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紅葉と星空のハロウィン

#√ドラゴンファンタジー #ノベル #ハロウィン2025

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 この世界の夜は長く、星の煌めきがよく見える。秋の星座が天空より照らすのは、秋夜の街ロトンヌ。涼やかな風が吹き抜けるここは、いつも紅色の落ち葉が舞う、美しい街並みが広がっている。
 今回一行がこの街に滞在したのはほかでもない、ハロウィンのお祭りが開かれるためだ。薄闇を照らすカボチャ型のランタンが踊り、色鮮やかな飾り付けが為されている。もちろん祭の気配はそれだけではなく、街のそこかしこから甘い香りが広がっていた。
「みんな~! ハッピーハロウィン♪」
 そんな舞台で先頭を切るのは音楽隊、黒と赤のトランプ意匠をふんだんにちりばめた仮装のエメ・ムジカ(L-Record.・h00583)だ。先導するように丘の広場へ向かい、街を見下ろすようにすると、各々こちらも仮装に身を包んだ仲間たちが続く。
「ハッピーハロウィン、です……!」
 セレネ・デルフィ(泡沫の空・h03434)の衣装はサァカスの魔女、道化師と奇術師を合わせたようなそれに、絡みつく蔓のような意匠が目を引く。一方の兎沢・深琴(星華夢想・h00008)は吸血鬼風。コウモリの翼を思わせる黒のマントに、真っ白なドレスシャツと赤薔薇の飾りが映える。祭に向かう準備は万端のようで、エメは満足げに頷いた。
「みんなの仮装もすっごく似合ってるねっ! 絵本から飛び出してきたみたい!」
 いつもの見慣れた姿は一味違う互いの様子に、彼等は顔を見合わせる。
「普段の雰囲気とはまた違って新鮮ね、もっとよく見せて」
「不思議な感じですけど……皆さん、とても素敵です」
 そして雪色の時計ウサギ、真っ白なタキシード衣装のノア・アストラ(凍星・h01268)は、楽し気な一行の様子に眼鏡の奥の瞳を細めた。
「今宵は不思議な夜になりそうだな」
 賑やかな街に漂う甘い香り、それは今回のイベントのために準備された特別なものだ。
「街の人も今日を楽しみにしていたのでしょうね。そんな雰囲気が伝わってくるわ」
「たくさん甘い香りがして、街の全部がお菓子になったみたいだよ」
 先を行く人々の楽し気な声に、こちらも自然と期待が高まってくる。待ちきれないと言うように行く手を示して、エメは早速会場へと進んでいった。
 秋の夜を彩る光が、妖しげに揺れて一行を誘う。それでは、物語のはじまりはじまり。


 今宵のロトンヌで催されているイベントは、ハロウィンにちなんだお菓子集めのお祭りだ。街中から香る甘い匂いから察せられるように、街のあちこちにお菓子が隠されており、それを探し集めている内に、街の観光名所を一周できるという。ただし、普通にお菓子を置いておくだけではつまらないと、そんなことを考える者が主催者側に居たようで……。
「よぉし!いっぱいお菓子探すぞ~!」
「この後のパーティーの為にもたくさん見つけたいわね」
「頑張って、お菓子をたくさん、探しましょう」
 まあ、実際何が起きるかはお楽しみ。早速一行はお菓子探しのため街に繰り出していった。
「さて、どこを探そうか……」
 まずは広場を出てすぐの商店街、『落葉の市場』。ノアが周囲を見回す横で、深琴も賑わう光景を順に眺める。焼き林檎酒や月見パンなどの名物らしきものを扱う商店の合間には、洒落た街灯が並んでいる。今日は灯りのほとんどにカボチャの飾りが被せられて、仄暗いながらも楽しげな雰囲気を漂わせていた。いかにも何か隠されていそうな気配に、やはり心は浮き立つもので。
「やっぱり最初は置物の近く……とか?」
 エメは最初に目についたそれ、通りを照らすジャック・オー・ランタンへと駆け寄っていく。背の高いものや低いもの、いろんなところに据えられたそれをしげしげと眺め、後ろに回ったりして見るが、中々成果は上がらない。しかし、いくつか見て回ったところでエメはそれに気が付いた。
「あれ? これだけ燈がついてない……」
 いくつもの灯りの中、一つだけ自分から光を放っていないものを見つけ、隙間からその中を覗き込む。すると――。
「ぴゃ!?」
 ぽよんっ、という軽やかな音を立てて、半透明のお化けが飛び出していった。
「わ、ムジカさん……大丈夫ですか……?」
「ゆ、油断したの」
 思い切りのけぞらされたエメは、頭上に乗った違和感に手を遣る。そこには先程のお化けが残していったらしき、焼き菓子が乗っかっていた。
「今のは一体……?」
 何事かと目を丸くしていたノアの問いに、深琴が「うーん」と眉根を寄せる。
「お菓子だけでなく、悪戯も隠されて、いるんですね……」
「ふふ、そうよね、ハロウィンだもの」
 素直に渡しはしないということか。面白い趣向だと深琴は微笑むが、びっくりさせられるのが苦手な者もいるわけで。
「気を付けなくては……!」
 気合を入れなおした表情で、セレネもまたお菓子捜索に挑んでいった。
「驚いて怪我しないよう気を付けてね」
「はい……来ると、わかっていれば、きっと……!」
 気構えを欠かさぬようにしつつ、商店街を抜けて『紅葉回廊』へ。街の中央を貫く並木道には、紅と黄金、永遠に色付く木の葉が舞っている。いくら散れども尽きぬ紅葉、不思議な光景はこの街のシンボルでもある。
「……あら?」
 感嘆の溜息と共に、思わず景色に見入っていたセレネだが、ふと違和感を覚えて視線を止める。注目したのは落ち葉の舞う街路樹の間。そこだけ、何か影がおかしいような。
 早速駆け寄ってみると、その正体はすぐに明らかになった。
「すごい、景色に擬態している箱、でした……!」
 落ち葉に溶け込む迷彩模様と、背景に繋がるような風景画の描かれた箱。発見したそれを、浮き立つ思いで開いてみると。
「ひゃう!?」
 ぱーんっ、というクラッカーに続いて賑やかなファンファーレが鳴り響く。思わず飛び上がったセレネは、反射的に深琴の後ろへ駆け込んでいた。
「……ふふ、大丈夫?」
「気構えは、していたのですが……」
「おっきな音はびっくりしちゃうよね」
「びっくり、しました……」
「クラッカーに、ばくはつもあるなんて……恐るべしっ」
 やたらと準備に手の込んだイベントらしい。とにかく、エメとセレネが慎重に箱の中を覗き込んでみると、ご褒美らしきキャンディが残されていた。手の込んだ仕込みには驚かされたが、収穫はあった。この調子でどんどん集めていきたいところだが。
「もし私がお菓子を隠すとしたら……?」
 なんとなく、仕掛け人の傾向は見えてきた。そちらの気持ちになって考えて、改めて深琴はプロムナードの様子を見返す。隠すとなるとやはりオブジェや植物の陰が第一候補になるだろうか。『屋根の上』とか『地中深く』とか無茶な隠し方をしたところで、見つけてもらえなくては意味がないのだから。
「……でも、落ち葉の中くらいならいけそうよね」
 かさかさと乾いた音を立てるそれ、木の根元に降り積もった落ち葉を掻き分けてみると、予想通りお菓子の詰まっていそうな袋が埋まっていた。狙い通りだとばかりに小さく微笑んで、彼女はそれを摘まみ上げる。中身を確認しようと、袋の口を縛ったリボンを解くと。
「きゃっ」
 ぽんっと小さな爆発音が鳴って、深琴の顔の周りを紙吹雪が舞った。前例を見てわかっていたつもりだったが……こちらを揶揄うような軽やかな笑い声も微かに聞こえて、恐らくは先程のお化けの仕業だろうと彼女は結論付けた。
「深琴ちゃん、だいじょーぶ?」
「ええ。……まんまとやられてしまったけれど」
 早い鼓動を誤魔化すように微笑んでみせる。傾向読むばかりではなく実際に味わうことまでしたのだから、さすがに次は大丈夫だろう。たぶん。
 一方で、同行者達が次々と被害に遭うのを見ていたノアは、こちらにも何かしらあるのではと警戒を強めていた。概ね普段と変わらない様子ながら、少しばかり慎重に、木の裏の次は茂みの中へとかき分けて進む。
「これかな……?」
 茂みの中の暗がりに眠っていたのは、カラフルにラッピングされたお菓子の袋。だが早速手を伸ばそうとした、まさにその時、頭上の木の枝から複数のお化けがわぁっと降ってきた。死角から現れたそれは、おどろおどろしい声を上げながらノアを囲む。
「おっと、流石に今のは不意打ちされたかな」
 そのままゆらゆらと去っていく彼らを、ノアは愉しげに笑って見送った。
「まったく動じていない……」
「これが、冷静なおとなの対応……!」
「すごい、です……」
 余裕を崩さないその姿に感銘を受けたのか、一同から感嘆の声が上がる。
 そんな様子を知ってか知らずか、お菓子の袋を手に入れたノアはエメ達のところに戻ってきた。


 お菓子探しの旅はまだしばらく続いて、回廊から秋夜劇場、時忘れの書庫を抜けて、最後は黄昏橋を渡って、元の広場に戻ってくる。今回のイベントコースは、これにて無事一周と言ったところか。
 たくさんのお菓子、そして同時にたくさんの悪戯を潜り抜けてきたそこで、エメは宣言した。
「おやつの時間だよ!」
 広場の一角、紅葉のよく見える場所を選んで、レジャーシートとクッションを敷く。みんなで協力すれば、あっという間に場は整った。
「集めたお菓子はこの籠に入れてね~」
「はい、お疲れ様、でした……! とても楽しかった、です……!」
 エメが場の中心に据えたそれに、セレネ達も道中で得たお菓子を集めていく。
「皆はどんなお菓子を見つけたのかな」
「どう? 皆たくさん見つかったかしら」
 一緒に歩いてきたとはいえ、成果と、それから悪戯被害はそれぞれに。お菓子の種類と一緒に味わった悪戯の多彩さを紹介すれば、話の種も尽きることなく。やがてエメの用意した籠は、お菓子でいっぱいになってしまった。
「お菓子、色々見つかって良かった、です」
「でも、こんなにたくさんとは思わなかったよ」
「ふふ、大収穫! だねっ」
 ぎっしりと詰まったそれにエメが瞳を輝かせて、ノアは少し可笑しそうに微笑む。
「これは食べきれるかな?」
「ふふ、食べきれない分は持ち帰ってしばらくハロウィン気分を楽しみましょう」
「お留守番の皆にプレゼントしてもいいかも!」
 これだけあれば、持ち帰って配るだけの余裕も確かにあるか。とはいえ、それも四人の食欲次第だが。その辺りの優先権は、イベントに参加したここのメンバーが持っていると言ってもいいだろう。
 それでは早速ひとつ――と味わう前に。
「そうそう、温かいお紅茶も準備してるんだ」
「わ……ありがとうございます……!」
「さすがムジカだね。僕もいただいていいかな?」
 エメは持参したポットから熱いお茶を皆にご提供。
「今日はお菓子に合うようにアッサムで……ミルクもあるからお好みでどうぞ♪」
「アッサムはミルクにも合うものね」
「私は是非、ミルクを入れさせていただけたら、と…」
 ミルクもたっぷり注いだら、お茶会に臨む準備は完了。クッキーにキャンディ、チョコレート、香ばしい匂いの焼き菓子と、選り取り見取りのお菓子の中から、四人は各々の好みのものを摘まみ上げた。
「楽しんだあとのおやつは格別~!」
「そうね……動き回った分、甘さに癒されるわ」
 舌の上に広がる甘味を楽しんで、エメに続いて深琴が緩く溜息を吐く。探し回ったり驚かされたり、思ったよりも疲れていたのかもしれない。
「……でも、楽しかったわ」
 ゆっくりと紅茶を啜ると、その疲れも溶けていくようで。
「甘いお菓子にぴったりだな」
 こちらもアッサムティーの味わいにしみじみと呟いて、ノアは夜空を振り仰ぐ。舞い散る紅葉と、宵色の星空、この街特有の対比はとても美しく見えた。
「……ふふ、食べきれないお菓子でお腹いっぱい、なんて、とても幸せ、です……ね」
「にふふ♪ 夢みたいだよね」
 セレネの言葉にエメが頷く。幼子の願いをそのまま描き出したような、夢の時間はまだまだ続いていくようだ。


「お菓子たくさん、おいしかった……」
 そろそろ限界とばかりに、セレネがひとつ溜息を吐く。楽しい時間はあっという間で、気が付けばあれだけ豊作だったお菓子の山も、びっくりするほど数を減らしていた。お茶との相性が良すぎたのもあるだろうか、とにかく……美味しいものをたくさん食べた満足感はもちろんあるけれど、同時に少しばかり寂しい気持ちもある。
 そんな思いを同じように感じているからか、エメはそこで兎耳付きの可愛いカバンを探り始めた。
「そうだ、日記帳にも今日の事もちゃんと記録しないと……!」
「日記帳、ですか……?」
 取り出したのは留め具付きの日記帳、パラパラとそれを捲ったエメは、既に記載済みの部分を飛ばして、白紙の頁を開いて見せる。
 今日という日は思い出深く、きっと書く内容には困らないだろう。
 ペン先は軽やかに踊って、エメの思いを紙に残す。『みんなと食べるおやつ、いっぱいおいしかった!』、と弾むような文字が記せたところで、ふと思いついたそれを、エメは皆に向かって投げかけた。
「……ね! ここに一言書いてみない? 今日の気持ち」
 その申し出に顔を見合わせた一行は、微笑んでそれを快諾した。
「ふふ、是非」
 ペンを受け取ったセレネが記したのは、この瞬間に対する感謝の言葉。――『楽しいひと時をありがとうございました』。丁寧な文字でそう残して、今度は深琴へとそれを回す。
「楽しかったのはもちろんだけどね」
 でも、書くとしたら何が良いかな。今日一日の出来事を、瞑目して思い返し、選んだそれを頁に乗せた。
 『また来年も皆と楽しめますように』、そう未来への思いを込めて。
「今日の気持ちか……そうだなあ」
 続けて日記帳を受け取ったノアも、しばし黙考。思い返すと「楽しかった」というのはもちろんなのだけど、こちらもやはり、もう一度味わえたら良いという希望が滲む。
 ――『またいろいろな旅先を皆と巡れたらいいね』、と流麗な文字が記された。
 いつもは自分の言葉ばかりが並ぶそこに、寄せ書きのように皆の文字が書かれて、エメは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「うん……いっぱい楽しかった気持ち、伝わってくるよ!」
 だから僕も、もうひとつの言葉を。10月の頁の締めくくりに、エメはそれを記した。

 来年のハロウィンも、こんなに楽しい事と出逢えますように。
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