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#√汎神解剖機関 #ノベル #バレンタイン2026

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 バレンタインを目前にして、どの|世界《√》でも街をチョコレートカラーが彩っている。それは√汎神解剖機関も例外なく――斜陽に合わせ、不穏と物騒に特化した特色を見せさえしている。そういった倫理の外にはみ出した店を見て回るのは、雨夜・氷月(壊月・h00493)の近頃の楽しみのひとつだ。バレンタインにぴったり、との売り文句で並ぶ|怪異《なん》の|臓器《モノ》かも不明な|材料《・・》を見つけては気まぐれに買い集めて持ち帰る。
 そうしてキッチンに揃ったのは、片やチョコレート作りには欠かせない定番の材料たちと、もう片方の不穏。なにを作るつもりだと腐れ縁がしょっぱい顔をしているのを知らないふりで、甘い香りを楽しみながらバレンタインの|お菓子《・・・》作りに夢中になった。試作ながら、いいものができた自信はある。すごくある。それなのに。

『捨ててこい』

 試作品を試食した腐れ縁が開口一番、そんな結論を押し付けてきたからつまらない。
 とはいえあの腐れ縁の目が据わるとさっぱり話は通じなくなるのはよく知っていたし、説教が長引くのも勘弁してもらいたいところだったから、そそくさと試作品を持って外に出た。行く当てなんてないようであるが、特に決めてはいない。
 だからこのあと見つけた知った顔にそれを押し付けよう! という相手からすれば極めてはた迷惑な思いつきで街を歩いていた先でまず見つけた相手が、
「あ、飴ちゃーん!」
 ――焦香・飴(星喰・h01609)である。星詠みとしての面識と、気まぐれに変身を試したときに|遊んだ《・・・》覚えがある。果たして相手が覚えているかは別問題だ。確かひとつも人間らしい姿は見せなかった。
 そんな些末なことは気にせず、氷月は軽い足音で、まるで古くからの付き合いのように飴に手を振り駆け寄った。相手からはきょとんとした表情が返る。当然だけれど。
「ヒサシブリ、元気だった? あ、飴ちゃんって呼んでいい?」
「ええ、どうぞ。お久しぶりです、雨夜さん。……今日はお喋りしてくれるんですね」
「ふふ、なんのコト? 俺はいつもお喋りだよ」
 意味もなくとぼけておけば、飴はおかしそうに笑うばかりで追及はなかった。ともあれ、覚えてはいてもらえたらしい。そういえば前も名前を言い当てられたっけ。名前と言えば。
「ていうか雨夜さんって呼ばれるのシンセンかも。――てわけで、シンセンなチョコ、飴ちゃんにあげる!」
「ええ? チョコ、ですか?」
 ずいとチョコを詰めた箱を差し出せば、飴は戸惑った顔を隠しもせずに首を傾げた。これもまた当然だ――けれど、これには堂々掲げられる理由がある。何度か瞬く緑色に、氷月は瞳の三日月を細めて、茶目っ気たっぷりのウインクをひとつ。
「そう、チョコ。もうすぐバレンタインでしょ? 俺バレンタインのチョコ試作したんだけど、腐れ縁に捨ててこいって言われちゃってさー」
「それはまたどうして……。見る限り普通に美味しそうなチョコに見えますけど」
 箱を覗いた飴に、でしょお、とむやみに拗ねて見せる。腐れ縁がそう言った理由なんて考えるまでもなく明らかなのは言わずにおいて。
「せっかくだから、飴ちゃんも食べて感想チョーダイ!」
「いいですけど……うーん」
「ん?」
「報告書を書いてるだけの印象ですけど、雨夜さんって……」
 言いかけて、飴が言葉を半端に切る。構わずにこにこ笑って試作品の入った箱を差し出し続けていると、「じゃあいただきます」と飴はひとつチョコを手に取った。見た目は何の変哲もない、美味しそうな生チョコレート。
 しかし口に入れて噛んだ瞬間、
「――!!」
 明らかに悲鳴がした。飴の口の、チョコレートのなかから。小さいいきものの悲鳴のようなそれが。飴は口元を押さえて怪訝な顔になる。しかし悲鳴に構わず遠慮なく噛み砕いて、嚥下したらしい。こくん。
「……なんか叫びましたけど美味しかったです?」
「はは、反応うっす! 容赦ないね飴ちゃん。でも美味しかったならいいや。ほらもうひとつ」
「もうひとつですか? あんまりいい予感しないんですけど、ていうかやっぱり悪戯好きですよねあなた」
 そうは言いつつも、飴が選んだのは少し大きめのボンボンショコラだ。それは氷月としてもイチオシだったりする。だってそれは口のなかに入れた途端に――。
 ボン! とおおよそ人の口からはするべきでない音がする。これにはさすがに飴も「うっわ!」と声をあげた。
「なんか爆発しましたけど! 結構痛いし!」
「あっはは! よくない? 個人的にはオキニイリなんだよね、悪戯チョコとしては大成功っていうか」
「もう悪戯チョコって言ってるじゃないですか。これなんで俺に食べさせてるんです?」
「だってそこにいたから……」
「んはは、人によっては顔見て逃げられても文句言えないですからねそれ。俺に言えたことじゃないけど」
 個人的には面白いけど、と飴は笑っている。それで氷月としては満足だった。面白がってくれても、驚いてくれても、怒ってくれても、なんなら嫌ってくれたって構わないのだ。だって楽しい。緩く目を細める。
「飴ちゃんは怒らないヒトなんだ?」
「あんまり怒りませんね、面白いほうが好きだし。ご同類では?」
 俺より儚そうですけど。観察するような緑目が三日月を通り過ぎて、箱のなかのチョコへ戻っていく。
「んっふふ、そうかも。ね、気に入った? 欲しければまだあるよ!」
「じゃあ、最後にひとつ」
「あ。それは――、」
 指先が伸ばされたのは、是非|選んで《・・・》ほしかったものだ。つい声が弾んで、にんまりと唇も三日月を描く。そして最後に持ち上げられたチョコは、飴の手のひらに乗るやまるで自我を持ったように|踊りはじめた《・・・・・・》。
「踊っ……んはは! いやでもさすがに気持ち悪い、なんですかこれ、何入れたらこうなるんです?」
「何入れたんだろうね~。俺も正直それどうやって作ったか覚えてなくって。材料はなんかヤバそうな店で買ったんだけど」
「じゃあヤバいじゃないですか」
「身体に害はないよお、たぶん! ――あ、そろそろ行かないと」
 あっけらかんと言い放って、氷月は駆け寄ったときと同じ身軽さで飴の隣を駆け抜けていく。
「それじゃあ飴ちゃん、また今度ゆっくり遊ぼうね!」
 ぱたぱたと手を振って、悪戯チョコの箱も揺らす。視線の先で飴も軽く手を振り返していたが、ややあってから手のひらの上でブレイクダンスをするチョコをしげしげ見つめ、ひょいと口に放り込んだようだった。なんとも言えない顔が数秒。届いた感想は端的に、面白がる音で。
「チョコの踊り食いって初めてしました。なるべく多くに体験させてあげるといいと思います」
「んっふ、リョウカーイ!」
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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