知性
脳髄の摩耗は止められない。
トラペゾヘドロン、それは災厄をひとつの『カタチ』にして終う為の便利な言の葉である。誰がこの言の葉を使い始めたのかは不明だが、曰く、とある作家のお遊びから来ているらしい。つまり、トラペゾヘドロンとは『創作の為の名前』なのだ。故に、鵺などとは決して呼んではならないのだ。理解出来ないものを理解出来る程度にまで冒涜する。それこそが汎神解剖機関のモットーであり、第一に優先すべき『報告』の方法なのだ。だが、そのセオリーとやらを、安心安全な流れと謂うものを、欠片すらも無視して通る『もの』が存在したならば? それは最早、不可能だ。不可能の領域すらも逸脱した、昏き光の権化とも謂えよう。……おそろしいことに、忌まわしいことに、私は『そういうもの』に遭遇していたのだ。
アレは『トラペゾヘドロン』と謂う『総称』を利用した。利用して、自ら昏き光となって数多の人間の脳髄を侵したのだ。侵して、冒して、悉くから正気を掻っ攫ってしまったのだ。おかげで私の管理している収容施設は混沌の中の混沌へと堕とされてしまった。ああ、腹立たしきはアレの強かさ! あえて私を狙わない事で『トラペゾヘドロン』の名を『本物』として世間に蔓延させようと、そういう悪辣さを発揮してくれたのだ。しかし、私が、私の頭の中で喰い止めておけば、そのような沙汰には至らないのではないか。いいや。違う。それは無理だ。私は如何しても、アレの存在を語り尽くしてしまいたい! 脳髄を引っ掴んで如何にか理性へと縋り付き、私は、唯一の方法を取らざるを得なかった。アレに番号を付けよう。番号をつけて、只の、収容物にしてやろう。名前すらも剥奪してやれば、簒奪してやれば、災厄は災厄として成り立たない筈なのだから……。
お父様、お父様お父様お父様お父様お父様お父様……。
お父様お父様お父様お父様お父様……。
何を見ている? 何を聞いている? 何を、鳴き散らかしている?
番号――め。また、私を惑わそうとしているな!
それで、あの職員はいったい何を喚いているのでしょうか。アイツか。アイツは、例の一件で完全に正気じゃなくなっちまったんだよ。例の一件……※※※※の……。わかっているとは思うが、迂闊に呼ぶんじゃない。アレには『番号』をつけたが、番号も要らなかったって上の人が嘆いてたぞ。そうなんですか。でしたら……。
もう手遅れではありませんか?
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功