様あれど、それは不幸という「影」の一種だ。
影が影に呑まれることなどない。むしろ私たちの方が、影を「よく知っている」
そうでしょう? ね。

共闘、アドリブ〇
そっちが『影』ならこちらも同じこと。さて、お仕事といきやすかね
向こうがこっちに影を接続しようとするのであれば、鋼糸・防を発動し攻撃、その後は影に紛れやすよ。
あんたも影らしいけど、こっちも影は領域みたいなもんだ。どちらが強いか、やりあってみやしょうか

※連携&アドリブ歓迎
弱い獣は良く吠えるけどキミも似た様な性分なのかな?
怪異は素性が未知だからこそ恐れを振り撒けるのであって、大地を駆ける|狼神《ホロケウカムイ》に影を恐れろと言うのは笑止。
勘だけど、どうせキミは紛い物の記憶から引き出し圧倒的な速度でボクを翻弄するつもりだったんじゃないかな。でもね、考えが甘いんだよ。緩急を付けた歩法で最高速度だけでは捉え切れない様に幻惑し、手数の多さはその影手を見切って返り討ちにして行こう。
何でボクを捉えられないかって?
【クンネカムイ流刀舞術・ホロケウ・アミヒ】……√エデンの地を守護する狼の爪たるこの二刀流に踊らされてる事にキミ達が気付かなかったからだよ。

推理ショーも嫌いじゃないんだが。流石に|チート《√能力》使ってもシャーロック・ホームズには成れなかったか。本物の探偵なら『犯人はお前だ』って出来たのかも知れねぇけど。
まぁ、向き不向きってのがある、ってトコだな。
分かり易いのは歓迎だ。
|コイツ《無銘刀》を振れば終わるってんなら。本職の探偵より今だけはイイ仕事をして見せるぜ。
『闇纏い』にて集団に接続された影を【切断】する。最初は【居合】、その後は抜き身のままで先制して斬る。アンタが影を操るように俺は切断するのが異能でね。
仲良くやれそうにないのは実に残念だ。
闇を纏った俺にも影は付いて来るのか?|俺の日頃の行いが発揮される《影が認識できない》ならざまぁみやがれと闇の中でほくそ笑んでやろうと思う。無理そうなら……余裕ぶっこいてねぇで影から逃げながら、刀で叩き斬っていくぜ。
頃合いを見計らって納刀。【居合】で『燕返し』。どーよ?雑魚を相手に格好付け過ぎか?

面白い位口の回る輩よのう
じゃが、影とは光なくば姿を現す事すらできぬ物。謂わば|光《それ》の眷属よ
闇の邪龍たる妾には、お主の影談義、とんと刺さらぬ
むしろ妾にとって厄介なのはあの黄昏時の陽の光じゃなー
陰鬱で、猥雑で、然して見たくも無いこの世界の暗部を、頼んでも無いのに隅から隅まで見せびらかして来よる
全てを白日の下に晒け出すのが何より公平で、公正だと言わんばかりに
なので全てを覆い隠す
ライドスライム黒田を盾に障害物に特効兵器にこき使いつつ、引き続き|乱射《ぶっぱ》継続じゃ
|闇《わらわ》なら影の|接続《リンク》も容易く千切れよう
更に仲間を夜霧で包み…後は寄る辺を失った影どもを適当に摘んでいくのみじゃなー
●そう生きている者たち
「弱い獣は良く吠えるけどキミも似た様な性分なのかな?」
「ほんにの。面白い位口の回る輩よのう」
土方・ユル(ホロケウカムイ・h00104)と無明・夜嵐(99歳児・h02147)が、ヴィジョン・シャドウが好き勝手語る様に冷えきった声をこぼす。
やれやれ感が滲むのは、あからさまに侮られている……というより、この怪異、自分が有利な時間帯だからと傲っているのが垣間見えるからだろう。
有利も何も、とユルが目をすがめる。
「怪異は素性が未知だからこそ恐れを振り撒けるのであって、大地を駆ける|狼神《ホロケウカムイ》に影を恐れろと言うのは笑止」
「なら」
別の声がした。ユルと夜嵐の前に佇むヴィジョン・ストーカーのうち、どれかが喋ったのだろう。テレビから生えた腕、伸びる影が、周辺のヴィジョン・ストーカーたちを一つに繋ぐ。
夜嵐が首を傾げ、ヴィジョン・ストーカーたちを指差す。正確には、彼らを繋ぐ影を。
「影とは光なくば姿を現す事すらできぬ物。謂わば|光《それ》の眷属よ。他の何かに依ってしか存在できぬくせに、よく偉そうな口を叩けたもんじゃ。闇の邪龍たる妾には、お主の影談義、とんと刺さらぬ」
「それは光も同じこと。影が存在しなければ、光を光と証明するものがない」
「戯けよのう。闇があるじゃろう」
言うなり、夜嵐は自身の分体であるライドスライムの【黒田】を取り出し、盾として構えながら、突撃を開始した。同時、ユルも動き出す。
ヴィジョン・ストーカーたちは【影の接続】を発動し、速度を上げている。ならばこちらもスピードで勝負するまで。ユルはアイヌの神霊「ホロケウカムイ」を纏い、通常の三倍の速度で駆け抜ける。
「ふはは! 竜漿の大盤振る舞いじゃ!!」
黒田を用いてヴィジョン・ストーカーの腕による攻撃をいなしつつ、サブマシンガンを|乱射《ぶっぱ》する夜嵐。
その二人の派手な立ち回りとは対照的に、ぬうっと影の合間を縫って、佇む男が一人。
「そっちが『影』ならこちらも同じこと。さて、お仕事といきやすかね」
どこか涼しげにそう紡いだのは護導・桜騎(気ままに生きる者・h00327)。持ち前の隠密を生かし、身を潜め、攻撃の機を伺っている。
前に出る彼女らとは、あまりにも対照的な立ち回り。けれど、何かの前に姿を眩ましてしまうようなその在り方は「影」そのものだった。
そんな桜騎めがけ、ヴィジョン・ストーカーの一体が影色で形成された腕を伸ばす。まさしく「魔の手」と称するに相応しいおぞましさ。けれど、桜騎の表情を揺らすには至らない。
「、……?」
ヴィジョン・ストーカーは声を上げる間もなく、切り裂かれていた。ある者は千々に、ある者は真っ二つに。
【鋼糸・防】による隠密性の高いカウンター。鋼の糸は容易く影を切り裂いた。
「あんたも影らしいけど、こっちも影は領域みたいなもんだ。どちらが強いか、やりあってみやしょうか。……といっても、形がないことが影の強みと桜騎は思いやすが」
そう残しながら、桜騎は闇を纏い、辺りに溶けていく。
入れ替わるように、無銘刀を手にした久瀬・千影(退魔士・h04810)が姿を現す。少し苦笑気味に頬を掻いていた。
「推理ショーも嫌いじゃないんだが。流石に|チート《√能力》使ってもシャーロック・ホームズには成れなかったか」
どうやら、先の調査で【黄泉還り】を使わざるを得なかったことを省みているらしい。名探偵のように、原因や真相をつまびらかにして、「犯人はお前だ」と怪異の存在を言い当てることができれば、確かに格好はついただろう。が、少しの物惜しさは覚えるものの、向き不向きがあるのは仕方ない。
それに、きちんと別方向から怪異にアクセスすることに成功した。これはこれでなかなか愉快な展開になったと言える。
「刀を振りゃあいいんなら、探偵よりいい仕事できるからな。わかりやすいに越したことはない」
飄々とそんなことを宣う千影の余裕をつくように、影が伸びる。
速度のある影。だが、それはそれ以上の速度で斬られた。
「お前らの技が影を【接続】するものであるように、俺は【切断】に特化していてね」
また、影が襲う。千影が切る。影が手を伸ばす。一刀に伏す。三つ影が伸びてくるのなら、三つ一斉に斬り伏せるまで。
その繰り返し。懲りることなく何度やっても、影たちは千影を捕らえられない。
「繋がっていることが強みのお前らと、【切断】が持ち味の俺とでは、相性が最悪みたいだな。話した感じはなかなか悪くなかったが、やっぱ相容れることはできないってことか」
攻撃の嵐がやむと、そんな言葉を残して、千影の姿が消える。捕らえようと別の個体が襲来したが——
「遅い」
ユルが着地の勢いに任せ、和泉守兼定と葵紋越前康継の二刀を振るう。続く夜嵐が【|超暗黒式乱射乱射大乱射《ノベツマクナシトリガーハッピー》!】で闇の弾丸を乱射し、影たちをブラックホールで攻撃、味方には闇の夜霧による認識阻害を与え、隠密の効果をもたらしていた。
速度に加え、隠密が発揮されれば、ユルは竜が翼を得たる如し。【影の記憶】を用いてどんなに速度を上げようと、ユルを捉えることはできない。
「紛い物の記憶頼りでは、ボクに勝てないよ」
ユルは無数にある影たちをひとまとめにして切る。無軌道に思えたユルの動きだったが、それはヴィジョン・ストーカーたちの勝手な思い込み。ユルはこれを読んで、誘導していたのだ。
とはいえ、これほど上手くいったのは、夜嵐の乱射による夜霧の隠密のおかげだ。不自然になってしまう部分を、上手い具合に暈してくれたのだろう。
「むしろ妾にとって厄介なのはあの黄昏時の陽の光じゃなー」
傾き、目に刺さる日射し。それを受け、鬱陶しげに夜嵐は紡いだ。
「陰鬱で、猥雑で、然して見たくも無いこの世界の暗部を、頼んでも無いのに隅から隅まで見せびらかして来よる。全てを白日の下に晒け出すのが何より公平で、公正だと言わんばかりに」
気に食わんことじゃ、と肩を竦める夜嵐。襲い来る影の腕を振り払おうと黒田を構えたが、その前にブラックホール弾で影は吹き飛ぶ。うち一つは、糸によって裁断されていた。
桜騎がいることに気づかず、踏み入ってしまったらしい。元々の桜騎の隠密能力の高さに、夜嵐の能力が相乗効果をもたらした。誰も気取ることはできない。
「頼んどらんが、助かったぞ」
「いえいえ、お互い様でございやす」
軽口を叩く二人。そんな余裕があるほどに、ヴィジョン・ストーカーの数は目減りしていた。
【闇纏い】で迎撃していた千影も、終わりが近いことを察し、ヴィジョン・ストーカーたちの前に躍り出ると、納刀する。
得物を仕舞ったのを好機と捉えたのか、千影に襲いかかろうとするヴィジョン・ストーカーたち。だが、一部は糸でずたずたにされ、闇の弾丸により蜂の巣にされる。
千影が居合を放ち【燕返し】。不運にも生き延びた影は、ユルの【クンネカムイ流刀舞術・ホロケウ・アミヒ】に成す術なく討ち取られる。
「な、ぜ……」
ヴィジョン・ストーカーは【影の記憶】により圧倒的な速度を得ていた。が、それはユルや千影の前では、あまりにも無意味。
腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる能力で、確かに最も必要なのは【速度】だった。だが、焼け石に水でしかない。
「何でボクを捉えられないかって? 【クンネカムイ流刀舞術・ホロケウ・アミヒ】……√EDENの地を守護する狼の爪たるこの二刀流に踊らされてる事にキミ達が気付かなかったからだよ」
涼やかな眼差しでユルが見下ろす。
千影は残党を全て【燕返し】で切り払うと、ひょい、と肩を竦めた。
「|俺の日頃の行いが発揮された《影が認識できなかった》だけだろ。ざまぁみやがれ」
その程度で「自分最強」とか思っているのは、片腹痛い通り越して不憫ですらあるわ、などと吐き捨てられるほどに。
ヴィジョン・ストーカーたちとの戦いは、√能力者たちの圧勝に終わった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第3章 ボス戦 『ヴィジョン・シャドウ』

POW
放送休止
【テレビから衝撃】を放ち、半径レベルm内の指定した全対象にのみ、最大で震度7相当の震動を与え続ける(生物、非生物問わず/震度は対象ごとに変更可能)。
【テレビから衝撃】を放ち、半径レベルm内の指定した全対象にのみ、最大で震度7相当の震動を与え続ける(生物、非生物問わず/震度は対象ごとに変更可能)。
SPD
放送禁止
X基の【影の波動が出るテレビ】を召喚し一斉発射する。命中率と機動力がX分の1になるが、対象1体にXの3倍ダメージを与える。
X基の【影の波動が出るテレビ】を召喚し一斉発射する。命中率と機動力がX分の1になるが、対象1体にXの3倍ダメージを与える。
WIZ
放送
【テレビドラマの内容】を語ると、自身から半径レベルm内が、語りの内容を反映した【撮影スタジオ】に変わる。この中では自身が物語の主人公となり、攻撃は射程が届く限り全て必中となる。
【テレビドラマの内容】を語ると、自身から半径レベルm内が、語りの内容を反映した【撮影スタジオ】に変わる。この中では自身が物語の主人公となり、攻撃は射程が届く限り全て必中となる。
●言葉を弄する愉快犯
「あっははは! 強いなあ、あんたら」
自らの手駒をあっさり蹴散らされたことに、不快や不満を示すことなく、テレビから声を出す怪異は笑った。
からからと、朗らかに。
けらけらと、愉しげに。
「強いだけじゃなく、よく舌も回る。お喋りが好きなようで何よりだ。もう日が暮れる。見えるか? ほら、向こうの空に、ぼんやり蒼白い月が見えるだろう? あれの輪郭が確かになったら、俺の時間は終わりだなぁ。
あ、でもテレビはこれからゴールデンタイムなんだっけ? アナログテレビ放送はなくなったけど、相変わらず、テレビ番組って面白いよなぁ。文化の変遷がこれだけ顕著な娯楽もないぜ」
ジジッとスノーノイズが音を立てて揺れると、ブラウン管にはいつの間にか、一人の青年が腰掛けていた。『ヴィジョン・シャドウ』。愉しげで、感情表現豊かな声色だが、その表情はモザイクがかかったように判然とせず、読み取ることができない。
影よりも濃い夜の闇が迫る。
「最後まで楽しもうぜ」
モザイクの向こうに、にやりと吊り上がる口角が見えた、気がした。

(黒田を踏み台にしつつ裏手の自販機の高い位置にあるボタンをポチっと)
おお、これじゃこれじゃ
缶のお汁粉
先程迄は乱戦で買う暇なかったからのー
うむ。甘い!
…さて、心残りも消えたので、無慈悲にも黒田に|孤軍奮闘《残業》を言い渡し、妾はそこらの小路から|√ドラゴンファンタジー《じもと》へ帰る
あーあ、真正面から戦ってやっても良かったんじゃがのー
でも尻尾巻いて逃げたって構わないって言われたからのー
舌禍よのう
どれほど主人公を気取ろうが、テレビ番組なんぞ|√《チャンネル》を変えられてしまえば絵面も語りも何の意味も為さなくなると云うに
だからほれ、無意味と化したお主の|技量《レベル》
妾が悉く奪い尽くしておいてやろう
●気儘な闇よりさようなら
「んー、黒田、もう少し体を持ち上げい。……よし!」
無明・夜嵐(99歳児・h02147)は自販機の前にいた。ライドスライムの黒田を踏み台に、最上段にあるドリンクのボタンを押す。
ぴっと押下されたボタンに呼応し、がたごとと小うるさい物音を立てて、自販機が缶を落とした。夜嵐は黒田から下り、商品を確認する。
小豆色の缶に味のある書体で「おしるこ」とある。
「おお、これじゃこれじゃ。先程は乱戦で飲む暇がなかったからのう」
いや、あの、夜嵐さん? 現在も首魁である「ヴィジョン・シャドウ」との乱戦真っ最中ですが? というツッコミは残念ながら存在しなかった。そんなわけで、この自由気ままな闇の女王を止める者はない。
かしゅ、とプルタブを引き揚げ、このとてもわかりにくい配置の自販機を見つけた折より待ち望んでいた甘味を口に含む。
口内を満たす甘さ。小豆独特のコクが存在感を存分に発揮し、自己主張が激しいながらも、奥深い味わいをもたらしていく。
「うん、甘い!」
ご満悦の様子。
「では、心残りもなくなったので帰るか! 黒田は|孤軍奮闘《残業》じゃよ?」
黒田が無音で衝撃を受け、硬直する。
それもそうだろう。夜嵐は今なんと言ったか。「帰る」?
指摘する者がいない疑問を置き去りに、夜嵐は歩いて去っていく。|√ドラゴンファンタジー《じもと》へ戻るための√が夜嵐には見えていた。
「あーあ、真正面から戦ってやっても良かったんじゃがのー。でも尻尾巻いて逃げたって構わないって言われたからのー」
言った。確かに言っていた。ヴィジョン・シャドウが。けれど、それは普通、売り言葉に買い言葉というやつで、真に受けるべきものではない。
しかし、夜嵐は√汎神解剖機関を省みることなく、故郷へと去った。
「——舌禍よのう」
夜嵐は一人ごちる。
「どれほど主人公を気取ろうが、テレビ番組なんぞ|√《チャンネル》を変えられてしまえば絵面も語りも何の意味も為さなくなると云うに」
すう、と金の目が細められる。ここにはいないヴィジョン・シャドウを嗤うように。
「だからほれ、無意味と化したお主の|技量《レベル》、妾が悉く奪い尽くしておいてやろう」
別√に行ってしまったら、攻撃することができない? そんなこと、誰が決めたのか。
あり得ないはあり得ない。夜嵐は置き土産の代わりに、【|無量暗黒流星群《テンニマタタキヒトツナク》!】による暗黒弾をばらまく。
「帰っていいというから、ほれ……姿形のない敵に攻撃されておるぞ? まるで怪異のような敵じゃのう」
などと笑う夜嵐の姿を認められぬまま、ヴィジョン・シャドウは弱体化した。
🔵🔵🔴 成功

共闘、アドリブ〇
「そちらさんも随分とお口が達者なようで?」
きなすったか、と思いつつ、こいつは簡単には行かなそうだと目を細める。
手数を増やしやしょうか。
分身により自身を増やして一斉に攻撃を。いい的?向こうも命中率が落ちるんなら何人かはいけるでしょうよ。
分身に紛れて桜騎自身も行き、鋼糸で攻撃。向こうさんから本体へ攻撃が来るようなら、幻影と受け流しでなんとかしやしょうかね。
影を簡単に捕まえられると思ったら、大間違いですよ
●影立ちて、明朗なるは
テレビに腰掛ける青年の姿に、護導・桜騎(気ままに生きる者・h00327)は静かに、来なすったか、と心中で呟いた。
「そちらさんも随分とお口が達者なようで?」
軽口を返しつつ、様子を伺う。現れたヴィジョン・シャドウは、飄々とした様子の青年に見えたが、モザイクがかかったように認識のできない顔、ヴィジョン・ストーカーとは比べ物にならない存在感に、簡単にはやられてくれないだろうことを察する。
が、そこで不意に、ヴィジョン・シャドウの足元の影たちが、揺らめいて薄まる。
「あっははは!」
可笑しそうに、ヴィジョン・シャドウは額に手を当て、天を仰ぐようにして笑った。
何事かと思って桜騎が観察すると、闇を纏った弾丸が、ヴィジョン・シャドウに攻撃していた。暗黒弾と形容するに相応しいそれは、共闘していた者の一人のものとわかった。
「本気で尻尾巻いて逃げるのも驚きだけど、遠隔攻撃! 本当面白いね、きみらさあ」
逃げた者が存在するという事実に、まあそういう戦い方もありやしょうなあ、くらいの認識で済ませる桜騎。そもそも別√への遠隔攻撃を主とする「霊能力者」という存在があるのだ。今更驚くべきことではない。
攻撃を食らって笑い続けるのは余裕故か、何なのか、不明なままであるが、ただの銃弾ということはないだろう。少しやりやすくなったかもしれない、と桜騎が軽く顎を引く。
タイミングを見計らったかのように、桜騎とヴィジョン・シャドウの√能力が同時展開された。
召喚される影の分身とテレビ。動き出すのは、数以外の制限がない桜騎の【|全て自分ですよ《ジブンジシン》】の影の方が速かった。
【放送禁止】により召喚されたテレビたちが影の波動を召喚するより速く、テレビたちを破壊する。直前に遠隔で付与された攻撃の影響もあるのか、√能力による機動と命中の減少以上に、動きが鈍く、√能力はほぼ不発に終わる。
召喚された桜騎の分身も35体とそれなりの人数がいたことにより、ヴィジョン・シャドウ本体のみが取り残される。
「一人になってしまいやしたねえ」
「なら、このあと始まるドラマの話でもしよう。確か学園ものだったかな?」
「おっと、失敬」
桜騎は鋼糸を放ち、ヴィジョン・シャドウの喉を切り裂く。【放送】の発動を阻止され、ヴィジョン・シャドウの口元から、笑みが消える。
手が滑った、とでも言いたげな桜騎の軽い謝罪。だが、容赦なく鋼糸は、ヴィジョン・シャドウを切り刻んでいく。
「あまりテレビは見ないもんでね」
すんませんなあ、とのんびりした声。
その足元に、ヴィジョン・シャドウが崩れ落ちていた。
🔵🔵🔵 大成功

※連携&アドリブ歓迎
テレビはタイパの良い動画やSNSに取って代わられる。
オールドメディアなんて言われたりもするけどボクは構わないと思うんだ。
時代の流れに乗れなくても『今』を輝ける何かがあれば。
さぁ、決戦の時間だよ。
ノイズ交じりの放送には此方も【|霊震《サイコクエイク》】で応戦だよ。
どちらがより相手の心を震わせられるか、震えに耐えられるか真っ向勝負かな。
震度1から順に7まで上げて行くとしよう。
痺れを切らして衝撃波を放って来るだろうけど其処は野生の勘で見切って躱すとしようか。
極限まで震えたら愛刀の切っ先を敵に向けて告げるよ。
此れより天然理心流奥義を見せてあげよう。でもそれにはいつも羽織ってるカパラミプは邪魔そうかな?(上着を脱ぎ)
勿論、必殺の剛剣が恐ろしければ、キミが先手を取ってもボクは一向に構わないよ。
多分、今までで一番の猛攻になるだろうね。
其れを下段の構えから上へと弾き【天然理心流・北颪龍飛剣】を馳走しようか。
キミは影の存在だったかもしれないけどその足掻きを最後まで楽しませて貰ったよ。

喋れるのはアンタが存外、気のイイ奴だからさ。怪異なんざ大体の連中は何を考えてるのか分からねぇ。それどころか、こっちの言葉が伝わってるのかどうかすら怪しいモンだ。それに比べりゃ、アンタはまだマシな方ってだけさ。何考えてるのかはイマイチ良く分からねぇけど。
撮影スタジオに早変わり、なんて。こんな辺鄙な場所でイタズラするより、テレビ局に雇われて、撮影班の小道具役にでもなった方が良かったんじゃねぇか?
…必中は流石に条件が悪過ぎる。——ってなワケで。
抜き身の無銘刀で撮影スタジオに向けて五月雨。300回の【切断】による撮影スタジオの破壊。
あっちが主人公ならこっちは宛ら悪役か?某仮面系の変身物特撮なら、世界が壊れるってんで、最終回一歩手前だぜ。どうする、|主人公《ヒーロー》さんよ?
間合いまで踏み込んで。無銘刀を納刀、【居合】の居合術で【切断】狙い。
ハッ、どうよ?お望み通り、最後まで楽しめたかい?
●影なるあなたへ
「テレビはタイパの良い動画やSNSに取って代わられる。オールドメディアなんて言われたりもするけどボクは構わないと思うんだ」
腰に佩いた愛刀に手を添えながら、土方・ユル(ホロケウカムイ・h00104)は呟いた。先祖が最後まで手放さなかったという「和泉守兼定」に語りかけているようにも見えた。
ヴィジョン・シャドウはそれに耳を傾けている。モザイクがかった顔の中、彼の正確な眼差しは伺えないが、ユルの言葉を妨げることなく、聞いているようだった。
依り代としているのが、アナログテレビで、√能力もテレビ由来のものが多いからか、愛着があるのかもしれない。
「わざわざテレビを持たなくても、ネットが広く普及して、たくさんのサブスクリプションがあり、それはパソコンやスマートフォンがあれば、じゅうぶんに利用できる。欲しい機能があれば、お金を払えばいいしね。テレビ放送と変わらない、それ以上の楽しみ方ができるから、テレビ離れが進んでいるって話は、当たり前に溢れている話だ。少し寂しさはあるよ。
テレビは、時代に『置いて行かれた』媒体になるんだろうね。でも、時代の流れに乗れなくても『今』を輝ける何かがあれば。……ボクはその『何か』を感じている。信じている。だから、キミの趣味は悪くないと思うよ」
「だよなぁ。俺もそう思うよ」
ユルとは反対方向から、青年が歩み寄ってくる。鞘に納めた愛刀を肩に置き、少し飄々とした佇まいの久瀬・千影(退魔士・h04810)は、微笑みさえ湛えて、ヴィジョン・シャドウに話しかける。
「こんなに楽しくお喋りできる怪異なんて初めてだよ。怪異なんざ大体の連中は何を考えてるのか分からねぇ。それどころか、こっちの言葉が伝わってるのかどうかすら怪しいモンだ。それに比べりゃ、アンタはまだマシな方ってだけさ。何考えてるのかはイマイチ良く分からねぇけど」
肩を竦め、微苦笑を交えた笑みを閃かせる。千影の顔には、少し惜しむような表情があった。
「思ったより、アンタは気がいいヤツだったからさ、もっと色々話してみたかったぜ」
「そうかい。だが、番組はこれから始まるんだぜ?」
ヴィジョン・シャドウがとあるドラマの最終回の放送予告を語り始める。それに伴い、辺りの景色が【撮影スタジオ】へと変貌していく。
√能力【放送】。このスタジオの中では、ヴィジョン・シャドウが主人公となる。最終回だろうが、何だろうが、主人公は最強でなくてはならない。主人公は勝たなくてはならない——それゆえの、必中効果。
【放送禁止】により、無数のテレビが召喚される。相反するような能力名だが、【放送】の必中効果が【放送禁止】の命中低下を補うため、最高の相性を誇る。
必中ならば、いくつ召喚しようと命中は100%のまま。機動も問題にならないだろう、と夥しい数を召喚したのだろう。
「——なんてな」
剣閃。
テレビも、撮影スタジオも、千々に刻まれる。その中心には、千影の姿。いつの間に抜かれたのか、その手の中には抜き身の無銘刀が握られている。
300回に及ぶ【切断】による攻撃。撮影スタジオが綻び始めていた。
五月雨のごとく乱れ飛ぶ斬撃は千影の√能力だ。
「請け負ったからには、ちゃんと始末はつけるさ」
「同感だね」
追い討ちをかけるように、ユルが【|霊震《サイコクエイク》】を発動させる。
震度1。
「ははは、本当にキミら、面白いや!」
「まだ余裕そうだね」
じゃあ、次に行くね、とユルは震度を上げる。
震度2。
【|霊震《サイコクエイク》】は対象の指定などの細かな調整が効くからこそ、許されている能力。
「|警視庁異能捜査官《カミガリ》か。厄介だなぁ、アンタらは」
追加でテレビが召喚される。が、機動の鈍さがあるため、千影の剣戟に反応できず、切り裂かれる。
震度3。
「そっちがそうなら」
テレビから衝撃波が放たれる。ユルは野生の勘でかわし、千影も見切りで反応する。
スタジオが綻びを見せているからか、必中効果が効いていない様子だ。
「まだ全開じゃないんだけどな」
震度4。
「そうかい」
ヴィジョン・シャドウが立ち上がり、ユルに接近する。まだ人が立っていられる震度。この期を逃したら立てないと思ったのだろう。
だが、苦し紛れの突撃は、千影の介入によって失敗に終わる。
「どうした、|主人公《ヒーロー》? 余裕がなさそうだな」
「はっ。|悪役《ヴィラン》でも気取りたくなったか?」
ヴィジョン・シャドウの腕を峰で受ける千影。ヴィジョン・シャドウの口も減らないが、千影も減らず口を叩いて返す。
「正直、どっちでもいいんだよな」
震度5強。
「ぐ」
ヴィジョン・シャドウが態勢を崩す。立っているのが難しくなる震度だ。
だが、懲りずに【放送休止】を放とうとするあたり、しぶといと言える。
千影はかわすためにヴィジョン・シャドウから離れた。
震度6強。
「いやぁ、便利だな、それ。俺たち全然揺れてねえのに」
「そういう能力だからね」
震度7。
震度8以降が存在しないのは、どのように表記しても、震度7と同じような文面にしかならないからだという。建物が簡単に倒壊する最大震度。怪異ながら、人間の形を取っているヴィジョン・シャドウも地に膝をついている。
ユルはすらりと刀を抜いた。和泉守兼定の切っ先が、真っ直ぐとヴィジョン・シャドウに向けられる。
ここまでは、準備運動にすぎない。
「此れより天然理心流奥義を見せてあげよう。でもそれにはいつも羽織ってるカパラミプは邪魔そうかな?」
朗々と宣告し、上着を脱ぐユル。ちょっと演出じみたわざとらしさがある。
「勿論、必殺の剛剣が恐ろしければ、キミが先手を取ってもボクは一向に構わないよ」
「では、お言葉に甘え、て!」
【|霊震《サイコクエイク》】による震動が収まった。罠や誘導かもしれない可能性はよぎったことだろうが、追い詰められた状況からの起死回生。|主人公《ヴィジョン・シャドウ》はそれを狙わないわけにはいかない。
ただ、√能力を細部まで発動させる余裕がなかったのか、召喚されたテレビが衝撃波を放つことはない。ただ、アナログテレビらしい質量により、敵を押し潰そうとユルに迫る。
キン、と澄んだ音を立て、テレビが弾かれた。ユルは微動だにすることなく、佇んでいた。
背後からも、気配がする。
闇に紛れ、影に紛れ、悪役を気取ったからか、悪っぽく背後を取る千影。ユルの攻撃が【正面から】でなければならないことを察した立ち回り。
「配役は完璧だ。なあ、楽しかったか?」
千影が納刀していたところから、銀閃を走らせ、口にする。
「【|天然理心流《テンネンリシンリュウ》——】」
テレビを弾いた態勢から、淀みなく必殺剣の構えへと移行するユル。
アクションシーンの終焉を、華々しく飾る技名の叫びが、七色のノイズごと、|影なる者《ヴィジョン・シャドウ》の存在を切り裂く。
「【|北颪龍飛剣《キタオロシリュウヒケン》】!」
叫ばないものの、千影も合わせて、【居合術】を放つ。
「ぐ、ぁ、あぁ……!」
ヴィジョン・シャドウが崩れる。これまでの戦いによる累積ダメージ。そして、二人による畳み掛け。耐えられなかったのだろう。
既にぼろぼろだったスタジオも崩壊していく。
見送る眼差しを向け、ユルと千影が口にする。
「キミは影の存在だったかもしれないけどその足掻きを最後まで楽しませて貰ったよ」
「どうよ? お望み通り、最後まで楽しめたかい? 俺は楽しかったぜ」
それは、餞別の色を宿していたが——答えるべきヴィジョン・シャドウの肉体は既に消えていた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功