シナリオ

計算された奔流

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 明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)はダムの監視室で、大小のモニターが配置された制御卓に向かっていた。
「人類居住区まであと二十キロ。このダムで食い止めなければ——」
 標高二百メートルを超えるダムの中腹に位置する制御室からは、谷を挟んだ対岸まで見渡せる。発電所の主機が低く唸りを上げ、今この瞬間も莫大な電力を生み出している。
 暁子は三日前から、この水力発電所を備えた要塞の防衛を任されていた。
 戦闘機械群バトラクスの大規模部隊による人類掃討作戦が開始され、各地の拠点が危地へ陥る中、この施設の戦略的価値は極めて高い。
 彼女はダム湖へ仕込んだ大量の酸化促進剤を確認する。制御室の防水対策も万全だった。
 ――敵部隊、予定通り接近中。
 制御パネルの前で、ファミリアセントリーであるゴルディオン一号機が通信を受信する。
 モニターには戦闘機械群の大部隊が映し出されており、その数は優に三百を超えていた。
 バトラクスキャノンを装備した前衛、特殊化学兵器を持つ中衛、そして掃射と捕縛を担う後衛と、その布陣は完璧な殲滅陣形を成している。
「時間だな」
 暁子は立ち上がり、深く息を吸い込んだ。途端、全身に鋼鉄の輝きが走る。少女の姿は重厚な装甲へと変貌を遂げ、体格は瞬く間に、二メートルを超える巨体と化した。
「人事は尽くした。あとは知恵と勇気が武器だ」
 鉄十字怪人となった暁子はブラスター・ライフルを手に取り、装填を確認。
 制御室の防爆シャッターが開き、灰色の空が覗く。
 半自律浮遊砲台であるゴルディオン二号機と三号機も起動し、重装甲の球体から展開された砲塔を回転させながら、静かに浮遊し始めた。
「――各機、出撃!」
 ゴルディオン三機は流線型の機体を震わせ、一気に外へ飛び出す。上空では既に戦端が開かれていた。
 バトラクス前衛陣の放つ爆破弾が空を裂き、深い峡谷に砲声が響き渡る。
 三機は即座に異なる高度での防衛陣形を展開。一号機が最上部で索敵と指揮、二号機が中層で火力支援、三号機が低空での近接戦を担当する。
 敵の集中砲火に対し、ゴルディオンらは幾何学的な軌道を描きながら回避。
 それぞれの役割を全うするため、反撃の機会を窺う――。
 バトラクスの中衛が特殊化学兵器の散布を開始した。だが上空からの突風により、毒ガスは拡散されていく。これは暁子が事前に計算した気流の流れであった。
「各機、シールド全開。放水までの時間を稼げ」
 ゴルディオン達は巧みな機動で弾幕を受け止め、時には反攻を仕掛ける。弧を描いて飛び交う砲弾の雨。
 善戦はできている。とはいえ戦闘情報共有システムにより、バトラクス部隊の連携は徐々に高まる一方だ。長期戦へもつれ込むのはいささか分が悪いと言えた。
 ゆえに。
「第一段階、実行」
 暁子は制御パネルのスイッチを躊躇なく押し込む。ダム湖に溜まった大量の水が、一斉に放流され始める。
「ゴルディオン各機は、高所待機位置へ」
 今回の狙いは、単なる水圧による破壊ではない。放流された水には特殊な酸化促進剤が混入されていた。
「――錆びつけ、崩れよ」
 轟音と共に解き放たれた大量の水が、戦闘機械群を端から飲み込む。酸化促進剤の効果で、敵の装甲は急速に腐食を始めた。
 バトラクスの表面が赤茶けた色へ染まり、装甲に無数の亀裂が走っていく――。
「これで後は押し流すだけだ」
 錆びついた装甲を纏った敵部隊は、なおも進軍を続けようとしていた。
 しかし化学兵器による攻撃も、酸化した噴射口からは不完全にしか放出されない。
 そんな情けない侵攻を、制御室の前で円陣を組んでいたゴルディオン三機が容赦なく薙ぎ払い、激流の渦中へ叩き落としていく。
「詰めへ進もう」
 間髪入れず。暁子は制御装置を操作し、ダム湖の水面を巨大な反射鏡として機能させた。
 太陽光は精密に計算された角度で収束され、灼熱の光線となって敵陣を焼く。
 錆びた装甲は熱で歪み、内部機構を露出――バトラクス達の制御機構が見る間に損傷し、その動作を急速に停止させていった。
「そして、とどめを」
 最後の切り札として、ダムの水量を緻密に制御する。敵部隊の重量バランスが一気に崩れ、脆くなった地盤が崩落。
 いよいよもって、戦闘機械群は奈落へと墜ちていった。
 衝撃により強制稼動した自爆装置の連鎖的な爆発が、谷間に木霊する――。

「作戦完了」
 暁子は淡々と報告を入力。兜の中の表情は、凛として変わることがなかった。
 これは戦いであり、ショーではない。感情に流される余地など、どこにもないのだから。
 だが新たなモニターには、既に次の敵部隊の接近を示す映像が映し出されている。戦いは終わらない。
「――次の作戦準備に入る」
 ゴルディオン三機を従え、暁子は次なる戦闘へ向けての演算を始めた。鉄十字怪人の戦いに、終わりなど訪れる事はない。
 今はただ、前へ進むのみ――。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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