シナリオ

死が二人を別つ刻

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 #√妖怪百鬼夜行
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●狂気を身に宿す
「もう少し……! もう少しで、また君に会えるはずなんだ……!」

 初老の男はそう言って、後生大事に己の懐にしまっていた祠の欠片を取り出すと、今日も採れたての血を注ぐ。
 血特有の鉄の錆びたような匂いが辺りに充満する中、初老の男は、狂ったような笑顔を浮かべる。

 否。

 すでに狂ってしまっているのであろう。その血は、自身が経営している店を改造して攫った、他者から奪ったものだった。
 他者を罠に嵌め、この欠片に血を捧げるためだけに、無秩序に命を奪ってきた。犠牲者の数は、すでに男の両手の数では数え切れないほどだ。それでも、それを止めるという考えは、微塵も浮かぶことはなかった。

 最愛の妻を亡くして、すでに幾年月が過ぎただろうか。

 妻の最後を看取った時には無かった皺の数が、男の執念を表していた。
 ただ、妻には苦労させたくないという考えから、男は商いに生涯を捧げてきた。それでも、その妻を失ってしまえば、どれだけ莫大な富を築いていようが意味が無い。どれだけ莫大な金銭を得ようと、そこに意味など見出せず、空虚な時間を過ごしていた。

『貴様がそれ相応の贄を差し出し続けるというならば、お前の妻を生き返らせてやろう』

 日々感じる喪失感は増すばかり。それと反比例するかのように、増え続ける富の無意味さに疲弊していた男にとって、その言葉は、あまりにも魅力的過ぎた。
 薬によって気を失って眠る犠牲者から、その血を全て抜き取るのは容易かった。

 そう、容易過ぎたのだ。

 一瞬でも意識が戻り、泣き叫び、乞われてしまっていれば、正気に戻れたのかも知れない。だが、犠牲者は、眠ったまま静かに息を引きとった。
 男からすれば、その静寂が、まるで先程までの己の所業が無かった事になったようで、罪悪感など抱く事無く、最後の一線を越えてしまう結果となる。
 一度越えてしまえば、後は『妻を生き返らせる』という目標のみに邁進していくのみだった。

 たとえ、その行為自体を、愛すべき妻が『|見えない怪物《インビジブル》』となって目撃しており、悲嘆に暮れていたとしても。
 その悲願が達成された際、真っ先に犠牲になるのは己だけではなく、その愛すべき妻の存在だという事も。

 男は気づく事は無く。
 ただ狂気に身を委ね、笑い続けていた。

●たとえ失った者達は帰らずとも
「いやぁ、今回ばかりは私の不手際っすね。遅過ぎました」

 申し訳ないと己の頭をペシリと叩いて、|伽藍堂・空之助《がらんどう・からのすけ》(骨董屋「がらんどう」店主・h02416)は、珍しくおちゃらけた態度を見せることなく、素直に謝罪を口にする。

「今回の最終目的は、『隠神刑部』の討伐。最終目標だけ聞けば、いつも通りだと皆さんは思うでしょうが、それまでの過程が少々面倒なんすよ」

 なにやら妙な言い回しをする空之助に、集まった能力者の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。だが、次に告げられた言葉に、皆、衝撃を受けることとなる。

「どう説明したらいいのやら。そうッスね。まずは、誑かされて封印を解いた人物ですが……。すでに幾人もの命を、その手にかけています。それに、他人の話に耳を傾けるほどの理性すら、今はもう残っていないッス」

 当人に会えるとすれば、それは『隠神刑部』が復活する寸前だろうが、その際に説得に応じる事は無いだろう。そして、己の願いを叶えてくれると信じている『隠神刑部』の復活が成れば、喜んでその身を『隠神刑部』に捧げるだろうと、空之助はキッパリと言い切る。
 その確信を得ているのだろう物言いに、ピシリと、場の空気が凍ったのを感じられた。

「その上で、お願いしますよ。初手、蚤の市に向かって、男が人を攫うために細工を仕込んだ店を推理して、割り出してください」

 それなりに規模が大きい店舗を経営している、男の店を割り出す事自体は難しくない。しかし、男は様々な分野に手を出しており、その店舗数が多い上に、『人を攫う』事が可能となる店は限られているはずだと語る。

「その結果次第で、その店から男の犯行現場に通じる道を封鎖するのか、こちらの動きを悟られてしまって戦闘になるかでしょうが……。どちらに転ぶかは、皆さん次第っすね」

 ただ、すでに何人も犠牲者が出てしまっている以上、その場には大量の『|見えない怪物《インビジブル》』が存在しているということになる。それは、古妖にとっては、力を得るためには充分過ぎる下地が出来上がってしまっている、ということだ。

「封印を解かれた『隠神刑部』との戦闘は、恐らく一筋縄ではいかないでしょう。ただ、これ以上無為に犠牲を出すわけにはいかないでしょう?」

 だから、どうか宜しくお願いするっすよ、と。
 いつも通りの軽い感じに戻った空之助は、ヒラヒラと手を振って皆を見送るのだった。

マスターより

師走文
 皆様方、(たぶん)初めまして。
 新人マスターの師走 文しわす ふみと申します。
 参加してくださる方は勿論、閲覧してくださった方々にも感謝を。

 本作、√EDENの二作目のシナリオとなっております。

●第一章
 蚤の市を巡りながらの推理パート。今回は、シナリオの性質上、ある程度参加人数が集まってから一斉に合同でリプレイを返却する形となります。

 果たして、周囲に気づかれずに人を攫う方法とは?
 また、それを可能とする店の種類は?

 推理慣れ?している方からすると簡単かも知れませんが、突拍子も無い方法であったり、予想外なお店であっても、私が「そういう手段があったか!」と思えば正解にしますのでお気軽にどうぞ。
 推理を書いて頂ければ、後は自由に蚤の市を楽しんでもらって構いません。

●第二章
 第一章の正解者の人数によっては分岐。
 正解者が多ければ、当然その店に辿り着いた者が多い結果となりますので、その店への通りを封鎖して犠牲者を増やす方向に分岐。
 正解者が少なければ、封鎖出来るほどの人数が揃わない上に、こちらの動きを察知されてしまい、送り込まれた敵との戦闘に突入するでしょう。

●第三章
 古妖『隠神刑部』との決戦です。
 シナリオにも記載されているように、すでに何人もの犠牲者が出ており、『|見えない怪物《インビジブル》』が多数存在しているので、普段より強くなっていると考えて下さい。

●注意事項
 複数人での参加は勿論大歓迎ですが、冒頭でも何処でもいいので、プレイング内において、分かりやすいように『お相手の名前』或いは『参加チーム名』の記入は忘れず行ってください。

 各章、結果を踏まえつつ断章を挟んでから進行、プレイング募集となっております。
 断章の公開日時&プレイング募集期間等のお知らせは、タグにて随時報告いたしますので、どうぞそちらを参照してくだされば幸いです。
 それでは皆様方のご参加、お待ちしております。
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第1章 日常 『蚤の市をブラブラと』


POW 買い物を楽しむ
SPD のんびり見て回る
WIZ むしろ自分が出店者
√妖怪百鬼夜行 普通5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

哘・廓
・心情
牽衣頓足…或いは愛別離苦ですか。仕事ですし、まぁやりますか。
・行動
薬を飲ませる…飲食関係ではないかと予想して大きな飲食店を優先的に見て回る。
それ以外の店も視界に入れつつ、インビジブルが多く群がっている店を探す。
恐らくインビジブルが一番多い場所が件の店ではないかと推測
・台詞
…見つけ次第殴る、というわけには行きませんね。
……大切な人との別離、ですか…。…何か、私にも…いえ、そのような大事な事なら覚えているはず…。
ここ、ですかね…。怪しまれる訳にも行きませんし、暫くは客を装いますか。
・その他
哘は能力者になった始まりの出来事が欠落となっているので、引っ掛かりはするものの思い出すことはありません。

「牽衣頓足……。或いは、愛別離苦ですか。仕事ですし、まぁやりますか」

 賑やかな蚤の市の中。
 哘・廓(人間(√EDEN)の古龍の霊剣士・h00090)は、そう呟くと、油断なく周囲を警戒しながら歩く。
 事前情報の『薬を飲ませる』という事から、飲食関係ではないかと予想した哘は、初老の男が経営しているという大きな飲食店を優先的に見て回ることにする。
 だが、巨万の富を築いているだけあって、その数は如何せん膨大であり、中々良い感触を得ることが出来ないでいた。

「飲食関係かと思いましたが……。違ったのでしょうか?」

 ここまで探し回っても、怪しげな店は存在しなかった。
 ならば、或いは。飲食店以外の店という可能性も……。
 その可能性も視野に入れていた哘は、今度はインビジブルが多く群がっている店を探す事に注力する。
 それほどまで犠牲者が出ているのだ。インビジブルが群がっていたとしてもおかしくない。

「見つけ次第殴る、というわけにはいきませんね」

 男が経験し、その身を狂気へと走らせた原因である『大切な者との別離』というワードに、僅かに、だが確かに感じる既視感に、哘は雑踏の中立ち止まり、ふいに空を見上げる。

「何か……私にも。いえ、そのような事なら覚えているはず……」

 心の中で何かが引っかかるものの、それがなんなのかがわからない。
 そんな奇妙な感覚の中、溜息交じりに吐いた息が、一瞬白く染まっては消えるのを見届ける。そして、まだ肌寒く感じる空気と相まり、その身体をブルリと震わせた哘は、足早に散策を再開した。
 そして――。

「ここ、でしょうか……」

 今まで見た店の中で、一番インビジブルが群がっている、衣服を販売しているとある店舗を発見するに至る。
 その店にアタリをつけた哘は、店の前で突っ立ったままで怪しまれる訳にもいかないので、この蚤の市に初めて訪れた旅行客を装いながら、早速店舗内へと歩を進めて周囲をキョロキョロと見渡す。
 すると、とある事に気づく。
 狭い店内に所狭しと並べられた衣服に隠れるように点在する試着室の中で、一つだけ離れた壁際に設置してあり、店員がいるレジからも遠く、視認しにくい場所にある、『お一人でじっくりと試着を楽しみたい方優先』と書かれた看板が掲げられた試着室の存在だ。
 店員も少なく、慌ただしく精算処理を行っている店員も含めて、あそこまで気を配るのは難しいはずだ。ましてや、『試着中』のプレートがかかっていれば、まず店員が頻繁に確認に近寄ることも無いだろう。

「あれで、間違いないようですね……」

 そう。店員が近寄らなく、長時間放置した結果、その中に誰もいなくなっていたとしても、店員としても『プレートを戻す事を忘れて、お客様は立ち去ったのだろう』と気にも留めないはずだ。

――ならば、自分がする事は一つだ。

 手元にあった衣服を数点無作為に掴み取ると、哘はその試着室の前へと足を運び、『試着中』のプレート掲げると、その狭い室内へと入った。
 そして、暫くの間、無知な旅行客を装い、鏡の前で服を悩む素振りを見せていると、突如として更衣室内の壁が忍者開きのように反転し、その中から伸びてきた屈強な男の掌が哘の鼻と口を押さえ、もう片方の腕で身体を抱きしめると、開いた扉の先へと引きずり込まんとする。

『なるほど。こうやって攫っていたわけですね』

 押さえつけられた鼻から感じられる、薬品の匂い。だが、それは一般人には通用しただろうが、√能力者である哘には効果が薄かった。
 そのまま冷静に男の手慣れた動きを観察しつつ、ひ弱な一般人を装うように、哘は僅かな抵抗をみせながらも、あたかも薬品を吸い込んで気を失ったかのように脱力して、そのまま、その身を扉の先へと委ねるのであった。
🔵​🔵​🔴​ 成功

橘・明留
騙された人は助けらんないのか、そっか…
でもさらわれたり殺された人がいるんだから、かわいそうとか言ってられないよな
…俺も気合入れないと!

て言っても、推理とか正直苦手なんだよな…人がいなくなっても怪しまれない、気づかれにくいっていうと、やっぱ人の出入りが多くてうやむやになりそうなとこ?あとお店が奥まってて全体が見渡しにくかったり死角がある…うーん、本屋とか、大きな商品の多い骨董品屋とか…?
きみたちはどう思う?って路地裏とか人気のないとこに引っ込んで、周りにいるインビジブルに能力で語りかけるよ。もしかしたら、あんまり考えたくないけど…直接の犠牲者だって中にはいるかもしれないしね

「騙された人は助けらんないのか、そっか……」

 すでに犠牲者が出ており、その者達を救う事は出来ないという事実に、橘・明留 (青天を乞う・h01198)は肩を落としながら、蚤の市を散策する。

「でも、攫われたり殺された人がいるんだから、かわいそうとか言ってられないよな。……俺も気合い入れないと!」

 これ以上犠牲者を出さないためにも、己はここに来たのだと気合いを入れ直す橘だったが、『攫われた店を推理する』という事に、苦手意識を持っていた。

「人がいなくなっても怪しまれない、気づかれにくいっていうと、やっぱ人の出入りが多くて、うやむやになりそうなとこ? あと、お店が奥まってて全体が見渡しにくかったり死角がある……う~ん」

 そうなると考えられるのは、本屋や、大きな商品の多い骨董品店か。だが、どれもいまいちピンとこない。やはり自分は推理が苦手だと再認識すると、橘は頭を軽く搔いた後、周囲をキョロキョロと見渡して、人気が少ない路地へと入り込むと、自身の能力を発動させ、周囲に存在するインビジブルに問いかける。

「聞かせてほしい。きみの言葉を――『|彼岸此岸《アチラコチラ》』」

 橘の真摯な呼びかけにより、視界内のインビジブルが曖昧だったはずの知性を獲得し、最近3日以内の目撃内容を答える。それを繰り返していく内に、橘の居場所が、先程までいた蚤の市が開かれ活気に満ちていた場所から、寂れた|人気《ひとけ》がまったく場所へと移っていく。

「……ここがその現場、かな?」

 幸か不幸か。直接の犠牲者のインビジブルに出会うことは無かったが、それでも|十二分《じゅうにぶん》に怪しい路地には辿り着いた。
 視線を空中へと移し、この場所を教えてくれたインビジブルに礼を言うと、橘は何か怪しいものはないかと、周囲へと視線を移した――その瞬間だった。
 とある衣服店の裏口らしき場所から、屈強な男が飛び出てきたのだ。

「おっと……、って、あれ?」

 突然の事に、条件反射で、飛び出してきた男の邪魔にならなぬようにと、慌てて道を譲るように一歩下がった橘だったが、そのすれ違い様に、見て見ぬ振りが出来ないものを、その視界に捉える。
 飛び出してきた男が担いでいた大きな|叺《かます》から、女性の両足がしっかりと見えたのだ。

「くそっ! マジかよ!?」

 まさか、話には聞いていた誘拐の現場を直接目撃するとは思ってもいなかった橘は、血相を変えて男の後を追いかけるのであった。
🔵​🔵​🔴​ 成功

明星・暁子
アドリブ歓迎
「人を攫うのに都合の良いお店。なんなのでしょうね?」

そうだ。きっとその店は『宿屋』さんに違いありませんわ。
しかもサウナ風呂が付いているお店。
送風口から睡眠薬を送り込んで、犠牲者をぐっすり眠らせて犯行に及ぶ。

かの有名な城塞都市カー〇でも、気がおかしい宿屋の主人が宿泊客を襲ってました!
(暁子は良く分からないことを言い出した)

さあ、そうと決まれば蚤の市を巡ってみましょう。
殺人事件が起きているから、あまりノンビリ見て回るどころではないですけど。
それでも掘り出し物という言葉には魅力がありますわ……。

 一方、その頃。
 件の蚤の市に足を運んだ、明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)は、歩きながら思考の海に身を委ねていた。

「人を攫うのに都合の良いお店……。なんなのでしょうね?」

 パッと考えついたのは、宿屋。しかも、サウナ風呂が付いているお店。
 送風口から睡眠薬を送り込んで、犠牲者をぐっすりと眠らせてから犯行に及ぶ。かの有名な城塞都市カー◯でも、気がおかしい宿屋の主人が宿泊客を襲っていたと、明星は、よく分からない事を考えてついて、宿屋を中心に調べる事を決める。

「さぁ、そうと決まれば、この蚤の市を巡ってみるとしましょう」

 一見、話を聞いた事件とは無縁のように感じられるほど、盛況で人でごった返している蚤の市。その裏では、物騒な殺人事件が発生している訳なのだから、あまりのんびりと見て回っている余裕はないだろうが、掘り出し物があるかも知れないと思うと、明星の心は軽く弾む。
 暫くキョロキョロと散策していると、前方に見える屋台から、鼻孔をくすぐるいい匂いがしてきた。
 その匂いに惹き付けられるられるかのように、明星がフラフラと近づくと――。

「お、そこの姉ちゃん! 今日採れたての新鮮な肉で作った串焼きなんてどうだい?」

 美人さんには、今なら一本無料で付けてやるぜ!と、屋台で肉に串を通して焼いている店主が、ニカリと笑って明星へと差し出す。
 その誘惑に抗えず、『ありがとうございます』と一言お礼を告げてから、差し出された串焼きを受け取り、パクリと頬張る。噛めば噛むほど肉汁が口の中に溢れ出し、軽く振りかけられた塩が良く利いており、かなり美味しい。

「――美味しいですわ! 大将、ありがとうございます」

 ホクホク顔で代金を支払い、もう一本を受け取る。そんな明星に、『いいってことよ』と、快活に笑う店主に対して、串焼きの美味しさも相まって口が軽くなってしまう。

「そういえば。最近、この蚤の市で、『人が失踪した』といった類いの話を、噂話とかで聞いたりしたことはありませんか?」

 聞いてしまった後、しまったと思う明星だが、どうやら店主は気にした素振りは見せずに、う~んと唸りながら思案してくれていた。
 そして、暫く考えた後、店主が少々思い当たることがあったのか、その内容を話してくれる。

「最近っていうほどの話じゃないが……。以前、友人と二人で来たっていう観光客が、少しの時間別々に行動した間に、友人が姿を消したとかなんとかで騒いでいたことがあったな」
「ッ……! その後、どうなりましたか?」

 思いがけない店主の言葉に、明星は身を乗り出して続きを促す。

「うん? その後も何も、そもそも友人と来たって話も、実際の所本当かどうかわからんって話で、終わったはずだぜ?」
「宿屋で、滞在の有無を確認されたりはしなかったのですか?」
「いや、聞いた話によると、日帰り旅行だったらしく、そういう確認は一切取れなかったせいで、結局の所本当かどうかもわからんって事になったって聞いたな」

 俺は、それなりにここに長く居るからな、そういうちょっとした噂話も耳に入ってくるのさ、と言って笑う店主の話に、明星は深く考え込む。

『つまり、誘拐の現場は宿屋ではない、と。……どうしましょうか。このまま、この広大な蚤の市をしらみつぶしに探すのは、さすがに効率が悪すぎますね』

 そう思い悩んでいる時。
 ふいに、慌てた様子の男の声が、路地裏から漏れ聞こえてきた。
 一般人には聞き取れないほどの僅かな声。だが、それでも、確かに切迫した様子であることには違い無い。

「――ッ!」

 その事に気がつくと同時に明星の身体を動き出していた。身を翻し、慌てて、その現場へと向かうのであった。 
🔵​🔵​🔴​ 成功

瀬条・兎比良
動機や経緯が何であれ、罪は罪です
罪人から市民を護ることが警察の役割です
同様に、罪から人を守ることも、私の役割です

蚤の市では私服でうろつく分には怪しまれることもないでしょう
スマートにしておけば、一般市民として社会的信用は担保されるはずです

これだけ人目のある環境で人が姿を消す…考えられるのは、ガイシャが自ら死角に足を運んだ、ということでしょうか
例えばシンプルに衣服の試着室や、または暗がりで検品する様な発光する品物…
推理は本業ではないので浅慮ですがそういうものが浮かびました

ある程度事前に男の店舗をピックアップしながら、蚤の市を見て回りましょうか
どのようなものが売っているか、純粋に興味もありますから

 警備部対異能第四十二課巡査部長――瀬条・兎比良(善き歩行者・h01749)は、私服に身を包み、道端へと身を寄せながら、その鋭い眼光で活気に溢れる人々を眺めていた。

『動機や経緯が何であれ、罪は罪です。罪人から市民を護ることが警察の務め。同様に、罪から人を守ることも、私の役目です。ですが――』

――気が重い事件ですね。

 ふぅ、と溜息を吐く。
 愛する人を失ってしまった結果、狂ってしまった男の起こしてしまった事件。今更考えても致し方が無いことだと分かっていても、思わずにはいられない。

――叶う事ならば。そんな哀れな男が、罪を犯す前に止めたかった。

 すでに己は現地へと赴き、それと同じくして他の√能力者達も動き出している。この状況下で、男が新たに被害者を生み出すことは許さない。許すわけにはいかない。
 
『これだけ人目のある環境で、人が姿を消す。……考えられるのは、被害者本人が自ら死角へと足を運んだ、ということでしょうか』

 そうなると、考えられるのは衣服の試着室や、または暗がりで検品するような発行する品物……。推理は本業では無いので浅慮だが、そういったものが瀬条の頭に思い浮かんだ。
 その考えの|基《もと》、男が経営するその手の店舗へと赴き、その中から、更に犯行に使えそうな店舗をピックアップし終えた瀬条は、休憩を辞めて、再び、賑わう人々の流れに身を任せた。

 観光客も多いようで、店先で客を呼び込む店員の姿が、瀬条の目に留まる。出店も多くあり、あちこちから良い匂いが立ち上っている。それ以外にも、様々な露天が展開されており、瀬条も純粋に興味がひかれはするのだが。
 違和感無く紛れられるために私服を着ているが、現在の瀬条は、あくまで捜査中。その真面目な性格故か、己を自制して、それらを目で楽しむだけに抑えて巡回に徹している。
 そして、瀬条はそっと裏路地へと逸れると、自身が一番怪しいと感じた、とある衣服屋へと歩みを進めた。

 その道中。|人気《ひとけ》が少ないはずの裏路地が、にわかに騒がしい事に気づく。

 そう。瀬条の推理は当たっていたのだ。
 誘拐のみで考えれば、それを可能とする手段や場所が存在するだろう。だが、その前に『その店舗の店員にすら悟らせない』という文言が入るとなると、その手段はかなり絞られてくる。
 各店舗のトイレ等の個室が存在する空間でも可能ではあるが、店に入って『店員が被害者の存在の有無を確認する暇も無く』すぐ席を立ち、そこへ足を運ぶ事が出来る可能性は極めて低い。
 ましてや、『入店すれば、必ずしも精算という行為が必要とされる』類いの店であれば、事件が発覚するまでの時間はあまり稼げるものではないのだ。
 瀬条の前方から、こちらへ向かって走ってくる何かを担いでいる男と、それを追いかける数人の男女。追いかけている者達は、十中八九、同じ依頼を受けた√能力者達に違いないと判断した瀬条の行動は早かった。
 仲間の前を走る男の行く手を阻むような形で立ち塞がると、声を張り上げて停止を促す。

「大人しくしろ!」
「くそっ! 今日は一体なんだってんだ……!」

 男が悪態をつきながら、半ばヤケクソ気味に瀬条へと殴りかかる。
 だが、そのような|輩《やから》の相手をする事に、職業柄手慣れている瀬条にしてみれば、そんな男を無力化し、拘束するのは容易かったのだった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 集団戦 『悪い百鬼夜行』


POW 妖怪大行進
命中する限り「【百鬼夜行の一斉突撃】による攻撃→技能攻撃→[百鬼夜行の一斉突撃]攻撃→技能攻撃」を何度でも繰り返せる。技能攻撃の成功率は技能レベルに依存し、同じ技能は一度しか使えない。
SPD 百鬼大悪戯
爆破地点から半径レベルm内の全員に「疑心暗鬼・凶暴化・虚言癖・正直病」からひとつ状態異常を与える【大つづら(爆発する)】を、同時にレベル個まで具現化できる。
WIZ 万夜大宴会
半径レベルmの指定した全対象に【妖気】から創造した【妖怪料理】を放つ。命中した対象は行動不能・防御力10倍・毎秒負傷回復状態になる。
√妖怪百鬼夜行 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

●断章
 金で雇われていたという、誘拐の実行犯の男から情報を聞き出した能力者達は、その足で引き渡し場所へと辿り着いた。
 どうやら、誘拐が上手くいった時は連絡を行い、この扉の前に誘拐した者達を置いておけばいいらしい。
 まだ、誘拐の実行犯である男から連絡を受けて、間もないためか。凄惨な事件を引き起こしている主犯格の初老の男は、こちらには辿り着いてはいないようだ。
 それでも、この扉の中で、すでに何人もの殺人が行われている。√能力者達は、最大限、周囲への警戒を怠らず、その扉に手を掛けた。

 そして――その扉の中にあった光景に、戦慄する。

 狭く、密閉された無機質な室内の中心に、質素なベッドが置かれており、血を抜くための装置だけが不気味な稼働音を響かせていた。そして、その周囲を囲むように、おびただしい量の邪悪なインビジブルが蠢いていたのだ。

 突然、男の手によって与えられた不条理な死。

 それにより|齎《もたら》された苦しみを、哀しみを訴えるかのように、生前に上げることが叶わなかった悲鳴のような叫び声を上げ続けている。

 それは『おぞましい』という一言では、言い表せない、地獄のような空間。

 その光景に、ある者は目眩を覚え、ある者は怒りを覚えた、その瞬間。

『儂の復活を邪魔する者は、誰であろうと容赦はせぬ。――殺せ『百鬼夜行』』

 低く、この地獄の底から声が響くと同時に、閉じていたはずの部屋の扉が開くと、大小様々な妖怪の手が√能力者達を掴み、部屋から√能力者達を外へと強引に放り出す。
 そして、その妖怪の集団が放つ殺意と呼応するかのように、部屋の中で漂っていた邪悪なインビジブル達は、生前に救いの手を差し出せなかった√能力者達への怨嗟の念を向け、その存在を拒絶するかのように、持ちうる膨大なエネルギーを|簒奪者《さんだつしゃ》へのみ向けるのであった。
明星・暁子
アドリブ歓迎。
第2章冒頭は、身長170㎝の少女の姿で。

インビジブルたちに、
「ごめんなさい。もっと早くにわたくしたちが惨劇に気付いていたなら。こんなことにはならなかったかも知れないのに」
と謝る。

その上で、『儂』と名乗る地獄からの声に対して、義憤を燃やす。
「どうやら黒幕がいるようですわね。必ず、貴方のもとに行って報いを受けさせますよ」

戦闘が始まったら、身長200㎝の鉄十字怪人モードに変身。
『悪い百鬼夜行』の初撃は、√能力《静寂なる殺神機》で素早く後方に下がり、
闇を纏って「ゴルディオン1~3号機」とブラスターライフルで先手を取って攻撃する。

 己の身体を掴む、妖怪の手を攻撃して脱出した少女――明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)は、その身を翻して地面へと着地する。
 √能力者達を拒絶するように、怨嗟の声を上げて『悪い百鬼夜行』へと、そのエネルギーを送り続けるインビジブル達の姿を眺めながら、明星は囁くように謝罪を口にした。

「……ごめんなさい。もっと早くに、わたくし達が惨劇に気づいていたなら。こんなことにはならなかったかも知れないのに」

 その上で、先程響いた声の主にして、この事件の裏で暗躍する古妖『隠神刑部』に対して、義憤を燃やす。

「必ず、貴方のもとに行って報いを受けさせますよ……!」

 そのためにも、まずは目の前の敵を討ち滅ぼす必要がある。
 ならば、と。明星は決意を新たにして立ち上がり、スカートについた埃を払い落とすと、気合いと共に身長200cmを誇る鉄十字怪人へと変身する。

「ギャハハハ!」

 古妖『隠神刑部』によって解き放たれた、『百鬼夜行』の中にいた一匹の猫の妖怪が狂ったように笑い声をあげながら、自身の増幅された破壊衝動に身を任せようとした己の行く手を阻むように立ち塞がる明星の姿を見て、不思議そうに首をもたげた。

――脅かされる存在である人間風情が、我々の邪魔をするというのか。

 古来より、妖怪とは人を脅かす存在であり、その逆はあってはならない。古妖『隠神刑部』によって増幅された意識の中、その殺意を更に膨張させる。
 そして、爆発時点の周囲全ての者に、様々な状態異常を与える大つづらを具現化してみせると、その大つづらを振り上げて、明星へと叩き下ろす。
 そんな妖怪の姿を睨み付けながら、直撃する直前に明星は叫ぶ。

「……『|静寂なる殺神機《サイレント・キラー》』!」

 大つづらが叩きつけられた轟音と共に、爆発によって生じた爆風が周囲一帯の土煙を巻き上げて、その視界を塞ぐ。

「きゃハはハハ!」

 あの一瞬で回避行動が間に合うはずが無いと思い込んでいた妖怪は、勝利を確信して狂ったような嗤い声を上げる。
 だが、明星はすでにその攻撃を、己が装備する半自律浮遊砲台・ゴルディオンの射程まで跳躍することで回避しており、その身に闇を纏うことで、土煙が舞って視界が悪いこの状況下であっても、しっかりと妖怪の動きを見える位置へと移動を済ませていた。

「ッ――! もらいましたわ!」

 そして、動きが止まった妖怪の姿をしっかり捕捉していた明星は、構えていたゴルディオン一号機から三号機と、プラスターライフルからの一斉射撃を以て、妖怪の身体を貫く。

「ぎゃ、ハ……」

 勝利を確信していた妖怪は、己の身体に空いた風穴を不思議そうに眺めながら、ゆっくりと地面へと倒れ伏す。
 その瞳は、先程までの狂気に満ちたものとは違っている事に気がついた明星は、戦闘態勢――鉄十字怪人から、少女の姿へ戻ると、倒れ伏した妖怪へと歩み寄り、この世から消える僅かな時間を寄り添う。

「……あなたもまた、『隠神刑部』に唆されてしまった犠牲者なのかも知れませんね。大丈夫です。もう、これ以上の犠牲者は出しません。だから――」

――安心して眠ってください。

 そんな明星の言葉に、妖怪は安心したかのような笑みを浮かべると、そのまま静かに瞼を閉じるのであった。
🔵​🔵​🔴​ 成功

橘・明留
※アドリブ、共闘OK

(インビジブルたちへ哀しげな視線を向けて)ごめんな、助けに来るのが遅くなって
こんな形で終わりたかった奴なんていないよな
でもきっと、そんな姿になってまで…バケモノの悪事の片棒担がされるのは、もっとつらいよな!
ああもう、すっげー腹立つ!

わざと百鬼夜行のなかに飛び込んでいって【幻想抹消】を使う!
俺の手に触れたヤツは全部「あっちゃいけないモノ」として消し去る
攻撃されてケガはすると思うけどさ、身体の丈夫さには自信あるし
ひとりで対処できる数なんてたかが知れてるのはわかってる
どっちかっていうと囮になるのが目的なんだ
敵が俺に気を取られて、他のみんなが攻撃する隙を作れればって!
哘・廓
・心情
思うことは多々ありますが…今は目の前に集中、ですね
・戦闘
乱戦は基本的に苦手ではあるものの、他の能力者と連携した立ち回りを意識し、仕留めれそうな相手を優先的に攻撃して頭数を減らしていく。
徒手空拳で自得拳とグラップを主軸に立ち回り、背後を取られないよう注意しつつ遊撃に回る。
・台詞
まずはこれらを片付けるのが先、ですね
烏合の衆…とはいえ1つでも看過すれば禍根となる…。
厄介ですし有用な戦術ですが…逃しません。
百鬼夜行をどうにかしないとアレに言葉は届きませんかね…。
…恋は盲目とは言いますが、愛はそれ以上に盲目にさせるのでしょうか…。
嗚呼、実に厄介ですね…。
・その他
アドリブ歓迎


 己を拒絶するかのように、そのエネルギーを奪われ続けながらも悲痛な叫びを上げ続けるインビジブル達へ、哀しげな表情を向けながら、橘・明留(青天を乞う・h01198)も、謝罪の言葉を口にした。

「ごめんな。助けにくるのが遅くなって。……そうだよな。こんな形で終わりたかった奴なんて、いないよな」

 死を望んでいた者など、きっと居なかったはずだ。
 だが、どんなに望んでも、どんなに望まれたとしても。すでに失われてしまったその命を取り戻す事なんて、誰にも出来ない。

 その残酷な事実に、橘の胸は張り裂けそうなほど痛む。
 でも、きっと。

「そんな姿になってまで……バケモノの悪事の片棒担がされるのは、もっとつらい、よな」

 そう、インビジブル達に言い聞かせるように。
 そして、己自身にも言い聞かせるように、橘は己の拳を強く握りしめる。

「くそっ……! あぁ、もう、すっげー腹が立つ!」

 その怒りは、果たして誰に向けられたものなのだろうか。
 橘は、歯を食いしばり、拳を握りしめた状態で、百鬼夜行の中へと飛び込んでいく。


 他の√能力者と共に、百鬼夜行によって外へと弾き出されていた哘・廓(人間(√EDEN)の古龍の霊剣士・h00090)は、そんな橘の行動を見て、一瞬驚きの表情を浮かべるが、哘自身思う事は多々ある。故に、そんな橘の行動も理解出来てしまった。

 おびただしい程に存在している、邪悪なインビジブル達を前にして。
 悲痛な叫びを上げながら、こちらへと憎悪を向けるインビジブル達を前にして。

 冷静でいられる√能力者は、そうはいないだろう。
 己だってそうだ。口数は少なく、口下手ではあるが、それは素直に感情を表に出すのが苦手なだけであって、会話自体は好んでいる。
 だが、その会話――言葉すら奪われ、悲観に暮れ果てたあの姿を見てしまうと、心が痛む。

「ですが今は、目の前に集中、ですね」

 百鬼夜行という言葉通り、大量の妖怪が蠢く中での戦闘では、乱戦は避けられない。乱戦は基本的に苦手だが、他の能力者と連携した立ち回りを意識すれば、それなりに立ち回ることは出来るだろう。
 そこまで考えた哘は立ち上がり、スウ、と大きく息を大きく吸い込むと、深く身体を沈めて力を溜めると、一足を以て、橘を背後から襲おうとする妖怪へ接近すると、その拳を叩き込む。
 そして、橘の背後を。自身の背後を取られぬように、注意深く周囲を警戒しながら、百錬自得拳とグラップを主軸に立ち回る徒手空拳で遊撃へと回る。

「ありがと、助かった!」
「まずは、これらを片付けるのが先、ですからね」

 奇しくも、同じ徒手空拳での戦闘スタイルを選んだ二人の共闘が、ここに始まった。


「数が多いッ……!」

 忌々しげに橘が呟く。
 自身の能力である|幻想抹消《ユメノオワリ》を使用しつつ、妖怪を次々と屠っていく橘であったが、能力の発動条件として直接触れる必要があるため、どうしても、その攻撃範囲は自身の腕が届く範囲と限られており、百鬼夜行に存在する数多の妖怪全てに対応するには些かの無理があった。
 襲いかかる牙や爪を掻い潜りながら、なんとか能力を発動させてはいるものの、橘の身体には大小様々な傷が出来上がってしまっている。
 元々、身体の頑丈さには自信があり、また、どちらかというと囮になることが目的でもあった橘にとって、己と同様に徒手空拳での戦闘スタイルだった哘との共闘は、完全に予想外だった。

「烏合の衆……とはいえ、一つでも看過すれば禍根となる。厄介ですし、復活の時間を稼ぐには有用な戦術ですが、逃すわけにはいきません」

 そう語る哘もまた、身体のあちこちに傷を作った状態だったが、その拳を止める事無く、連続で叩き込み続けている。

「それに、|百鬼夜行《コレ》をどうにかしない限り、あの人達は救えないですし、何より――ヤツにも届きませんから」

 哘が眼前に迫る妖怪の一匹を叩き伏せ、一瞬だけ、己の身を削りながらも百鬼夜行へとエネルギーを送り続ける哀れな死者達に、そして、今はすでに閉じてしまっている扉へと視線を移した。
 
「ッ……! だな!」

 その言葉だけで、その視線の先にあるものを感じ取っただけで、橘は悲鳴を上げている身体を強引にでも突き動かす。
 泣き叫ぶような声で身を削り、『百鬼夜行』へと力を与え続けるインビジブル達。
 そして、彼らをそんな姿へと変えた原因を作り出したヤツ――『隠神刑部』が、今はもう閉じてしまった扉の向こうに待ち構えている。
 そう考えるだけで、ここでくじけてなるものかと、己を奮い立たせる事が出来た。

「手遅れだって怒られてもいい。恨まれていても、いい。受け入れるさ。それでも、これ以上、誰かがあんな哀しい姿に変えられてしまうことは止めないと……!」
「はい。それがきっと、私達が今出来る最善であり役目、でしょうから」

 二人が胸に宿した決意の炎は、未だその瞳を陰らせる事を知らず。
 そして二人は、迫り来る妖怪達に、その拳を振るうのであった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​ 成功

瀬条・兎比良
推理が的中していたのは僥倖でした
被害を未然に防げなかった、という悔いが無いと言えば嘘になりますが
しかしそれは新たな被害を容認する理由にはなりません
ましてや他人を害するのなら、貴方がたもまた加害者だ
過去を未来の言い訳にしていい筈がない

【物語】「赤き王の夢」で地盤を固めます
いかに数が多かろうと、一体ずつ確実に仕留めれば数は減っていくものです
義眼による視力補正も咥えて着実に
遠距離の射撃、近距離は殴打でそれぞれ対処を
主軸はシンプルなプランですが、頭数を減らす為に動くなら臨機応変なくらいが丁度いい

元締めは必ず上げてやる、無念はそいつで晴らしてやる
だから、せめて大人しくしていなさい

「元締めは必ず挙げてやる。無念は、そいつで晴らしてやる。だから、せめて大人しくしていなさい」

――心は熱く、頭は冷静に。

 その言葉を体現した落ち着いた佇まいで、眼前の『悪い百鬼夜行』を鋭い眼光で睨みつけると、瀬条・兎比良(善き歩行者ベナンダンティ・h01749)は、己の能力――【物語】『|赤き王の夢《レッドゾーン》』の力を解放する。
 瀬条が、赤の王が見ている夢を語れば、戦場の現実を侵食するかのように不思議なチェス盤へと変化していく。
 いかに『百鬼夜行』を形成する妖怪の数が多かろうが、一体ずつ確実に仕留めれば数は、その数は減っていくものだ。必中となった己の攻撃を、その義眼による視力補正も加えて、確実に繰り出していく瀬条。

 右手に持った|略式允許拳銃《らくいん》で遠距離を。
 機械義肢の左手では、近距離を。
 
 その両者を状況に応じて使い分けて、丁寧に、だが確実に対応していく。

「頭数を減らす為に動くなら、これぐらい臨機応変なくらいが丁度いい」

 その適切な戦略は、高度な戦術を不要とした。
 裏路地という決して広くはない戦場で、様々な√能力者達と、『百鬼夜行』を構成する妖怪達が入り乱れる結果となったが、敵と一定の距離を保つ瀬条の戦い方が合っていた。それは、事前に『この現場が怪しい』と目星をつけ、調査を行っていた瀬条だったからこそ為し得たものだった。
 だが、すでに失われた命を取り返すことは出来ない。

――被害を未然に防げなかった。

 冷静そうに、口を一文字に結んだ状態で戦闘をこなす瀬条だったが、その心中はやはり穏やかでは無かった。その悔いを口に出してしまえば、この荒れ狂う感情に身を委ねてしまうだろう。
 だが、そうしてしまえば、敗北という形で、新たな被害を容認する結果になりかねない。インビジブル達のエネルギーが供給され続ける『百鬼夜行』を成す妖怪達は、√能力者である瀬条にすら、それほどの脅威に成長していた。
 ならば、ここで己が引く事を良しとするわけにはいかないのだ。

「他人を害するのなら、貴方がたもまた加害者だ」

 過去を未来の言い訳にしていい筈がない。
 機械義肢の左手で距離を詰めてきた妖怪を殴り飛ばし、今まさに、こちらへと飛びかかろうとする妖怪へと照準を合わせた銃のグリップを握る手に力が籠もる。
 そして充分に引き付けてから、その|引き金《トリガー》を引いた。そのまま、素早く空になった薬莢を吐き出させ、スピードローダーを使用して弾薬を装填すると、再び眼前の妖怪へと、その照準を合わせるのであった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

柴井・茂
アドリブはどうぞご自由に

おれは通りすがりの……墓荒らしだとでも思ったらいい
この場において探偵だとも、文豪だとも言わないさ
√能力【墓守犬の乱】を使って死を恐れない戦術を取ろう
殺気をだして睨むよ……恨んでもいいよ、他人を恨んで晴れるならどうぞ
その代わり、きみたちの生き様を物語に書き留めてやりたいくらいだ
言いたいことが未だあるなら聞いてやるが、今筆記用具を持っていなくてね
簡潔に頼むよ?"生き様"は、文字に記録に残すべきだ
恨みも声も、全てね

……異常状態に対策とれるほど戦うのも得意じゃない
ペンも文字も現実の物を殺したりしないから

刃のある私物の武器はなんでも使うけど黒狗は護霊の要素だ
爪で狙うのは基本首だよ

 √能力者の全てを拒絶するような悲痛な叫び声を上げながら、自身を睨んでくるインビジブルの群れを前にして、男――柴井・茂(SHIBA狗・h00205)は背中を軽く丸めた状態で、『おれは、通りすがりの墓荒らしだとでも思ったらいい』と言い放ち、愛用の煙管を吹かせた。

「そんな殺気をだして睨むなよ……。恨んでもいいよ、他人を恨んで晴れるならどうぞ。その代わり、キミ達の生き様を物語に書き留めてやりたいくらいだ」

 表向きの職業は、小説家でありながら探偵。
 そんな、異色でありながら、何処か親和性を感じさせる二つの顔を併せ持つ柴井が、自身の|顔《職業》を覗かせるように語る。

「言いたいことが未だあるなら聞いてやるが、あいにくと今は筆記用具を持ち合わせていなくてね。完結に頼むよ? その“生き様”は、文字に……記録に残すべきだ――」

――恨みも声も、全てね。

 |それ《好奇心》は小説家である所以のものか。それとも、探偵である所以からくるものなのか。
 ただ、これから行われるであろう『戦闘という面倒な作業』に感じる気怠さを隠そうともしない柴井は、その視線を静かにインビジブルの群れから、随分と数が減らした『百鬼夜行』の妖怪達に移す。

『ゥゥゥ~!』

 その警戒心を表すように、妖怪達は低音で唸り声を上げながら、様々な状態異常を|齎す《もたらす》大つづらを構える。
 そんな妖怪達に、柴井は『やれやれ』といった様子で、そのボサボサの頭を搔いた後、スッと腰を落とし、厳かに告げた。
 
「……異常状態に対策をとれるほど戦うのも得意じゃない。ペンも文字も、現実のモノを殺したりしないから。だが――」

――お前等にとっての|不幸《不吉》が此処に来たぞ。『|墓守犬の乱《チャーチグリム》』。

 √能力が解放されると同時に、周囲の空気を喰らうかのような突風が巻き起こり、渦の中心から『|狗神《ブラックドッグ》』と完全融合を果たした柴井が、その姿を現す。
 その両手には『|武装憑神爪《黒い狗の赤い爪》』を携えており、その鋭さを示すかのように怪しげな光を放っている。

 状態異常対策を講じる事が出来ないのであれば、その不死性を以て、この戦いを制する。

 先程までの柴井の態度とは真逆の、好戦的な考えによって導き出された、その姿は。
 この状況下――後一歩のところまで追い込まれた『百鬼夜行』の恐怖心を煽るには、充分過ぎた。

「キャハハハ!」

 後先考えずの、残った妖怪全員による突撃。
 大つづらを抱えた大小様々な妖怪達が、無意識に一歩退いてしまった己達を奮い立たせるかのように笑い、柴井へと襲いかかる。
 そんな妖怪達に対して柴井は、両手の爪を前面の地面へと食い込ませ、四つん這いのような体勢をとると、自身の身体をまるで矢を番えた弓の弦のようにしならせ、ギリギリまで力を溜め込む。
 そして、妖怪達が持つ大つづらが地面へと着弾し、爆発した――その刹那。ギリギリまで引き絞られた|矢《柴井》は、放たれた。

「ギャ……!?」

 放たれた柴井と、『百鬼夜行』。その交差は一瞬だった。しかし、その結果は妖怪達と思い描いたものとは、まったく別のものとなっていた。
 自身達の首を深く削り取った、柴井の『|武装憑神爪《黒い狗の赤い爪》』の爪痕からは、まるで、驚愕に染まった表情を浮かべる妖怪達と同様に、その存在を今知ったかのように遅れて血飛沫が噴き出す。

「死を恐れぬ戦術。だが、戦場では恐れを抱けば老い、退けば死へと近づくのが道理。因果なものだね」

 爆発に巻き込まれながらも、己の望む結果を手繰り寄せた柴井は、そう言って自慢の爪を染める妖怪達の血を地面へと振り払う。そして、柴井は首を少し回して、視線のみを己の背後へとやる。

――そこに立っている『百鬼夜行』は、すでに存在しなかった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『隠神刑部』


POW 刑部百十二変化
10÷レベル秒念じると好きな姿に変身でき、今より小さくなると回避・隠密・機動力、大きくなると命中・威力・驚かせ力が上昇する。ちなみに【十二神将】【巨大化九十九神】【えっちなおねえさん】への変身が得意。
SPD 変幻百鬼夜行
「全員がシナリオで獲得した🔵」と同数の【化術の得意な配下の化け狸達】を召喚する。[化術の得意な配下の化け狸達]は自身の半分のレベルを持つ。
WIZ 忌まわしき神通力
【強力な神通力】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【周囲のものが別のものに見える化かされ状態】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
√妖怪百鬼夜行 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●断章『死が二人を別つ刻』
「はハハはハっ! ついに、ついにだ! ようやく君に会える!」

 先程までの『悪い百鬼夜行』との戦闘が嘘のように静寂に包まれた裏路地に、狂った初老の男の笑い声が響く。
 慌てて、居合わせた√能力者達が閉まっていた扉を開け放つと、いつの間にかこの場へと辿り着き、その狂気の果てに『隠神刑部』の復活を成し得た男は、己を冷徹な視線で見下ろす『隠神刑部』へと|希う《こいねがう》。

「さぁ、これでボクの願い、を――?」

 叶えてくれるんだろうと言い終える前に。『隠神刑部』の太い腕が、自身の胸を貫いている事に気づいた初老の男は、心底不思議そうな表情で、その腕を眺める。

『喜べ。貴様の『愛する妻』とやら同様に、儂の糧へとしてやろう』

「『あぁ……アアアアア゛ーー!?』」

 己の死よりも先に、己の願いが叶えられぬと悟った男の、絶望からくる叫び声と。
 己のために手を汚し続けた男の命が尽きようとしている、その姿を。最後まで眺めることしか出来なかった女の慟哭が重なり、√能力者の耳へと響き渡る。
 そして、無造作に振り払われた男が息絶えるまでの短い時間に、『隠神刑部』は、インビジブルとなっていた女性へと手を伸ばす。

『アァ……! アナタ……! アナ――』

 どれだけ男が罪を重ねようとも。
 男の凶行に、悲嘆に暮れていたとしても。
 その消滅の瞬間まで、己の姿すら見えぬ男へ、必死に|手を伸ばし続けた《愛し続けた》女性の姿は、そこで潰えた。
 無慈悲にも『隠神刑部』によって、ただのエネルギー源として、その存在ごと喰らい尽くされてしまったのだ。
 そして、それと刻を同じくして、男は涙で頬を濡らしながらも、妻の名を|譫言《うわごと》のように繰り返し呟きながら、その生涯を終える事となる。

 一度目は、女性の『死』によって別った二人の刻は。
 こうして、互いの『死』によって、今度は交わる事も無く、再び刻を別つ事となった。

『愚かなものじゃな、人間というのは。少し甘言を囁いてやれば、容易く他者の命を奪いよる』

 男の魂をも喰らい尽くした『隠神刑部』は嗤い、その有り余る力を以て、その部屋ごと、邪魔な√能力者達を吹き飛ばす。
 そして、邪魔者が目の前に居なくなった事で、人の気配を多く感じる蚤の市へと歩を進めようとしたのだが――。

『――ふん。何を勘違いしておるか知らんが、少々腕が立つ程度で、今の儂の邪魔をするとはな。お主等、先程の愚か者共と同じく、その魂ごと喰われる覚悟があると思って相違ないか?』

 未だに己を邪魔しようと立ち塞がる√能力者達を、ギロリと鋭い眼光で睨み付ける。
 その腕を軽く振るっただけで、√能力者ごと部屋を吹き飛ばしてみせた『隠神刑部』の戦闘力は凄まじいものだろう。

 だが、退くわけにはいかない。

 たとえ、それを聞いた者が、√能力者である己達のみであったとしても。
 あの|瞬間《刻》、重なった嘆きを、その耳で確かに聞いてしまったのだから。
 
 退かぬ√能力者達へ、『隠神刑部』は苛立ちを隠さず舌打ちをしてみせる。

「……良かろう。そこまで儂の邪魔立てする、というのであれば、相応の報いを以て儂に詫びるのじゃな!」

 その言葉が、戦闘開始の合図だった。
 巻き起こる力の奔流が、『隠神刑部』の身体へと集約していく。
 最後の戦いが、始まる。
継萩・サルトゥーラ
師走文マスターにおまかせします。かっこいい継萩・サルトゥーラをお願いします!

アドリブ歓迎。
「やったろうじゃないの!」
「まぁ焦んなや、楽しいのはこれからだ」

√能力は指定した物をどれでも使用ます。
戦うことが好きで好きで楽しく、戦闘知識や勘を活かしてハデに行動します。
楽しいからこそ冷静でいられる面もあります。
多少の怪我は気にせず積極的に行動しますがヤバいときは流石に自重します。
仲間との連携も行えます。
軽口を叩いたりやんわりと皮肉を言ったりしますが、他の√能力者に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!

「オレが言えた義理でもないけど……。あまり気分がいいものじゃないな」

 様々な肉体を継ぎ足しされたデッドマンである、継萩・サルトゥーラ(百屍夜行・h01201)は、『隠神刑部』を眺めながら呟く。
 肉体が持つ様々な記憶の中には、似たような経験でもあったのだろうか。苛立ちを隠せない。

「なんにせよ、お前はオレの敵ってわけだ。いっちょ、やってやろうじゃないの!」

 理由はどうであれ、目の前にいる『隠神刑部』は己の敵で。
 戦うことが好きな己にとってすれば、これからの戦いは楽しみでしかない。
 不敵な笑みを浮かべる継萩に、更に苛立ちを募らせる『隠神刑部』は、化術の得意な配下の化け狸達を召喚すると様々な刀剣へと変化させ、矛先を継萩に向ける。
 そして、それらを一斉に放つ。
 大量のインビジブルを喰らった『隠神刑部』の能力は、その速度も一線を画していた。まともな回避すら許さず、その刀剣が継萩の身体へと突き刺さる。
 致命傷は両腕をクロスして盾にすることで庇ったようだが、一見すると決着がついてしまったような状況だった。

『……ふん。ただの戦闘抂か。貴様程度が、儂の邪魔をしようなど百年早い』

 一瞥し、『隠神刑部』は他の能力者を屠るために背を向けようとした瞬間。

「まぁ焦んなや。楽しいのはこれからだ」

 刀剣が突き刺さった自身の姿とは、まるで裏腹な継萩の陽気な声が聞こえた。
 それと同時に、『隠神刑部』に、己の首筋に刃を突きつけられたような感覚を抱かせる。

『貴様ッ! まだ生きて――』
 
――狙え。『ケミカルバレット』。

 驚愕の声を上げて振り返る『隠神刑部』へと、今度は継萩が放った弾丸が襲う。

『ちぃ! 舐めるなよ、小僧!』

 迫る弾丸を、両腕で払い落とす『隠神刑部』。
 今の『隠神刑部』には、その弾道を読み切ることは容易かった。
 だが――。

『おのれ……。猪口才な真似をしおって……!』

 継萩の放った弾丸には、超強酸が含まれているのだ。
 焼け爛れた己の両腕を見て、『隠神刑部』は殺意の籠もった視線を継萩へと送る。
 そんな『隠神刑部』とは対照的に、自身の両腕を貫いた刀剣を無造作に引き抜きながら、継萩はニヤリと笑って言い放った。

「おいおい。折角の戦いなんだ。笑って、楽しんでいこうぜ」
🔵​🔵​🔴​ 成功

哘・廓
・心情
因果応報…言ってしまえばソレに尽きるのですが、許せませんね。
・戦闘
喧嘩殺法で立ち回り、怪力を活かしたグラップルで関節を粉砕することをメインに。折らない。
隙あらば乾坤一擲での大ダメージを狙いはする。
左腕は盾として扱い、受け流しも左腕を使用。致命傷でない一撃は堪えて攻撃を継続。
・台詞
貴方のしたことは殺人犯を1人消した…えぇ、それだけです。
あの老人は罪人ではありますが、その想いを利用し罪人へ仕立て上げたのは貴方であり、唾棄すべき奸賊でしかありません。
行動は罪であり悪であろうと、その想いに罪はなかった。
しかし貴方…いや、お前は違う。お前は邪な私利私欲で動いている。
そんなお前を生かせるものか!

「……貴方のしたことは、殺人犯を一人消した。えぇ、それだけです」

 苛立つ『隠神刑部』の前に、哘・廓(人間(√EDEN)の古龍の霊剣士・h00090)は、ゆっくりと歩を進め、その距離を詰めていく。

「あの老人は罪人ではありますが、その想いを利用し、罪人へと仕立て上げたのは貴方であり、唾棄すべき奸賊でしかありません」
『ほう。儂を『罪人』とは言ってくれるのぅ。女』

 哘の言葉に、『隠神刑部』が反応する。

『儂は、哀しみに暮れる男に、お前さん達が好きな『生きる希望』とやらを持たせてやっただけじゃ。そもそも、儂は、男の罪とやらには手を貸しておらん。|彼奴が自分で勝手に行った所業《・・・・・・・・・・・・・・》じゃ』

 それとも、生きる事にすら絶望していた者に、生きる理由を与えたのだから、感謝こそされど、恨まれるなどお門違いも甚だしいと、『隠神刑部』は嘲笑う。
 その言葉に。
 その態度に。
 哘の足を止める。

「……確かに。彼の行動は、罪であり悪であったでしょう」

 その言葉に、気を良くした『隠神刑部』は、言葉を続ける。

『貴様等が殺人という罪で男を裁く腹積もりであったか? ならば謝罪するとしよう。貴様等が大好きな断罪とやらは、儂の手によって行わせてもらっ――』

――だけど。その想いに罪はなかった。

 血が滲むほど拳を握りしめ、哘は『隠神刑部』の言葉を遮った。

「しかし、貴方……いや、お前は違う! お前は邪な私利私欲で動いている!」

 そんなお前を生かせてなるものかと、哘は吼える。
 そして、爆発音が聞こえるほどに深く踏み込まれる哘の足。
 一瞬にして『隠神刑部』との間合いを詰めると、それに合わせるように放たれた、自身の能力で巨大化し、更に力を増した『隠神刑部』の爛れた右腕の一撃を、自身の左腕を盾とし、受け流す。
 だが、大量のインビジブルを喰らい、更に能力によって強化された『隠神刑部』の豪腕は、受け流したはずの哘の左腕に深刻なダメージを与えた。
 完全に受け流したはずだった。だが、盾にした左腕はミシミシと鈍い音を立てながら削られ、更には、そのガードの上から頬を掠めていく。
 だが、哘は回避行動を取る事はしない。

 致命的ではない。
 そして、何より。
 この感情を『隠神刑部』へ、叩きつけるまで止まれない!

 普段は感情を表に出すことが苦手であるはずの哘の表情には、はっきりとした怒りが見て取れた。
 哘が、更にもう一歩踏み込む。
 これで、『隠神刑部』との距離は零となる。
 焦る『隠神刑部』が苦し紛れに、その豪腕を再び放つ。
 |それ《豪腕》に、先程の勢いは無かった。何故なら、哘の勢いに押されて出した拳なのだから。
 哘は、その腕を捕らえて、両脚で『隠神刑部』の首を固定して、頭上を取る。
 そして、捕らえた『隠神刑部』の腕を、片手で怪力を以て捻り上げながら、残った拳で『|乾坤一擲《ナックルレイン》』を後頭部へと叩き込む。その衝撃で、『隠神刑部』の顔面は地面へと叩き伏せられた。
 そして、哘は『隠神刑部』の上から跳躍して距離を取ると、削られ、血に染まる左腕を再度構え直し、哘はこう宣言した。

「因果応報……。言ってしまえばソレに尽きるのですが、許せませんから」

 だから、この拳が|握れる《生きている》限り、振るわせてもらう。
 そう告げる哘に対し、地面に伏していた『隠神刑部』は、ゆっくりと立ち上がる。

――古妖である己が地面に伏された。
 
 その事実に怒気を纏う『隠神刑部』は、哘の宣言に反応して、更なる殺気を漲らせるのであった。
🔵​🔵​🔴​ 成功

明星・暁子
アドリブ・連携歓迎
身長200㎝の鉄十字怪人モードで事に当たる。

「死ねば、みな仏」と、昔の高僧が言ったと聞く。
多くの犠牲者を出した男は余りに愚かだが、せめてあの世で妻に会えても良かったのではないか?

『隠神刑部』、お前はこの人の世に解き放つには余りに邪悪な存在だ。
此処に集った√能力者の手で、何としても倒して見せよう。

必殺の√能力・2段攻撃を行う。

まず静かに√能力『不思議摩訶不思議魔空間』の詠唱ソングを歌いだす。
「ふーしーぎ、まーかふしぎ、どぅーわー」

『隠神刑部』を自分もろとも、魔空間に引きずり込む。
この魔空間の中では通常の物理法則は効かない。
鉄十字怪人は魔空間の主役。
その創造力(想像力)の限りのことが起こるのだ。

鉄十字怪人が生み出した怪異の群れが敵に襲い掛かる。
様々な敵が刑部の精神(そんなものがあれば!)を苛む。
(攻撃は一回自動命中になる)

そこで、√能力《ブラスターキャノン・フルバースト》を使用して1万基を召喚する。
自動命中の3万倍のダメージを与える。

事件の終わりに、犠牲者を弔う塚を立てたい
柴井・茂
アドリブや連携等、ご自由にどうぞ
これでもおれは協力的な方だよ

敵の能力に武器が必要なら爪か、刀では応戦するよ
√能力は書き記すなら、おれ自身orキセルから漂う意思ある紫炎で行うよ
……ああ、これ護霊がおれから漏れてる要素だから、決して不思議な炎ではないよ
紙もペンも持ち合わせがない、なら後は空中に綴るしかないだろう?

死を予告しよう、お前は死ぬ運命に在る
おれの言葉は対して強さを持たないだろう
この場における語り部にでもなったっていい
ここにあったものは幻想ではないだろう
全てがリアル、ファンタジーなお前もいい加減退場しないといけないよ
物語の終わりには、態度のでかい存在が倒れて終わる――そんなお伽噺がお似合いだ
瀬条・兎比良
今更どの様に申し開きをしたところで、貴方の罪は変わりません
ゲンタイさえ無駄遣いだ、今すぐに此処で処分します

元締めには遠慮なく前線で戦います
場が入り乱れても対応出来るよう√能力での加速に加え、義眼で視力や暗視力の増加を
牽制も兼ねて拳銃で相手の攻撃や邪魔な物は撃ち払います
充分に接近したところで√能力による蹂躙を直接叩き込みましょう
状態異常は厄介そうですが問題ありません
公務執行妨害として邪魔されなければ関係ない、狙いはホシを上げる事だけです

叶うならこれまでほ被害者、そして老人には安らかに眠っていただきたい
死者への慰みは門外漢ですが、遺体や遺品への措置や処理に労力は惜しみません
それが、私の職務ですから


 立ち上がった『隠神刑部』の前に、鉄十字怪人の姿へと変化した、明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)が立ち塞がる。

「死ねばみな仏、とは言ったものですが……」

 すでに息絶えた男の亡骸を流し見ると、複雑な気持ちにさせられてしまう。多くの犠牲者を出した男は余りに愚かだ。

 だが、せめて。
 あの世で妻に会えても良かったのではないか。
 
 どうしても、そう考えてしまう。
 それでも、そんな夢物語は潰えた。『隠神刑部』の手によって。永遠に別ってしまった二人を想い、明星は『隠神刑部』を睨み付ける。

「『隠神刑部』。お前は、この人の世に解き放つには余りに邪悪な存在だ」
『藪から棒に、酷い言い草じゃな。安心せい。あやつら含めて、全ての者が、等しく儂の糧となった。一部になれたのじゃ』

 明星の怒りを煽るように、『隠神刑部』はそう返し、嘲笑ってみせた。
 そんな白々しい台詞を吐いた『隠神刑部』に、明星は怒りで我を失いそうになるが、なんとか抑え込む。
 そして、

「ふーしぎ、まーかふしーぎ、どぅーわー」

 戦場には不釣り合いなほど陽気な声色で、『|不思議摩訶不思議魔空間《フシギ・マカフシギ・マクウカン》』の詠唱ソングを歌い出す。

『戯れにしても、程度が過ぎているようじゃな……!』

 その様子を見ていた『隠神刑部』は、自身が逆に煽られたと感じ、怒気を孕ませ、声を荒げる。そのまま、己が持つ強力な神通力で、部屋を破壊した際に出来た巨大なコンクリート片を操り、明星へと放つ。
 だが、その瞬間。
 明星の詠唱により、現実世界は『不思議摩訶不思議魔空間』へと変化する。
 その空間の主役である鉄十字怪人――明星は、物理法則を無視したかのような動きで、『隠神刑部』の攻撃を回避したのだ。
 その動きに驚きつつも、『隠神刑部』は何か考えるような仕草をすると、今度は、古妖の怪力で持ち上げたコンクリート片を投げつける。
 明星へ直撃するように投げつけたはずが、今度はコンクリート片が物理法則を無視した動きをして、明星の横をすり抜けていった。

『……ふむ。どうも物理法則は無視出来るようじゃが、儂の神通力を通したものであれば、問題ないとみえる』

 自身の|領域《テリトリー》に、『隠神刑部』を引きずり込むことには成功した明星だったが、その特性を数手で分析されたことに驚く。
 だが、そもそも眼前にいる『隠神刑部』は、インビジブルを大量に喰らった後の古妖だ。元々、一筋縄ではいかない事を想定していた。
 だからこその、|自分の世界《不思議摩訶不思議魔空間》だ。

 ならば、ここからが本番ですね。

 神通力によって操られた、大量のコンクリート片が『隠神刑部』の周囲に浮かび上がり、その照準を明星へと定め、その身体ごと粉砕せんと殺到する。


「そうはさせませんよ」

――|【物語】「四十と一の切断」《ディジー・リジー》。

 推定被疑を纏い、移動速度が格段に増した瀬条・兎比良 (善き歩行者ベナンダンティ・h01749)が割り込むと、明星へと飛来したコンクリート片を一つ残らず、手にした拳銃で貫き落とす。

「今更、どのように申し開きをしたところで、貴方の罪は変わりません。ゲンタイさえ無駄遣いだ。今すぐに此処で処分します」

 視力や暗視力が増加した義眼で動きを観察しつつも、『隠神刑部』を睨みつける。

『やれやれ。貴様等のなんの琴線に触れたかは知らんが、儂よりも裁くべき人間であった男が死んだだけの話。ましてや、インビジブルになった者達の事など、元々死人の残骸に過ぎんだろう? だから――』

――儂がまとめて|処理《・・》してやったというのに、何処に不満を、怒りを抱く要素がある。

 そう告げて、その神通力で再び瓦礫を操り、狙いを定める『隠神刑部』は、悪びれた様子など見せない。その姿に、瀬条は『隠神刑部』が己を起こした悪事について、なんら罪悪感など抱いていない事を悟る。

 あの刻、重なった叫び声が耳にこびりついて離れない。

 確かに、あの男は罪人で。
 己は刑事として、捕まえ公平な裁きを与える側の立場だ。
 それでも――。
 
 自身の身体を貫かんと殺到する瓦礫の中を、向上した速度の限界まで引き上げて掻い潜る。
 だが、大量のインビジブルを喰らった『隠神刑部』の攻撃を、完全に回避する事など出来るはずもなく、瀬条の身体を抉っていく。

 身体の悲鳴など、あの刻に聞こえた悲鳴に比べれば、|耐えられる《無視できる》。

 そのまま、『隠神刑部』の懐へと到達した、瀬条は、自身の想いを、手にした斧へ乗せて振り抜く。

『馬鹿なッ……!?』

 そんな瀬条の無謀な攻撃は、『隠神刑部』の腹を斬り裂く。
 後ろへと跳躍し、距離を取りつつも、驚愕の表情を浮かべる『隠神刑部』に、瀬条は静かに、だが怒りを込めて言い放つ。

「――死んでいいはずの人間など、いない。それすら分からない獣風情が、人間を|無礼《なめ》るなよ」


『どいつもこいつも巫山戯おって……! 殺してやるぞ!』

 その殺意を雄叫びに乗せて、配下の化け狸を召喚する『隠神刑部』に対して、柴井・茂 (SHIBA狗・h00205)は飄々とした態度を変える事無く『違うな』と短く呟くと、『隠神刑部』を指差す。
 
「死ぬ運命に在るのは、|お前《隠神刑部》だよ」

 自身の『言葉』は、強さなど持たず。
 されども、この場に在ったものは幻想では無く。
 ならば、語り部たる己は、|それ《事実》を語るのみだと、柴井は静かに告げた。

『小僧ッ! その大言壮語を悔いて死ね!』

 激高した『隠神刑部』が、召喚した化け狸達を、一斉に柴井へと仕向ける。
 そんな『隠神刑部』の様子に、柴井は変わらず、その態度を変える事無く『おお、怖い怖い』と言いながら狗神化すると、その鋭利な赤い爪を自身の口へと押し当て、

「口は|禍《わざわい》のもと、よく言うだろう? ――『|吠狗首の叫《ヘルハウンド》」

 自身の能力を解放した。

「物語の終わりには、態度のでかい存在が倒れて終わる――そんなお伽噺がお似合いだ」

 迫り来る化け狸達の攻撃を、爪で迎撃しつつも、手にした煙管を吹かせ、その紫炎で、そんな物語を書き綴る。
 多勢に無勢の状況下で、柴井の身体には、化け狸達の攻撃による切り傷が増え続けていく。その様子を見ていた『隠神刑部』は、手も足も出ないと思い違いをしたまま、紫炎で|己《隠神刑部》が倒される事を書き記すだけの柴井を嘲笑う。

『威勢がいいのは、貴様にとって都合が良い架空の物語の中だけのようじゃな!』

 一見、劣勢に思える柴井だったが、そんな『隠神刑部』の言葉に、心底不思議そうな表情を浮かべる。

「勝利に酔うのは勝手だが、ほら――」

――お前の『死』で幕が終わる物語の、最後の一手が準備を終えたようだぞ。

 自身の攻勢を信じて笑う『隠神刑部』に対して、攻撃を仕掛けてきた化け狸を切り伏せ、『隠神刑部』の背後を指差す。そんな柴井へと攻撃を加えようとした他の化け狸達が、鉄十字怪人――明星によって生み出された怪異の群れによって一瞬にして淘汰される。


 柴井の紫炎によって、注意を逸らされ続けた『隠神刑部』は気づかぬ間に、明星はヘビー・ブラスター・キャノンを召喚し終えて、その標準を合わせ終えていた。
 召喚された膨大な数故に、照準を合わせることに苦労したが、目標である『隠神刑部』は柴井の紫炎による『口撃』により蓄積されたダメージで、動きが鈍くなり始めていたのだ。
 そんな明星の様子に、慌てて攻撃を加えようとする『隠神刑部』だったが、跳躍の瞬間、その両脚を瀬条によって撃ち抜かれて阻止されてしまう。
 そして、そんな隙を明星が見逃すはずもなく。
 召喚したヘビー・ブラスター・キャノンを掃射する。

『馬鹿な! こんな馬鹿なことが――』
 
 集中砲火を浴びた『隠神刑部』は、そんな言葉と共に、爆炎の中へ消え去っていくのだった。

●刻を重ねて
「……こんなものでしょうか? この程度のもので、弔いになるのでしょうか」

 戦闘を終えた瓦礫の傍らで、明星は小さな塚を立てて、犠牲者達の冥福を祈っていた。
 幾人の人が犠牲になったかも分からない事件だった。そして、その犠牲者の遺体は、すでにここには無く、その所在を知っているであろう男は死んでしまっている。
 その結果、簡素な塚程度しか立てられなかった事に、手を合わせながらも不安そうな表情を浮かべ、明星が呟くように問いかける。

「私は死者への慰みは門外漢ですが……そうですね。これが今、我々が出来る精一杯だと思います」

 傍に立ち、明星同様に祈りを捧げていた瀬条が、そう答えた。
 己の職務だと思い、必死になって瓦礫の山から見つけ出したのは、ごく僅かな遺品のみだった。男によって殺されてしまった犠牲者達のものだったであろう品々は、あくまで刑事である自身の直感によるものであって、確定しているものではなかった。故に、明星の言葉に、そう答えるしか出来なかったのだ。
 唯一、確実なものは男が身につけていた時計と、後生大事に頑丈な机の中に仕舞われていた、妻の遺品であろう、中身が空っぽな小さな宝石箱のみだった。
 柴井は、そんな二人を眺めながらも、こういった時にかける『言葉』の難しさを理解しているからこそ、黙祷を捧げる。
 その二点を、浅く埋め終え、気落ちしたまま、二人がその場を立ち去ろうとした、その時。後ろに着いていく柴井の耳が、土の中から僅かに漏れた『カチリ』という音を拾う。

「ちょっと待った!」

 慌てて、土を掘り返す柴井。
 その姿から、犬が土を掘っている姿を幻想してしまい、困惑する二人に、宝石箱を掘り出し、もう一度開けて中身を確認してみると――。

「……時計が内蔵された宝石箱、ですか」

 柴井に迫られ、瀬条が耳を押し当てて確認すると、微かに秒針が動く音が聞こえていた。中身は空だったことで、深く確認しなかったが、どうやら時計が内蔵されているタイプの宝石箱だったようだ。
 古いタイプのようで、耳を密着させると、秒針がカチカチと動く音が聞こえてくる。
 偶然にも、短針――時間が切り替わったときの音が秒針よりも大きく響いた事で、耳の良い柴井が気づく事が出来たのだ。

「――ッ! それなら……!」

 明星は何かに気づき、男の遺品である腕時計を掘り返し、その宝石箱へと入れると、そのまま宝石箱を土の中に埋めて、短く祈りを捧げた。
 その意味を理解した柴井と瀬条も、明星に倣い、祈りを捧げる。

 男が犯した罪が消えた訳ではなく、この先も許される事は無いだろうし、許してはいけない。犠牲者を蔑ろにして、男の死を偲ぶ事は出来ないのだ。
 だが、二人の刻は『死』によって、永遠に交われない結果となってしまった事は悲劇であるはず。
 
 それでも。
 二人の遺品が、同じ刻を重ね続ける。

 ただ、それだけは許して欲しいと。
 そう祈るのであった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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