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冬晴れカフェタイム

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 よく晴れた冬の日は、思うよりも陽射しがあたたかい。澄んだ空気の中に差し込む光はやわらかく、肩に触れる度に季節の冷たさを少しだけ和らげてくれるようだ。
 降葩・璃緒(花ひらり・h07233)は、いつものように趣味の散歩がてら、まだ足を運んだことのない街の郊外まで足を伸ばしていた。気の向くままに未知の道を進んでいく速さはゆったりとしたものだが、散歩に慣れた彼女の足取りには迷いがない。
 そんな折、ふと視界の端に華やかな薔薇の色が入り込む。ガラス張りの温室で咲き誇る花々は、冬という季節を感じさせないほどに色鮮やかで、思わず足が止まった。
 一見すると植物園の温室のようにも見えたが、どうやら中にはカフェが併設されているらしい。表に出された看板に目を向けた璃緒は、展示されたメニュー表を見てわずかに目を丸くした。
 ――綺麗な薔薇が見れて、美味しいお菓子も食べられる。
 そうと知ったときには、もう心は決まっていた。むしろここで入らないという選択肢が、彼女の中には存在しない。
「時間もちょうどおやつ時だし、これは運命ってやつだねっ」
 軽やかな声音でそう呟いて、温室の扉を開けた瞬間。
 ふわり、と甘い香りが鼻先をくすぐった。蜂蜜の匂いと、薔薇の香りだ。
 温室いっぱいに広がる薔薇はただ咲いているだけではなく、ひとつひとつが丁寧に人の手によって世話されていることがひと目で分かる。近付いて見れば花びらは張りと艶を湛えていて、葉の色も深く傷ひとつなかった。
 その事実に、自分には直接関係が無いにもかかわらず、なぜか胸の奥がじんわりとあたたかくなる。人に大切にされている花々を見ると、不思議と自分のことのように嬉しくて。「ふふ、」――きっと、そういう性分なのだと璃緒は小さく笑った。
 そして。案内されたカフェの一席に腰を下ろすと、テーブルに置かれたメニュー表に自然と目が向く。そこからが、またひとつの戦いだった。
 どれも美味しそうで、どれも魅力的で。冬季限定とされているメニューはスイーツからホットドリンクまでと幅広く、簡単には選ばせてくれないらしい。写真付きの説明を追うだけで、胃のあたりがきゅっと反応するくらい。まだメニュー表を眺めているだけなのに、もうお腹が空いてきてしまうのだから困ったものだ。
 璃緒は財布の中身を思い出しながら、指先でページを行き来する。迷って、悩んで、もう一度迷って――、
「……よし、決ーめた!」
 小さく息を吸い込み、選びに選び抜いた渾身の注文を告げる。
 シフォンケーキとプリン、それから蜂蜜レモンのケーキ。ドリンクも最後まで悩んだけれど、今日は甘さに身を委ねることにして蜂蜜入りのホットミルクを選んだ。
 そして注文を終えたあとは、自然と視線がまた薔薇へと向かう。
 この薔薇、可愛いな。あっちの色も好きだな。育てるなら、どんな土がいいだろう。育ててみたいなぁ、なんて。そんな取り留めのない考えを巡らせているうちに、時間はゆっくりと、けれど確かに流れていくのだった。

 やがて運ばれてきたプレートを前にして、璃緒は思わず息を呑んだ。
 ふんわりと高さのあるシフォンケーキ、艶めく黄金色のプリン。そして甘やかな香りが際立つ蜂蜜レモンのケーキまで。どれも丁寧に盛り付けられていて、可愛らしさと上品さを兼ね備えている。食べる前から心が弾むようで、璃緒は目を輝かせながらスマートフォンへ手を伸ばそうとした。
 ――写真、撮っても大丈夫かな?
 一瞬そんな考えがよぎる。けれど、目の前のご馳走から漂ってくる甘い匂いが、それより先に背中を押してきた。まるで早く食べて、とふわふわのシフォンケーキに囁かれているような気さえして、こうして悩む時間すら惜しくなる。まもなく璃緒は小さく頭を振って、結局スマートフォンには触れないまま、ぱちんと音を立てて手を合わせた。
「――いただきますっ!」
 まずは、シフォンケーキから。
 フォークを入れた瞬間、そのくちどけの軽さに驚いてしまった。口に運べばほとんど抵抗を感じることもなくほどけて、ふわりと消えていくのだ。「……!」そのあまりの儚さに思わず目を丸くする。優しい甘さで、生クリームと合わせても重さがまったくない。いくらでも食べられてしまいそうな軽やかさに、璃緒は頬をゆるめた。
 次はプリン。いわゆるレトロプリンは少し硬めの仕立てで、フォークを入れても形を崩すことなくきれいに切り取れる。口に含めば舌触りはなめらかで、しかし味はもったりと濃厚なものだ。卵のコクと蜂蜜の甘さが、ゆっくりと口の中で広がっていく。
「んんー、食べる手が止まらない……!」
 思わずこぼした溜息は、幸福感がたっぷりと滲んでいた。
 蜂蜜レモンのケーキもまた、先ほど食べたシフォンケーキとはまったく違う表情を見せてくれる。甘さの中にほんの少しの酸味があり、後味がすっきりしているのだ。次のひとくちをまた食べたくなるような絶妙なバランスに、気付けばフォークを持つ手が止まることなく動いていた。
 そうして、ひとしきりスイーツを味わったところで、璃緒はようやくティーセットに手を伸ばす。ホットミルクはコクがあるのに飲みやすく、蜂蜜の甘さがまろやかに溶け込んでいて、ひとくち飲めばそれだけで体の芯まであたたまりそうだ。
「……ちょっと眠くなってきたかも」
 ふっと、まぶたが重くなる。
 心地よさに身を委ねすぎてしまいそうになり、璃緒は小さく首を振った。「――はっ、危ない危ない!」薔薇に囲まれた温室に漂う甘やかな香りと、あたたかな飲み物。味わいつくしたスイーツたち。ここまで来れば眠くならない方が不思議だけれど、しかしここで眠ってしまってはせっかくのホットミルクも冷めてしまう。
 そして、しばらくして。
 きれいに食べ終えたプレートを見下ろしながら、璃緒は満足そうに息を吐いた。
「……今度は、誰かを誘って来たいな」
 食べてみたいスイーツもまだまだいっぱいあるもんね、と笑ってメニュー表をちらりと見遣る。ひとりで味わう時間も楽しいけれど、きっと誰かと分け合えばもっと素敵なものになる。そう思いながら、もう一度だけ薔薇を見上げた。
 次に訪れるときは、どのスイーツを食べようか。――そんな小さな期待を胸に、璃緒はこの温室に流れるゆったりとした時間を、最後のひとときまで噛み締めるのだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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