慟哭に染まる正義の行方
●慟哭に染まる
己が愛した女が、他者によって、その命を奪われた。
言葉にすれば、それだけの話だ。
だが、そんな言葉だけで納得出来る人間は、どれだけいるというのだろうか。
共に過ごした日々は、思い返せば充実していた毎日だった。彼女という存在が、己の世界を鮮やかに彩り、春は桜を見て、夏は海で波と戯れ、秋は紅葉に染まる公園を歩き、冬には寄り添って体温を分け合い、四季の巡りに気づくことが出来た。
小悪党な己の存在など、どうせいつかは誰にも知られずに、この世界から消えていくものだと思っていたはずだったのに、見つけてくれた、認めてくれたのだ。
なぜ、あんな良い女が理不尽に死ぬ?
死ぬのならば、己で充分だったはずだ。
彼女と出会い、真っ当に生きる事が出来るようになった己には、小悪党だった頃とは違い、幸か不幸か、周囲には心配をしてくれる人々は一定数存在していた。
だが、どうしてだ。
その者達は、一様に『復讐など馬鹿げた事はよせ』と、己を窘めてくる。
どうして、そう言ってくるのか。
己には、心底理解出来ない。
彼女の死によって芽吹いた、この正当であるはずの復讐心に、どうして共感してくれない?
あの日々は、永遠に奪われてしまったのだ。それをどうして許容出来ようか。
そんな時だった。誰も近寄ろうともしない、今はすでに忘れ去られた祠があるという噂話を聞いたのだ。
それを壊せば、古妖という存在が封印を解いた対価として、願い事を1つ聞いてくれるという。
これが悪い事か否か。
頭の隅では、小悪党だった頃の警戒心が警鐘を鳴らす。騙されていると、利用されているのだと。だが、どうでも良かった。己にとっては、どちらにしろ、そんな事は些細な問題だった。
ただ、奪われたのだから奪い返す事が、己にとっての正義だと。男は手に持った木槌を大きく振りかぶり、古妖が封印されているという祠を破壊した。
●正義を問う
「いやぁ。難しいモノっすね。人の心というものは」
そう言って、|伽藍堂・空之助《がらんどう・からのすけ》 (骨董屋「がらんどう」店主・h02416)は手にした煙草を吸って煙を吐くと、その煙が消えゆく様を眺めた。
「此度の事件は、古妖の封印を解いて、賊によって命を奪われた恋人の復讐を果たそうとする男の話ッス。よっぽど憎かったのか、男は頭の隅では利用されていることすら理解していながらの行動だから困ったものですねぇ」
封印の場所は、滅多に人が来ず、忘れ去られた場所にあるらしく、古妖によって誑かされた男から話を聞き出す以外は特定するのは難しいらしい。
男は、今では自暴自棄になって、常にお酒に溺れているような有様で、常連の飲み屋に行けば安易に会えるだろうと、空之助は語る。
「首謀者は、暴れたいだけの大妖『荒覇吐童子』。コイツを倒して、再度封印してしまう事が最終目標ッス。ただ、男からすれば、騙されていようが、復讐が成されなければ、このままでは男自身が凶行に及ぶ可能性があります。まずは、封印の場所と同時に、その可能性の芽も摘んでおいてくれると助かるっすね」
空之助曰く、男は復讐を是としており、己の果たすべき正義であると考えている。それを理解してくれない周囲とは距離を置いてしまっているそうだ。
そんな男への説得方法は皆に任せるという。男と語り、説得を試みるも良し、或いは、力を行使して強引に聞き出す事も可能で、どちらも正解だと空之助はあっけらかんと言ってみせた。
「男にとっては、大切な人を奪った者への復讐は正義。では皆様方の正義は、果たして男を説得出来るほどのモノがあるかどうか。はてさて、それは蓋が開けてみないことには分からないっすね」
結果を楽しみにしているっすよ、と胡散臭い笑みを浮かべると、空之助はヒラヒラと手を振りながら、皆を見送るのだった。
マスターより

皆様方、初めまして。
新人マスターの|師走 文《しわす ふみ》と申します。
参加してくださる方は勿論、閲覧してくださった方々にも感謝を。
本作、√EDENの初シナリオとなっております。
●第1章
変に性根がねじ曲がってしまっている男の物語。復讐は正義と盲信しており、それを制止する者達との縁は絶っているほど。ただ、それほどまでに彼女を愛していた故の感情。調査というよりは、説得メインのプレイングで問題ありません。貴方/貴女にとって、男が抱く復讐は正義か否か。それを含めて熱く語ってくれると幸いです。
説得に成功すれば、破壊した祠の場所を教えてくれるでしょう。或いは、なんらかの手段(√能力)を用いて強引に聞き出す事も皆様には可能でしょう。
●第2章
第1章においての聞き出し方(説得か力技か)の比率によって、分岐する形となっております。
●第3章
封印が解かれた、大妖『荒覇吐童子』との決戦です。
ただただ暴れたいだけの迷惑な奴ですが、力こそ正義な分、純粋な戦闘力は高いので、どうぞご注意を。
●注意事項
複数人での参加は勿論大歓迎ですが、冒頭でも何処でもいいので、プレイング内において、分かりやすいように『お相手の名前』或いは『参加チーム名』の記入は忘れず行ってください。
他参加者様との絡みOK、等の他参加者様との合同リプレイを了承される旨が書かれている場合のみ、合同にしたりします。記載が無い場合は、基本的に1人1人でのリプレイ返却とさせていただきます。
各章、結果を踏まえつつ断章を挟んでから進行、プレイング募集となっております。
それでは皆様方のご参加、お待ちしております。
11
第1章 冒険 『彼、彼女は何故封印を解いてしまったのか』

POW
其のスタミナを活かし根気強く調査し続ける。
SPD
其の素早さを活かし走り回って調査する。
WIZ
調査は頭脳。其の頭脳を活かした堅実な調査を。
√妖怪百鬼夜行 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

チマチマ祠の場所探しなんて性に合わねえ。
知ってる奴が居るんだから、聞きゃあいいんだよ。
あ?妖怪をつかって復讐?
おいおい、妖怪なんかに任せといたら死体が残るとは限らねぇ。
ホントに仇が討てたかどうかも判らねえじゃねえか。
つうか、そもそも仇討ちなんて自分の手でやるもんだろ。
ま、力が足りねえってんなら、ちっとくらいは手を貸してやるぜ。
助太刀ってワケじゃねえが、行き掛けの駄賃だ。
お前は女を殺した野郎を殺す、俺はその妖怪を殺す。簡単な話だろ?
※アドリブ・連携・ギャグ描写などなんでも歓迎
常連の飲み屋の片隅のカウンター席に、その男は座って静かに酒を呷っていた。
そこに。
「お前か。妖怪なんかに復讐を任せた奴っていうのは」
妖怪なんぞに任せたところで、死体が残るとは限らないだろうが、と牙が見えるように口を吊り上げ笑って、イグニス・カラミタティス(封じられた邪竜・h01278)は無遠慮に男の横に座る。
「……誰だ? お前は」
豪胆なカラミタティスの言動に、男は一瞬呆気にとられるが、すぐさま訝しげな顔を浮かべながら静かに睨む。
なぜ、どうして知っている、という疑問が頭の中で浮かんでは消えたが、己が抱いた復讐心を否定されないことで、男はカラミタティスを拒絶することはなかった。
「そもそも仇討ちなんて自分の手でやるもんだろ」
「そんな事は分かってる。だから俺は……」
カラミタティスの問いかけに、男は決意に満ちた表情を浮かべ、その通りだと頷く。
そうだ。己の力で成し得なければ、本当の復讐とは言えないはずだ。
なのに、あの時はどうしてあんな眉唾物に惑わされたのか。疑問は抱いたが、それが最後の境界線だったのかも知れない。
彼女が愛してくれた、己の手を汚すという罪悪感。
それがまだ、己の手で復讐を成すことにストップをかけていたのだと、酒の席の世迷い言だとでも思ってくれ、と、愚痴るように呟いた。
だが、そんな男の葛藤すらも笑い飛ばすように、その縦長の瞳孔でカラミタティスは真っ直ぐに男を見据えると、
「ま、力が足りないねぇってんなら、ちょっとくらいは手を貸してやるぜ。お前は女を殺した野郎を殺す。俺はお前が封印を解いた妖怪を殺す。簡単な話だろ?」
男は、そんなカラミタティスの豪胆ながらも真っ直ぐな言葉に、涙を堪えるように静かに頷く。
誰も認める事はしてくれなかった、己の醜くも果たすべき復讐を肯定する言葉に、男は確かに心を動かされたのだった。
🔵🔵🔵 大成功

アドリブ歓迎
身長170㎝ほどの、スラリとした少女の姿で事に当たる。
WIZ調査は頭脳。其の頭脳を活かした堅実な調査を。
安酒場に赴き、男を説得して祠の位置を聞き出します。
「なるほど。復讐は正義かも知れません」
「でもそれがなぜ、祠を壊して古妖を復活させて良いと考えたのか」
「そこが私には、とんと理解できません」
祠から現れた怪物が、周囲の人々を無差別に傷つけたとき。
被害者を悼む人々は、誰を恨めばよいのでしょう。
(男をじっと見つめて)
「あなたを、ですか?」
他人を傷つければ、憎しみの連鎖を呼ぶのだと伝える。
「女性の冥福を祈りましょう」
√能力《疾風怒濤》でWIZ能力も3倍。亡き女性に対して祈る力も3倍である。
人目を避けるように飲んでいた男に、明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)は、まずは肯定の意を伝える。
「なるほど。復讐は正義かも知れません」
「そうだ。この復讐は正義であって然るべきなんだ……!」
突然現れた、このような飲み屋では相応しく無いセーラー服姿の少女に男は驚き、目を見開いたが、己の復讐が正義だと肯定されたことで、男は持っていたグラスを強く握ると、そう言ってまた一杯と酒を呷る。
「でも、それがなぜ祠を破壊して古妖を復活させて良いと考えたのか。そこが、私にはとんと理解できません」
そんな明星の問いかけに、男はピタリと動きを止めると静かに語りだす。
「……俺だって、最初から自分の手で復讐することを考えたさ。だが、そうだな。ただ暴れて憂さ晴らしをしたかった。そういう気持ちもあったのかも知れない」
騙されているかも知れないという可能性は、男も理解はしていた。
祠を破壊することで得られる望みなんてものには、本当は興味など無く、この復讐は自分で成し得てこそ意味があるのだとも理解していた。
だが、それでも『もし、これで復讐が成されるのであれば、自分は手を汚さずに済むかも知れない』という考えが頭を過ぎったのだと男は言う。
「そこに、祠から現れた怪物が周囲の人々を無差別に傷付けた場合はどうなるか考えましたか?」
明星の更なる問いかけに、男は押し黙る。
当然考えてはいた、と答えようとしたが、そう答えることが出来なかったのだ。それは、己のような存在を生み出す可能性があったことを、無自覚ながらも理解していたのだから。
「その被害者の悼む人々は、誰を恨めばよいのでしょう。……あなたを、ですか?」
他人を傷付ければ、その結果待っているのは憎しみの連鎖だけだ。そう静かながらも、己が持つ正義を伝える明星の瞳の力強さに男は気圧される。
ただ、たとえ誰かに恨まれたとしても。
その結果が己の身の破滅であったとしても。
今更、彼女がいない世界で、己のような存在したところで意味が無い。結局のところ、男は自分自身すら憎しみの対象であり、その結果がどうであれ、そこに興味など抱かなかったのだと懺悔するように答えた。
「……だとしても。彼女の冥福を祈ったあなたは、間違いなんかじゃなかったはずです」
私も、彼女の冥福を。
そう言って、明星がそっと瞳を閉じて祈る。その姿は、本当に死んでしまった彼女を想い、真摯に祈ってくれていることが分かった。
その姿に、男の心は揺れる。
そうだ。復讐が正義かどうかよりも、まずは、明星のように彼女の死を悲しんでくれる人の存在を、己は知るべきだったのでは無いのだろうか。
悲しんだのは己だけだったか?
違ったはずだ。目の前で祈りを捧げてくれる明星の姿に、己の復讐を止めようとする者達の姿がダブって見える。
彼らは本当に、己を理解してくれていなかったのだろうか。
そもそも、復讐を思い悩んでいただけで、それを口に出したことすら無いのに、復讐を止めようとしてくれていた事自体が、何よりも己という人間を理解してくれていたのではないのだろうか。
酔っていたはずの頭は、そこまで考えが至ると冷水をかけられたように冷えくる。
そして、2度祈りを捧げる明星の姿へと視線を向けると、今度は小悪党だった己を戒めてくる彼女の姿が重なった。
「はっ……。なんだよ。お前まで俺が間違っているって言いたいのかよ」
復讐など、彼女が望まないことだとは理解していた。
でも、それでも。
彼女を失った己自身が許せなかった。
結局のところ、男は自棄になっていただけなのだ。己が許せないから、許されない事をすることで、その十字架を背負ったまま、彼女がいないときのように、誰にも知られずに息絶えたかっただけ。
静かに祈る明星の姿に彼女を重ね、男は静かに涙を流すのだった。
🔵🔵🔵 大成功

その感情を理解できずとも、共感は示す。肯定したいくらいだ。
しかし手段がいけない。彼には悪いが止めねばね。
彼の席の近くか隣に座って軽く声をかけよう。
小生、下戸故に茶でも頼みつつ。
やあ、失礼。話は聞かせてもらっている。
復讐を望んでいるんだって?
いや否定などしないさ。当然の感情だ。
止め処無い悲しみを荒れ狂う怒りに替えねば、生きることもままならない時がある。
復讐という感情の捌け口がなければ前も向けない。……その感情にどうして否と言えようか。
だが、だがね。
それを成せば、君と同じく復讐鬼が生まれる。
古妖は、君の大事な人のような、誰かの大事な人を奪う。
卑怯な物言いをするよ。
それは、君の大事な人は望むのかな。
「やぁ、失礼」
酒を呷る男の横に、久世・八雲(山羊髑髏の仮面医師・h01940)が座った。声を掛けられた男は、ちらりと久世に視線を移すとそのまま酒を進めている。
「復讐を望んでいるんだって?」
頼んだお茶を一口飲むと、久世は『話は聞いているよ』と、男に告げた。
その一言に、男はピタリと飲んでいた手を止め、久世へと疑惑の眼差しを向ける。中肉中背で白衣を身に纏っている事で医療関係者だと分かるが、その表情は、曲がりくねった角を持つ山羊の頭蓋骨の仮面で覆い隠されていて伺い知れない。
「誰だ。お前は」
「いや、否定などしないさ。当然の感情だ。止め処無い悲しみを荒れ狂う怒りに替えねば、生きることもままならない時がある」
男の疑いの眼差しを気にした様子も無く、久世は淡々と答えた。男も、己の復讐心を肯定されたことで、久世への警戒心を解いて素直に話に耳を傾ける。
「復讐という感情の捌け口がなければ前も向けない。……その感情にどうして否と言えようか」
だがね。
久世も、お茶を飲んでいた手を止めて、男を真っ直ぐに見据えて想いを伝える。
「それを成せば、君と同じく復讐鬼が生まれる。古妖は、君の大事な人のような、誰かの大事な人を奪うだろう。……卑怯な物言いをするよ。それは、君の大事な人は望むのかな」
その言葉に、男が驚き唾を呑む。
そして、声を震わせながら懺悔の口にした。
「……わかっている。そんなこと、最初から分かっているんだ。優しかった彼女が、復讐なんて望むはずがないってことぐらいは」
男の懺悔は続く。
「本当は、彼女が認めてくれた俺という存在をただ消したかったんだ。小悪党に戻った俺なら、居なくなったところで誰も悲しまない。彼女がいなくなった世界で、彼女が愛した男としてではなく、小悪党に戻って、誰かに憎まれて死にたかっただけなんだ」
己では、この心に芽吹いてしまった復讐の念は消せないだろう。
だが、それを行う事が、愛した彼女を裏切る行為だということは承知している。ならば、愛してくれた己では無くなれば、この感情は、この正義は許されるのではないだろうかと。
そんな詭弁を繰り返し、取り返しのつかない事をしてしまった。
そう言って俯く男に、久世は優しく諭すように言葉を投げかける。
「先の言葉は、小生が自己満足を得るための詭弁かも知れない。だが、それでも。君にとって、彼女が復讐を望まないという事だけは、揺るぎようのない事実なんじゃないかい?」
生前の彼女をもっとも知る男自身が、口にした言葉。
それだけは、どうしようもなく残酷で、だが、男にとってはどうしようもない事実。
あの彼女が、復讐を望むなんてことはあり得ない。
それは、男にも分かっていた。分かっていても、止められなかった。
この復讐の念を抱く己自身を。彼女のいない世界で生きることの絶望からくる、死への渇望も。
「……それ、は」
久世の言葉に、男は喉を震わせる。
人は、感情があるが故に他者を愛す。だが、その感情故に、たとえそれが正しくない事だと分かっていても、一度暴走してしまえば、自身では容易く止められないのだ。
だからこそ、許し欲しい。
女々しくも、こうして何度も彼女を失ってしまった哀しみを口に出しては、泣いてしまう事も。
🔵🔵🔵 大成功

※SPD、何してもいいよ
|頭《ココ》では理解できても、|心《ココ》が納得できない…そんな感じだな?
復讐自体はその人の心の話だ、オレは否定も肯定もしない
だが、先ほどまでの話を聞く限り…復讐その物を本当に望んでいるようには思えないんだ
どうだろう、いっそ今お前さんが抱えている思いを、全部ぶちまけてみたらどうだい?
オレはお前さんと何の所縁もない男だが、だからこそ受け止められる話もあるって思うぜ?
大丈夫…オレはどこにでもいる只の私立探偵
依頼人ではなくても、話し相手の「守秘義務」はしっかり守るさ
それに…
もしかしたら『神様』も聞いてくださっているかもしれないぜ?
ま、何の神様かは…知らないがね
「お前さんは、本当に復讐を望んでいるのか?」
そう言って、四二神・銃真(そいつの名前は死神ガンマ・h00545)は、自身が持っている名刺を男の前に差し出す。
「私立探偵、か。そんな人間が、どうして俺なんかに構うんだ?」
名刺を流し見た男が、四二神に問いかける。
「復讐自体は、その人の心の話だ。オレは否定も肯定もしない。だが、どうしてか、そういう簡単な話じゃなさそうでね。さっきも言っただろう?」
お前さんは、復讐自体望んでいるのか?
その問いかけに、男は押し黙る。
そう、復讐なんて詭弁を並べているが、本当は違う。四二神の問いかけは、実に的を得ていた。
「大丈夫。オレはどこにでもいる私立探偵。たとえ、それが依頼人じゃなくとも、『守秘義務』はしっかり守るさ」
おどけてみせる四二神に、男は警戒心を解くと、ただの独り言だと前置いて、その心情を吐露する。
「……本当は復讐なんて、どうでもいいのさ。ただ、彼女がいない世界で生きるのが辛くて。彼女が愛してくれた己という存在を貶めて、彼女を愛する前の、無価値だった俺に……小悪党だった頃に戻って、野垂れ死にたい。ただ、それだけなんだ」
誰かに恨まれてもいい。それすら己の存在価値を貶める要因となるのだから。
そうすれば、己を愛してくれた彼女を裏切る事も無く、ただ無価値な人間が、この世から消え失せるだけの話だ。
だから、あんな眉唾物にだって手を出した。
己の行為によって、誰かが傷ついたと知れば、きっと彼女は許してはくれないだろう。だが、それでいい。そうでなければ、意味が無いのだ。
こんな己を愛してくれた彼女に、愛想を尽かされるぐらいの存在になれば、己が野垂れ死ぬ事も、許されるんじゃないか。そう思っての行動だった。
「……なるほどね。どうにも、納得出来なかったんだが、得心が行った」
四二神が、男の独白に独り言で返す。
「だが、その願いばかりは聞き入れて貰えないかも知れないぜ。もしかしたら、『神様』も聞いてくださっていて、お前さんの愚行を止めるかも知れない。そうなったら、素直に彼女に謝ることだな」
四二神の軽口に、男は呆気に取られて、ふっと軽く笑みを浮かべる。
「なんだ、その神様は。随分と酷い奴だな」
「ま、何の神様かは……知らないがね。きっとその時は、お前さんの願いよりも、彼女の願いの方を聞き入れたって事なんだろうぜ」
「……彼女の願い?」
彼女という言葉に男は反応すると、その姿を見た四二神は満足げに頷く。
「自分が愛した男の馬鹿な行いを、無かったことにしてくれっていう願いさ」
四二神はそう言って義手の左腕を自身の顎に添えると、ニヒルな笑みを浮かべてみせるのだった。
🔵🔵🔵 大成功

古妖と言うのは√汎神の怪異と似てる気がするね。
出来るなら彼らを封じる前に身体の一部でも欲しいな。
「貴方が祠を壊したって言う方ですね?」
マスターこちらの方に一杯
男に奢って隣に座ろうか。使える技能は全部駆使して行くよ。
僕、その祠を探してて、色々調べてる時に貴方の話を聞いたんですよ。
別に非難しようとか言うんじゃないんでご安心を。
大事な人を亡くして何もしないで生きるのは辛いだろうしね。
まあ、自分の手でやればいいだろうとは思いますけどねえ。
あの古妖は本当に危険でしてね?
なんならあなたの仇がやられるまで、古妖を封じるのを待ったっていい。
ねえ、祠の場所、教えてくれませんかね?
「貴方が祠を壊したって言う方ですね?」
マスターに、男のお酒のお代わりを頼み、北條・春幸(人間(√汎神解剖機関)の怪異解剖士・h01096)は隣へと座る。
「……そうだ」
幾分か他者への態度が軟化していた男は、北條の問いかけに素直に頷いた。
だが、それでも初対面の人間に対する警戒心はあるようで、少々身構えながら北條を睨み付ける。
「僕、その祠を探してて、色々調べてる時に貴方の話を聞いたんですよ」
別に非難しようとか言うんじゃないんでご安心を、と付け加え、人好きのする笑顔を浮かべて、男の警戒心と解く。
大事な人を亡くして何もしないで生きるのは辛いだろう。ただ、自分の手でやればいいだろうとは思いますけどねえ、と告げると、男は自身の心情を理解してくれる相手と感じたのか。男は、北條の話に、素直に耳を傾けるようになった。
「あそこに封印されていた古妖っていうのが、本当に危険でしてね? なんなら、あなたの仇がやられるまで、古妖を封じるのを待ったっていい」
古妖と言うのは√汎神の怪異と似てる気がする。
出来るなら彼らを封じる前に身体の一部でも欲しいな。
そんな思いはおくびにも出さず、北條は淡々と告げる。
「なので。祠の場所、教えてくれませんかね?」
北條は率直に、己の要求を男に伝える。
己に寄り添ってくる者、諭してくる者。様々な者が訪れたが、ここまで直球に己の要望だけを要求してくる相手には、初めてだった。それが逆に、男にとっては新鮮であり、今更、あの祠の古妖がどうなろうと興味は持てなかったのが本音だ。
「……俺も、あんたみたいに真っ直ぐに生きていけたらって。今では、そう思えるよ」
その言葉は、決して皮肉では無いのだろう。男の笑みが清々しいものだった。
そうだ。どうして忘れていたのだろうか。
ひねくれた己に、彼女は北條のように、常に真っ直ぐに向き合ってくれていた。だからこそ、惹かれたし、今日まで愛してこれた。
そんな彼女に、顔向けが出来ない己のままではいられない。
今では、そう思えるようになった。
ならばこそ。
己の愚行によって、誰かが傷つくのが、とてつもなく恐ろしい。
だから、素直に誰かに頼ろう。それだけはきっと。間違いなどではないはずだから。
🔵🔵🔵 大成功
第2章 冒険 『古妖の呪い』

POW
気合で怪現象を退ける
SPD
呪いの発生源を突き止め、簡易封印を施す
WIZ
呪いに干渉し、無害な現象で上書きする
√妖怪百鬼夜行 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●断章
『まともに人も立ち入らないせいか、そこまでの道程は険しいものになると思う。ただ、俺が壊した祠はここにある』
そう言って、男は地図に示された一箇所を指差す。
皆の説得により、どうにか己の気持ちに整理がついたのか。男の表情は、何処か清々しい。
『壊してからは一度も近寄ってもないから、今はどうなっているかは俺には分からない。でも、今になって思い返してみれば、怪しい話だったのは確かだ。だから……、その。俺が言えた義理でも無いが……何かするつもりなら気をつけてくれ』
そう言って、己の愚行の尻拭いをさせてしまう罪悪感から、眉を下げつつも、男は注意を促してきた。自分の事を無価値だと散々言っていた男だったが、これが本来の姿であって、亡くなってしまった彼女が愛した男だと分かった。
彼女を失ってしまった男の心の傷は、この先一生癒える事はないだろう。
それでも、わざわざ小悪党などに戻らなくても、きっと今の男の在り方が、亡き彼女も喜ぶ。その事だけは確かだと思えたのだった。

アドリブ歓迎
SPD呪いの発生源を突き止め、簡易封印を施す
170㎝の少女の姿でニッコリ笑うと、
「『何かするつもりなら気を付けてくれ』ですか。気楽に行ってくれますわね。だが酔っ払いの愚痴吐きよりは好感が持てます。ぜひわたくしたちの無事を祈って下さいませ」
と言う。
急いでいけばまだ、大事になる前に間に合うかもしれない。
風のように能力値3倍で祠に走っていく。
呪いの発生源が確認出来たら再封印を試みる。
身長200㎝の巨体の、鉄十字怪人の姿を現し、
能力値3倍で近くの巨石を持ち上げたかと思うと、発生源の上にドカンと置く。
「間に合うか、南無三!」
正直、マジナイは不得手だ。これでダメならば他の√能力者の支援に回る。
「『何かするつもりなら気をつけてくれ』ですか。気楽に言ってくれましたわね」
女性の平均身長よりは幾分高い、だが、一般の女性ではあり得ないスピードで、明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)は、古妖の呪いによって浸食された地面を強く蹴り、疾走する。
『ですが、酔っ払いの愚痴吐きよりは好感が持てます。是非、わたくし達の無事を祈って下さいませ』
去り際に告げた明星の言葉に、男は一瞬きょとんとしていたが、すぐに破顔して頷いてみせた。
あの様子であれば、男の方は問題ないだろう。
そう確信を得るほどに見知った仲というわけではないが、何故か心からそう思えた。
「ならば、わたくしがする事はただ一つ、ですわ!」
男が指し示した祠には、まだ遠い。
だが、その道中ですら、これほどの不気味さを感じさせる古妖の強さとは如何ほどなものなのか。
正直、呪いの類いは不得手だ。
しかし、それを言い訳にして諦めてしまえば、男との約束を違える事になってしまう。亡くなった彼女が愛した男の笑顔が、再び曇る事になる。
それは許容出来ない。
出来るはずがない。
明星には、それだけで諦めない理由としては充分だった。
「……っ!? あれですわね!」
視線の先には、禍々しい妖気を放つ小さな祠。
近づくほどに、その呪いはまるで質量すらも持っているかのように、明星の身体を重くさせる。
この呪いの原因は、あれに間違い無い。
その直感と同時に、明星は嵐を身に纏い、能力を解放する。
「間に合うか!」
明星が、纏った嵐の中から衝動と共に抜け出すと、そこに居たのは先程までの少女の姿では非ず。
身長200cmの巨体を誇る鉄十字怪人の姿となって、近くにあった巨石を持ち上げると、そのままの勢いで突っ込む。
「南無三!」
裂帛の気合いの声と共に、鉄十字怪人となった明星が手にした巨石を振り上げ、下ろす。
凄まじい音が、響き渡る。
それと同時に、先程まで感じていた身体の重さと、周囲に渦巻いていた妖気が飛散していくのを感じられる。
「どうやら成功したようですわね……」
そう言って、再び少女の姿に戻った明星は、華奢な少女には不釣り合いな巨石にもたれ掛かると、ほっと一息つくのであった。
🔵🔵🔵 大成功

彼には感謝だ。速やかな到着になりそうだ。
そして安心した。あれならあの直向きな青年が無為に人生を浪費せずに済む。
さ、我々も頑張ろう。
件の祠までは、やはりというか呪いで妨害か。
防具に施した[精神抵抗・呪詛耐性・霊的防護]である程度は無事だけど。
物理的なやつは霊刀でばっさり、仮面のまま頭突き、白衣でのショルダータックルで凌ぎたいね。
まあ小生、只人ゆえに一般市民で凌げる範囲を超過すると無理なんだが──【怪異解剖執刀術】、メスの一振で怪異も物理も[切断]してくれる。
さて、呪いという名の嫌がらせにもパターンはあるだろう。
発生源があるなら切断・始末して、無理なら封印──御札とか、何処かから支給されてるかな?
遠くで響き渡った轟音に、他の能力者の成功を知る。
「彼には感謝だ。速やかな到着になりそうだ」
そして安心したと、獣道をひた走りながら、久世・八雲(山羊髑髏の仮面医師・h01940)は、独りごちる。
己を見送る際に見せた不器用な笑顔は、間違い無く生前の彼女が愛した男であったことは間違いないだろう。
「ならば、小生はその頑張りをもって、その想いに応えなくてはね」
さぁ、我々も頑張るとしよう。
そう意気込んだ久世の前に、禍々しい妖気を放つ小さな祠が見えてきた。その呪いの境界線が視認出来るほどの禍々しさに、どうしたものかと立ち止まる。
己が被っている山羊頭蓋骨面に、身に纏った白衣などである程度の耐性は持ち合わせているが、これは少々骨が折れそうだ。
「やはり、呪いで妨害か。小生は只人故に、一般人で凌げる範囲を超過すると無理なんだが……」
やれやれと肩を竦めながらも、その眼光は鋭く、祠を睨み付けていた。
そして、懐にしまってあったメスを取り出すと、厳かに己の能力の名を告げる。
「ー『怪異解剖執刀術』。悪いね。境界線ごと、その呪い。切断させて貰う」
久世によって振るわれたメスが、空間を切り裂く。
その効果は劇的だった。
先程まであったはずの呪いが、まるで存在すら無かったかのように、祓われていく。
そして久世は、振り上げた腕で飛散する呪いを振り払うと、その原因であった祠に一気に詰め寄り、|二度《にたび》、メスを振るった。
「こちらは無事に成功、と……。さて、他の皆も上手くやってくれるとありがたいんだけどねぇ」
先程までの雰囲気とは違い、静寂に包まれた森の中。ピリついていた雰囲気だった先程とはうって変わって、緩和した雰囲気を放ちながら、久世は他の能力者の無事を願うのであった。
🔵🔵🔵 大成功

仇討ちはナシか。まあ、本人が納得してんなら好きにすりゃあいいさ。
それならこっちの仕事を片付けねえとな。
つっても、魔術ならともかく呪いだなんだってのはよく解らねえんだよな。
……仕方ねえ、コイツを使うか。
「聖槍の欠片」で周辺を浄化するぜ<破魔/除霊>。
欠片とはいえ俺を倒せる程のモンだ。√が違ってもそれなりに効果はあんだろ。
それはそれとして女を殺した犯人の方は、後で二三回小突いておくか。
このままじゃ俺がスッキリしねえし、殺さなきゃセーフだよな?
※アドリブ・連携・ギャグ描写などなんでも歓迎
「仇討ちはナシか。まあ、本人が納得してんなら好きにすりゃあいいさ」
イグニス・カラミタティス(封じられた邪竜・h01278)は、眼前で禍々しい妖気を放つ祠を睨み付けながら、そうぼやきつつも、『それならこっちの仕事を片付けねえとな』と呟くと、腕を振り回しながら、祠へと一歩踏み出す。
だが。
「チッ……! 幾分かマシになったかと思ったが、そうは問屋が卸さないか」
その踏み出した一歩が、果てしなく重く感じられ、カラミタティスは忌々しげに舌打ちする。
他の者達は無事に成功しているのだろう。当初に比べれば、随分とマシになっている。
それでも、己にとってはよく解らない呪いという存在は、カラミタティスとってすれば、厄介な代物であることには変わりは無かった。
「……仕方ねえ。コイツを使うか」
そう言って、懐から取り出したのは、かつて己を倒した勇者が振るった、聖なる槍の欠片。
「欠片とはいえ、俺を倒せる程のモンだ。世界が違っても、それなりに効果はあんだろ」
聖槍の欠片を握りしめると、重くなる身体を無視して、カラミタティスはゆっくりとだが確実に祠へと歩を進める。
そして、そのまま祠へと腕が届く距離まで辿り着くと、聖槍の欠片を握りしめた腕を豪快に振るう。
力の権化たる竜らしく振るわれたその拳は、祠を見事に粉砕してみせた。
「……おっと。身体が軽くなったな。よし、問題なし!」
呪いなど知った事かと言わんばかりの豪快な解決策に、知る者が居れば苦笑いを浮かべていただろう。だが、邪竜であるカラミタティスにとっては、これが一番シンプルで解りやすい解決方法だったのだ。
「それはそれとして女を殺した犯人の方は、後で二、三回小突いておくか。このままじゃ俺がスッキリしねえし、殺さなきゃセーフだよな?」
粉々になった祠を踏みしめながら、そんな物騒な事をごちるカラミタティス。
どこまでいっても、そんな竜の気質は拭い去る事はできないのであった。
🔵🔵🔵 大成功
第3章 ボス戦 『大妖『荒覇吐童子』』

POW
鬼道怪腕撃
全身の【鬼の血】を【右腕】に集中すると、[右腕]が激しく燃え上がり、視界内の全員の「隙」が見えるようになる。
全身の【鬼の血】を【右腕】に集中すると、[右腕]が激しく燃え上がり、視界内の全員の「隙」が見えるようになる。
SPD
荒覇吐瞬迅拳
【古き鬼に伝わる古の格闘術】による高命中率の近接攻撃を行う。攻撃後に「片目・片腕・片脚・腹部・背中・皮膚」のうち一部位を破壊すれば、即座に再行動できる。
【古き鬼に伝わる古の格闘術】による高命中率の近接攻撃を行う。攻撃後に「片目・片腕・片脚・腹部・背中・皮膚」のうち一部位を破壊すれば、即座に再行動できる。
WIZ
鬼爪微塵撃
【無数の人や妖怪を切り裂いた鬼爪】を用いて「自身が構造を熟知している物品」の制作or解体を行うと、必要時間が「レベル分の1」になる。
【無数の人や妖怪を切り裂いた鬼爪】を用いて「自身が構造を熟知している物品」の制作or解体を行うと、必要時間が「レベル分の1」になる。
√妖怪百鬼夜行 普通11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
●断章
『……準備は上々。万事上手く整ったか』
その声は、古妖の呪いを解いた先にある、破壊されたはずの祠の中から、全ての者に響き渡った。
それは、周囲に届くほどの大きな声というものではない。
だが、そこに込められた明確な殺意が、周囲に存在する生きとし生けるものに圧となって襲いかかる。
ぐしゃり、と。
己を封じていた忌々しい存在。男の手によって破壊された祠の破片を、復活を果たした大妖『荒覇吐童子』が踏み砕く。
『……ふん。忌々しい奴等め。我の復活を嗅ぎつけていたか』
己が撒いたはずの周囲の呪いが、浄化されている。
その事に気がついた、大妖『荒覇吐童子』は忌々しげに呟く。だが、次の瞬間には、その顔は凶悪な笑みへと変化していた。
『良かろう。まずは邪魔する者を始末した|後《のち》、我に願った男を、その|願いの通り《・・・・・》屠る。その後は……蹂躙だ』
祠を壊した男が、真に願ったのは男自身の死だ。
それは、破壊を好む大妖『荒覇吐童子』とっては都合良く、本来であれば、己の復活のためだけに|唆《そそのか》した者の願いなど気にも留めぬが、死を望んでいれば別だと嗤う。
『喜べ。その願い、この大妖『荒覇吐童子』が叶えてやろう』
大妖『荒覇吐童子』は、そう気炎を吐くと、己が中に在る破壊衝動の赴くまま、その歩を進めるのであった。
まず目指すのは、己を邪魔する者達の排除。
そして。
次なる目標は、願った男を、その願い通りに殺す。
それらが成されるという事は、能力者達の今までの努力が無に帰す事を意味する。
不器用ながらも、能力者達の身を案じて見送った男の姿が脳裏に浮かぶ。その男が殺されてしまえば、今まで成した事に意味などありはしない。
能力者達がした行為は欺瞞と成り果て。
今度は、能力者達が信じ、掲げた正義は無意味なものとなって、慟哭に染まるだろう。
それだけは、避けなければいけなかった。
その為の戦いだ。
大妖『荒覇吐童子』の行く手を、阻むように立ち塞がる能力者達。
能力者達に、負けは許されない。

アドリブ歓迎
身長200㎝の怪人モードで事に当たる。
「奴の得意技は『鬼爪微塵撃』か。だが私の体は怪人細胞と強化筋肉、そして強化骨格で出来ている」
「長年、祠の下でイビキをかいていた古妖が『熟知』しているはずもない」
「そこに、隙がある」
愛用のブラスターキャノン、そして自律浮遊砲台・ゴルディオン1~3号機(アイテムです)による「弾道計算」された「一斉射撃」(技能です)で時間を稼ぐ。
何の時間を?
他の√能力者が来てくれる時間だ。
荒覇吐童子が私の体の解体に手間取っている隙に、√能力《ブラスターキャノン・フルバースト》を高火力で顔面に叩き込んでやる。
「夜は長いし人生は短い。さあ、続きを始めよう」
戦闘継続。
『貴様か。不遜にも我の邪魔をする輩は』
鉄十字怪人の姿へと変化した状態で自身と相対する、明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)を、大妖『荒覇吐童子』は鋭い眼光で睨む。
同時に、全身に鬼の血を右腕に集中させると、その右腕が激しく燃え上がらせた。
「……『鬼爪微塵撃』か」
鉄十字怪人となって巨躯を誇る明星は、怪人細胞と強化筋肉、そして強化骨格で構築された己の身体の強靱性には自信があった。
「長年、祠の下でイビキをかいていた古妖が、そう容易く私を倒せると思うなよ」
『貴様ッ……』
明星の言葉に、荒覇吐童子が怒りを露わにする。
明星の目的は、他の能力者達が到着するまでの時間を稼ぐ事。
そのためにも、まずは荒覇吐童子の意識を、自身に集中させる必要があったのだ。そして、その目論見は見事成功した。
『その言葉。後悔する間の無く死ねッ!』
爆発音と共に、荒覇吐童子が一瞬にして明星へと肉迫する。
「想定よりも速い……!?」
ここで、明星は『ある事』を己が失念していた事に気がついた。
大妖『荒覇吐童子』が放つ『鬼爪微塵撃』は、確かに攻撃力や破壊力には警戒すべき攻撃手段である。ただ、それ以上に警戒すべきは、『視界内の全員の隙が見えるようになる』という、恐るべき能力。
ならば。
明星の自身の肉体への自信は、そのまま隙に成り得たのだ。
「ぐっ……!?」
『砕け散れぃ!』
明星は腕をクロスして、その一撃に耐えようと踏ん張るが、荒覇吐童子は、ガードの上からも気にも留めず、そのまま腕を振り下ろした。
暫しの膠着の後、明星はその場から弾き出され、爆音を響かせながら土煙の中へと消える。
『ふん……。他愛も無い。貴様風情が、ただの独り我の行く手を阻もうなどと、慢心が過ぎたのだ』
吹き飛ばされ、土煙の中に消えた明星にそう吐き捨て、己の勝利を確信したかのように、その場を去ろうとする荒覇吐童子。
だが、そんな荒覇吐童子にも、与り知らぬ事があった。
それは、明星が『己の巨躯の強靱さに自信があった』だけであって、その認識は決して間違いなどは無かったという事実。それが、たとえ『隙』となって荒覇吐童子に突かれたとしても、その頑丈さがあれば、荒覇吐童子の一撃で倒れるはずが無いという事を。
『ーむッ!?』
土煙の中から突如として荒覇吐童子を襲ったのは、明星の愛用のブローバック・ブラスター・ライフルからの攻撃。そして、明星の思念操作機能を備えて随伴する、半自律浮遊砲台自律浮遊砲台・ゴルディオン一から三号機による一斉射撃だった。
弾道計算されたそれらは、見事に、油断して背中を見せていた荒覇吐童子の動きを止めることに成功する。
「言ったはずだ。そう容易く私を倒せると思うな、と」
『ぐっ……!? 小癪な真似を!』
荒覇吐童子が砲撃に晒されながらも、吹き飛ばした先に視線をやり、目を見開く。
一斉射撃によって払われていく土煙の中から現れたのは、すでに攻撃態勢に入った明星の姿があったのだ。
『しまっー!?』
荒覇吐童子の言葉は最後まで続かなかった。
遮るような形で、召喚されたヘビー・ブラスター・キャノンと共に明星が吼える。今度は、荒覇吐童子の姿が爆炎の中に消えた。
「隙を突くつもりが、突かれるとは。まだまだだな」
明星が、自身への戒めを込め、呟く。
いくら頑丈に自信があった明星でも、先程の攻撃を無傷で受けきる事は叶わなかった。その証拠に、その口の端からは血が流れ出ている。
それでも、まだ戦える。
先程は少々肝を冷やしたが、ダメージはそこまで深刻というほどではない。自信があったのは事実だが、決して慢心していたわけではない。その分を含めて、ただの一撃で己を倒したと油断していた荒覇吐童子とは違う。
それに、明星は、荒覇吐童子が己の一撃で倒れるほど弱い存在だとも思っていない。
爆炎の中から飛び出ると、地面へと着地して明星を鋭い眼光で睨む荒覇吐童子に対して、明星は戦闘態勢を維持したまま、口の端から流れた血を拭うと、
『貴様ッ……! 楽に死ねると思うなよ……!』
「夜は長いし人生は短い。さあ、続きを始めよう」
そう言って、不敵に笑ってみせるのだった。
🔵🔵🔴 成功

姑息な大妖様のご登場だね。
封印が解かれる時を一日千秋で待ち焦がれていたろう。
達成感のまま倒れ伏すといい。こちらも退けないのでね。
鬼の膂力も格闘術も爪も恐ろしい。
こちらも能力を底上げして対抗せざるを得ん。
霊剣起動、【古龍降臨】──往くよ。
刀、メス、徒手空拳、全てフル動員だ。
格闘は[第六感]も働かせて必死こいて[受け流し]、刀と足刀で近接攻撃。
離れればシリンジシューターとメス投擲で多少のダメージでも与えていく。
爪に関しては「古龍閃」で迎撃。相殺か、弾いて直撃を避けられれば上等。
攻撃を捌いて捌いて、その先に勝機はある。己か誰かがその首まで辿り着けばいい。
見下した者共に討ち果たされる気分は如何かな。
膝を着いていた大妖『荒覇吐童子』の眼前に、投擲されたメスが迫る。
『むっ……!?』
咄嗟に首を捻り、それを回避すると、荒覇吐童子が飛来したメスの方角に視線をやると、そこにはカールした角を持つ山羊頭蓋骨の仮面を着け、首から聴診器とスマホをぶら下げた、中肉中背の白衣の男、久世・八雲(山羊髑髏の仮面医師・h01940)が立っていた。
「封印が解かれる時を一日千秋で待ち焦がれていたろう。その達成感を抱いたまま、倒れ伏すといい」
『殺すッ!』
挑発染みた久世の言葉に、荒覇吐童子は怒気を孕ませた唸り声を上げる。
そして、今まで、無数の人や妖怪を切り裂いた鬼爪を構えると、久世へと突進していく。
久世と荒覇吐童子の距離が零となる、その刹那の間。
「鬼の膂力も格闘術も爪も恐ろしい。こちらも能力を底上げして対抗せざるを得ん。ならば。往くよ――」
久世はそう言うと。
厳かに、その技の名を告げた。
――霊剣起動。『古龍降臨』。
それは、太古の神霊「古龍」を纏い、自身の移動速度が三倍になり、装甲を貫通する近接攻撃『霊剣術・古龍閃』が使用可能になるという代物。
この技を以て、自身の身体能力を強化しなければ、まともに荒覇吐童子とはやり合えないという、久世の判断の結果だった。
久世と荒覇吐童子の姿が重なる。
人体の構造を熟知している荒覇吐童子が使用すれば、それは即死レベルの凶悪な攻撃となるであろう鬼爪を振るう荒覇吐童子。
そして、増した身体能力を駆使しつつ、刀、メス、徒手空拳、全てフル動員して迎え撃つ久世。
重なる影の中。
鬼爪と霊刀が放つ、二つの鈍い光が瞬いては消える。
「くっ……!」
荒覇吐童子の手数の多さに、久世も第六感も働かせ受け流していたが、分が悪くなっていく。そして、ついには、その手にした古龍霊刀を手から離れて足元へと滑り落としてしまう。
『死ねぃ!』
それを好機と見たのか。
荒覇吐童子は|裂帛《れっぱく》の気合いを込めた叫びを上げて、鬼爪を浴びせようと、その右腕を久世へと振り下ろすが――。
「悪いね。この首、そう易々とくれてやるわけにはいかないのさ」
――古龍閃。
久世が、足元へと滑り落ちたはずの霊刀の柄の|頭《かしら》を蹴り上げ、その脚力を以て、そのまま技を放つ。
『なんだとっ……!?』
予想外の一撃によって己の『鬼爪微塵撃』が相殺された荒覇吐童子は、その一撃によって弾き飛ばされ、地面に片膝をつく。
その隙を、久世が見逃すはずは無かった。
即座に、霊薬・毒薬・怪異の肉片を詰めた注射器を射出する、連装式の大型ガトリングガン『シリンジシューター』を放つと同時に、懐にあったメスを投擲する。それらは、寸分の狂い無く、荒覇吐童子の顔面へと向かっていく。
『き、さまぁ……!』
咄嗟に顔面への攻撃を庇った結果、己の腕に突き刺さった注射器とメスを強引に引き抜き握り潰すと、荒覇吐童子は怨嗟の声を上げる。
片膝をついたままで、自然と己を見上げる形となった荒覇吐童子へと向けて、久世は
蹴り上げた霊刀を空中で掴みとって、言い放つ。
「見下した者共に、討ち果たされ、見下ろされる気分は如何かな?」
🔵🔵🔴 成功

アドリブ・絡み大歓迎。
弾力の有りそうな肉だねえ。内臓も健康そうだ。
古妖にもクヴァリフ器官に相当するものはあるんだろうか。
丁寧に解剖させていただいた後は美味しくいただきたいものだね。
封印されてしまうなら丸ごと持ち帰るのは無理でも、一部くらいなら…?
脚一本とか頭だけとか腕だけとか…難しいかな。
使える技能を駆使していくよ。
攻撃は見切って避けられるものなら避けたいね。
√能力で相手の体をマヒさせていこう。
こっちが危なそうなら回復で。
毒を仕込ませた攻撃で体力を削っていきたい。
最後に叶うなら、体の一部でも切断してお持ち帰りを狙いたい。

「喜べ」だとぉ?
いやぁ実際、喜んでるぜ。なにせこんな人気の無い場所に封印されててくれたんだからな。
ここならアレコレ咎める奴もいねえ、事後処理も必要ねえ。全力が出せるってもんだ。
「ドラゴンプロトコル・イグニッション 」!
元の力にゃ遠く及ばねえが、テメェ相手にゃこれで十分だ。
<ダッシュ/怪力/なぎ払い/範囲攻撃/属性攻撃/焼却>で周囲一帯を焼き払いつつ、真正面から飛び掛かるぜ!!
暴れるのが好きなんだってなぁ?
わかるぜ。やりたい放題好き放題って最高だよな!
さぁ、お互い力尽きるまで遊ぼうぜ!!
※アドリブ・連携・ギャグ描写などなんでも歓迎
『糞共がぁ!!』
傷は負えども、未だに大妖『荒覇吐童子』の、その豪腕は衰えを知らず。
次々と襲いかかる能力者達に、苛立ちを隠すこと無く、咆哮を上げると同時に、周囲を圧倒する殺意を増大させる。
「封印されてしまうなら丸ごと持ち帰るのは無理でも、一部くらいなら……? 脚一本とか頭だけとか腕だけとか……難しいかな」
そんな状況を気にする様子も無く、北條・春幸(人間(√汎神解剖機関)の怪異解剖士・h01096)はブツブツと呟き、荒覇吐童子を研究対象を見るような、好奇心に満ちた視線を送っていた。
「弾力の有りそうな肉だねえ。内臓も健康そうだ。古妖にも、クヴァリフ器官に相当するものはあるんだろうか? 丁寧に解剖させていただいた後は、美味しくいただきたいものだね……」
『巫山戯るのも大概にしろよ、この下郎がッ!』
己の殺気を前に、平然と考え込む北條に、荒覇吐童子が飛びかからんと跳躍する。
その豪腕が、北條を捉えるかと思われた瞬間――。
「ハッハー! てめぇの相手は、このオレだぁ!」
荒覇吐童子とは別の豪腕が、そんな快活な声を響かせながら、北條の頬の横から伸びてきて荒覇吐童子の顔面を掴むと、そのままの勢いを保ったまま、全身に熱を帯びた状態で荒覇吐童子を元いた位置へと強引に叩き伏せる。
轟音と共に、局地的に地震でも起こったのかと錯覚するほど、地面はヒビ割れ、北條の身体を揺らす。
そして、その原因ともなった男――イグニス・カラミタティス(封じられた邪竜・h01278)は、北條の隣へと舞い戻ってくると、己の右拳を左掌にバチンと当てて、獰猛な笑みを浮かべた。
「喜んでいるぜ。なんせ、こんな人気の無い場所に封印されててくれてたおかげで、なんの気兼ねも無く暴れられる。ここなら暴れたところで、アレコレ咎める奴もいねぇし、事後処理も必要ねえ」
怪異試食にも躊躇いのない北條が、若干躊躇いを見せながら、そう言って喜ぶカラミタティスの肩をポンポンと叩いて、地面に突っ伏した荒覇吐童子を指差し答える。
「いや、あの状況だと聞こえてないんじゃないかい?」
その声に反応したのかどうか。
荒覇吐童子は、額から鮮血を流しながらもゆらりと立ち上がると、怒りを露わにする。
『我に刃向かった、その蛮勇! 死んで後悔しろッ!』
その言葉に、北條とカラミタティスは、一瞬ポカンとした表情を浮かべて、互いの顔を見合わせると、荒覇吐童子に視線を戻してニヤリと笑い、それぞれの意見を述べてみせた。
「君が」「てめぇが」
「「死んだら――」」
「味見させてくれるかい?」「悪いな! 手加減ってのが苦手なんだ!」
両者が、両者の言い分を言い放つ。
それは、北條、カラミタティス、両者共に、嘘偽り無い心からの言葉だった。それ故に、その言葉は容易く荒覇吐童子の逆鱗に触れた。
『……殺すッ!』
流血を気にも留めず、荒覇吐童子が、二人の息の根を止めんと疾走する。そんな荒覇吐童子を迎え撃つ二人は身構えると、各々の能力を解放した。
「チョコラテ・イングレス!」
「ドラゴンプロトコル・イグニッション!」
北條が、視界にカラミタティスを入れないように注意を払い、荒覇吐童子の動きを止める。毎秒体力を消耗し続けるのが難点だが、その効果は、この一瞬には|値千金《あたいせんきん》だった。
『ぐぬっ……!? おのれ……!』
動きを止めた荒覇吐童子に、灼熱のブレスを放つ無敵の|真竜《トゥルードラゴン》に変身したカラミタティスが、その巨躯に相応しい一撃を放つ。
攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化するが、その度に体内の竜漿を大量消費し、枯渇すると気絶してしまう故に長期戦には不向きだが、北條の能力が、その穴を見事に埋めてみせたのだ。
一瞬だが、確かに動きを止められてからの強力な一撃は、しっかりと荒覇吐童子の身体に重大な傷を負わせる事に成功する。
『バ、カな……! この我が、こんな者達に、このような傷を負うなどありえん……! あってたまるものか……!』
真竜となったカラミタティスの鋭い爪によって、右肩から腰にかけて大きく抉られたような傷を負った荒覇吐童子は、荒い息を吐きながら二人を睨み付けるのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

※SPD、何してもいいよ
残念ながら…あのお兄さんの所に死神は来ないんだな、コレが
|コッチ《・・・》、来ちゃったからねぇ
さて、大ボス相手だ…こちらも本気で行くってことで√能力で【変身】して戦おう
つッても…やることはシンプルに
敵の連続攻撃を【クイックドロウ】や【オーラ防御】で対応しつつ、手持ちの弾丸全部を敵のドタマにブチ込む…それで仕舞よ
アヤカシだかナンだか知らねェけどよ…
手前ェみたいな三下が死神の真似事なンざ一億万年早ェぜ
糞でも生きるッて男が決めたンだ…三下如きが出張ッてくンなよ?
それじゃ…寝ンねの時間だぜ、Boooooy…!
「残念ながら…あのお兄さんの所に死神は来ないんだな、コレが」
戦場には不釣り合いなほど、何処か飄々とした態度の男――四二神・銃真(そいつの名前は死神ガンマ・h00545)は、『|コッチ《・・・》に来ちゃったからね』と、告げる。
『ぐ、ぬ……! 舐めるなよ、下郎がッ! 手傷を負わされたとはいえ、この大妖『荒覇吐童子』が、貴様等如きに敗北するなどあり得んのだ!』
フラつく身体を、眼前の男への怒気で無理矢理抑え込むと、荒覇吐童子が、己が用いる古き鬼に伝わる格闘術による接近戦を挑まんと、四二神へと突き進む。
だが、それは悪手だった。
四二神は、荒覇吐童子が接近するよりも速く、MHルートバレットをブラスターにセットすると、そのトリガーを引く。
その瞬間、四二神は光を纏い、√マスクド・ヒーローの力を宿した姿に変身した。
そして、手にした大型拳銃・グリムリーパーの銃口を、迫る荒覇吐童子へと定めると、
「アヤカシだかナンだか知らねェけどよ……。手前ェみたいな三下が、死神の真似事なンざ一億万年早ェぜ」
その引き金を引いた。
『ちぃ! ちょこざいな真似を!』
荒覇吐童子は、己の身体へと殺到する弾丸を、なんとか急所を守りながら豪腕で叩き落として進み、ついには四二神へと肉迫してみせた。『遠距離攻撃を得意とする者は、総じて近距離戦闘が不得手』だという定石を信じて。
――だが、それは定石であって、四二神には当て嵌まらない。
「やるじゃねぇか、三下」
『なん……だと……!?』
捉えたと確信を持って振るった腕は、四二神が手にしたグリムリーパーによって阻止されていた。
『糞がぁ!』
荒覇吐童子が吼えると、その攻撃が加速する。
だが、無尽蔵に振るわれる豪腕の数々を、四二神はオーラ防御で強化したグリムリーパーを、曲芸の如く右へ左へと持ち手を変えては防ぐと、その合間合間にも引き金を引いて、その銃弾を浴びせた。
クイックドロウを用いた、近接型の射撃スタイル。
それが、四二神が荒覇吐童子に見せた戦術にして、近接戦闘すらこなす銃のエキスパートがなせる技だった。
そして、その時は訪れる。
『馬鹿、な……!』
荒覇吐童子は、その顔を驚愕に染める。
ありとあらゆる敵対者を滅ぼし続けたはずの己の豪腕が、己の血で汚れている。本来であれば、今頃は願った男を殺し、蹂躙を開始していたはず。
だが、それがどうしたことか。
己は膝をつき、息を整える余裕すら無い有様だ。
「糞でも生きるッて男が決めたンだ……。三下如きが出張ッてくンなよ?」
そう言って、四二神が荒覇吐童子の額へ、グリムリーパーを押し付ける。
そんな四二神の態度は、変わらず余裕そうであったが、その実、紙一重の結果であった事はおくびにも出さない。
事実、四二神の身体のあちこちには、荒覇吐童子の豪腕によって削り取られてしまった傷跡が残っていた。
存外に粘られた。
それが、四二神の率直な感想だった。
何より、近接戦闘を強いられた時点で、戦術という観点から言えば、敗北したといっても過言では無い。心中で、忌々しげに舌打ちをする。
だが、それもこれでTHE ENDだ。
「それじゃ、寝ンねの時間だぜ、Boooooy……!」
引き金を引く。
響き渡る銃声。
そして、辺りには先程までの戦闘が嘘だったかのような静寂が訪れるのであった……。
🔵🔵🔴 成功