胡乱な足音
町の外れに、遠い昔にこの辺り一帯を統べていた富豪の一家が住んでいた洋館がある。
統べていた……と言っても、代々生んだ莫大な富を用いて地域貢献に取り組んだ末、町の人々から慕われて代表として持ち上げられたのがこの洋館の最後の当主だ。
彼は盗賊団に襲撃され、妻子や使用人さえも助かることなく……町で最も景色の良い墓地へ皆土葬された。
ところが数日と経たぬうちに、ご遺体が何者かに掘り返され消えて以降、洋館から呻き声や物音が響くようになり、襲撃事件を知らない世代の若者達を中心に肝試しの場として利用されるようになってしまったという。
現在は朽ちて住む者も管理していそうな人物すらおらず、割れた硝子窓や一部が抜けた屋根すらそのままに、静かに倒壊を待つ有様だ。
そして今宵も、私欲を満たそうとする若者達が足を踏み入れた。
どんな繋がりで集ったのか、それぞれの年代は十代後半から二十歳頃と幅がある。
怖いもの見たさで浮かれる者、どうせ何も起きないと強がる者、怯え震えて抱き合いながら歩く者……数えるには片手で足りない集団で押しかけた者達は無遠慮に屋敷内を一階から巡回し、綺麗だった当時の名残がある部屋から部屋へ、一通り入って見ようと廊下を歩いている。
「ねぇ今、音しなかった?」
「どうせ家鳴りだろ、ビビり過ぎだよ」
「違う違うそこの角曲がった廊下、歩いてるみたいな音するって……!」
「オバケ出たらどうする〜!?」
「そしたらオレがぶっ倒して──」
勇んで先頭を行く青年が廊下の曲がり角へ差し掛かった瞬間、引っ張られるように死角へ消え、耳を劈く悲鳴が轟き後続の全員が呆然と足を止めた。
注目する曲がり角の陰からグチャグチャと豪快に肉を貪る租借音が響き、それが静かになってきて漸く、叫ぶことを思い出した一人が踵を返して勢いよく駆け出したのを皮切りに、脱兎の如く逃げ出す少年少女。
腰を抜かして床へ尻をつき全身を震わせ後退っている一人を、気にしてやれる者など居やしない。
「な、何……? ねぇ……?」
月の薄明かりが照らす廊下へ、音の主がゆらりと姿を晒す。
ボロ布と腐敗した肉を纏って皮膚のようなものを垂らし、大量の返り血を浴びた、人のような形をした“何か”……。
「ぇ……ぇえぃやだ、嫌……来ないで……」
涙を垂らし恐怖に失禁して床を濡らし、懸命に後退る少女の髪を振り上げた手が掴み引き起こす。
「やだ、やだやだいだいゃだ! ねえおねが、ごめん゙なさぃ゙あが! い゙ッああ゙ああ゙あぁ!!」
泣き叫ぶ声はもう誰にも届かない。
錯乱して足をばたつかせ中身の無い謝罪を叫んだのも虚しく、壁に顔面を打ち付けられた少女の首へ、大きく口を開けた何かの歯が喰らいつく。
──やがて静寂を取り戻した廊下に、食い荒らされた青年が虚ろな目で現れ揺れる。
血溜まりに伏した少女を踏みつけ赤い足跡を描き彷徨う背中で、無残な身体がひくりと跳ねた。
●
「お集まり頂きありがとうございます。 先輩方、ゾンビは平気な人ですか?」
私は苦手なんですよね、と微笑むイル・メイヴ(球体関節義体の少女・h09441)が溜息をついた。
「嫌なお願いになってしまいますが、廃墟へ肝試しに行った方々がゾンビに襲われる様子を視てしまいまして。 良ければ助けに行って頂きたく……」
様々な場所で声を掛け集ってもらったあなた方を見渡すと、√ドラゴンファンタジーの或る地域の町外れに佇む古びた洋館が現場であると伝え、両手を合わせ頭を下げる。
「全員を助けることは叶わないのでしょうが、先ずは一人でも生きて帰して差しあげてください。 その後は、放置したゾンビ達が屋敷から出てしまったら大惨事が予想されますので、見つけ次第倒して頂いて……何故ゾンビが出たのかも念の為、調査してくださいますか? 洋館の中に何かあると思うのです。 例えば、そう……ラフェンドラに関するものとか──……」
それは最近聞くようになった名だけれど、フィクションの中にしか存在しなかったゾンビが実際に出たとなれば、おおよその事象はそこへ繋がる。
“いる”と確信は持てないが、安全確認も兼ねて調べておいて損は無いだろう。
「現場でどんな危険が待ち受けているか、全てを視る事が叶わず申し訳ないですが、ゾンビに嚙まれないようお気を付けて……どうか、無事にお戻りくださいね。 よろしくお願い致します」
合わせた手を祈るように組み、少女は双眸を閉じて俯いた。
マスターより
初めまして、四葩と申します。
未熟者ではありますが、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
プレイング受付期間はシナリオのタグをご確認ください。
『#プレイング受付中』または『#プレイング受付は何日何時迄』を目安になさってください。
締め切りの設定は各章、成功の目処が立った当日か翌日の何処かのタイミングで予定しております。
※!※ お誘い合わせの方以外と絡ませていただくことは、今回のシナリオではございません。 ※!※
♢
●第一章
人命>戦闘で、先ずは出会った方々を洋館の外へ安全に逃がす事を優先して頂ければと思います。
出会う人物は頂戴したプレイング次第で変化しますので、お好みでご想像ください。
救助する人物を落ち着かせられれば、ゾンビの動きは遅いので出会っても簡単に振り切れます。
ゾンビ達は綺麗な見た目から痛々しいものまで、性別や年齢も含め様々です。
●第二章
第一章の結果によって集団敵かボスか変化しますが、どちらに分岐しても戦闘となります。
●第三章
第二章の結果によって、ラフェンドラの研究材料を回収する者、或いは屍王『ラフェンドラ・オピオイド』との直接対決、またはラフェンドラの研究の残骸達の何れかとの戦闘になります。
各章、敵と断章をご確認のうえご参加頂ければ幸いです。
♢
此処までご覧いただきありがとうございます。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。
10
第1章 冒険 『呪われた屋敷』
POW
武器や拳で攻撃する。
SPD
囮を引き受け、敵の気を反らす。
WIZ
魔法などで攻撃する。
√ドラゴンファンタジー 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
(肝試しで有名なとこだから、何も無いだろって言ったじゃん!)
ほんの少し刺激を求めただけの日常では聞かないような絶叫を思い出して、壊れかけのクローゼットへ潜み震える者が居る。
(何が起きてるんだよ? 早く出ないと……!)
広い洋館の中をひた走り、中庭をどう戻れば良いか思い出せずにいる者がいる。
皆、誰かが死ぬ姿を直接見た訳では無い。
それなのに各々が命の危機を感じ、我が身を守ろうと必死に抗う。
中央に広い中庭を抱いた二階建ての洋館は中庭を四角く囲うような造りではあるが、その内部は直線の廊下に部屋が接しているのではなく、迷路のように複雑怪奇な造りになっている。
昔は白だったであろう壁面や木の温もりがある腰壁は薄汚れ、床は所々腐って抜けたり埃で曇り、確りと目を凝らせば薄く足跡を確認出来る有り様だ。
硝子は綺麗な状態を保っている物の方が珍しく、屋根の一部は崩れ落ちて野晒しの場所さえあり……各部屋へ入れば装飾品の類は一切無く、人によっては価値がありそうな意匠が彫られた木製家具だけは、金具が錆びたり壊れる等して放置されている。
命を持つ者には昏過ぎる朽ち果てたその場所で、我が身に降りかかろうとする恐怖から逃げる少年少女が密やかに呻き、隠れ、時に床が軋む音を鳴らして駆けていく。
クラウス・イーザリーレギオンスウォームでレギオンを呼び出して館の中に飛ばし、センサーでゾンビと襲われている人たちの位置を確認
頭の中に一気に流れ込む情報に歯を食い縛りながら、ゾンビに追い詰められている人のところへ急行
ゴーグルの暗視機能で暗闇を見通し、床が抜けている部分は遊撃で飛び越えて最短距離で向かう
「助けに来たよ。もう大丈夫だから落ち着いて」
ゾンビをレーザー射撃で退けてから落ち着いた声で呼び掛ける
年齢は俺より少し下くらいかな
無謀なことをしたと思うけど、怒ったりはしないよ
落ち着いたら外に誘導する
その最中も並行してレギオンの思念操作を続け、人を襲っているゾンビをレギオンミサイルで撃退してできるだけ多くの人を守ろう
暗闇が月の殆どを喰らい侵蝕する昏い夜。
天井近くを飛び影に紛れたレギオンスウォーム達は青いレンズを洋館の隅々へ向け、建物の外に控える主の脳へリアルタイムに内部の映像を流していく。
明かりの乏しい中をナイトビジョンの二色で捜索にあたるのは多色に彩られた世界より集中力を要し、普段ならば難無く扱える僅かな数の情報がクラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)へ重くのしかかっていた。
汚れた敷物が波打ち捲れた玄関ホール。
通常の住居ではなかなか無い複雑に折れる廊下は民家の天井よりずっと高く、硝子の破片が散っている。
廊下に囲まれた部屋に窓は無く、役割を果たせない照明には蜘蛛の巣が張られ、静寂に包まれていた。
窓に面した部屋は家具が乱雑に倒れ割れている場所も多く、厨房は埃っぽく金属面が錆びている。
手摺が折れた階段を二階へ向かうと複雑な造りは一階同様だが、崩れた屋根が積もるような場所まであり、足元の状態は最悪だ。
雨漏りか何かで腐った床が広く抜け落ちた先に、一人の少年の姿を捉えた。
「ふぅ゙、っぐ」
脳を弄られるような負荷に呻き、閉じた双眸が揺さぶられ、片手で肩を抱き口元を掌で覆う。
『嘘……?』
眼前の絶望に呟き後ろへ迫る足音に怯えた少年が、真隣の部屋へ入って行く。
その映像に目を見開き、浅い呼吸を逃がして震える口元を結び駆け出した。
時折襲う頭が潰されそうな感覚や、喉奥から込み上げそうになる吐き気に歯を食いしばって扉を入り、ゴーグルの暗視機能を起動し軋む階段を一段飛びに上る。
暫く廊下を進み腐った床を飛び越え最短距離で部屋へ入った瞬間、少年の悲鳴が耳をつんざく。
「離して! 離せって!! 何なんだよ!!」
映像で見た少年が汚れきった給仕服を着た女性にテーブル越しに引っ張られている様子が視界に飛び込み、レイン砲台のレーザーを女性の胸部をめがけて放つ。
「ひっ!」
倒れ込む女性の手はそれでも少年の袖を離さず、テーブルへ伏せた格好で留まる少年の衣服が、肩の縫い合わせから裂けた弾みで床へ転がっていった。
「何!? 誰!?」
「助けに来たよ。 もう大丈夫だから落ち着いて」
極力怖がらせないよう、無謀を叱ることもなく優しく声をかけながら近付く程に、怯えた少年は後退る。
「怪我はッうわ!?」
「わあああ!!」
安心させる為に言葉を続けようとするが、死角で動き出した女性に足を引っ張られ床へ叩き付けられた。
「こ、の……ッ!」
身体に走る痛みに顔を歪めるクラウスを怪力で組み敷いた女性が、顎が外れそうな程大きく口を開いて噛み付くより先に、咄嗟に起動した砲台のレーザーが口内を撃ち抜く。
力が抜けて倒れ掛かった女性から抜け出し、肩で息をしながら顔に浴びた血を拭うクラウスへ、動けずにいた少年が駆け寄った。
「あの、大丈夫……?」
「俺は大丈夫だ……きみは?」
「大丈夫……ありがとう、ございます」
今にも泣き出しそうな顔に微笑みかけて立ち上がり、少年の様子を確かめる限り外傷は無さそうで、ほっと胸を撫で下ろす。
「案内するから此処を出よう。 動けそうかな?」
「! は、はい! お願いします!」
頷き合い、クラウスを先頭に部屋の外を確認して廊下へ出ると再びレギオンの思念操作へ意識を向け、蝕む負荷に気をやらないよう耐え忍びながら脱出ルートを確保し、玄関へ向かう間もゾンビを討ち進んで行く。
建物の外へ少年を無事に送り届けてなお、クラウスは振り返り室内を睨んだ。
「助けないと……まだ……」
膝から崩れそうになった身体が壁へ倒れても、荒らいだ呼吸を無理矢理に整え、居るはずの生存者の元へ再び歩き出す。
🔵🔵🔵 大成功
エルゼ・アーベントロートひとつでも多くの命を救う為に
そして、私もまた死という断崖から大切な存在を取り戻そうとするからこそ
こんな災いのような病ではなく、奇跡を求める星として駆け抜けましょう
数多を犠牲にする簒奪者と、私は違うのだと
【レギオンスウォーム】を発動させて周囲、そして生存者の速やかな探索を
特に隠れたのはいいものの、自ら動けなくなってしまったひとに生存の可能性を作りたいですね
見つければ落ち着くことが出来るように、真っ直ぐに見つめて
表情を変えることは苦手なのですが、視線と瞳を合わせて大丈夫なのだと伝えたいです
ゾンビとなって彷徨う方には、それが慈悲であると怪力で振るう星輝剣での首の切断を以て速やかな終わりを
弔うは、後に
呻き声を漏らして彷徨う者を灼光が薙ぐ。
緩やかに首を落とし紅を散らして崩れる身体の向こうに、燦然と輝く長剣を払う白い少女が立っていた。
それはまるで、闇の中に灯った光。
銀の髪に澄み渡る青の瞳が白い肌に色を添え、青白い戦衣を纏う姿は降雪を報せる空気のように冷ややかで、一閃で首を斬った身体を見下ろす表情からはその心を読み取れない。
踏み出して腰を落とすと、ブーツの踵が転がっている硝子を踏み割る音が鳴り、息絶えた身体を両手で起こして首と共に廊下の端へ横たえた。
(後程、弔いますから)
決して振り返らず、ただ前を見据えるエルゼ・アーベントロート(導星の瞬きを願う・h04527)はこの行いに罪悪感を抱くことはしない。
彼等が罪を犯さない為の慈悲であると、一つの信念のもと少女は進む。
人を襲い仲間へ引き入れる様子は病の伝播が如く。
また、死すら超越したかのような歪な有様は、死という断崖から失った何かを取り戻そうと抗うよう。
──無差別で、地獄を掻き混ぜるように醜悪だ。
刺すような微かな痛みを感じて胸を押さえる。
(私は、こんなのは嫌よ)
大切な星を再びこの手に抱く奇跡を願う想いは、側面だけ見れば似た部分があるけれど、どんなに焦がれても人の命を脅かしてまで叶えたいとまでは堕ちずにいる。
数多を犠牲にする簒奪者と、私は違う。
胸を押さえた手を伸ばし、探索させていたレギオンを掌へ迎えて立ち止まる。
映し出す情報を拾い、生体反応があった部屋へ目的地を定めて歩き出した。
♦︎
レギオンの先導で辿り着いた暗い部屋は、本当に生物が居るのかという程に静かだ。
「……誰か居ますか?」
しん、と。 何の返事も返って来ない。
レギオンへ視線をやると、観音開きの扉の片方が外れかけてぶら下がっているクローゼットの前で静止した。
目の前に並ぶと、扉の隙間から此方を見ている何かと目が合ったような感覚を覚え、闇の先をじっと見る。
「……そこに居ますか?」
ひゅっと息を呑む音を聴き、身体を向けて真正面に見続ける。
「大丈夫です、私はあなたに危害を加える気はありません」
……。
……まだ返答を貰えない。
どうしたものかと困り、レギオンを入口の警戒へ当て、クローゼットへ背中を向けた。
「見えるか解りませんがこの通り、背中を向けました。 敵意は無く、その扉を勝手に開ける事もしません。 ここの異変を知り、助けに来ました」
背後の気配に気を配りつつ、静かに語る。
ギ、と木が軋む音がした。
「どうか、その扉を開けて出ていただくか、助けてと声を聞かせてください」
その言葉を最後に再び静寂が訪れる。
時間を計る物が無く、どれ程経ったかは解らない。
「……けて……」
蚊の鳴くような助けを求める声が届き、クローゼットへ向き直るとそっと扉を開く。
携えた星輝剣の煌めきが照らしたのは、しゃがみ込む同年代くらいの少女の姿。
その顔は涙でぐちゃぐちゃで、大声で泣くのを必死に堪え震えている。
「怖かったでしょう。 もう、大丈夫です」
「……ひっ、ひっ、ぅっ、ぁぅあぁあ!」
改めてしっかりと見つめ合うと、少女が細切れに息を吸い込み始め、堰を切ったように声を上げて泣き出した。
床へ膝をつきその背中に優しく触れて、とんとんと緩く叩く。
「私が必ず脱出させますから、帰りましょう」
息も絶え絶えに咽び泣いて頷く少女が少し落ち着くまで、希望を持てる言葉を伝えて過ごす。
安心させようと余裕を見せる一方で、星輝剣へ手を添え、守り抜くという誓いを胸に抱いた。
🔵🔵🔵 大成功
真白・漆黒ひぃっ……!想像以上に怖い!
救出任務は少女人形の得意分野ではあるが、……ッ!(硬直)
今どこかで物音が聞こえたぞ!?
レギオン達を使って屋敷の探索を。
生体反応を優先的に探ってみよう。
生存者を見付けたら[演技]で頼れる支配者として振る舞おう!
「良く頑張ったな!もう大丈夫だ。我が出口まで案内しよう!」
恐怖心を隠して堂々と振る舞いながら事前に調べておいたルートで避難誘導を。
生存者が緊張している様なら明るく話し掛け、落ち着いて居られる様に手助けをする。
ゾンビと出会ったら生存者を安全な位置に下がらせて√能力を使いながら退路の確保を。
「ほ、ほう?良い覚悟だな。我が相手をしてやろう!」
本音を言うと死ぬ程怖い!
「ひぃっ……!」
決して甘い気持ちで赴いた訳では無いが、今にも何処かが崩れそうな不安と隣り合わせな建物の中、室内は暗闇に視界を奪われるような場所ばかりで、ゾンビの接近を思わせる突然の物音がする度につい跳ね上がって硬直してしまう。
救出任務は少女人形の得意分野である。
しかし、真白・漆黒(漆黒の支配者のジェネラルレギオン・h09483)のように様々な事情を抱えて廃棄処分となった個人には、必ずしも当てはまらない知見だ。
得意かどうか以前に、怖いものは怖い。
一階の玄関ホールより対極に位置する辺りまで入り込み事に当たっているご褒美に、帰ったら気になるラノベを買いに行こう等と考え気を紛らわす。
パタン。
「! 今どこかで物音が聞こえたぞ!?」
扉の閉まる音だったように思う。
生存者なら助けなければと、震える足を叩きレギオンを先行させて確認へ急ぎ駆け出した。
カチャ……キィ……。
廊下の曲がり角から顔を出すと、音の出処と思わしき扉がゆっくりと開いていくところだった。
パタン……。
間を置いて、勝手に閉じていく。
ゾワっと背筋を駆け抜けた寒気に思わず卒倒しかけ、近くを飛んでいた黒く化粧したレギオンを胸に抱き震え上がった。
「た、た、た、たのむ、それ、な、なんで」
震える手を伸ばして指差すと、抱えるのとは別のレギオンが確認しに向かう。
様子を窺ったレギオンは首を振るように左右へレンズを向けて揺れ、何も居ない事を示して戻って来た。
金具が壊れて隙間風に遊ばれているらしい。
「ふぅぅー……」
細く長く息を吐いて、へたり込みそうになる膝に力を込めて踏ん張る。
バキッ!
「今度は何だ!?」
悲鳴にも似た裏返った声を出しながら、恐怖に勝る正義感に突き動かされて、音の出処を確認しようと走り出す。
きつく胸に抱かれたままのレギオンに表情というものは存在しないのに、情けない主の仕草に対して虚無や哀愁を纏うようだった。
♦︎
音がしたのはそう遠くない廊下で、近付く程に何者かの呻き声まで聞こえる。
怖い……けれどゾンビならば逃げずに戦わなくてはならないし、生存者ならば救助をしなければ。
意を決して角から飛び出す。
すると視界が広めに開け、階段の下に丸まって床に転がり、足を抑えて呻く少年の姿があった。
「大丈夫か!?」
抱き締めたレギオンを離して駆け寄ると、同じくらいか少し年上の彼は、周りを気にする余裕も無いといった様子で脂汗を滲ませている。
噛まれている様子は無さそうだから、敵では無さそうだ。
「足、足が……」
「足? 捲るぞ」
息も絶え絶えの訴えを聞きズボンの裾に手をかけると、それすら痛いのか苦悶する悲鳴に眉を顰める。
心の内で謝りながら捲り上げると、血は出ていないが膝から下がかなり腫れているようだ。
「落ちたのか?」
涙を流して頷く返答から察するに、骨折でもしたのだろう。
そっと裾を戻して短く息を吸い、気合いを入れる。
「良く頑張ったな! もう大丈夫だ。 我が出口まで案内しよう!」
朗らかに振る舞いコミュニケーションを取りながら座らせ、引き起こして肩を貸し、室内を歩きながら記録した玄関までのルートを時間を掛けて辿る。
走る事が叶わない故に戦闘は避けられず、迫るゾンビを前にレギオン達が立ちはだかった。
「ほ、ほう? 良い覚悟だな……」
本音を言うと死ぬ程怖い。
が。 そんな泣き言、後でいくらでも言えば良い……!
「我等が相手をしてやろう!」
敵へ照準を合わせたレギオン達のミサイルが、掛け声を合図に電子音を鳴らし一斉に発射されていく──……。
🔵🔵🔵 大成功
結・惟人ゾンビか…
そこにもう心が無くとも、早く終わらせてあげたい
…先ずは人命救助が優先だな
余計なことは考えないようにしないと
気配や物音がしたら警戒しつつ向かう
迷子防止にチョークで印もつけていく
人を見付けたら刺激しないよう距離を保つ
屈んで、視線の高さを合わせて名乗ろう
私は冒険者の結 惟人
大丈夫、私はあなたを助けに来たんだ
怪我はないだろうか
一緒に外へ出よう
不安ならば手を繋いでいこうか
彼等は遅いから心配ない
もし追いついても私の尾が一振りするか…
|桜の花弁《√能力》が追い払う
さあ、足許に気を付けて
歩行が困難であれば更に手を貸すか、おぶろう
戦闘は必要最低限に留める
逃げ易くとも、囲まれないように気を付けねばな
灰色に薄汚れた壁に、ピンクのチョークで短い文字や記号を書き記す。
それを眺めながらどれくらい探索したか思い浮かべ、掌へ視線を落とした結・惟人(桜竜・h06870)は指折り数え首を傾げる。
窓の外へ視線を移し、何の違和感も無い屋外の景色を見つめた。
(不自然に広い……)
外観からも随分広いと思いはしたが、それにしても部屋数や廊下の長さが釣り合っていないように感じてしまう。
所謂見た目と中身が一致しないダンジョンの一種だと仮定して、歩き回るゾンビ以外にも何らかの仕掛けが無いか注意して慎重に歩き出す。
唐突に構造が変わったら、たまったものではない。
(ゾンビか……)
心を無くし彷徨う者達に出くわせば倒さなければならない……けれど、彼等は本当に恐怖や苦しみを感じ無いのだろうか。
栄養摂取や代謝といった、生きる為の活動は?
彷徨って仲間を増やすだけなら、その身体はやがてどうなるのだろう。
次々と浮かぶ疑問に頭を振る。
(早く解放してあげたい)
その為には、内部で迷う人々を外へ送らなければ。
考え事を一旦やめると、差し掛かった中庭へ続く出入口の前で草が擦れる音が聞こえてきた。
転がっている扉は人為的に壊されたのか割れていて、長い間雨風に晒されたように朽ちている。
物悲しさに目を細め双眸を閉じ、過ぎし日に祈りを捧げてから中庭へ足を踏み入れた。
見回して人の痕跡を探してみると、踏み倒された草の道が無造作に成長した垣根裏へ続いているのを発見する。
「こんばんは、誰か居るかな?」
急な接近に驚かさないよう、敢えて足音を立てて生垣を回り込めば、そこには震える少女の姿があった。
迂闊に近付く事はせず、その場でしゃがんで目線を合わせる。
「私は冒険者の結 惟人。 大丈夫、私はあなたを助けに来たんだ」
「……たす、けに……?」
はらはらと泣き出してしまった少女に静かに頷く。
信じて良いのか僅かに悩んだ様子が見られたが、草へ両手をついて這い寄ってきた。
「怪我はないだろうか?」
「うん、でもお兄さんが……」
恐ろしい絶叫や音を思い出して耳を塞いだ少女へ、惟人は慰めや励ましをしない代わりに手を差し伸べる。
「……。 一緒に外へ出よう」
少女には、その言葉は短く簡潔ながら力強く胸に響く。
助かりたい気持ちと自分だけ抜け駆けする罪悪感との狭間に揺れ、恐る恐る伸ばして重ねた手。
まるで助かりたい気持ちを肯定するように、惟人はしっかりと手を握り、促すように少女と共に立ち上がった。
「……あの……怖くて、不安で……手を……」
少女が俯き遠慮がちに口篭り、繋いだ手に力が込められる。
「不安ならば、このまま行こう」
ぱっと上がった顔は泣き出す直前のようにくしゃりとしていて、何度も頷き鼻を啜っていた。
「彷徨う彼等は遅いから、見付けたら走ろう。 さあ、足元に気を付けて」
「うん! あの、あのね……他の皆は……」
「何人で来たんだ?」
「八人で……」
少なくない人数に眉を顰める。
全員が無事だとは限らないが、彷徨うゾンビ達を倒しながら暫し探す事になるだろう。
「服装の特徴等は、覚えているだろうか」
「うん、確か……」
玄関へ向かって歩く間、一人一人のあだ名や背丈、髪型や色、着ていた服装の特徴等を一通り聞く事が出来た。
送り届けた後に他の能力者達に会えたなら、皆に共有しようと聞き零さずに記憶する。
一人でも多く助け、遺品を家族の元へ帰す為に。
🔵🔵🔵 大成功
第2章 集団戦 『血生臭いシャンティクリーム』
POW
3時のお茶にしましょうか。
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【デザートナイフ】で300回攻撃する。
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【デザートナイフ】で300回攻撃する。
SPD
今日は、貴方が主役、貴方が甘いタルトよ。
【鞭】による近接攻撃で1.5倍のダメージを与える。この攻撃が外れた場合、外れた地点から半径レベルm内は【甘い香りに満ちたテーブルクロスの上】となり、自身以外の全員の行動成功率が半減する(これは累積しない)。
【鞭】による近接攻撃で1.5倍のダメージを与える。この攻撃が外れた場合、外れた地点から半径レベルm内は【甘い香りに満ちたテーブルクロスの上】となり、自身以外の全員の行動成功率が半減する(これは累積しない)。
WIZ
赤くないのね、そう、赤くしてあげましょうね。
【鞭】による牽制、【甘い香り】による捕縛、【飴(鈍器)】による強撃の連続攻撃を与える。
【鞭】による牽制、【甘い香り】による捕縛、【飴(鈍器)】による強撃の連続攻撃を与える。
夜を垂らしたようなドレスに身を包む女性が、カビっぽい空気のなか長いテーブルに向き合っている。
そのテーブルの上には銀髪の女性が横たわり、眠ったような身体はベルトや手枷等の様々な器具で固定されていた。
「おねえさま……もう、すこしです……」
愛おしそうに抱えた髑髏を撫でて持ち上げ、その歯に口付けうっとりと微笑む。
「……?」
嫌な気配がする。
わたしとおねえさまを引き裂こうとするわるいひとの。
胸騒ぎに真っ白な顔を歪め、髑髏を力強く胸に抱いて鋏を持つと、糸に下がる赤いドレスを着た人形達の元へ歩む。
「いやよ、だぁれ? ドウシテ邪魔するの……」
ヒールが床を叩く音を鳴らして、胸を支配する不快感をぶつけるように一本一本糸を切り落とし、人形達を順に転がす。
「殺して、ころして、コロシテ!」
固い動きでのたうった人形達が、徐々に動きを滑らかに立ち上がる。
「あぁ……でも、使えそうなら……連れて来て頂戴?」
『はい、主。 愚かな者には赤い化粧を。 選ばれし者には主の祝福を授けましょう』
赤い鞭に指先を這わせた人形達。
口を開いた笑顔の隙間で、糸引く液体が薄緑に光った。
♦︎
──生存者を全員外へ助け出し、内部のゾンビ達を倒し終わった|EDEN《あなた》達。
ゾンビが徘徊するに至った原因を探る者達の気配を目指して、地下より這い出た赤いドレスの人形達が、内部を隈無く巡回し始めた。
クラウス・イーザリー(この人形たちの出どころを辿れば、原因に辿り着けるか……?)
さっきのゾンビ達と違って明確に俺達を狙ってきているみたいだな
人形たちを倒しながら、彼女たちが向かってきた方向に進んでいこう
月下氷雪を使い、魔力兵装を刀の形に錬成して進んでいく
人形たちと遭遇したら遠距離からレーザー射撃で牽制し、その隙に近接戦闘の間合いまで踏み込んで一閃で斬り捨てる
攻撃を受けそうになったら魔力の盾を創り出して盾受けで凌ぐ
……彼女たちもゾンビなのかな?
できるだけ噛まれないように気をつけよう
捜索で消耗と連続した戦闘で足元がふらつく
でもまたこういうことが起こらないように、原因を見付けるまでは帰りたくないから
足を止めずに進むよ
物悲しい静寂に包まれた内部を、ゾンビが徘徊するに至った原因を究明しようと歩み続ける。
クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)の他にもEDEN達が其々に調査してはいるが、出会う者と情報交換をしてみたところで互いに何も収穫が無いような状況だ。
帰還して構わないのかも知れないが、救助の間やその後に見てしまった彷徨う者達の風貌は、そう簡単にクラウスを帰路へつかせてはくれなかった。
一度は通った廊下に差し掛かり、ふと窓の外を見る。
薄汚く割れた硝子が通り過ぎようとする自分の姿を微かに映していて……通ってきた後ろに鮮やかな──。
疑問を抱くより早く残り僅かな廊下を駆け抜け、曲がり角へ飛び込む。
其処はただ暗いだけの空間で、顔を合わせた仲間達にも“あんな赤色を纏った人物は居なかった”……!
振り返ったクラウスの視界に夥しい数のデザートナイフが飛び、床や突き当たった壁へ刺さり、時に弾かれて落下していく。
明確な殺意ある異常を前に、対峙したものの形姿を確認すること無く、刀の形に錬成した魔力兵装へ意識を集中させる。
研ぎ澄まされていく感覚は気付けなかった足音をはっきりと耳にするが、そうでなくともそれなりの質量を持った音が聞こえなかったというのはおかしい。
徘徊していたゾンビ達と異なり、追跡する対象の足音に合わせて歩く知恵でも持っているのだとすれば、新たな敵が現れた未知の経路が何処かにあると考えられた。
(倒しながら進めば、原因にも辿り着けるか……?)
手掛かりへの道筋を掴み、柄を握る手へ力が籠る。
『逃げないで? 赤い化粧をしてあげましょう』
廊下の角から赤いドレスの裾が見え、現れた人物を一刀のもとに斬り伏せると、刀を介して伝わったのは人間の柔らかさではなく、物品のような半端な硬さだった。
『赤い、ア、カ……』
仰向けに倒れたものはゾンビ……というよりは人形に見えるが、切り口からは赤い血の代わりに薄緑の液体が流れ出ている。
個体の強さは恐れる程では無いものの、不気味なその色に危機感を覚えずにはいられない。
(念の為だ。 嚙まれたり、負傷した箇所へ浴びないように気を付けよう)
それだけでなく、先程見た攻撃も非常に厄介だ。
どのように戦うか方針を練りながら、元来た廊下を引き返していった。
♦︎
──進む程、次第に相手をする数が増す。
離れた位置に居る人形をレーザー射撃で牽制して懐へ飛び込むと一閃で断ち斬り、陰になる位置から飛んできたデザートナイフへ向けて事切れた人形を投げ捨て、魔力の盾を展開する。
その殆どを受け止めた人形がナイフを放った個体へぶつかり、床に折り重なった二体を刀で貫く。
しぶとくぎこちない動作で鞭を持ち上げようとする手を踏みつけ、抵抗が無くなったのを感じてから足を退けて刀を引き抜いた。
「……何体出るんだ……っ」
救助に探索に連続した戦闘と、疲労を隠しきれなくなってきた足が縺れ、咄嗟に手を伸ばした先は扉だった。
転げそうな勢いで広い室内へ踏み入ると、大きな暖炉の底面がぽっかりと口を開けている。
頭の中に霧がかかったように、ぼんやりと底の知れない闇の中を眺めてしまうけれど──……顔を涙や鮮血で濡らし、怯えた表情で這う助けられなかった犠牲者の少女を思い出して、霞んだ意識が一瞬で覚めていく。
「あんな犠牲はもう、たくさんだ」
か細い声で嘆くと暖炉へ歩み寄り、地下へ続く急な階段へ屈めた身体を滑り込ませた。
🔵🔵🔵 大成功
エルゼ・アーベントロート退いてください
そう言って、易々と道を譲って貰える相手でもないのでしょうね
ですが地下より這い出したという事は、この事件の黒幕はそこにいるはず
「道は自らの手で紡がせて頂きます」
故に、躊躇うことなく真っ直ぐにダッシュで駆け抜けながら【救いの瞳】を発動
迫る鞭を躱す訳にはいかないので、受けて凌ぐのみです
「夢も希望も勝利も、全てはこの緋色の手で掴む。それだけです」
軌道をしっかりと見切り、怪力を乗せた願いの緋星による一撃で迎撃するようにジャストガード
受けると同時に鞭を掴み、操る人形を引き寄せて体勢を崩させれば私の攻撃です
早業の体捌きで踊るように身を翻す勢いを乗せて、焼却の炎を宿す深紅の拳撃を繰り出します
『あら、お嬢さん。 綺麗な銀髪でとても可愛らしいのに、そんな冷たい色を着て……なんて可哀想。 あぁでも、その方が主に気に入ってもらえるかしらね?』
赤いドレスを身に纏う女性と対峙したエルゼ・アーベントロート(導星の瞬きを願う・h04527)は、初対面にも関わらず無遠慮な物言いを受けて、涼やかな表情に冷たさを滲ませる。
「退いてください」
淡々と告げてみるものの、手にした鞭を規則正しいリズムで掌へ当てては持ち上げゆっくりと首を傾げる仕草を見るに、道を譲る気は一切無さそうだ。
それどころか、哀れむ言葉を吐きながらも気に食わないものを見るような目が、穏やかに話せる相手では無いと如実に物語っている。
ならば仲間の応援でも、逃げ損ねた生存者でも無い。
『つれないこと言わないで? 女同士仲良くしましょ?』
エルゼは女性の背後をちらりと見る。
この人物は二階へ上がる階段の脇から確かに出てきた。
今の自分の位置からはよく見えないが、きっと何処かへ繋がる道があるはずだ。
その先に恐らく、この女性が言った主──今回の騒ぎを起こした黒幕が潜んでいるのだろう。
『お化粧はお好き? たまには情熱的に彩ってみたらどうかしら。 あなた、赤はお好き?』
「嫌いです」
ぺらぺらとよく回る口に短く息を吐き、聞き流していた言葉へ取り付く島もない否定の言葉を返す。
一方的な相手へ正直に答えるだけ無駄だ。
その返事が女性の気に障ったのか、整った顔がみるみる鬼の形相に変わっていった。
『なんて嘆かわしい、そんなの可哀想! ごめんなさいね主、許して頂戴、連れていけない、今直ぐ真っ赤に染めて差し上げなきゃ!!』
激昂した様子で鞭を掲げ、乱暴に踵を鳴らし迫り来る姿を冷静に眺めて、瞼を閉じる。
「問題ありません。 こちらからご挨拶に伺いますよ」
一歩踏み出しながら見開いた双眸に星彩が輝き、駆け抜ける。
瞬く間に詰まった距離に竦んだ女性が焦り、鞭を振り下ろす。
「案内されずとも、道は自らの手で紡がせて頂きます」
その瞳へ宿した加護により動体視力を高めたエルゼにとって、雑な動きを見切るのは容易い。
細腕からは想像出来ない力を秘めた、願いの緋星による一手。
迎え撃った鞭を掴んで引き寄せた女性が、体勢を崩してエルゼへよろめいた。
「夢も希望も勝利も、全てはこの緋色の手で掴む……」
紅緋の乙女のダンスパートナーを務めるように、銀青の乙女が身を翻し。
「──それだけです」
握り込んだ拳に焼却の炎が燃え盛る。
瓦礫に躓いて倒れる寸前に見た赤に、女性は蕩けた笑みをうっとりと咲かす。
『あぁ、なんて、素敵な』
焼却の炎を宿す深紅の拳へ疾い遠心力を乗せた重撃が、悦びに溺れる言葉の続きごと床へ叩き潰した。
「……なんだ、人では無かったんですね」
血を吐いてもおかしくない状態で、口から零すのは薄緑の液体のみ。
人と見紛う精巧な造りをした人形に感心しながら背筋を伸ばす。
階段脇を目指すと、上手く隠れていた地下への入口が開いていた。
見えぬ暗闇の底を黙って見据えたエルゼは、一歩ずつ着実に階段を下り始める。
🔵🔵🔵 大成功
真白・漆黒新手か!?ああ、良かった!ゾンビでは無い……!
我と同じ人形か。
(雑に扱われた形跡があるな。
人形の命が軽いのは何処の世界でも同じか。感情移入してしまって非常に戦い難いんだが……。)
……ん?我を赤くする?
赤の方が素晴らしい……だと?
上等だ!黒の凄さを証明してやろう!
人形同士、今回は我が直接戦おう!
鞭による近接攻撃は武器を使って受け止めるか攻撃自体を[牽制]しよう。
氷銃で[射撃]系や[先制]、[不意打ち]などの戦闘技能を使いながら一纏めに誘導する。
誘導が完了したら『氷牙絢爛』で纏めて攻撃を。
……彼女達は使い捨てだったのだろうか?
衣装は黒だと決めてはいるが、赤い色も確かに美しかったと覚えておこう。
残るはゾンビが徘徊した原因を突き止めるのみ。
もうじきこの恐ろしいホラーハウスともおさらばだ。
そう明るい心持ちで探索する足取りは思いのほか軽い。
怯えて声を震わせた情けない少年は何処へやら。
今の真白・漆黒(漆黒の支配者のジェネラルレギオン・h09483)は勇ましく胸を張り調査にあたっている最中、二階の部屋を確かめ終えて颯爽と階段を降りようとした背後で、不意にヒールが鳴るような音がした。
「ひゃ!?」
いや惜しかった。
正面からなら少女じみた声をあげずに済んだかも知れないのに。
(新手か!?)
勢いよく振り返ると、気付かないうちに接近を許していた赤いドレスの何者かが其処に居た。
膝を震わせないだけまだ、漆黒が理想として掲げる姿の片鱗を纏っていたと言えよう。
一瞥しただけでは情報に無かった生存者かと思えたが、女性が立ち止まったにも関わらず続く足音から、様子がおかしいと察し注視する。
一人、二人と寸分違わぬ同じ顔が現れれば、人形だと瞬時に理解した。
華やかな見た目だが、よく見るとスカートがほつれていたりと、みすぼらしい装いに思える。
(雑に扱われでもしているのか? ……戦い難いな……)
人形の尊厳なんて何処の世界でも軽いと言われているような気がして、思わず感情移入をしてしまう。
戦わなくて済めばいいのに、そんな願いは何処へ届く事も無く、浸りかけた感傷は別の感情に塗り替えられる事となる。
『黒に青に、なんて酷い色なのかしら。 だぁれ? あなたに化粧したのは……。 素敵な赤に染めてあげましょう』
「……ん? 我を赤くする?」
酷い色と、聞き捨てならない言葉が聞こえた。
『えぇ、えぇ。 そんなつまらない色よりも素晴らしい、素敵な赤に』
「つまらない……? 上等だ!! 黒の凄さを|布教《証明》してやろう!」
憧れの象徴をけなされては我慢ならずに氷銃を構える漆黒と、押しつけがましい善意を掲げ自分が思う素晴らしい色へ染めようと鞭を構える人形。
「人形同士、今回は我が直接戦おう!」
各々が推すものの為、仁義なき戦いの火蓋が切られた。
先陣を切り鞭をしならせた人形の足元を氷属性の弾丸で撃ち、牙の形をした氷柱がトラバサミのように足首を捕まえる。
鞭の射程から抜けると、迫っていたもう一体に対してしゃがみ、足を払う。
背後から追いかけたもう一体を巻き込んで転んだ人形が、足首を捕まえていた人形に倒れこみ、自由を奪われたその足へ二体分の過剰な負荷が加わって折れた。
仲間が傷付いているのに、人形達は互いに気にする素振りを一つも見せない。
立てなくなり蠢くものの顔面に手をつき、躯を踏み付けて起き上がる姿は、他の個体に対して心底興味が無いのだろう。
使い捨てとして優秀なかつての手本であり──……今を生きる自分にとって、人か駒かを区別する境界だ。
(人形同士。 そうは言ったが、今の俺は)
先に放った弾丸の冷気が漆黒を包み、狙う精度が高まった銃口を団子になった三体へ向ける。
「刮目せよ! これが|最強主人公を目指す者《黒を纏う漆黒の支配者》の力だ!」
絶対零度の弾丸を放ち、牙のような氷柱が次々と人形を貫いていく。
白く冷気を漂わす銃口をふっと吹き、黒いマントを翻して、動かなくなった人形達へ背を向ける。
「支配者の象徴たる黒を脱ぐ事はしないが……赤も確かに美しかったと、覚えておこう」
(うわぁ、かっこよく決まった……)
綻びそうになる表情を懸命に抑え、再び探索へ身を投じて行った。
🔵🔵🔵 大成功
結・惟人皆を無事に助け出せて良かった
後はただ、敵を倒すのみ
さて、出て来たのは…人形か
お前達も関わっているのなら…破壊する
舞う桜の花弁
花吹雪にしてその身に纏えば
翻弄しながら拳や足で攻撃
敢えて壁際に追い詰められたフリをして
攻撃を躱し叩くフェイントもかける
たくさん居るのなら、無駄に消耗はしたくない
素早く終わらせていこう
力が溜まれば、敵に幻の桜を咲かす桜閃を放つ
一瞬見えた、薄緑
毒…まさか
何せよ、あれだけは喰らわないようにしなくては
接近する時は十分に注意を
赤い化粧は要らない
早くお前達の主に会わせてもらおうか
何故って?
終わった命は、安らかに眠らせてあげたい…
こんな事、もう二度と起こらないように皆で止めてみせる
無事だった者達は全て助け出す事が叶った。
中には手遅れだった者や、大怪我を負った者も居たけれど、ゾンビ化を免れて帰れた人数の方が多かったのは幸いだ。
かつてリビングだったと思われる広間へ佇む結・惟人(桜竜・h06870)が、八人は食事が出来そうなアンティーク調の長テーブルに手を添える。
何体も……否、何人も。 腐敗が進んだ状態の人々がいて、その殆どが給仕服らしき装いだった。
今はダンジョンである此処が元はただの屋敷であり、当時働いていた人々が生きる屍となって緩やかに腐っていったのだとしたら──……。
持ち上げた手の指先に付着した白い埃を眉を顰め見下ろすと、目を閉じてそっと払った。
「……?」
はっと大きな古時計へ向くと、止まっていたはずの針が動いている。
12時か24時か、長針と短針が天辺に揃った時、澄んだ音色が鳴り響く。
静寂が再び訪れる筈の広間を、古時計が片開きに開く軋む音が満たす。
派手な赤いドレスを着込み、全く同じ外貌のもの達がぞろぞろと現れた。
恐らく人形だろう。
『染めやすそうな淡い色ね』
『主は気に入るかしら』
『赤はお好き?』
『お人形さんみたいに可愛らしいのに、勿体無いわ』
『お花みたいに綺麗なのに、勿体無いわ』
口々に語るその中に“主”と、黒幕を示唆する単語を聞いて険しく目を矯める。
「お前達も関わっているのなら……破壊する」
惟人の髪が風に靡き、小刻みに揺れる窓硝子が胸中を代弁するように騒ぐ。
舞い散る桜吹雪が互いの間に吹き荒れ、人形が放つデザートナイフの軌道を翻弄する。
避け易い環境を作ったにも関わらず攻撃の合間に桜吹雪を弱め、壁へ追い込まれた体で油断を誘い、振り上げた鞭を身に纏った花弁の奔流で受け流す。
背後へ回り込み拳を繰り出そうと仕掛けた嘘に鞭の牽制が入り、続く攻撃を軽々しく避け飛び退いた。
『うふふ、捕まえた』
その先で惟人を受け止めようと構える人形。
強引に身を捩り、内に溜めた力を練り上げて触れた手を通じて放つ。
ぱっと狂い咲いた幻の桜が散り、蝕まれた躯が床へ転がる。
悶えて跳ねる人形の口から零れた薄緑の液体が、汚れたラグの染みに消えた。
「毒? ……まさか……」
ゾンビ化に関わる物かも知れない。
無闇に接近しないよう、一対一で確実に攻撃を当てるように室内を逃げ回る。
『ほら、止まって。 幸せな気分にしてあげる。 皮や肉を解いたら、赤いお化粧で飾れるのよ?』
「要らない」
袖を掴んできた人形を引き寄せ桜閃を咲かす。
床へ崩れ苦痛に呻き暴れる姿を顧みず、残る人形へ鋭い視線を向けた。
「早くお前達の主に会わせてもらおうか」
『ねぇ何故、何で、こんなによくしてあげようとしているのに、どうして逃げるの!』
「何故って?」
まだ内部に残したまま、仰向けに寝かせて姿勢を整えただけのご遺体を想う。
終わった命を弔い安らかに眠らせる為に。
そして何より──……。
「こんな事、もう二度と起こらないように皆で止めに来たからだ」
怒りに任せてデタラメな軌道を描くデザートナイフを避け、脇腹へ蹴りを入れた人形が壁に衝突し、その頭へ触れ桜を散らす。
出てきた全てが咲いた順に動かなくなっていくのを確認してから、開いた古時計へ歩み寄った。
🔵🔵🔵 大成功
第3章 ボス戦 『屍王『ラフェンドラ・オピオイド』』
POW
ゾンビ・パラディーン
自身の【使役するゾンビ化モンスター】を、視界内の対象1体にのみダメージ2倍+状態異常【ゾンビ化】を付与する【強化ゾンビ】に変形する。
自身の【使役するゾンビ化モンスター】を、視界内の対象1体にのみダメージ2倍+状態異常【ゾンビ化】を付与する【強化ゾンビ】に変形する。
SPD
ナイツ・オブ・アンデッド
半径レベルm内にレベル体の【ゾンビ化モンスター】を放ち、【血肉の匂いに特に敏感な嗅覚】による索敵か、【身体部位ひとつ】による弱い攻撃を行う。
半径レベルm内にレベル体の【ゾンビ化モンスター】を放ち、【血肉の匂いに特に敏感な嗅覚】による索敵か、【身体部位ひとつ】による弱い攻撃を行う。
WIZ
ゾンビウイルス・インフェクション
【ゾンビ化モンスター】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【ゾンビ化】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
【ゾンビ化モンスター】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【ゾンビ化】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
「ゔぅ゙ああ゙あぁゔ!!」
蒸留器や培養器……様々な機器が並ぶ研究施設のような造りの地下で、銀髪の女性が拘束された手足を暴れさせ、横たわる長テーブルを軋ませる。
血走った双眸へ涙を溜めて口から泡を垂らす傍らに寄り添うラフェンドラは、持っていた空の注射器を箱へ捨て、袖で女性の涙を拭った。
「がんばってください。 大丈夫、怖くないですよ」
猫撫で声を耳へ吹き込み、指先でそっと髪を梳く。
「もう少し、がんばって……」
鼻先を耳朶へ擦り寄せ口付ける。
その途端、喉が千切れてしまいそうな甲高い叫び声が地下へ轟き、大きく開いた口から多量の鮮血が溢れ出す。
天井を仰ぎ目を見開いたまま、女性はぴくりとも動かなくなった。
「……」
顔を離して見下ろすラフェンドラの表情は、先程までの甘えた仕草が嘘のように表情を凍らせた。
「まだ、だめなのですか。 おねえさま……」
女性の顔の横へ置いていた髑髏を抱え直し、悲しげに撫でる。
「また、検体を無駄にしました。 わたしは愚図な、いもうとです……ごめんなさい……」
淡々と嘆くラフェンドラは、此方へ向かっているであろう複数の足音に気付く。
送り出した人形達とは違う。
上で暴れていた邪魔者を排除出来なかったのだろう。
でも、とっておきの検体を失った今は生物なら好都合だ。
「……なんて幸運なの……?」
捕縛を手伝わせようと檻の中で唸る“失敗作達”を解き放つ。
──各所に設けられた扉を開き現れた者達へ、夜のようなドレスを纏った真っ白なひとが微笑みかける。
従えた生きる屍達を撫でながら。
「おねえさま、新しい検体が……来ましたよ」
真白・漆黒此処まで残酷な事が出来るなら、目的が「姉の為」では無く「自分の為」に置き換わっているのではないか?
ラフェンドラ、だったか?
いい加減に目を覚ますが良い。
……妹がこんな事に手を染めて喜ぶ奴が居る訳……無いだろ。
諦められない気持ちも解る。
だが生を願ったとしても全てが元に戻るとは限らないんだ。
辛い現実を受け入れて前に進んだ少女を知っている。
今回の技は確実に当てなければならない。氷銃を使って攻撃を仕掛ける……と見せて敵が逃げられない様にレギオンや氷で敵の動きを阻害する盤面を作る。
[牽制]系の技能を使い、[演技]で気付かれない様に全力で追い込む。
場が整ったら戦闘技能を全て使って『氷銃連続射撃』で攻撃する。
地下へ続く階段を見付け下った先。
暫く続いた廊下を歩き扉へ入ると、ゾンビを侍らせた虚ろな人物が立っていた。
「ラフェンドラ、だったか?」
真白・漆黒(漆黒の支配者のジェネラルレギオン・h09483)が名を呼ぶと、薄く笑った顔をゆっくりと此方へ向けてきた。
否定する事も無い不気味な笑顔は、無言の肯定を示している。
「良いところへお越しいただきました。 丁度、新しい検体を探しておりました」
「いい加減に目を覚ますが良い。 “姉の為”では無く“自分の為”に目的が置き換わっていないか?」
くすくすと声をあげるラフェンドラに放った言葉は、嬉しそうな顔を唖然とさせた。
「目を覚ます……? おねえさまが仰るんですよ」
「……妹がこんな事に手を染めて喜ぶ奴が居る訳……無いだろ」
「……?」
不思議そうに首を傾げたラフェンドラが身体を向けてくる。
心底理解が及ばないといった様子に焦れ、漆黒は眉間にきつく皺を寄せた。
辛い現実を受け入れて前へ進んだ少女を知っているからこそ、対峙している者も同様に受け入れ、前へ進めるのではないかと……そんな幻想を抱いてしまった。
前提から壊れているとも気付かずに。
「諦められない気持ちも解る。 だが生を願ったとしても全てが元に戻るとは限らないんだ」
「諦められない……? 元に戻る……?」
「死んだ人間は戻ってこない。 貴様の姉だって」
「あなたは、何を言っているの?」
視線だけで射殺そうとするような、光を宿さぬ恐ろしい眼。
投げかけた言葉の全てを切り捨てるたった一言が首を絞め、呼吸すら忘れてしまいそうな程に、ほんの一瞬が数分の出来事のようだった。
動く事が出来なくなっている漆黒に、ラフェンドラの表情がぱっと華やぐ。
「えぇっ!? ……酷い事を言われたのに……お優しいですね、おねえさま。 あなた、幸運ですよ。 ウイルスの改良に活用していただけるそうです」
「……何を、言って……?」
面食らった顔の漆黒には、それらしき声など聞こえなかった。
混乱するうちに使役されているゾンビ達が鈍い動作で向かって来る。
「くっ……!」
氷銃を抜き最も近いゾンビへ向けて発砲した弾は当たらず髪を掠めた。
その隣を歩くものの足元付近を続けざまに撃ち牽制する。
このままではラフェンドラのペースにのまれてしまう……翻弄されれば数や地の利が有る敵の方が圧倒的に有利だ。
こうなったら動揺を隠す事無く演技に昇華し、望む戦況を掴むしか無いと覚悟を決め、氷銃を構えて走る。
焦って攻撃を外しているように見える牽制を繰り返し、出来るだけゾンビが分散せず密集させる位置を取り叫ぶ。
「我にも妹がいる! だから、こんな悪事に手を染める貴様を見ていられない!」
「言うに事欠いて、おねえさまとわたしの崇高な夢まで侮辱なさるの!? おねえさまは死んでない、此処に居る、おねえさまとふたりで実現した命を繋ぐ神秘よ! やっと完成したの! でもまだ足りない、もっと──」
髑髏を抱いて狂ったように吼えるラフェンドラの喉を氷の弾が穿つ。
よろめいて俯いた顔は、その頬に一筋の涙を伝わせた。
「もういい、もう……姉と共に……眠ってくれ」
休み無く放つ弾丸は、敵対するもの達を牽制し、開いた弾創を氷や霜で覆う。
ラフェンドラは、膝をついても決して髑髏を離さない。
「ぉ、……、さ……ずっ……ぃ……」
か細い声は最後まで、姉と共にあることを主張していた。
それは自分に言い聞かせているのか、真実なのかは、闇へひた隠して──……。
🔵🔵🔵 大成功
クラウス・イーザリー(説得して聞くような相手じゃなさそうだな……)
姉への想いが強いというのはわかるけど、他人を害していい理由にはならない
……なんて正論で止まるのであれば、こんなことはしていないよな
向かってくる失敗作達に向けて紅蓮の魔弾を放ち、火炎で焼き尽くす
死ぬに死ねないのだろう彼らも、早く終わらせてあげたいな
活性化した魔力を受けながら、ダッシュで一気にラフェンドラとの距離を詰めて槍の形に錬成した魔力兵装で貫く
「気持ちはわかるよ。俺も、大事な人を失ったから」
思い浮かぶのは、自分を庇って死んだ親友の顔
「だけど、俺は他人を犠牲になんてしたくない」
お前とは違うんだ、と
どこか自分に言い聞かせるように呟く
(説得して聞くような相手じゃなさそうだな……)
“新しい検体”と呼ばれたクラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)が表情を曇らせた。
両手では足りないような数を手にかけざるを得なかったというのに、まだ幾人ものゾンビがラフェンドラの周囲に控えていて、更に犠牲者を増やそうとする言葉を当然のように言う。
「まだ続けるつもりなのか」
「やめる理由が、どこに?」
姉を想う気持ちが強いというのは理解出来るが、それは他人を害していい理由にはならない。
薄ら笑う顔に向かってそう説いてやりたい気持ちに蓋をする。
(……正論で止まるのであれば、こんなことはしていないよな)
きっと、こうなるしか道が無かった。
大切な人を想う気持ちを理解しながら、ラフェンドラの敵としてクラウスがこの場に立っているのと同じように。
「皆さん、生かすか殺すかは彼次第ですが、逃がしてはなりませんよ」
使役されたゾンビ達が主の声に反応して向かってくる。
「逃げる気なんて、ここへ踏み込んだ時から無いよ」
クラウスは燃え盛る炎を弾丸として射出するイメージを頭に思い浮かべ、悪戯に魔力を浪費しないよう片手の三指を拳銃のように伸ばし、狙いを定めて放つ。
命中したものは自分の身体が燃え始めても、狼狽えたり消火するような行動を見せず、ただ|クラウス《標的》へ向かって進む。
隣が燃えようが誰も意に介していないこの状況は、無抵抗な者を一方的に殺戮するようで、地上階を彷徨っていた一人ずつを相手にした時とは比べられない程の淀みを心に垂らす。
(彼等は死ぬに死ねないんだ)
罪悪感を背負っても、誰かが送り出してやらなければならないと逸る心が放つ炎を強め、体表の多くを焼いたものから崩れ落ちていく。
燻る血肉から立ち込める異臭をもって、縛られた命達が次々と解かれていった。
恨めし気に奥歯を嚙み締め眉を寄せたラフェンドラが駆け出す。
「止めないと……!」
それに気付いたクラウスが体内の魔力を活性化させて掌に錬成した槍を掴んで奔り、積みあがる資材の陰に消えたその姿を追うよりも、進行方向へ合流する方が良いだろうと踏んで回り込む。
「大丈夫ですおねえさま。 ここを放棄しても、次の研究所がもうじき」
抱いた頭蓋を見下ろして物陰から出たラフェンドラの胸に衝撃が加わる。
自分の胸に繋がった何かの棒の途中で頭蓋が割れ、抱える腕から落ちていくそれを追いかけようとする前に、引き抜かれる棒に揺すられて重心を崩した。
真っ直ぐに顔を上げて見たのは、刃や胴金に至るまで血で染めた槍を持つクラウスの姿──……。
溢れ落ちる多量の血液は、生ける屍達の黒ずんだものとは違う。
鮮やかな色をした血溜まりにラフェンドラが両膝をつき俯せに倒れ、言葉の代わりに血を吐きながら砕けた頭蓋へ苦しそうに手を伸ばす。
その姿を見ていたクラウスが手にしていた槍の形を崩してしゃがみ、頭蓋の小さな欠片も拾ってラフェンドラの眼前へ置くと、細く白い指が大切そうに集めて掌で優しく包んだ。
その顔は苦痛に歪むより、姉が傍に居て安心したのか微笑んだ表情を浮かべている。
「……気持ちはわかるよ。 俺も、大事な人を失ったから」
自分を庇って死んだ親友の顔を思い出しながら、思念操作に続く魔力の消費で重くなった瞼が下がり目を細める。
「だけど、俺は他人を犠牲になんてしたくない」
お前とは違うんだ。
両手で顔を覆い自分へ言い聞かせるようなクラウスの呟きを、鼓動を止めたラフェンドラは最後まで聞いてやる事が出来なかった。
🔵🔵🔵 大成功
結・惟人大事に抱く髑髏
あぁ、その人がとても大切なのだな
私は大切な人を喪う気持ちを知らない
過去の記憶が無いから、喪っているかどうかすらも
でも大切な人達は居る
想像しただけで…いや、想像もしたくない
その悲しみには同情するが、検体にはなれない
奪われた命も、それぞれ誰かが大切に想っていた
だから此処で止める
腕を白き |竜《ドラゴン》の腕へと変え、鋭い爪で攻撃
あまり刺激はしたくない
可能ならば髑髏は避けて攻撃する
放たれたゾンビ達は、その場にある物を怪力で利用し
動きを封じて各個撃破していく
大切な人の為にここまでしてきた相手だ
元より話が通じる期待はしていない
この道しかないというのなら
何処までも追いかけよう、ラフェンドラ
侵入者とされ直ちに襲いかかって来る事も無く、嬉しそうに迎えられて結・惟人(桜竜・h06870)は目を伏せる。
心地が悪く腹の前で両手の指を軽く絡ませ、ラフェンドラが抱える頭蓋を眺めた。
赤子でも抱くかのように、落としてしまわぬようしっかり支えて撫でる仕草から、とても大切なものだと伝わってくる。
「わざわざご足労いただき、ありがとうございます」
「皆、お前がやったのか」
「はい。 肉体を失ってしまったおねえさまが、またご自分の足で暮らせるように。 一緒に肉体を作っています。 美味しいご飯も食べられない、可哀想なおねえさま……どうかあなたも、わたし達に手を貸してくださいませんか?」
犠牲にした命へ悪びれる様子も見せずに、ゾンビの生みの親が言い放つ。
何故そこまでして、と思う惟人はまだ、大切な人を喪う気持ちを知らない。
過去の記憶を失くしてしまっているから、喪っていないかすら定かではないが……けれど、過ごす日々の中で大切な人は幾人か出来た。
その人々のうち誰かを喪うと考えれば、この狂気の根源を識る事も叶うのだろうか。
「……いや、想像もしたくない」
それは、守ると誓った自らの手で大切な誰かを傷付けるのと同義だ。
例え想像であっても許せない。
小声で呟き絡ませた指を解いて、真っ直ぐにラフェンドラを見据える。
「その悲しみには同情するが、検体にはなれない」
「どうして……?」
「抱いているその人だけではない……お前が奪った命も、それぞれ誰かが大切に想っていた。 私にも、死ねば泣かせる人達がいる。 だから自らこの身を手放さず、此処で止める」
拒絶を宣言し、徒人であればそれだけで威圧されるような氣を纏って、腕を白き |竜《ドラゴン》のものへと変えていく。
「止める……? どのように?」
首を傾げたラフェンドラが数歩下がる。
「わたしを殺しても、研究の成果はそのまま残ります。 それぞれ誰かが大切に想っていたと仰いながら、まさかその手でこの場に居る全員を殺めようと言うのですか?」
ゾンビ達が、ラフェンドラの盾のように惟人へ向かって歩み出す。
「まだ皆さん、生きていますのに」
彼等の隙間から、光を映さない昏く冷たい眼が此方を見た。
感情の欠片も乗らない無表情が放った言葉は静かに耳を刺し、惟人の指をひりつかせる。
話し合う望みは持っていなかったが、大切な者の為と大義名分を掲げ、こんなにも卑劣になれるものだろうか。
「これを、生きていると言うのかお前は……ッ」
沸き立つ怒りに声を震わせ、向かってくるゾンビ達の横を抜けようと駆け出すが、操られたもの達は正確に進路を変えて向かってくる。
身一つで数を相手するには彼等が持つ性質が厄介だ。
半端に荷が開いている大きな木箱を投げて歩みを鈍らせ、せめて一撃で屠れるよう竜化した手に伸びた鋭利な爪で引き裂いていく。
ただ数を増やしただけのゾンビ達はあまりに無力で、次々と色の悪い血を散らせて倒れ伏し、不利を悟ったラフェンドラが背を向ける。
「逃がさない」
追い風を纏ったように駆ける惟人の鋭い爪が逃げる背中を引っ掛け、その肉へ深く食い込み裂きながら積まれた資材へ叩きつけた。
力なく床にずり落ちたラフェンドラが、ゾンビ達を手にかけた善良な姿を横目に見て嘲笑う。
「っ、どうぞ……彼等のように、殺してください……? わたしは何度でも蘇り、必ずおねえさまを救います!」
「……ならば何処までも追いかけよう、ラフェンドラ」
怒りや悲しみを瞳に宿して誓う惟人は、一切の迷い無く赤黒く染まった爪を振り下ろした。
🔵🔵🔵 大成功
エルゼ・アーベントロート死という絶望から大切なひとを取り戻す
その切なる願い、胸に痛みを覚えるほどに解ります
私もまた妹を取り戻そうと、世界を巡る者なのですから
ですが……
「そうやって幾人をも犠牲として、屍の上に咲く命の花は……幸せなのでしょうか」
悲劇の元、沢山の血の流れた先で蘇って
「お姉様というひとは、幸せに微笑んでくれるのでしょうか?」
向ける言葉は私の心にも刺さる言葉
だからこそ、必ずこの惨劇を止めて見せましょう
数多のゾンビが集っても、躊躇うことなく【星の運命】と【救いの瞳】を発動させながら前へ、前へとダッシュを
全てを相手取るような余裕はありません
地を砕く程の怪力によるジャンプで壁へ跳び、早業の身のこなしで天井へと跳躍
更に壁、天井と連続して跳躍を重ねて、ゾンビの集団を飛び越えてラフェンドラの前へと辿りついて、懐へと入り込みましょう
「貴女が広めるのは病と絶望。結局、誰かから奪うことで失わせるということ」
だから私とは違う
その想いを以て、【アウロラ・メッサーシュ】で変形させた願いの緋星を振るいます
冷たき流星の瞬きを示すは2回攻撃
ふたつの流星が翔るが如くと身を断ちましょう
少女の繊手と甘くみないでください
「大切な誰かと一緒に生きたいと、奇跡を願うこの手です。貴女とは、違う」
勢いと全身の力を、そして私の求める『死者の生還』とはこれとは違うのだという想いを込めて
「簒奪者の魔の手を討つ。その先で、私は幸福な悲願を果たします」
眼前に現れたエルゼ・アーベントロート(導星の瞬きを願う・h04527)の姿を見たラフェンドラは、飛び込んできた幸運に目尻を下げた。
頭の天辺から爪先まで舐り、嬉しさを堪えきれない笑い声をくつくつと喉奥で鳴らす。
「おねえさまに似合いの、素敵な検体がいらしたわ」
死という絶望から大切なひとを取り戻したいという切なる願いは、エルゼにも覚えがある。
自分自身もまた妹を取り戻そうと世界を巡る者であり、姉と妹の立場は違えど胸に痛みを覚えるほどに、ペンダントへ込められた微かな灯火と再び並ぶ日を夢見ているから。
|生ける屍《こんな悲劇》を生み出す禁忌へその精神を堕としてさえいなければ、心から共感し寄り添う事も出来ただろう……。
「そうやって幾人をも犠牲として、屍の上に咲く命の花は……幸せなのでしょうか」
命の花と。
その一点だけを都合良く拾ったラフェンドラが破顔した。
「そうです、おねえさまは一番尊い花なのです。 ねぇ美しいあなた、花になってずぅっと一緒に暮らしましょう? おねえさまは、それが最もしあわせだと仰っています。 先程は、失敗してしまいましたけれど」
背後の長テーブルへ横たわる動かないものを、ラフェンドラはちらりと振り返り、エルゼへ向き直って頷いて見せる。
「きっとあなたは大丈夫です。 他の検体で沢山改良を重ねてから、わたしたちの悲願を結実させるのです。 それまで皆様のように時を止めて、待っていてください」
試作段階では腐ってしまったが、完成した今となっては綺麗に保存出来る。
嬉々として研究の成果を語る様子から、倫理観や道徳的判断を喪失していると感じ取り、否定する言葉だけでは止められないと判断したエルゼがゾンビ達を侍らせたラフェンドラへ歩み寄る。
友好的な意図だと勘違いしたラフェンドラもまた、頭蓋と目を見合わせ撫でてからゾンビ達を置いて歩み寄っていく。
「私は、貴女のお姉様に似ていますか?」
「御髪の艶色がそっくりです」
余程嬉しそうに振舞っているから、瓜二つなのかと思っていた。
想像以上に些細な理由で、もしかするとぼんやりとした要素しか覚えていないのかも知れない。
「そうですか……。 仮に記憶も仕草も感情表現も見た目も、全て同一の存在を作り上げたとしましょう。 それは貴女のお姉様ですか?」
「ええ、勿論です」
「ならばお二人の願いが完璧に実現した時……」
臆せず簡単に互いの手が届く距離まで踏み込んだエルゼが、上体を幾らか下げてラフェンドラを覗き込むと真っ直ぐ見詰め、頭蓋へ人差し指をあてがった。
「大切に抱いている|頭蓋《これ》は、誰なのですか?」
「……ぇ」
頭蓋を示した人差し指も握り、それを目掛けて拳を振りかぶる。
「やめてぇ!!」
咄嗟に身を捩ったラフェンドラは無理に身体を捻り、背を盾にして頭蓋を庇った為に、殴られる前に足をばたつかせながら尻もちをつく。
「自分を犠牲にしてでも庇うものが、簡単に別のものと挿げ替わるものですか」
「違うもの、こんなのおねえさまじゃない、今だってわたしを慰めてくれております、怖い人ねと寄り添ってくださっております、もうすぐまた……」
大粒の涙をぼろぼろと床へ落とし、頭を振り睨んでくるラフェンドラを、エルゼは静かに見下ろす。
“こんなのおねえさまじゃない”と涙声で言いながら物言わぬ頭蓋を抱え直し、背を向けて掠れた声で呟き膝や足だけで床を這い逃げようともがいているが、柔らかなドレスに阻まれ肩から転げ頭を打っている。
止まらない涙を拭う事や転倒から身を守る行為までも排して離すまいと頭蓋を抱く姿が、獣が唸るようにしゃくりあげる声が、ただ痛ましい。
「要らない、こんな検体要らない! 早く殺して! 処分してください!」
使役者の命令に応じたゾンビ達が後退するエルゼへ押し寄せる。
一部は泣きじゃくるラフェンドラを介助して起こし、十分な距離を取り守り始めた。
ラフェンドラの目を覚まさせるには、姉本人でなければ無理なのだろう。
けれどこのゾンビ達だけではなく、これまでもこれからも数多の血が流れた先、屍が積まれた玉座に息を吹き返したとして……。
「お姉様というひとは、幸せに微笑んでくれるのでしょうか?」
己が心にも刺さる言葉はくびきのように、道を外れるなと囃し立てる。
どんなに心がひび割れようと、決してこのように割れるなと。
だからこそ……。
(必ずこの惨劇を止めて見せましょう)
膝を曲げ重心を落とすと細く息をし、迫り来るゾンビ達を見据えた。
十分に引き付ける間、弱々しい光がエルゼの周囲で弾け、踊るように瞬く。
星の大地を巡る生命に溢れた一際眩い星彩が双眸に輝いた次の瞬間床を砕き、跳躍する軌跡を壁から天井へ次々に引いて身を翻しラフェンドラの前へ再び躍り出ると、傍仕え達を床へ叩き伏せ懐へ入った。
「貴女が広めるのは病と絶望。 結局、誰かから奪うことで失わせるということ」
「あなただってそうでしょう!? わたしからおねえさまと笑いあう機会を奪おうとするじゃない!!」
「私はあの子を取り戻す為と、誰の命も奪いません」
告げた想いが緋色の戦闘籠手を極光の凍刃を持つアームブレードへ変える。
繋ぐ手を失った少女の繊手が携えた刃に宿すは、同じ悲しみを増やさぬという切なる願い。
立て続けに二度鮮やかな刃筋を奔らせ、眼前の災禍を斬り裂いた。
「何かを犠牲にすることなく大切な誰かと一緒に生きたいと、奇跡を願うこの手です。 貴女とは、違う」
床へ崩れた傍で事切れている遺体を盾にしようと、襟首を持ったラフェンドラの手を腕ごと斬り落とす。
繋ぎ助け合う為の手で死者の眠りすら妨げ奪い尽くそうと、“|大切な人《死者》の生還”へ全てを注ぎ求める咎人が、今この時だけは何も為せないように。
「あ゙ぁ゙ぁああ゙ぁ──!!」
「簒奪者の魔の手を討つ。 その先で、私は幸福な悲願を果たします」
双眸へ宿した星彩の輝きは願いや祈りを届ける流星の如く、振り下ろす極光は夜闇を遮る天幕のように。
持ち得る全ての力を一撃へ込め、呪いの言葉を叫ぶラフェンドラを斬り伏せた。
♦︎
此度、洋館で起きた事件に携わったEDENの中には、地下で見付けたウイルスと思わしき薬品を持ち帰ったりゾンビを生かして保護すれば、被害者を元に戻す方法を探る足掛かりになるのではと思う者が居たかも知れない。
しかしその為には大掛かりな準備を要する筈で、外へ持ち出す危険を天秤へかけた末に、施設類を全て壊し、地下へ残るゾンビ達を討ち、中庭へ弔う事にした。
皆使えそうな道具を探し出し、泥だらけになりながら穴を掘り、遺体を炎で焼いて残った骨を埋めていく。
静寂を取り戻したこの場所で眠った人々は、今度こそ誰も利用される事は無いだろう──……。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功