シナリオ

月香を求む

#√ドラゴンファンタジー #ノベル

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√ドラゴンファンタジー
 #ノベル

※あなたはタグを編集できません。



 重たい木製のドアを開ければ、夕暮れの寒空に幽かな茶葉の香りが舞う。
「どうぞ、リリィさん。にわか雨でしたが、雨上がりで濡れています。足元にお気をつけて」
「わ、ありがとうございます、ルイさん」
 √ドラゴンファンタジーでダンジョン入口に店を構える紅茶専門店、『ティールーム・エンソン』。そこは今日も、本型の紅茶缶『冒険の本《あいこと葉》』を求める人々で賑わっている。ルイ・ラクリマトイオ(涙壺の付喪神・h05291)とリリィ・インベント(編纂者の蕾・h00075)も、そのうちの一組だ。
「ずっと気になっていたお店でしたからね、こうして訪れることができて良かったですよ」
「ふふふ、それは何よりです。ここならきっと、お探しの茶葉も見つかりますよ!」
 この店に並ぶ商品は、隣接するダンジョンに生成される“ランダムな茶葉が入った、本型の紅茶缶”を採集したものだ。多種多様な味わいが一堂に会した空間で、本の表紙を開き、一期一会の出会いを楽しむ――それがこの店の大きな魅力である。しかし、今日の二人は、“ある一冊の本”に描かれたお茶を探し求めていた。
 その本の題名は、『月虹の物語』。昼に、飛行船で“√百鬼夜行の本”が話題となった際、ルイがリリィにあらすじを語って聞かせた小説だ。
『空の月を見上げる少年と、彼を見守る月の化身が、互いを信じ、長い時と困難を超えて邂逅を果たす――その長い旅の末に、二人が酌み交わした『月のお茶』を、いつか見つけてみたいのです」
 そう話すルイに、異√の物語に目をきらめかせていたリリィが協力を申し出て、二人はこの店を訪れたのだ。

「困難の果てに辿り着いた飛行士を労い、癒すために差し出されるお茶ですので……きっとそれは、優しいものだと思うのです」
「たしかに、身体にも良さそうですね?」
 目の前に広がる巨大な本棚に目を滑らせて、気になった装丁を開き、二人で茶葉を確かめる。
「やはり装丁は夜色でしょうか。あの本も、深い青の表紙でしたし……」
 個性豊かな本たちは、その中にも豊かな世界を秘めている。優しげな草原、明るい果実畑、積まれた干し草――本を開くと溢れる茶葉それぞれの香りを楽しむうちに、時間がゆっくりと溶けていく。


 やがて日がすっかり沈んだ頃、ルイは、星空に飛行機が浮かぶ一冊を見つけた。その本を開くと、柔らかな白桃がふわりと香り、透明な光が二人をすっと包みこむ。白い大地を照らすこの光は――月のかがやきだ。優しい光にもかかわらず、その輪郭が明確なのは、ここが星空の世界だからだろうか。

 気づけば、二人の心はティールームへと戻っていた。
「これは……白茶かも?」
「白茶、ですか?」
 リリィの呟きに、ルイがそっと中身を確かめる。そこには、銀の産毛をまとった細く白い針のような茶葉に、青みのある茶葉が少しだけ混ざって入っていた。光が当たると控えめに艶めく産毛が、月光をまぶしたようだ。
 その会話を聞いた近くの店員が、そっと話しかけてくる。
「おや、お客様方……珍しいものを見つけられましたな。ごく稀に採れるのですよ、白茶ベースのブレンド茶も」

 白茶――淡い黄の水色をしたそのお茶は、苦みや渋味が少なく、柔らかな甘さが湯気に香る。飲めばするりと心身に溶けて、こわばりをほどいてくれるだろう。

「そうなのですか、ありがとうございます。……これが、『月のお茶』かもしれません」
 店員の解説に礼を述べて、優しく本を抱えたルイに、リリィが微笑む。
「ふふふ、お目当てが見つかって良かったです。ルイさんさえよろしければ、後ほど淹れ方をお伝えしましょうか? 繊細なお茶ですから、紅茶とも緑茶とも、気をつける点が違うんです。特にそれは、ブレンドティーのようですし……」
「えぇ、ぜひ。白茶についても学びたいです。緑茶は淹れ慣れているのですが……実は、紅茶も上手に淹れられるようになりたくて、練習中なんですよ」
「では、紅茶もまた、別の機会にご一緒しましょう……!」

 買い物を済ませた二人は、淹れたお茶を思い描きながら帰路につく。
「きっとそのお茶は、月光のように淡く綺麗な水色です。ガラスのカップが似合うしれませんよ、ルイさん」
「ポットも丸いガラスのものだと、満月のように見えるでしょうか。もしそうなら、そこから注ぐお茶は、月に架かる橋のようでしょうね」
 そのときが来たら、美味しいお菓子を置いたテーブルの上で、低めの温度で、優しく丁寧に、ゆっくりと淹れよう。そうすれば、ポットに淡い月光が満ちていく。カップに注いで、最後に小さな小さな銀のシルバーシュガーを少し降らせれば、優しい余韻が心を満たして――きっと、物語の味になる。


 にわか雨をもたらした雲が去り、空には美しい月虹が架かっていた。二人を見送った店員が、それを見つけて、願いを込める。
「どうか、お買い求めになられたそのお茶が、あなたのお口に合いますように」
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト