青潮
縄跳びをして遊ぼう。昔懐かしの戯れに令和が重なる。重なった数秒後に暈が降り、眩む状態へと惹き寄せられた。せせら笑うボーイ・ミーツ・ガール、のぼせ上がった彼彼女は休むことなく糸を噛んだ。
――臍の緒の延長線上、そう思えば、気楽なものさ。
――むちゃくちゃ謂うなよ。
人類にとって最も魅力的なものは、自ら、美しいものに近づけた瞬間である。それが自らに関係していて、感性を刺戟するものであれば、人類はおそらく如何様な破滅が待っていたとしても触れようとするだろう。故にこそ、妖怪は人類を愛しいものとして認識し始めたのだ。紐解かれてしまった情念の波を留める方法など、殺す術など、神にですら見出せないか。喰らい尽くしていたものが慾をこぼし、その慾が食べられる側を狂わせるとは中々に罪なウロボロスである。おお、鵺よ、件よ。正体不明の脳髄より何が生まれ落ちたと謂うのか。みーくん。ねえ、みーくん。俺さ、みーくんとなら、死ぬまで一緒に居ても良いって思ったんだぜ。あらゆる思い出が、あらゆる記憶が、それこそ波となって押し寄せてくる。冷たい冷たい赤潮にもまれて、莫迦みたいに自身と青年との物語を反芻して往く。ああ、あの頃の僕らは、僕らが想像していた以上には――甘ったるいものに抱擁されていた。廻っているのは血潮ではない。血潮は最早、戻ってくる事すらも出来ないのだから。そんなにも、決断するのが早いたすく君なんて、僕は知らない。ならば良かったのではないかはんぶんこ、見たことのない青年の姿形を、正体を、鵺の裏側を改める破目に陥ったのだから。これは、誰の所為だ。これは、誰かの所為に違いない。誰かがきっと『たすく君』に教唆したんだ。そうでなければ、如何して、たすく君がこのような凶行に走る……。人類にとって最も魅力的なものとは何だったか。生き急いでいる、急いで生きている、だから、共に急いでくれと。
エモーショナルが頭蓋の中身を弄ったところでぶわりとやってくる『出会った』とき。もちろん、その全貌については多くの事など語れないが、騙る事くらいなのであれば問題なく出来そうだ。俺はさ、妖怪だろうと人間だろうと、半分だろうと、仲良くしたいって思っているんだぜ。だからさ、俺と友達になってくれないか。おおよそ、二十歳の青年とは、成人した男性とは思えない発言だ。だとしても、オマエ、この人間の心からの願いを無為にする事など赦されはしない。ああ、そうかよ。僕は広瀬。広瀬御影……君は? ピコピコと、ヒクヒクと、妖怪的な特徴が身勝手やっている。なるほど、オマエは嬉しかったのだ。友達、友達、友達……望外なまでの響きに震える事となったのだ。じゃあ、みーくんだ。みーくんって呼んでやるよ。だから、みーくんも俺のこと、たすく君って呼んでくれないか? つまりは、このような甘酸っぱい、ちょっと遅めの青春と謂うやつだ。絆されて、固められて、決して解けないと心の何処かで認めていたのだが、何故に、奈落へと堕とされた。
巣穴に紛れ込んだ弱者は、強者に慈しまれ、強者以上の強者として生まれ変わった。生まれ変わった結果、恩を仇で返すかのような振る舞いをしていく。どくどくと、頭の痛みが増せば増すほどに、ぐるりと冷静さが舞い戻ってきた。そうだ。僕はたすく君に襲われたのだ。襲われて、何も出来ないまま殴られて、今、頭部をぐりぐりと足踏みマットにされている。……そう。みーくん、みーくんがこうやって、地に伏せっているのを見たかったんだ。見たくて、見たくて、仕方がなくて、たまらない思いで此処まで耐えてきたんだ。でも、無理だった。せいぜい、意識を飛ばさないようにこうやって、頑張って抑え込む程度までくらいなら……! 傍らに転がっているのは僕の『四肢』だ。ああ、大丈夫。みーくんの全部を愛してあげるつもりだから、大丈夫。腐らないようにはしておくつもりだぜ。……お互い、変わったね。そう、変わった。鏡に映った局外者の処遇については描写する必要もない。怒りは貌を出してくれない。悔しさも、欠片として抱けない。只、悲しみだけが――滂沱だけが――昏闇を孕もうとしている。
沈黙――浮遊感――その刹那の内にオマエは『オマエ』の輪郭を追った。そこに視えていたのは阿呆みたいに、蛆みたいに、腐肉に集っている暗殺者のひとりか。ああ、おぞましい。何がおぞましいのかと謂うのならば、僕が、これをしていくと確信出来てしまった現実だ。いいや、幻覚だ。幻覚に違いない。ひどく、ひどく、引いていく潮の嗤いが……最期の別れを嫌になるほど、おしらせしてくれたのだ。
ハチェットの具合であれば幾らか安楽だっただろう。たすく君が握っていた得物は切れ味最悪な刃。ぎいぎいと、ぎこぎこと、呵々嗤いするそれにオマエは意識を委ねていく。引っ張り出されたハラワタと――|少女《ティーンエイジャー》は目が合った。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴 成功