ゆめのとびら
寝る前に少量齧れば不思議な夢を見ると噂のチーズ。
今宵、貴方が見るのはどんな夢——?
☆
ふわふわ、きらきら。金平糖のような雪が降り。
ふわふわ、もこもこ。綿菓子のように積もっていきます。
そんなパステルカラーの雪で飾られた森の小道を、ユニは楽しげに歩いていました。手の中で銀色に光る羅針盤は、目の前を指し続けています。きっとこの先に何かがあるのでしょう。
「なんだろう? 帽子みたいな小屋が見えてきたぞ」
森の小道のずぅっと向こう、木々の隙間からとんがり帽子のような屋根が、ひょっこり顔を覗かせていました。なんだか不思議な形をした小屋ですね。
その大きな屋根の下、小さな扉からやってきたのは……七人の小人達?
「やぁやぁ、待ってたよ!」
「君が連れてきてくれたんだね!」
赤い三角帽を被った小人達は、ユニを見て大喜び!
彼らは嬉しそうに手を繋ぎ、ユニの周りをくるくる回り始めました。
「おお、大歓迎だな! でも連れてきた、って?」
「僕らの姫さ! ほら、出ておいでよ」
そうやって小人が呼びかければ——。
コン、コン、コン。
「む?」
メダイヨンの内側から、小さく扉を叩く音がします。
ユニが不思議に思ってロケットを開くと、中からパァッと眩い光が!
「おはよう、僕らの姫!」
——辺りを白く染めた光が落ち着くと、目の前に一人の少女が立っていました。
赤いサンタ風ワンピースとケープ姿のその少女は、何故だか顔も表情もどこかぼやけていて。けれど、ユニには分かります。だって彼女は!
「リリィ!」
ユニに名を呼ばれると、少女は嬉しそうに飛びついてきました。
「あははっ! その服かわいいな、すごく似合ってるぞ!」
王子様のように抱き止めたまま褒めれば、少女は嬉しそうにくるりと回ります。ユニも一緒にくるっと回れば、まるでお城の舞踏会のよう!
「さぁ姫、出発の時間だよ。子供たちの願いを叶えてあげて!」
そんな小人達の声に頷くと、少女はにっこり笑ってユニを手招きしました。
もちろん、ユニが断るはずがありません。
仲良く手を繋いで小屋へと向かえば、そこには淡い夢色の星屑で作られた、小さなソリが用意されていました。二人乗りの座席の後ろには、大きなサンタの袋も見えます。
「このソリは星の力で動くんだよ」
「僕らの姫をよろしくね!」
「ああ、任せておけ!」
ユニがそう胸を張って宣言した時でした。
「お前かい、新しいサンタの女の子っていうのは」
いつから居たのでしょう。小人達の後ろに黒いドレスの女の人が立っていました。
「ああっ魔女だ! 悪い魔女がまたプレゼントを奪いにやってきた!」
「王子様、僕らの姫をどうか守って!」
「おやまぁ、皆にちやほやされて良いご身分だこと。私にもとびきりのプレゼントくれるかい? その袋ごと、ね」
そう言って鋭く伸びた爪を少女に向け、魔女はニタリと笑います。
なんて邪悪な表情なのでしょう!
隣で震えながらも必死に首を振る姿を見て、ユニは少女を庇うように前に出ました。それから勇ましくステッキを掲げて、よく通る声で宣言します。
「大丈夫だ、愛しい姫よ。貴方は私が守ってみせる!」
いつかの本で読んだ王子様のように、背筋をピンと伸ばしてステッキを一振り。
宵色の頂点、銀の一角獣から星屑が溢れだすと、ユニと少女を包んでいきました。
「リリィ。お手をどうぞ、だぞ!」
ソリの座席へ少女をエスコートするユニの横顔は、どこから見ても王子様!
キラキラ、シャララ。
星屑は煌めく硝子の架け橋となり、二人を乗せたソリを空へと運んでいきます。
「お待ち! プレゼントを全部よこすんだよ!!」
慌てた魔女が橋を渡ろうとしますが、何故だか足がすり抜けて、いつまで経っても渡れません。きっと心の清いものしか渡れないのでしょう。
悔しそうに地団駄を踏む魔女をよそに、小人達が手を振り見送ってくれました。
「そういえば、どこに行くのか決まってるのか?」
「うん。リリィね、一番にあげたい人がいるの」
これまで喋らなかった少女の、その声だけは何故だかよく聞こえて。
そうして「あそこだよ」と指をさしたのは、淡いピンク色の大きなわた雲です。
「分かった!」
ユニがソリを向かわせると、だんだんわた雲の中心に何かが見えてきました。
すやすや、くぅくぅ。
やわらかな紫のたてがみに、ピンクがかった尻尾。真白の一本角だってあります。
そこで眠っているのは見覚えのある、夢色の『 』。
「えっ!?」
驚くその声に反応して長い睫毛が震え、瞼が持ち上がっていき——。
☆
——ぱちり。
目を開けたユニは、しばらくそのまま瞬いた後、視線をキョロキョロ。
「聞いてくれ! とっても不思議で楽しい夢だったぞ!」
そうしてメダイヨンを手繰り寄せると、語りかけるように両手で包んだのでした。
——今宵の不思議な夢は、これでお終い。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴 成功