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萌ゆる金糸雀

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●さいわいのうたを咲かせて
「璃緒、今回はこの花を育てて増やしてご覧なさい」
 やわらかな声音で以って告げられた師のことのはに、降葩・璃緒(花ひらり・h07233)は瞳の中にひかりの粒を花開かせながら喜びと好奇心に弾けんばかりの元気な声で『はい!』といらえた。
 目の前に置かれた鉢植えには見たことのない一輪の花が咲いている。初めて見るその花にすっかり心を奪われた璃緒は、すごい、すごいと身を乗り出しながら大切に鉢植えを抱え上げた。
「すごく綺麗な花なんだよっ! 任せて、師匠っ。いっちばんおおきなプランターをこの子達でいっぱいにしてみせるんだから!」
「ふふ。ええ、楽しみにしていますよ」
 可愛い|弟子《孫娘》の意気込みにくすりと笑みを溢し、花の老婦人は璃緒がほんとうに飛び上がってしまいそうな足取りで駆けていくのを、その背が消えていくまで眩しそうに目を細めながら優しく見守り続けていた。

 花の部分はストレリチアにも似ているが、それよりは随分小柄だ。葉や生え方そのものを見れば福寿草のほうが近いだろうか。鉢植えの中に咲く花はちいさく、まるで開いた花の上に小鳥がとまっているようだった。
「えへへ。はじめまして、だね! キミは何てお名前なのかな?」
 まるでちいさな隣人にそうするかのように語りかけながら、璃緒はぱらりと愛用の植物図鑑を捲り出す。それは知りたい花の姿を強く思い描きながら頁を開けば不思議とその花が記された箇所を開くことが叶う、璃緒だけのとっておきの書物。たとえどんな世界に存在しようと、数多の平行線の景色に咲く花であろうと、花籠の書は何時だって璃緒の『しりたい』に応えてくれるのだ。
「……うん、うん! 姿が同じ。この花なんだよっ」
 『|金糸雀草《Laetitia》』。ちいさなさいわいを招く花。
 福寿草に似た黄色い花の上に金糸雀がちょこんと座しているようなすがたかたちをしているが、広げた黄色い花弁に見える部分は萼であり、本体となる花は中央の金糸雀に擬態した部位なのだと云う。一度の植え付けで二年以上、数年に渡って開花と結実を繰り返す多年草の一種であり、大切に世話をすればずっとずっと春告のころに花を開かせてくれる。今こうして花を咲かせてくれているのは、師匠が手ずから温室で世話をした賜物なのだろう。
「綺麗な姿にピッタリの素敵なお名前だねぇ」
 書いてあることを熟読してしっかりと頭に叩き込まねば。比較的強い生命力を持つ花だとは分かっても、それでも雑に扱ってしまえば花たちは容易く枯れてしまうことを璃緒はよく知っている。かといって、世話を焼きすぎても根腐れを起こしたり病気を招いたりしてしまうからきちんとその子に合ったお世話の仕方を覚えなくてはと、少女は綴られた文字をタブレット端末のメモに纏めながら金糸雀草のあり方を学んでいく。
「これは温室にある、これは準備しないといけないな……」
 スノードロップの涙を二週間に一回。小鳥の囀りを聞かせると、うんときれいな花が咲く。それから、それから。土は何が向いているか。森の奥深くに咲く花ならば、腐葉土を混ぜてやると喜びそうだ。本来春にその花を咲かせる花なのであれば、温度管理をきちんとしなければ元気をなくして萎れてしまうから、気をつけなければ。
「うーん、難しそうだけど……その分やり甲斐があるんだよ!」
 キミたちがいっとう気に入るふかふかの土のベッドを用意しよう。凍える冬を越した先に、うたうように翼を広げ花開く時を待とう。璃緒は今はたった一輪のこの花にたくさんのともだちが並んだ光景を描きながら、ブリキの如雨露いっぱいに水を注いでいく。一先ずはキミが種を結ぶまで、めいっぱいの愛情を注いでやらなければ――。

 それから、数週間後。
 まるで眠りにつくように閉じた萼が花を連れてぽろりと土の上に落ちていることに気付く。金平糖のように実を結んだ果実は比較的大ぶりで、書に記されていた通りに種がたくさん詰まっているのだろう。彼らが故郷である森ではたくさん花を咲かせていたのであろうことを知り、璃緒は知らず笑みを浮かべながら果実にそっと手を伸ばした。
「乾燥は魔法で時間を短縮できるかな?」
 精霊術は普段璃緒が扱う花の魔法とは似て非なるものではあるが、今まで培ってきた技術を応用すればきっと出来るはず。きゅっと握り込んだ両てのひらの中に閉じ込めた果実にだけ風を運ぶように。周囲に咲く花々を驚かさないようにと、願いを込めて集中すれば――ぱきり、と乾いた音が鳴るのに璃緒はぱっと顔を綻ばせて恐る恐るてのひらの中を見る。
「……やったぁ! ふふっ、必ずキミの仲間を増やしてみせるからねっ!」
 砕けた金平糖の中から溢れ落ちたのは、しあわせのかけらたち。黄色の粒が可愛らしい種たちを落とさないようにそうっと包み直し、璃緒はいそいそとこの日のために準備していたプランターの前へと小走りに駆けていく。
 手順は何度も確認した。皐月の頃合いの温度に保たれた場所で、朝はお水をたっぷりと。プランターの中に優しく被せたやわらかな土のベッドにぱらぱらと種を蒔いていけば、あとはねぼすけな彼らが急に訪れた春に驚いて、慌てて目覚めはじめる時をお世話をしながら楽しみに待つだけ。
「早くまたキミに、ううん、キミ達に会いたいな」
 萌芽の瞬間が待ち遠しい。それから少しずつ育っていく姿を毎日欠かさず見にいくことだって、堪らないほどの喜びに違いない。
 キミ達はどのくらい背を伸ばしてくれるかな。葉っぱを増やしてくれるかな?
 心を込めてお世話をすれば、花たちはきれいな花を咲かせることでそれに応えてくれることが何より嬉しい。だから璃緒はこの温室も、花たちのことも大好きで。
「へへ、きっと師匠も喜んでくれるんだよ」
 まるで我が子のように自分を可愛がってくれる師匠。『よくできました』と頭を撫でてくれるそのてのひらが、何よりいちばんこの胸を、欠けたこころを優しく包み込んでくれるから。師とふたりでこの子たちが満開の花を咲かせてくれる日を心待ちにしながら、璃緒は並ぶプランターたちをいとしげにじっと見つめ続けていた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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