深海に光は届かない
くだらない女が、今日も何かを喚いている。
僕は椅子に腰掛けながらあの女が今にも祖父にも掴みかからんとする勢いで喚く様子を眺めていた。
何も動じることはない。だって、|母親《あの女》がヒステリックに喚き散らすのはもう慣れたから。
いつもであればくだらぬ女のわめき声など耳に入れるだけ無駄だから聞かずに立ち去る。だが、今日ばかりは女の不機嫌の理由が自分にもあるので逃げ出すことはできなかった。
「夕影にもこの狂った宗教擬きの手伝いをさせて! どういうつもりなの」
「働かざるもの食うべからずという言葉を知らぬのか。食い扶持がないからと故郷に取ってきておいて教団の仕事を手伝わぬお前よりも僅か10でしかない夕影の方が立派だと思わぬか」
「私だって村の仕事は手伝っているわ。その賃金だって家に入れている。だから夕影に余計なことを吹き込まないでと伝えていたはずでしょう」
世話になっているのだから手伝いをしたいと母に了承をとって僕は海神教の手伝いをしていたのだが、精々母は掃除程度の認識でいたらしい。
ところが僕が比丘尼様の世話をしていたことが知られてしまった。別に隠していたわけでもないのだが、比丘尼様を毛嫌いしている母はどうにもその事実が許せなかったらしい。
何を今更愚かなことを言うのかと呆れるしかないが、まぁこの愚鈍な女にもそれなりの考えはあるのだろう。
「こんな教団にはもう居られないわ。私は夕影と出ていくから」
女が祖父に言い放ち僕の手首を掴むと強引に自室へと向かう。
5年前のあの日、僕を連れてこの村に戻ってきた時に使ったトランクケースへ強引に荷物を詰め込んで、翌朝の日の出前には教団施設から連れ出された。
かつて母がこの村を出た時も祖父と大喧嘩をした翌朝には出立したのだという。元々浅慮な人間なのだろう。
未だ日も明けきらぬ駅へと続く暗い道を母と歩く。その途中にある海岸への分岐路で僕は立ち止まり母に話しかけた。
「村を離れる前に、最後に日の出を見に行きたい」
「時間の余裕はあるから構わないけれど」
訝しげな女の腕を無邪気な子どもの振りをしてひく。
断崖絶壁の淵に立って今にも日が昇りそうな水平線を指さして女を誘った。
「勝手に僕の気持ちを決めつけて僕の運命から引き離そうとするなんて――何とも愚鈍で憐れみすら覚えるよ。比丘尼様の素晴らしさを理解できないなんて、本当に可哀想な人だ」
女が驚いたような顔をした。今更僕の企みに気付いたのか。相変わらず愚かだなと冷笑する。
驚愕のまま硬直する女の身を僕は両手で押した。
「さようなら、母様」
夜明け前が一番昏い。光射さぬ暗海に水飛沫が咲いた。
✧
|海神《わだつみ》教にはこの頃、何処か重苦しく不穏な空気が漂っている気がする。
まるで嵐が訪れる直前の曇天と纏わりつくような湿った空気にも似ていて、潮音は息苦しさを感じていた。
「|潮音《しおね》、体調でも悪いのかい? 君らしくない失態だ」
「夕影……いえ、体調は大丈夫よ。ただ、ちょっと気になることがあって」
「しっ! 今は教主だからね。僕とふたりきりの時は気にしないけれど、他の人達がきいたら潮音が嫌な顔をされるから気をつけて」
夕影は口元に人差し指をたてて、穏やかな落日色の双眸を細める。
(教主……)
潮音は改めて夕影の姿を眺める。
あたたかな夕陽色の双眸。艶やかで真っ直ぐと伸びる黒髪は肩下あたりで切り揃えている。
母譲りの泣きぼくろが添えられたやわらかく中性的な顔つきは彼の雰囲気によく似合っていた。
(最初に会った時は女の子かなって話して怒られたんだっけ)
出逢ったのはふたりが5歳の頃。以降、海神教の子として潮音と夕影は育てられてきた。
帝都育ちの彼の所作は村の外を知らぬ潮音から見たらとても洗練されていて、ふとした彼の仕草に幼い頃は心をときめかせていた。
(なんでだろう――夕影が時折怖く感じるのは……)
今も彼が好きなはずなのに、何故か潮音は背筋に冷たい何かを感じることが増えた。
彼が変わっていったのはいつの頃だったか――思考を巡らせ、思い至ったのは5年ほど前。夕影の母である小夜子が失踪した頃に行き着く。
(きっと小夜子様が居なくなってしまわれたから、夕影も変わってしまったのね)
潮音の両親は未だ健在だけれど、もしも家族を亡くしたら――そう、考えるだけで背筋に冷たいものが走る。
未だ親の庇護を必要とする年齢のうちに両親をふたりとも亡くしてしまった夕影。
過酷な運命と海神教を背負った彼は、いつまでも|子ども《あの》頃のようには居られないのだろう。
「……そう、でしたね。ごめんなさい」
海神教ではなく夕影が居る海神教だから自分は此処に残っていたのに――今は、とても夕影が遠く感じる。
潮音は変わってしまった夕影の姿に寂しさの感情を抱きながら、海神教の主となったかつての幼馴染に頭を下げた。
潮音が生まれ育ったのは|海神《わだつみ》村という海辺の田舎村。
三方を山に囲まれ海に面した海神村は豊かな山海に恵まれた一方で、地理的な事情から閉鎖的な地域であった。
近年になって付近の栄えた街に鉄道を敷設するおこぼれで鉄道駅が出来た。
鉄道の恩恵で多少は人の往来が活発にはなったと思いきや、駅を利用するのはこの村に縁のある人物や商人ばかりで以前とあまり変化はない。
斯様な辺境に海神教の興ったのは約二十年程前。夕影の祖父であった前教主が或る月夜の浜辺で人魚と出逢ったことが切欠だったという。
海と寄り添い、海を敬い、海に依存してきた海神村では元々土着信仰として海の女神を信じる風習があった。
伝承されていた海の女神の姿が、人魚と酷似していたことから海神の化身だと騒動になって自然発生的に海神教が生まれた。
人魚――後に比丘尼様と称されるようになった海神の化身を崇める以外は土着信仰が元となっている為、海神教は比較的穏やかな性質として当初は村人みなに受け入れられた。
だが、その性質が変化したのは或る台風が切欠だ。
常に微笑むだけだった比丘尼様が表情を変化させたのだと前教主が主張した。
何かあるに違いないから気をつけなさいという前教主の訴えかけに、半信半疑だった村人達も万が一の際にすぐに逃げ出せる準備を行った。そうして迎えた数日後、大型の台風が村を襲った。
台風により村は大きな被害に見舞われながらも、事前の警告が功を奏し避難していたお陰で人的被害はなかった――其の奇跡のような出来事が、比丘尼様の狂信に至る引き金となった。
「比丘尼様が教えてくださらなかったら我らは今頃海の藻屑だった」
「やはり比丘尼様は海神様そのものなのだ」
嵐で人的な被害が出なかったのは比丘尼様のせいだと村人達は盲信に取りつかれた。斯くして、穏やかだったはずの性質は気が付けば見る影もなく盲目的に人魚を狂信する集団へと変化したのだ。
だが、皆が皆そうであったわけではない。中には比丘尼様に対して懐疑的な目で見ている者も存在していた。
懐疑的な者達は偶々だったと訴えた。そもそも神が慈悲を与えるのならば建物への被害も軽減してくれたのではないかと言葉を並べた。
だが、比丘尼様を盲信する者達には其れが己を否定するような言葉にも感じたらしい。
かつて手を取り互いに協力して暮らしていた村人達はふたつに割れた。
そして、信仰派の者達が懐疑派の村人達への迫害を始めたことにより比丘尼様に反対する住民達は村を追われるか、見捨てるような形で海神村を出ていき――今の、海神教を狂信する海神村が出来たのである。
斯様な出来事より幾年が過ぎて夕影が海神教へきたのは、彼が5歳の頃だ。
夕影の母である小夜子も比丘尼様や海神教に傾倒していく人々に嫌気がさして海神村を出て行った者のうちのひとりだった。
前教主である実父と大喧嘩の末、村を出奔した小夜子は職を求めて流れついた帝都。伝手も技術も学もない小夜子だったが、運良く住み込みの食堂仕事に有り付けた。
何でも食堂の主人である老夫婦が小夜子の身の上に同情して雇い入れてくれたのだという。
多少の不便はありつつも衣食住を得た小夜子は、その食堂で船乗りだった夕影の父と出逢い結ばれて後に一人息子である夕影を出産した。
だが、幸せとは儚いもので船乗りの男は海難事故で帰らぬ人となった。
未だ幼い夕影を抱えた状態で伝手も頼れる人もおらぬ帝都で暮らして行くことに限界を感じた小夜子は、不本意ながらも夕影を連れて海神村へと帰郷することになる。
海神村は相当な騒ぎになった。
「村を棄てた者が困ったからとどの顔をして戻ってきたのだ」
ある意味、海神村では小夜子は裏切り者のような立場だ。斯様な彼女に対しての村人の怒りや不信感は相当のものであったが、その空気を和らげたのは他でもない夕影だった。
夕影は幼いながらも進んで海神教や周囲の大人達の手伝いを行った。しかも嫌な顔をせずに愛想良く健気に働く夕影の姿は直ぐに村人達の心を徐々に解していった。
村人であり信者の娘であった潮音とも出逢ったのはその頃。
親に連れられて、はじめて夕影に出逢った潮音が抱いた印象は『市松人形みたいで、綺麗な女の子だな』。しかも思わず口に出してしまった所為で夕影に酷く怒られて、ようやく男の子だと気が付いた。
村の外を知らぬ潮音にとって、帝都では華やかな帝都で育った夕影の話や振る舞いは新鮮でそのどれもが夕影を夢中にさせた。
思えばあれが初恋と呼ばれるものだったのだろう。
「比丘尼様のご様子は最近どうでしょうか」
「変わらないよ。むしろ、謁見の機会が減って気疲れもなくなったからかな……以前よりも、穏やかな笑顔を見せてくれることが増えた気がするよ」
夕影が教主の座についてから、丁度季節が一巡りした。
海神教は元々夕影の祖父である前当主が一代で築き上げた新しい宗教であり、今回が初めての代替わりになる。
斯様な転換点には大きな改革が付き物で皆もある程度は覚悟をしていたのだが、夕影が定めた新たな規律は皆を驚愕させた。
『比丘尼様への謁見を制限する』
夕影が打ち出した規律に当然皆が反抗した。
『比丘尼様は海神教の中心となるお方――彼女の姿なくして何を信仰すればよいのだ』
『だからこそですよ。通常御神体は秘されるものなのですよ。正当な後継者や神職ですら目にすることを禁じられている御神体もあるのです。いくら比丘尼様が寛容なお方だとしても、比丘尼様は海神の化身。失礼があるような振る舞いは控えるべきです』
怒れる村人に冷静に冷や水を浴びせるような夕影の正論に、誰も何も言えなくなってしまった。
だが、比丘尼様は生き神様でもある。誰かが世話をしなければらならない――その意見には、夕影が己が務めるつもりだと手を上げた。
夕影は幼い頃より比丘尼様の世話役を務めていた。技能的には全く問題ないが、同時に其れは夕影のみが比丘尼様を独占するということにもなり不満意見が沸いた。
だが、夕影が伝える比丘尼様の『みことば』は前教主の頃よりも多く正確なものであった為自然と反対意見も封じられていったというのが現状である。
「そういえば、気になることがあるって言ってたよね。潮音のことを信頼しているし、潮音は無駄なことを言わないって知っているよ。どうか、教えてくれないかな」
信頼は素直に嬉しい。自分が零した言葉とささやかな表情の変化に気付いてもらえたのだから、本来であれば喜ぶべきはず。
なのに、潮音は素直に喜べなかった。
自分を見る夕焼け色の双眸は何処か値踏みするような、視線に感じてしまうのだ。
信頼している。頼りにしている――そう、言葉にしながらも夕影は真の意味で他人を信用していない。いや、興味がないのだ。上辺だけの言葉を並べて、警戒の姿勢を崩さない。
上に立つものとして、それは正しい姿勢なのだろう。潮音は自分の中でそう結論づけてから言葉を纏める。
「私の気のせいかもしれないのですが、この頃人々の空気感が変化してきているような気がしているのです」
「空気感? そりゃ、大きな改革があった後だから人々がざわつくのは無理もないだろう。次第に落ち着くさ」
夕影は穏やかに笑う。彼が言うことは尤もだが潮音が抱く変化は斯様に生優しいものではない。
潮音はもどかしい思いを抱えて拳を握る。強い違和感と不穏な空気があるのだ。だが、己の直感に過ぎず夕影にうまく伝えられない。
皆が夕影を認めている。だが、誰もが夕影を批判している――相反する言葉だが、海神教に流れる空気はそう表現するしかなかった。
(夕影が思っている以上に、みんな比丘尼様のことを信奉している……だから、この空気は……)
古参信者である彼らは当初勤勉な夕影を支持し、後継者へと推した。だが、いざ夕影が教主の任につけば振るわれたのは強権だ。
比丘尼様への謁見を制限し、教えの在り方も大きく変えた。しかも、其れら全ては一応は理屈が通るものばかりだったから誰も理論的な反論ができない。
誰も何も言わないのは納得したのではない。無理矢理不満に蓋をしただけだ。そうして抑え込まれた不満はいずれ暴発するだろう。
(すごく、嫌な気がするの……)
これは一般信者と接している潮音だから感じていることだ。
海神教と主として、比丘尼様の部屋に籠もってばかりの夕影にはわからないのかもしれない。
自分の勘でしかないけれど、潮音はうまく伝えられる言葉を持たぬまま夕影の瞳を見つめていた。
✧
不満という湿った空気が集って、やがて嵐を呼ぶ積乱雲となる。
残念ながら潮音が感じていた予感は現実のものとなってしまった。
その日は本来であれば満月の夜だった。静かすぎる夜空には厚い雲が立ちこめて、地表にひとすじの月光も届かない――まるで深海の如き静かで暗い夜。
自室で就寝していた夕影のもとに七人の男が押し入り、ナイフでその胸を貫いた。
恐らくは緻密な計画の上で実行された犯行だったのだろう。
凶刃は夕影の急所を的確に刺していた――後に捜査した警察はそう推測する。
そう、推測するしかなかったのだ。実行犯達はみな、その後命を落としたのだから。
独裁していた若い教主の死。それだけで終わっていたのならば、まだよかった。
真に待ち受けていた問題はこの後――狂信に理性を失った者達はすぐに揉めて、殺し合いを始めた。
まるで誰もが決して掴めるはずのない、水面に映る満月に必死に手を伸ばしているように。
辺鄙な田舎村の宗教組織の仲間割れ。
恐らくこの出来事は扇情的な記事でも書かれて世間に奇異の視線に曝されるだろう。そして、世間様の好奇心という欲望の儘にしゃぶられ尽くす。
夕影だって既に亡い。此れが海神教の終焉であるならば潮音も黙って受け入れよう。だが、潮音にはひとつだけ如何しても気になることがあった。
其れは他でもない。海神教で祀られていた比丘尼様の存在である。
世間はきっと比丘尼様を見逃してはくれぬだろう。何処かの研究施設に収容されるか、もしくは好事家に買われるか――潮音が浮かぶ光景はどれも余り幸せなものではなかった。
一夜にして幹部全員を喪失し瓦解の運命を辿るだろう田舎の宗教組織では彼女を護ることも出来ない。
潮音にとっても比丘尼様は特別な存在だ――信仰対象というよりは物心ついた頃からずっと傍にいた家族のような存在である。
(大きな騒動になってしまう前に、比丘尼様を逃がさなきゃ)
比丘尼様を逃がす。そのことが海神教の人々に露見したら己の身も無事では済まないかもしれない。
だが、それよりも潮音は比丘尼様の哀れな末路を見たくはなかった。
静かな夜を貫く悲鳴と混乱の中、潮音は夕影の部屋へと向かう。
目的は彼の机の2段目の引き出し――その二重底の下に人目から隠すように仕舞われた金属製の鍵だ。
(あった、やっぱり此処だったのね)
幼い頃に教えて貰った夕影の内緒の宝物入れ。あの頃はどんぐりや海辺で拾った綺麗な小石や貝殻を入れていた。
いつの間にか|宝物《・・》は変化してしまっていることに幾許かの侘しさも感じるが、今は斯様な感傷に浸る暇はない。
潮音は比丘尼様の部屋の扉を見つけた鍵で開ける。
死臭と悲鳴が満ちる中でも水槽の中で佇む比丘尼様は、まるで聖女のような嫋やかな微笑みを浮かべている。
(もしかして比丘尼様は聴覚や嗅覚がないのかしら――いいえ、そんなことはないはずだわ。嗅覚はわからないけれど、聴覚はあるはずよ)
比丘尼様は自分達に言葉は返してくれないけれど、自分達が話していることは理解している様子があった。
だとしたら、何故この惨状で微笑んでいらっしゃるのだろうか。若干の恐ろしさを感じながらも潮音は水槽へ語りかける。
「このような場所に閉じ込めてしまい申し訳ございません、比丘尼様。ご無礼をお許しください――此処はもうすぐ騒がしくなります。どうか、その前に海へお逃げください」
潮音が声をかければ僅かに比丘尼様は金月の双眸を揺らすが、まるで何事もないように微笑んでから水槽を出る。
そうして空を游ぐように開け放たれた扉の外へと出た。
(――どうか、お幸せで)
月のない夜。人魚の行く末を潮音はただ祈りながら見送ることしかできなかった。
✧
漣の音に揺り起こされるように、全く知らぬ場所で僕は目を醒ました。
刺されたはずの胸に手を当てるが、其処に傷や刃等はなく痛みもなくて困惑する。
「あれは、夢だったのかな」
呟いてはみるものの、僕にはどうしてもあれが夢なのだとは思えない。
(一体、何が……)
その時の僕はただ困惑していた。
これは後に識ったことだが、どうやら僕は√能力者という存在になったのだという。
肉体的死を迎えても、黄泉還ることができる。真の意味で|不死身の体《・・・・・》へと変貌したのだ。
僕の口元に、思わず笑みが宿ってしまう。
(――どうなるかとは思ったけれど、よかった)
僕は仄暗い悦びを胸に抱いた。如何しても人の身である以上、寿命や死という運命からは逃れられない。
どれだけ権力を得ても、あの方の傍に存在できる権利を以てしても、その日々にはやがて終焉が訪れる。
だが、不死をこの身に宿せたのなら海神の化身たる比丘尼様と共にあれる未来を紡げる。
(これからだ、これから――きっと比丘尼様も喜んでくださるだろう。僕が、僕だけが比丘尼様を愛しているのだから)
口元が恍惚に歪む。何処か夢に逆上せるような心のままに漸く戻った海神村は変わり果てていた。僕が偽りの死を迎えたあの日からいつの間にやら2年が経過していたのだから無理もないのかもしれない。
海神教は僕の死後、瓦解するように崩壊したという。
ゆえに今のこの場所には海神教もなければ、比丘尼様の姿もない。
誰が逃がしたのだと怒りを抱えた一方で一連の騒動に比丘尼様が巻き込まれかったのも事実。斯様に考えれば逃がした者を恨めない。
(良いんだ――此処にいなくとも。いないのならば、僕が迎えにゆけばいい)
そう、僕には時間がある。いくらでも時間があるのだ。定命から解き放たれた僕の時間は無限。時間があればいくらでも知識や権力を身につけることも出来る。
そうしたらこれからどうしようか。
ああ、そうだな――また比丘尼様を崇める組織を作るのが良いだろう。前の奴らは祖父譲りの頭の硬さを抱えていたから失敗した。
新たな組織には僕に忠実な者達だけを集めよう。言うことを聞かなかったらそうだな――多少|強引な手《洗脳》を使ってしまうのもありかもしれないね。
(比丘尼様はきっと微笑んでくださる――喜んでくださるはずに違いない)
そして、とわにともに|僕の運命《比丘尼様》と暮らしてゆける場所を作り上げてゆこう。
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